cb650r-eのブログ

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最終局面

 

さて、今日は3月22日の日曜日である。
次の水曜日には大阪北病院へ行き、堤ドクターに脳の最終診断をしてもらう予定だ。
再手術後の経過は、自分の感覚としては順調だった。
足を引きずるような自覚症状もないし、家族から指摘されることもない。
一方で、CB650Rは自宅の車庫で、静かに眠っていた。

 

 

 

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。


 

生還

 

運転する車の中で、妻の華が俺に尋ねた。

「20年って、何のこと?」

「深い意味はないさ。それくらい経てば、彩も史も結婚して、子どもがいる頃かなと思っただけ」

「お気楽サラリーマンね、あなた」

「まあ、そうだな」

とにもかくに俺は、三度目の生還を果たした。

 

 

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あと20年...。

 

個室で二泊し、退院当日の午前中に再びCTを撮った。

堤ドクターは前回同様、画像を前に思案顔だ。
華とともに結果を待つ。

「液体は予定通り排出されています。脳の圧迫も改善し、以前の状態に戻りつつあります」

堤ドクターは笑顔で説明を終え、突然言った。

「廊下を歩いてみましょう」

 


診察室を出て、廊下を歩く。
往復してみせると、

「大丈夫ですね」

華も、ほっとした表情を浮かべた。

「あと20年、生きるんでしょう?」
堤ドクターが笑う。

「もちろんです!」

俺は少し芝居がかった口調で答えた。

荷物をまとめ、大阪北病院を後にした。

 

 

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待遇改善?

 

「頑張ったわね。ご褒美に、今回は個室をお取りしましたわよ」

冗談めかして言う華に、俺は傷の痛みに耐えながら軽く頷いた。

 



個室でしばらく休んでいると、宇都宮ドクターが訪ねてきた。

「直太郎君、再手術になって大変だったな」

「いえ、堤医師には全幅の信頼を寄せています」

「さすがに今回は再手術もあるかと思い、少し身辺整理をしてきました。プチ終活ってやつですか……」

努めて明るく言うと、

「ばかなことを言うもんじゃない。直太郎君。君は親父さんの分も生きなければならない」

「わかっております」

俺は真顔で答えた。

 

 

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再手術

 

「再手術を行いたいと思いますが、よろしいですか」

俺は迷わず答えた。

「お願いします」

「今度は脳内を洗浄し、液体を直接吸引します」

再びストレッチャーに乗せられ、冷たい手術室へと運ばれた。

「あと20年、生きたいです」

運ばれながら、俺は堤ドクターに声をかけた。

「大丈夫です。20年」

堤ドクターは笑顔で答えた。

 



局所麻酔のもと、チューブで脳内の液体が吸い出されていくのを体感する。
手術は右側のみで、初回の半分ほどの時間で終了した。

手術室近くの椅子で華が待っていた。

 

 

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初回経過診断

 

1週間後。
俺は大阪北病院で堤ドクターの外来診察を受けた。

まずCT撮影を行い、その画像を見ながら診断結果を聞くことになった。

「堤先生、お世話になります」

付き添ってくれた華とともに椅子に腰掛けた。

堤ドクターは返事をせず、じっとCT画像を見つめている。
その表情から、結果が良くないことは察しがついた。

 



「先生、いかがでしょう?」
華が切り出した。

「結論から申しますと……」
堤ドクターはいつもの穏やかな口調で語り始めた。

「この脳の外側の白い部分をご覧ください」

「はい」

「頭蓋骨の両側に穴を開け、脳を圧迫していた血液と体液を抜きました。しかし右側に残ったものは不純物が混じっていたらしく、管では十分に排出できなかったようです」

そして静かに続けた。

 

 

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暗雲再び

 

「退院の準備はできましたか?」

「はい。今回は短期でしたので、もう片付きました」

「1週間後に抜糸と経過観察をしますね」

「よろしくお願いします」

俺は軽く頭を下げた。

家に帰り、その夜は久しぶりに長女の彩と妻の華と一緒に食事をした。

大阪北病院の食事は、お世辞にも旨いとは言えない。
我が家のご飯の美味しさとありがたさを噛みしめながら、夕飯を食べた。

その後、順調に回復しているかに思えた。
だが――

「パパ、自分でも気づいてる?」と彩が言う。

「また、左足を引きずり始めてるわよ」と華が続けた。

「まさか……」

脳裏に、強い不安がよぎった。

 

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人生初の4人部屋

 

2泊3日の短期入院は大きなトラブルもなく終了し、退院の日の朝を迎えた。
今回は個室ではなく4人部屋で、同室の患者は自分に比べればかなり高齢の長期入院者のようだった。

 

 

ひとつだけ困ったことがある。
テレビを見ていると、突然チャンネルが変わったり、電源が急に入ったり切れたりするのだ。

最初は気味が悪かったが、どうやら隣の入院患者のテレビリモコンの電波が、自分のテレビに飛んできているらしいと気づいた。
仕方がない、とあきらめた。

退院当日、退室の準備をしていると、隣のおじいさんが声をかけてきた。

「おや、もう退院かい? 随分と早いな。若いと治りも早いんだな」

「いえ、若くないですよ。もうすぐ60ですし。そちらは退院のご予定は?」

「ようやく来月の中旬に決まったよ」

「そうですか。もう少しですね」

そう答えた。

しばらくして、主治医の堤先生が回診に来てくれた。

 

 

 

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早めのリクルート?

 

「まあ、二、三日は入院していきなさい」
宇都宮前理事長※が言った。

 



それから、ふと思い出したように彩のほうを向く。
「君は、直太郎君のお嬢さんかい?」

「はい」

「医学部の学生かい?」

「はい。大阪大学医学部の五年生です」

「ほう……優秀だな」
宇都宮前理事長は満足そうに頷き、堤理事長に目を向けた。
「今回の太郎君の診断も的確だった。堤君、早めにリクルートしないといかんぞ」

「了解しました」
堤理事長が笑って答えた。

病室の空気が、一気に和んだ。

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

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術後まもなく

 

しばらくベッドに横になっていると、宇都宮前理事長※と堤理事長の二人が病室に入ってきた。

「本日は、急なお願いを受け入れていただき、ありがとうございます」
俺がそう言うと、堤医師がにこやかに声をかけてきた。

「山本さん。歩けますか?」

「はい……たぶん」

そう答えて、俺はベッドから降りた。
病室を出て、病棟の廊下をゆっくり歩いてみる。



「大丈夫ですね」
堤医師が言った。

確かに――左足を、まったく引きずっていない。
さっきまで左半身が麻痺していたはずなのに、もう動いている。

不思議だ。
そして、心の底から驚いた。

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

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