ハザマランド -16ページ目

お肴一つ

 古(いにしえ)の都で開かれたお祭りを参考に一作品仕上げました。

 秋の気配に酔いながら味わって貰えれば幸いです。


 『ケンソウヨイン 』

http://www.mf-davinci.com/yoo/index.php?option=com_content&task=view&id=817&Itemid=52


虫の人

 灰暗くなった空に銀の亀裂が走った直後、街を踏み潰すほどに激しく光が吼えた。膨らむ雲が残った青空を覆い、どこからともなく涼風が吹き抜けていく。

「来る」

 葵は発した。

「来る、来る、来る」

 追い風を背に受けながらコンビニの軒下へ潜り込む。

 数秒後、雨粒が弾けた。次の一粒が十に、十が百、千になる。夕立だ。乾いたアスファルトに雫が滲みて、鈍い匂いが辺りに広がる。

 汗で湿ったセーラー服の胸元をつまみ、冷えた空気を取り込みながら、葵は白く染まった街を眺めた。この雨脚なら止むまで三十分はかかるだろう。軒下のさらに奥へと体を引いて、スカートの裾が濡れないよう膝の裏に挟んでしゃがみ込む。下ろしてあった鞄から一冊の短編集を取り出した。

 立ち上がり、まずは一編。一際短い話を読み終えて、ふと顔を上げると、隣に男が立っていた。空模様と同じ灰色のスーツを着た細身の男。若くはないが老けすぎてもいない。何気なく眺めていると、男が視線に気がついた。わずかに目を見開く。

「こんにちは」

 葵があいさつすると、男は同じ言葉を返し、その後小さく珍しいとつぶやいた。続けて何を読んでいるのですかと尋ねて来たので、吉行淳之介ですと答えると、即座に『蝿』ですねと返してきた。読み終えたばかりの一編だ。半開きになった口のまま頷く葵に男は微笑み、細くなり始めた雨脚と同じ調子で続けた。

「どう思いました。その話」

「へっ? はい、あの、気持ち悪かったです」

 返ってきた答に男は乾いた笑い声を立てながら切れ長の目をしならせた。

「うん。やっぱりオボコだ。だから私が見える」

 オボコ。何だろう。初めて聞いた言葉だが、読んだことはある気がする。

 記憶をたどる葵を尻目に、男は曇り空を見上げると、両手を背中へ回した。

「その話に出てくる少年は、私の甥っ子なんですよ」

 そう言って、ほらと背中を向ける。そこには七色に輝く玉虫が無数にびっしり張り付いていた。

 短い悲鳴が出る。眉が寄った。

「恐がらないで。悪いものじゃありませんから」

 言いながら男は回した右手と左手で、蠢く玉虫を一匹ずつ器用につまんで剥がした。

「よし行け。天地を繋げ」

 前に戻した両手を男が開くと、勢いよく二匹の玉虫が飛び出して、右から左、左から右へと二重の半円を描いた。それを追うかのように、雨のあがった東の空に濃い虹と薄い虹が架かっていく。上のがオス……いやメスだろうか。葵は虹を眺めながらその一文字の意味を無性に知りたくなった。

 振り返り、日の差す東の空を仰ぎ見る。

男はいなくなっていた。


了

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裸の王様

 どうも最近の自分の文章は、不必要に大きく見せたがっているようだ。足りない何かを補おうと、言葉を飾り、これでもかというほど詰め込んでいる。

 まるで弱い犬がキャンキャン吼えるように虚勢を張っている。

 読む側のことを考えるふりをして、書く側の都合しか考えていない。そのことが逆に自分を小さく見せていることに気づいていない。

 みっともないなぁと思う。

 何も持っていないなら持っていないと言えばいいじゃないか。何も着てない体でファッションショーなんてできるわけないじゃないか。ただでさえ見栄と欺瞞で溢れた世の中で、好きな文章まで偽ってしまったら、それこそ裸の体までなくしてしまうじゃないか。

 そのことをこうして綴りながらも、俺はまた思い上がっているのかもしれない。さも豪華な服を纏っているかのように、貧素な体のままで歩き回っているのかもしれない。

 実に滑稽だ。そしてとても憐れだ。

 そんな俺の背中に唯一無二の親友が声をかける。

「王様、裸だよ」

 その言葉で俺を再び俺を省みることができる。

 友人よ。いつも感謝しております。今回はどうでしょうか?


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苦い言葉と祭りの定義

 今年もビーケンワン怪談大賞の結果と選評 が発表されました。
 受賞された皆様、おめでとうございます。
 拙作は選に漏れてしまいましたが、より良い作品目指して今後も精進したいと思います。
 さて、そんな怪しいお祭りですが、選評に目を通してみると所々(というかほとんど)叱咤激励や苦言で埋められています。解釈は人それぞれなので、自分がそう感じているだけなのかもしれませんが、一言にまとめるならば、
「これはどういった祭り(文学賞)だよ? 」
と、言ったところでしょうか? 第一回の選評を見ればわかるのですが、そもそもビーケーワン怪談大賞は夏の怖い話を読むだけなく書きたいというコンセプトで始まったと書いてあります。
 怖い。恐ろしい。
 これらの感情の起こり方もまた千差万別なので、ある人にとって鳥肌を立てて震えるものが、別なある人には腹を抱えて笑えるものと成りかねない。まぁ、それは極論ですが、そんな多種多様な読者をどう前者に近い状況、闇を感じられる心情に導くのか。それを可能にするものが、いわゆる良質の怪談と評されるのでしょう。
 暗闇なくして怪談成らず。今一度、奉っているものに目を向けて、祭りの意義を考え直せ。選者達の発言から自分はそういった印象を受けました。
 そんな中、同時に私の中で、ある映像が浮かびました。
 それは実際に大都市で開かれる祭りの景色。
 屋台での買い物や夜空の花火を見上げるのもままならない人で溢れた祭り。そこを訪れるほとんどの人が何の祭りか知らず、人が集まっている、騒いでいるという本筋とは離れた理由でさらに集まり膨らんでいく。祭りを最も愉しむ立場のスタッフまでもが群集をさばくことに追われ、事態を収拾しようと荒く振舞い、小さな祭りならば許されるちょっとした悪ふざけや子供の手を離すことに怒号を響かせる。
 奇しくも今年はオリンピックが開催されていて、奮起する選手や観客達をテレビで見ながら、大きな祭りにはそれだけの準備期間や明確なシンボルが必要なんだなと考えてしまいました。
 だけど、そのぶん大きな祭りにはそれに見合う感動もあるわけで……
 年を跨ぐにつれて応募者の増えるビーケーワン怪談大賞は今後ますます変貌していくんだと思います。
 個人的には馬鹿騒ぎできる小さな祭りも大好きなんですけどね。
 何はともあれ今年も一つの夏が過ぎていきます。
 ビーケーワン怪談大賞関係各位。応募者の皆様。お疲れ様でした。

扇風鬼

 フォルダ整理していたらこんなもの↓が出てきました。

 WEB幽投稿怪談の落選作ですね。

 夏が終わる前に晒しとこうと思います。


―扇風鬼―
 年々、深刻になる温暖化。五月というのにその日の俺は汗だくで、扇風機を出そうと押入れに頭を突っ込んでいた。

「あった」

 予想通り、ほこりを被っている。

「何だこれ」

 そこには予想に反して角(つの)があった。前ガードと後(うしろ)ガードの繋ぎ目のてっぺん。踏切と同じ黄色と黒のまだら模様。大きさは親指より少し長くて太い。つまんでみると硬くて外れない。おおかた悪友の誰かがいたずらしたのだろう。扇風機ではなく扇風鬼。

「アホか」

 とにかくこの暑さを何とかするのが先だ。

 俺は引っ張り出した扇風機を分解すると、風呂場で洗うことにした。角はどうやら片方のガードだけにくっつけたらしく、前を外すと一緒についてきた。続いてスピンナー、羽、ナット、最後に取っ手のある後ガード。

「ほかには何もしてないだろうな」

 よくよく観察しながら黒ずんだほこりを洗い落としていると、スピンナーの中央を横切るように一本の線が書かれていた。羽の一枚一枚には正方形。いくらこすっても取れやしない。まったく悪ふざけが過ぎる。これで壊れてたら弁償物だ。俺は洗浄終了した扇風機を組立て、コンセントを差し込むと、弱のスイッチを押し込んだ。

「はぁ~」

 体を動かした後に浴びる風は堪らない。角を見上げて、まぁこれくらいのいたずらならかわいいものだと、中のスイッチを押した。

「あ~、爽快爽快」

 あ゛~……

「うん? 」

 何か聞こえたか? 耳を澄ましてみるが、聞こえてくるのは風の音だけだ。気を取り直して、強のスイッチを押した。

「あ゛ー! 」

「ぎゃぁぁぁぁぁー!! 」

 震える大声をあげた扇風機に、俺は座り込んだまま猛烈な速さで後ずさった。

 あ゛~……

 距離を取ったぶん、声は小さくなったが不気味なことに変わりはない。おそるおそる足の親指が届く位置まで近づくと、すばやく切のスイッチを踏んだ。黙る扇風機。どうやら羽の落書きは四角ではなく口らしい。

「……捨てよう」

 つぶやいた後に視線を感じ、扇風機に目をやると、スピンナーの中でつぶらな瞳が開いてこちらを見ていた。見つめていた。

「ぎゃあっ……へっ? な、泣いてる? 」

 台風の目ならぬ扇風の目。黒々とした瞳に溜まった涙は今にもこぼれ落ちそうで……

 その日から俺は扇風鬼と暮らし始めた。慣れてみると小動物のようでかわいい。ただ拗ねないようにするのが大変だ。首がそっぽを向いたまま動かなくなる。だがそれもまた愛らしく感じるのだから不思議なものである。


了


すごい

 締め切りましたね。例のアレ。何でも今年は一人三篇という制約にもかかわらず341人が参加して725篇も集まったとか。

 すごいなぁ。

 第六回ビーケーワン怪談大賞。

 それを請け負い一つずつ公開したスタッフのお二方もすごい。

 さらにそれを見やすく纏めてリンクさせたあの方 もすごい。

 そしてわずか一月ほどで、それに目を通して審査する現役作家のお三方。

 すごすぎる。

 先のお三方を始めとした341人の方々も、そのすごさに心奪われたんだろうなぁ。

 もちろんワタクシもその一人です。

 というわけで、今年も投稿しました。

 よかったら読んでやって下さい。


足形

http://blog.bk1.jp/kaidan/archives/008822.html

蛾と蝶

http://blog.bk1.jp/kaidan/archives/008851.html

怪祭

http://blog.bk1.jp/kaidan/archives/008968.html

夕立直後と濃い夕日

 昨日の記事を思い出しながら撮りました。

 小説書いてるとたまにこういった偶然の一致(シンクロニシティ)に遭遇します。



夕立直後


濃い夕日


七夕

 願いの樹が燃えている。

 五色の短冊を飾り付けられた笹の木が、暗闇の中で焔に包(くる)まれ燃えている。焔の色はまるで夕立直後の西日のようにとても濃く、静かな猛りを放っている。

 熱いのだろう。広げた枝や葉に青さを残した笹の木は、その節目からふしゅるふしゅると泡を吹く。まだ水気が残っているのだ。

 水気はさらに形を変えて、夜空へ向かい昇り始めた。煙の龍だ。山より高く、雲より高く昇る龍。星まであともう少し……思ったところで笹の木が大きく爆ぜた。

 視線を落とすと、短冊は全て燃え尽き、笹の木は竹炭へと化している。

 我に返り、再び夜空を見上げると、白き龍は天を流れる大河と化していた。

ぬはぁ

 これまでのらりくらりとかわしてきたあのサイトにとうとう召還されてしまった。

 おそらくここ連日宣伝していたてのひら怪談 百怪繚乱篇の記事が原因かと思われるが、もしかすると奇特な誰かが自力でこのブログを見つけて伝えたのかもしれない。

 おかげで順調(?)に下がっていたジャンルランキングがいきなりの三桁に上昇。おそろしい。はてなアンテナ おそろしい。ちなみに昨日は2325位。

 ともあれ召還されてしまったからには、これまで以上に言動に気をつけたいと思う次第。

 壁に耳あり、障子に目あり。さながらディスプレイに口ありと来た日には、自分の発した言葉がどこの人にどんな影響を与えるのか想像つかないし、奇しくも一冊の本の中で共に掲載された人たちのブログが連なるサイトへ召還されたとならばなおさらのこと。

 自分のブログにそれほど集客力があるとは思わないし、実際その通りなのだけど、ちゃんと考えて書かなければなと再確認。そしてこれで一双さんって真面目な人なんだなと、好印象を残したことにほくそ笑む。さらに過去記事読んだら意味ないじゃんと肩を落とす。いったいどれが本当のワタクシなのか。

 ただ一つ言えることは、リンク先のてのひらあんてな は面白いよということ。

 それでもって、その人達の書いてるてのひら怪談をよかったら読んでみてという今日もまた宣伝。


てのひら怪談 百怪繚乱篇 てのひら怪談文庫 てのひら怪談

徒然

 え~、特に書くことはないのですが、わざわざアクセスしてくれる方々(少数)に悪いので更新しようと思います。

 まずは例の百物語ですが、未だ進行中です。つまり百話不達成ということですね。明確な締め切りがないと、行動がだれて来るのは昔からちっとも変わっていない。

 ともあれ、百話分のタイトルは埋まっているので、完成だけはさせようと思います。

 ただ、その百物語をアップしているブログのアクセスが、このハザマランドに輪をかけて少ない。一ヶ月ほど非公開で製作していたせいか、検索サイトにも引っかかりません。

 だけど、一番大きな原因は、その拙さにあると思っています。

 まず、てのひら怪談 百怪繚乱篇 を購入してくれた人がいたとして、その中からワタクシの掌編を読み、なおかつプロフィール欄から、ブログのアドレスを打ち込む。

 考えてみれば、ずいぶんな手間です。そこまでして読むほどの魅力が自分の物語にあるのだろうか。

 答えはその、敬称百物語と題したブログのアクセス数が示している。

 自分はまだスタート地点にすら立っていないことを自覚します。競う場所に立てる資格を得ていない。そこは鍛錬のみで立てる場所ではないかもしれないけれど、鍛錬なしではそのことすら確認できないわけで、誰も見ていない場所だからこそ書かなきゃいけないんだろうなとキーボードを打つ日々です。

 書けることといえば、そんな変わり映えのない日常ぐらい。

 そういったわけで、また更新滞ります。