扇風鬼
フォルダ整理していたらこんなもの↓が出てきました。
WEB幽投稿怪談の落選作ですね。
夏が終わる前に晒しとこうと思います。
―扇風鬼―
年々、深刻になる温暖化。五月というのにその日の俺は汗だくで、扇風機を出そうと押入れに頭を突っ込んでいた。
「あった」
予想通り、ほこりを被っている。
「何だこれ」
そこには予想に反して角(つの)があった。前ガードと後(うしろ)ガードの繋ぎ目のてっぺん。踏切と同じ黄色と黒のまだら模様。大きさは親指より少し長くて太い。つまんでみると硬くて外れない。おおかた悪友の誰かがいたずらしたのだろう。扇風機ではなく扇風鬼。
「アホか」
とにかくこの暑さを何とかするのが先だ。
俺は引っ張り出した扇風機を分解すると、風呂場で洗うことにした。角はどうやら片方のガードだけにくっつけたらしく、前を外すと一緒についてきた。続いてスピンナー、羽、ナット、最後に取っ手のある後ガード。
「ほかには何もしてないだろうな」
よくよく観察しながら黒ずんだほこりを洗い落としていると、スピンナーの中央を横切るように一本の線が書かれていた。羽の一枚一枚には正方形。いくらこすっても取れやしない。まったく悪ふざけが過ぎる。これで壊れてたら弁償物だ。俺は洗浄終了した扇風機を組立て、コンセントを差し込むと、弱のスイッチを押し込んだ。
「はぁ~」
体を動かした後に浴びる風は堪らない。角を見上げて、まぁこれくらいのいたずらならかわいいものだと、中のスイッチを押した。
「あ~、爽快爽快」
あ゛~……
「うん? 」
何か聞こえたか? 耳を澄ましてみるが、聞こえてくるのは風の音だけだ。気を取り直して、強のスイッチを押した。
「あ゛ー! 」
「ぎゃぁぁぁぁぁー!! 」
震える大声をあげた扇風機に、俺は座り込んだまま猛烈な速さで後ずさった。
あ゛~……
距離を取ったぶん、声は小さくなったが不気味なことに変わりはない。おそるおそる足の親指が届く位置まで近づくと、すばやく切のスイッチを踏んだ。黙る扇風機。どうやら羽の落書きは四角ではなく口らしい。
「……捨てよう」
つぶやいた後に視線を感じ、扇風機に目をやると、スピンナーの中でつぶらな瞳が開いてこちらを見ていた。見つめていた。
「ぎゃあっ……へっ? な、泣いてる? 」
台風の目ならぬ扇風の目。黒々とした瞳に溜まった涙は今にもこぼれ落ちそうで……
その日から俺は扇風鬼と暮らし始めた。慣れてみると小動物のようでかわいい。ただ拗ねないようにするのが大変だ。首がそっぽを向いたまま動かなくなる。だがそれもまた愛らしく感じるのだから不思議なものである。
了