コロナ禍で週末、夜の外出もままならず、このブログのアップが日々の楽しみになっている。さて、次はどの曲を取り上げようか。そんなことを考えている時間に、ささやかな幸せを感じる。

 

 そんな時、音楽マーケッターのうすいたかし(つのはず誠)氏のラジオ番組、【渋谷のザ・ベストテン】の岩崎宏美特集の回を聞いた。うすい氏は、宏美さんのビクター時代の音源の復刻版「紙ジャケシリーズ」の仕掛人として、足を向けては寝られない方であるが、ネットの黎明期には、「岩崎宏美メーリングリスト」において、宏美さんの音楽について大いに語り合った旧知の仲である。

 

 その番組をリアルタイムでは聞けず、つい最近アーカイブで聞くことができた。ベストテンは、レコード・CD売り上げ、配信サービス、カラオケリクエストの3つの要素を独自に集計したランキングとのことである。非常に興味深かったのは、CD等の売り上げだけでは上位に入らない曲でも、あとの2つの要素が後押しして、ベスト30に名を連ねた曲がいくつかあったことだ。「美女と野獣」「ぼくのベストフレンドへ」「いのちの理由」「シアワセノカケラ」「夢やぶれて」など。

 

 その中の1曲に、今回取り上げる「愛という名の勇気」もあったのである。しかも、堂々の20位である。意外だったと同時に、とても嬉しかった。宏美さんご自身もコメント出演されており、その中で「この曲はどういう方々がリクエストされているんでしょうかねぇ」と不思議がっておられた。

 

 「愛という名の勇気」は、益田宏美名義のシングルの第3弾。宏美さん自身としては、火曜サスペンス劇場のエンディング・テーマの6曲目である。「聖母たちのララバイ」から「夜のてのひら」まで5曲続いた後、6曲ぶり、およそ5年の空白の後、宏美さんが再度起用されたのだ。なので、うすい氏の指摘通り、最も近年の宏美さんが歌った主題歌として記憶されているのかもしれない。また、作家陣は最初の4曲が山川啓介・木森敏之コンビ、5曲目は来生えつこ・筒美京平コンビに交代しているが、「聖母〜」以来のイメージを払拭できていない。番組からの要請か筒美先生の判断かは判らないが、後奏のコード進行が「聖母〜」「家路」「橋」と同じパターンを踏襲しているせいもある。「愛という名の勇気」はというと、大津あきら・安部恭弘コンビの作品。「聖母〜」から10年以上経っており、大ヒット曲の呪縛から解けたこともあるのか、宏美さんが歌ったこれまでの5曲とはまた違った魅力を持つ曲に仕上がっていると思う。

 

 Dマイナーで始まるAメロの「♪ 涙ふきましょう〜 あなたの素顔に」の部分では、ナインス(9th)を加えたコードを多用し、玉虫色のような不思議な色合いが出ている。Bメロの「♪ 夢だけは〜」の部分を経て、Cメロの「♪ 眠れぬ夜を越えて〜」からは、レラティブ・キー(平行調)の Fメジャーに傾斜することもあり、宏美さんの開放的な高音と相まって、明るさがほの見える。2コーラス終わった後の間奏、最後の後奏はとても劇的である。

 

 

 また、これは先入観によるものだろうか。益田宏美名義で吹き込まれた楽曲は、母親となる宏美さんの肉体的・精神的なものを映してか、とても穏やかで温かな声に私には聴こえる。活動緩慢期で声を酷使していない、ということもあるのかも知れない。事務所独立当時の「決心」「月光」などの、吹っ切れたような、時にシャウトするような(うすい氏に言わせるとヒステリックでさえある)高音とは、明らかに一線を画している。今回このブログを書くに当たって、CDを聴き直したり、YouTubeを見てみたりしても、その印象は変わらなかった。その声の優しさが、この曲の魅力を増幅しているのかも知れない。

 

 もう10年以上も前になるが、ヒロリンファンが数名集い、私のピアノで宏美さんの曲を歌う会が催された。その時、この「愛という名の勇気」をリクエストしたAさんは、完璧に歌いこなしていたっけ。宏美さんに聞かせてあげたかった。

 

(1993.1.21 シングル)