「夜のてのひら」は、日本テレビ系『火曜サスペンス劇場』のエンディング・テーマ第5弾であり、宏美さんにとっては41stシングルである。

 

 

 この前年1985年12月、「聖母たちのララバイ」から「25時の愛の歌」まで、つまり初代〜4代目までの火サステーマ曲を収録した『ANTHOLOGY』という12インチシングルが発売になった。私はその時、「ああ、この4曲で宏美さんは火サスのテーマから降板するんだな」と思った。いや、多くのファンもそう思われたのではないか。

 

 だが、予想に反して5曲目も宏美さんの続投だった。作家陣は、それまでの山川啓介×木森敏之コンビから変えて、来生えつこ×筒美京平というお二人を投入。ここに「火サステーマ=岩崎宏美」という、ある意味「聖母〜」大ヒットの呪縛も感じた。

 

 さらに、拙ブログでも何度か触れたが、作曲者が交代してもなお、間奏や後奏に使用される同一のコード進行は踏襲されており、そこにプロデュース側の拘りが透けて見える感じがするのだ。せっかく来生&筒美コンビを起用しても、今までの路線からは大きく外れることはできない。その制約の中での楽曲制作には、編曲の武部聡志さんも含めて悩まれたのではないだろうか。

 

 いや、もちろんいい曲には違いないのである。新しい作家にもっと自由に“新たな火サステーマ”みたいなチャレンジが許されていたら、新機軸を打ち出せたのでは…と妄想してしまうのである。

 

 歴代主題歌を、単純にレコードの売り上げで比較してみよう(オリコン調べ、カッコ内は最高位)。

 

●聖母たちのララバイ…80.2万枚(1位)

家路…32.0万枚(4位)

…3.8万枚(31位)

●25時の愛の歌(『ANTHOLOGY』収録)…0.6万枚(79位)

●夜のてのひら…1.1万枚(55位)

愛という名の勇気…1.9万枚(60位)

 

と、ジリ貧は明らかである。ただ、インターバルを置いて再び宏美さんが起用された「愛という名の勇気」が若干盛り返していることには注目したい。これは、間に他の歌手の曲も使用されて時間も空き、「聖母〜」の手枷足枷から自由になった、また若干違った雰囲気の楽曲となったため、とも言えるのではないか。

 

 

 まあそれは置いておこう。レコードの売り上げを度外視すれば、この頃(86〜7年)の宏美さんは独立後の充実期だったと言って間違いない。2つのミュージカルやテレビドラマ(火サスにも!)への出演、エジプトでのコンサート。この「夜のてのひら」リリース直後の『PLAYBOY』では大胆なグラビアも披露、同時期には恋人騒ぎで写真週刊誌も賑わせた。

 

 ノリにノッていた宏美さんは『夜のヒットスタジオDX』でもマンスリーで登場。その2週目、ちょうど28歳の誕生日(1986.11.12)には、NHK交響楽団のコンサートマスター、堀正文さんの素晴らしいヴァイオリンをフィーチュアしたスペシャル・バージョンの「夜のてのひら」を披露している。堀さんの演奏に対等に渡り合っている、お姿もお声も神々しまでに美しい宏美さんのその動画を、とくとご覧あれ。

 

 

(1986.10.21 シングル)