みなさん,こんにちは。

朝起きたら,雪が降っていてビックリ!

ぎゃぁぁぁぁぁ

まだ11月なのにこんなに降らないでーえーん

 

話は変わりますが,近年,相続人不存在による相続財産管理人に

なることが増えてきまして,生前に準備しておけば

死後こんなに大変なことにならなかったのになぁ

と感じることが多くなりました。

 

先日も,身寄りのない方から,自分が死んだ後に

関係者に迷惑をかけたくないので,不動産などの

自分の遺産はすべて司法書士さんの方でお金にしてもらって

債務・経費を支払ったあと残った金銭はしかるべきところへやりたい

という相談を受けました。

 

当地は農村かつ豪雪地帯で,不動産の売却や管理が

とても大変なので,不動産のまま人にあげても

もらい手がいないなんてことも多々あるわけです。

 

そこで,本日は,相続人不存在を回避するための手段として

清算型遺贈が使えるかについて考えてみたいと思います。

 

相続財産管理人選任の要否

 

法定相続人がいない遺言者が死亡し,遺言執行者の指定がある場合でも

相続人がいないのだから,相続財産管理人を選任しなきゃいけないのか?

それとも選任せずに遺言執行者が遺言執行を進めてよいのか?

せっかく遺言書を作ったんですから

なるべくなら重い手続の管理人選任はしたくないところです。

家裁の実務

この点について,清算型遺贈のケースではありませんでしたが

最判平9.9.12は

「遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は

民法951条にいう『相続人のあることが明かでないとき』には当たらない」

旨判示し,包括遺贈の場合には,相続財産管理人の選任は要しない

ことが明確になりました。

包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有するからですね(民990)。

遺産の一部について包括遺贈があった場合については

この最高裁判例は言及しておらず,学説は肯定説と否定説があります。

 

この最判から,包括遺贈であればそのまま遺言執行可能で

特定遺贈の場合には相続財産管理人の選任を要し

「相続財産管理人の権限が優越し,遺言執行者の権限は

相続財産管理人の業務終了まで休止する」

(「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務(第2版)」560頁。日本加除出版」)

という家裁実務になっているようです。

 

さらにこの文献には,相続人不存在で,全財産を売却したうえで

諸経費を控除した残余を遺贈する旨の清算型遺贈では

遺言執行者の指定のある場合でも

「相続財産管理人を選任する必要がある」(同文献315頁)

との記載もあります。

その理由として,「相続財産は,いったん相続財産法人に帰属する

ことになるので,相続財産管理人が管理すべき相続財産が

存在すると考えざるを得ない」(同文献316頁)としています。

おそらくこの筆者は,清算型遺贈は特定遺贈である

という理解が前提にあると思われますが,後記のとおり

清算型遺贈だからといって一義的に包括遺贈か特定遺贈かは

決まらないと考える見解もありますし

理由も形式論すぎて説得的とは言い難いと私は考えます。

清算型遺贈における包括遺贈と特定遺贈の区別については後述します。

登記実務

これに対し,登記実務では,包括遺贈か特定遺贈かの区別なく

清算型遺贈において遺言執行者からの登記申請を認めています。

登研619号219頁

【問】相続人のいない遺言者が,遺言者名義の不動産を売却・換価し,その代金を債務に充当して,残金を遺贈する旨の遺言を残して死亡した場合,遺言執行者が選任又は指定されているときは,改めて相続財産管理人を選任しなくても,遺言執行者の申請により相続財産法人名義への登記名義人表示変更の登記をした上で,遺言執行者と当該不動産の買受人との共同申請により,所有権移転登記をすることができるものと考えますが,いかがでしょうか。

【答】貴見のとおりと考えます。

この実例は平成11年に出ているので,上記最高裁判決後のものです。

また,平成27年3月に大阪法務局に確認したところ

この実例の取り扱いをする旨の回答があったとのこと。

(「Q&A遺言執行トラブル対応の実務」180頁 新日本法規)

なので,登記実務は,相続人不存在の場合であっても

清算型遺贈のときには遺言執行可能と考えてよいようです。

 

これは登記官は形式審査権しかなく添付書類から相続人の有無はわからないから

という理由なのかもしれません。だとすると,できたとしても特定遺贈のときには

やっちゃだめでしょうということにもなりそうですが・・・。

ただ,後述のとおり,清算型遺贈における包括遺贈と特定遺贈の区別は

一義的には決められないので,申請人が私は包括遺贈だと解釈するってことであれば

仕方ないですよね。

ここまでを整理すると

私の今回のテーマは,相続人不存在のケースでも

相続財産管理人の選任手続を省略して,遺言執行者による執行ができる

清算型遺贈とは,どんな遺言をすればよいかを調べることです。

 

最高裁は包括遺贈ではそうしていいよと言っています。

そして,最高裁は特定遺贈はダメとまでは明言してませんが

(反対解釈から)家裁実務や文献では特定遺贈の場合は

相続財産管理人の選任が必要とされているようです。

 

では士業の実務はというと,金融機関や法務局などが遺言執行に通常応じるので

管理人は選任せずに,遺言執行で事実上終わっているケースもままありそうです。

遺贈の記載のある遺言書だけで手続は完了し,相続人の有無は通常チェック

されないですもんね。

清算型遺贈における包括遺贈と特定遺贈の区別

これが今日のメインテーマになります。

こんなこと,今まで考えてみたこともなかったんですが

例えば「遺産をすべて換価して,債務・経費を支払って

残った金銭はAに遺贈する。」旨の遺言の場合

最終的に一定額の金銭を承継させる性格の遺言

だから特定遺贈になるのでは?

とも考えられますし

遺産をすべてって言ってるんだから包括遺贈でしょ?

とも考えられそうです。

(この辺の悩ましさは後記小柳論文45頁以降に詳しく書いてあります)

 

この包括遺贈と特定遺贈の区別については

過去にも記事にしたことがありまして

法務局や実務家の間でもけっこう錯綜してるところでした。

「不動産の全部をAに遺贈する」旨の遺言は包括遺贈?特定遺贈?

 

清算型遺贈における両者の区別については

詳しく書いてある文献がなかなか見つからなかったんですが

国税庁のHPにとても興味深い論文がありました。

 

国税庁HP(最下部の「論叢本文」のリンクを押すと論文に飛びます)

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/85/01/index.htm

その論文(「換価遺言が行われた場合の課税関係について」小柳誠教授)

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/85/01/01.pdf

 

これ,すばらしい論文ですね!

103頁もある大作で,判例検討に加え,

遺贈を包括遺贈と特定遺贈,特定物遺贈と不特定物遺贈

にわけて分析していたりして

なかなか読みごたえがあります。

 

小柳教授は,「一義的に解するのではなく,個々の場面に

おける遺言者の遺言の趣旨に照らし」決定すべきとしながらも

一応の指針も示しています。

今回のテーマに関連する部分だけを抜粋すると

全財産を清算の対象とする場合で相続人不存在の場合は

包括遺贈と考え(47頁)

また,一部の相続財産を清算の対象とするものであっても

包括的な遺言の場合において,相続人不存在のときは

これまた包括遺贈と考える(48頁)

との一応の指針を示しています。

この論文の50頁にあるチャートが

めちゃくちゃわかりやすいです!!

 

もちろん,この論文がすべてではないですが

国税庁のHPに載っている論文ですので

少なくとも国税にはこれを根拠に主張すれば

通りやすいんじゃないかなと思います。

清算型遺贈の場合,相続税はもちろん,譲渡所得税などの

国税がらみの話がいろいろ出てきますよね。

この辺の税金の話も,もちろん上記論文には満載ですので

清算型遺贈の遺言執行者になったときには

大変参考になる論文だと思います。

今回のまとめ

とりあえず,現時点では,法定相続人がいない方から

死後に清算してしかるべくところへ遺贈したいという

ご相談があったときは,私は,上記論文を参考に

なるべく特定遺贈ではなく包括遺贈と解釈できるような

設計にして相続財産管理人の選任をしないで済むように

したいと思います。

 

なので,本稿のテーマ

「相続人不存在を回避するために清算型遺贈は使えるのか?」

の答えは

「一応使える」

ってことになります。

おまけ

とはいえ遺言が明確に特定遺贈だったり

あるいは遺産が債務超過だったりして

やむなく相続財産管理人の選任をしなきゃいけないケースを

受託することもあるわけですが

遺言執行者と相続財産管理人って同一人物がなっていいの?

という論点があります。

 

この点につき,清算型遺贈の案件で,東京家裁において

遺言執行者である弁護士が管理人報酬を辞退する上申をして

当該弁護士を相続財産管理人に選任した事例があったそうです。

(「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務(第2版)」323頁。日本加除出版」)

まあ,最悪この技を使えば,遺言者にとって想定外の出費もなく

管理人選任できるので,いいっちゃいいんですがね。

 

「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務(第2版)」

この文献さっきからちょくちょく出てきますが超~おススメです。

マイナーだけどこの手の業務をすると必ず出くる疑問点

についての記載が満載です。

 

追記(2021/10/22)

遺言執行者が不動産を換価して換価金を遺贈するケースで,

相続人不存在の場合だと,遺言執行者は譲渡所得税の

納税義務者になることができないという不都合がある

との指摘がある(「相続の話をしよう」95頁。関根稔著。財形詳報社)

 

この文献では,その場合には,不動産を個人に負担付遺贈をして

当該個人が不動産を売却し,そこから売却経費,税金を差し引いた

残額を負担の履行として支払う,という遺言を作成するとの

解決法が示されている。

参考までに追記しておきます。

 

追記(2023/9/26)

包括遺贈か特定遺贈かの解釈について

三菱UFJ信託銀行のホームページに

論文が公開されていたので共有します。

なかなか読みごたえがあります。

(論文)

https://www.tr.mufg.jp/souzoku-ken/pdf/ronbun_report_07.pdf

(公開されているホームページ)