(臨時営業)NHKの「犬神家の一族」(長編ドラマ版)を見てみたものの・・・・・・
2023年5月13日(土) 日本では先月下旬に2週連続で放送されたNHKの長編ドラマ「犬神家の一族」を見た(前後編の全2回)。 韓国でも見られる「NHKワールド・プレミアム」で放送されたおかげなのだが、日本では土曜夜9時からの放送だったのが、ここ韓国では日本と違って平日の5月3日~4日の両日、それも朝の8時15分から放送されることになり、いくら連休で休みになった「あさイチ」の「空き」を埋めるのに好都合だったのだろうとは言え、朝っぱらから陰惨な内容のドラマを見るのは、金田一耕助ものが大好きな私でもさすがに余り気乗りがしなかった。 そもそも私の知る限り、韓国(だけでなくおそらく海外全般)では日本のようにテレビ番組を専用ハードディスクに録画して好きな時間に見たりBlu-rayやDVDに焼いて保存したりするような習慣がなく、当然我が家にもそんな設備はない。韓国テレビ局の番組であれば、放送後しばらくの間は「再視聴(タシ・ボギ=다시보기)」が出来るのでそれでも困らないのだが、NHKを始めとする海外放送局による番組にはこのサービスが適用されず、放送時間にテレビの前に佇んで見るしか手だてがないのである。 そこで私はこの両日、普段より少し早起きして身支度や朝食を済ませ、1時間半の間テレビに集中する態勢をすっかりととのえてから「犬神家の一族」を見ることにした。おかげでこの2日間は寝不足で終日ぼんやりとしてしまい、いつも以上に何も出来ず無為の時間を過ごすことになった。わざわざ早起きしてドラマを見たことは私の勝手だとは言え、まったく良い迷惑である。 しかも普段から私はテレビを見る間もついインターネットでニュースをチェックしたりメールを書いたりしてしまい、その結果、楽しみにしていた番組にも集中出来ず、番組終了後に内容すらろくに思い出せないことがよくあって、今回も一応内容はざっと追って見てはいたものの、細かい部分は音声だけ聴いていたようなもので、結局その後何日かして誰かがインターネットにアップしてくれた動画で改めて全体を見直す羽目になった(要はわざわざ早起きした意味がなかった訳だが、その時点ではインターネットにアップされるかどうか分からず他に選択肢がなかったのである)。 そんなどうでも良い個人的な話はともあれ、今回の「犬神家の一族」は、2020年2月に放送された「シリーズ横溝正史短編集II」で30分弱に無理やり押し込まれた短編版(当ブログの関連記事→https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12629181807.html)に続く、NHKでは2度目となる映像化である。 短編版では探偵・金田一耕助役を池松壮亮が演じていたが、今回は2018年の「悪魔が来りて笛を吹く」や2019年の「八つ墓村」と同様、ドラマの「北の国から」や「Dr.コトー診療所」、映画「男はつらいよ」シリーズなどでお馴染みの吉岡秀隆が演じている。 今回の「犬神家の一族」における他の配役をざっと紹介しておくと、まず主役(?)の長女・犬神松子を演じているのは、上に写真を掲げた大竹しのぶである。 次いで主な登場人物を写真と共に列挙していくと、次女・犬神竹子=南果歩(下の写真右)その夫・寅之助=遠山俊也(下の写真左)三女・犬神梅子=堀内敬子(下の写真右)その夫・幸吉=坂田聡(下の写真左)犬神佐清=金子大地(下の写真2枚)犬神佐武=今井悠貴(下の写真中央)犬神佐智=渋谷謙人(下の写真左)犬神小夜子=菅野莉央(下の写真左)野々宮珠世=古川琴音(下の写真右)猿蔵=芹澤興人(下の写真右)磯川警察署長=小市慢太郎(下の写真)古館弁護士=皆川猿時(下の写真右)大山神主=野間口徹(下の写真中央) などとなっている。 金田一耕助役は上記の通り吉岡秀隆だが、1作目の「悪魔が来りて笛を吹く」(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12539590344.html)や前作「八つ墓村」https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12502042101.html)同様、今回も相変わらず(おそらくついついやってしまう癖なのだろう)何度となく目をギョロリと剥いてみせ(下の写真参照)、根が暗くいじけた性格なのか、それとも剽軽(ひょうきん)でどこか抜けているのか判然としない、根暗でお調子者の金田一耕助を演じている。 お調子者なのは全く構わないものの、遺族を前に殺人の様子を説明する際にすらヘラヘラ笑いを浮かべたりするのはさすがに頂けない。これもまた吉岡秀隆という人の、思わず出てしまう癖なのだろうか(だとしてもそうした癖を、作品の内容や雰囲気に合わせて出させないようにするのが演出家の役割というものだろう)。以下の2枚はいきなりおちゃらけてみせる金田一。 もっとも放送前からニュースやインターネットで話題になっていた(らしい)のは、金田一耕助役の吉岡秀隆よりも犬神松子役を演ずる大竹しのぶの方だったが、この人はどんな役を演じても結局「大竹しのぶ」になってしまうのが(私の個人的な感想では)大きな問題で、今回も犬神松子という登場人物ではなく「女優・大竹しのぶ」を終始見せつけられることになった(そしてそのことが今回のドラマの出来を貶めていると言うしかない)。 特に今回はあえてそういう役作りをしたのかも知れないものの、わざとらしい無表情が多くて陰影に乏しい半面、演技はいちいち大仰かつ過剰で、見ていてストレスしか覚えなかった。 また、以下は閲覧要注意だが、戦争で顔にひどい怪我を負ったという設定の犬神佐清/青沼静馬の顔はこんな造型になっている(見る人によってはショッキングに思われるかも知れないため、その点を事前了解の上ご覧ください)。 ついでながら私はこの姿が画面に登場するたびに「河童(かっぱ)」を思い浮かべてしまい、ゴムか何かの作り物にしか見えないその不自然な顔つきに違和感を覚えてなかなかドラマに集中出来なかった。↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ さらに「犬神家の一族」と言えば1976年公開の映画版以来、このイメージが最も強烈であるに違いない湖面から突き出した2本の脚は、今回は原作通り、凍った湖面から突き出した格好になっている(以下の写真。ただし撮影時に湖面が凍っていたのは単なる偶然だったそうである)。 さて、これら新たな俳優陣やメーキャップ等で製作された今回のドラマだが、私の偏見に満ちた評価(5点満点)を最初に書いておくとすると、以下のようになる。・「犬神家の一族(2023年)」(演出:吉田照幸) 2.5点(IMDb他なし) テレビとインターネットで視聴 これと比較するため、このドラマの後で数十年ぶりに見返した1977年版テレビ・ドラマ、および1976年の映画版の評点も以下に掲げておく。・「犬神家の一族(1977年)」(演出:工藤栄一) 3.0点(IMDb他なし) 日本版DVDで再見・「犬神家の一族(1976年)」(市川崑監督) 4.5点(IMDb 7.1) デジタル修復版をインターネットで再見 身も蓋もない結論からあえて先に書いてしまうなら、今回のドラマ(2種類)を見ることで、改めて市川崑監督による1976年の映画版が演出、撮影、俳優の演技、音楽などあらゆる面において如何に突出して素晴らしい出来であったかということを痛いほど再確認させられることになった(むろんこの作品とても「完璧」な訳ではなく、矛盾点や不自然な点も少なくないのだが、映像やカットひとつとっても見るたびに惚れ惚れしてしまうような見事さなのである)。 ドラマ版としては世評の高い上記1977年版も決して悪い出来ではないものの、10歳で初めて見た時にも思ったようにヒロイン野々宮珠世役に全く華がないのがなんとも残念だった(上の写真。宝塚出身の四季乃花恵という人だそうである)。 1976年の映画版でこの作品の「洗礼を浴びた」私にとっては、野々宮珠世と言えばやはり島田陽子の印象が余りに強烈で(下の写真)、金田一耕助役の石坂浩二や犬神松子役の高峰三枝子(下の写真2枚目)と共に、他の俳優では決して置き換えることの出来ない「はまり役」と言うしかない。 珠世役の華のなさという意味では、残念ながら今回のドラマも似たりよったりで、インターネットのコメントなどを見ていても、むしろ犬神小夜子役の方に向いているのではないかという穿った意見が少なくなかった(そもそも今作では珠世が「美女」であるという言及もなかったはずである。それはそれで女優さんに失礼な話だが・・・・・・)。 もっとも珠世役を演じている古川琴音という女優さんは(下の写真右)、濱口竜介の傑作「偶然と想像」(2021年)ではその童顔に似合わない辛辣な性格の役柄を演じていて極めて鮮烈な印象を残したし、その古風とも言える個性的な顔立ちも個人的には決して嫌いでないのだが・・・・・・。要は女優さん本人には全く罪のないミスキャストなのである。 ついでながら1977年版のドラマでは、顔に大怪我を負った犬神佐清がかぶる仮面も、以下のような能面を模したもので、このなんとも情けない顔つき(?)に(初めて見た当時)子供ながらも唖然とさせられたものである(こんなに目の穴が小さかったらさぞ見づらいだろう)。 話を今回のドラマに戻すなら、最大の眼目は結末のどんでん返しにあると言って良いだろう。 未見の人もいるだろうから詳細は書かずにおくことにするが、原作とも過去の映像化作品とも全く異なるその「意外な結末」が果たして成功しているかと言えば、個人的な感想では着眼点そのものは面白いものの、「奇を衒っている」という以上の印象を受けることがなく、むしろ細かく検証していけば矛盾に満ちた「蛇足」でしかないと言いたくなる程である(「真相」は最後まで曖昧なままにしてあるのだが、細かく突き詰めていくとボロが出てしまうからではないか)。 そうした「奇策」に頼るのではなく、原作に基づいた「本体」部分でこそ勝負して欲しかったのだが、残念ながらその「本体」にしても過去の映画やドラマと比べて見劣りしていると言うしかない。 他にも今回のドラマを見ていて違和感を覚えた点をアト・ランダムに列挙してみると、・前後編で3時間という映画以上の十分な尺があるにもかかわらず、細かい説明や描写がざっくり省略されていて、あらかじめ作品を知っていないと分かりづらい(例えば殺人が起きた際に琴の稽古を受けていた犬神松子のアリバイについての言及が一切なかったり、犬神佐兵衛と野々宮大弐の関係についての説明が不十分過ぎる点など)・各登場人物の掘り下げが浅く、印象が稀薄(特に野々宮珠世や犬神三兄弟)・大竹しのぶを始めとする俳優たちのオーヴァーアクション(あるいは反対に、磯川署長役を始めとする台詞棒読みの一本調子な演技)・俳優たちの滑舌の悪さとおかしな発音/イントネーション(中でも吉岡・金田一は「衆道」のことを「しゅうどう」などと発音している。演出家や製作スタッフもこの間違いに気づかなかったのだろうか?)・青沼静馬が犬神家に入り込んだ理由(実の母親を激しく虐待して人生を台無しにした相手に対して思慕を抱くなどということがありうるだろうか。ただしこれはあくまで犬神佐清などによる作り話であって、本当は犬神家への復讐のためだったのかも知れないが)・なぜか白髪の金田一耕助(単に吉岡秀隆が実際に白髪だからか)・小男で少しも頑強そうに見えない猿蔵役(ついでながら珠世に異変が生ずると間髪に入れずに猿蔵が出現するのだが、反応が余りに早すぎで不自然である。あれではまるでストーカーである) 反対に今作で良かった点を挙げるなら、これまでのNHK版「金田一耕助シリーズ」と同様、映像が安っぽくなく美しいことと、1作目の「悪魔が来りて笛を吹く」や前作「八つ墓村」では作品の雰囲気と全く合っていないジョン・レノンの「Mother」やイーグルスの「Desperado」を使用するなど目も当てられなかった音楽が、今回は作品全体の雰囲気作りに寄与する堅調なものだったことだろうか(★★)。 ただしこれまで同様、誰が音楽を担当しているのかがタイトルバックで明示されておらず、そのこと自体が演出家の音楽に対する理解のなさを露呈していると言っていいかも知れない。《★★ 今回のドラマの最後に使用されているのは、ジャズ・ピアニストの上原ひろみ演奏による「Old Castle, by the river, in the middle of a forest」(チック・コリアとの共作?)という曲だそうである。既存曲を使用するにしても(むしろ既存曲を用いるのであれば余計に)、曲名や演奏家の名前をクレジットするのが「最低の礼儀」ではないのだろうか。 https://www.youtube.com/watch?v=L-vlYmGNfMI》* 最後に改めて結論を書いておくならば、2016年の「獄門島」以来、「悪魔が来りて笛を吹く」(2018年)、「八つ墓村」(2019年)、そして今回の「犬神家の一族」と、NHKの金田一耕助シリーズ(長編ドラマ)ではNHKの吉田照幸というディレクターが演出を担当し続けているのだが、この人が「独自色」を出そうとする余り、単に「奇を衒いすぎている」としか思えないのが最大の問題である(そしてそれが私の好みと全く相容れないのである)。 むろん既存作品を踏襲するだけでは新作を作る意味がないのだが、しかし新たな趣向が単なるケレンやギミックに終わることなく、私のような「うるさ型」の鑑賞にも耐えるようになるには、リアリティの担保や綿密な検証/考証が出来ていないとお話にならないのである。 しかも俳優たちが毎回決まって「悪しき演劇調」と言って良いような過剰な演技や大声で騒ぎまくっているのを見せつけられると、上記の音楽同様、この演出家にとっては俳優の演技など大して意味を持っていないのではないかとすら勘ぐりたくなってしまう程である(それはそれで全く構わないものの、それならば俳優の演技抜きでも視聴者が思わず唸ってしまうような圧倒的な映像を作り出して欲しいものである)。 前々から当ブログでも仄めかして来たように、このNHK版「金田一耕助シリーズ」から上記の演出家と金田一耕助役の俳優を「外して欲しい」というのが、極めて独断的で勝手な私の希望であり続けているのだが、どうやら件の演出家は既に次作の(希望的?)構想を抱いているようで、中でも「本陣殺人事件」への強い意欲を語っているのをインターネットの記事で目にしたばかりである(★)。嗚呼・・・・・・。★https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/04/28/kiji/20230427s00041000732000c.html そもそも前作「八つ墓村」の最後では、次作が「悪魔の手毬唄」になるらしいことが示唆されていたのだが、どういう訳かいつの間にか「犬神家の一族」に変わってしまっていたので、次作も最終的にどの作品になるか、蓋をあけてみないと分からないかも知れない。もし次回が演出家の希望通り「本陣殺人事件」になるとすると、前回予告されていた「悪魔の手毬唄」のドラマ化はますます先のことになってしまうのだが・・・・・・。 もっともこれまでのNHK版「金田一耕助シリーズ」長編ドラマ全4作のいずれも私には満足の行くものではなかったので(ただし「獄門島」で金田一耕助を演じた長谷川博己は吉岡秀隆よりも「はまり役」だったと思う)、もし演出家も主演俳優も今回と同じだとすれば、今後も大して期待は出来なさそうなのだが・・・・・・。