2023年4月13日(木)

 当ブログで1月に「生誕100年の人々(1923年1月生まれ)+α」という記事を載せたのだが(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12783752664.html)、続きを書こうかどうか迷っているうちに4月になってしまった。

 最大の失敗は、良くも悪くも私の人生を一大転換させた「張本人」である作家・遠藤周作の生誕100周年について書き忘れたことで(1923年3月27日生まれ。1996年9月29日に満73歳で死去)、あいにく月は変わってしまったものの、遅ればせながら採り上げてみたいと思う(ついでながら2月~3月に生誕&逝去100周年を迎えた人たちについても簡単に付け加えることにする)。

 

 以前当ブログでも紹介したことがあるように(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12718391597.html)、ここ数年、遠藤周作の未発表作品が発見されたり、これまで書籍化されたことのなかった初期の童話作品や連載小説が刊行されたりするなど、生誕100年を意識してのことだったのか、没後ほぼ四半世紀が過ぎようとしている遠藤周作という作家を忘却の彼方に埋もれさせまいとする地道な作業が続けられて来た(それには長崎にある「遠藤周作文学館」という存在が大きな役割を果たしていると言って間違いないだろう→同館ウェブサイト→http://www.city.nagasaki.lg.jp/endou/)。

 海外に住んでいることから最近はもっぱらKindleで本を読むことになってしまった私も、大昔に買ったまま積ん読になっている遠藤周作の中間小説がKindleでセールになったりしているとついつい衝動買いしてしまうのだが、他にも読みたい本が山積する中、悲しいかな、結局はそれらKindle本も積ん読になってしまっているのが実状である。

 

 それはそれとして、ここで遠藤周作という作家が私の人生にいつどのような影響を及ぼしたのかについて詳述しても良いのだが、そんなものは所詮、過去の思い出話を際限なく反復する老人の繰り言と同断で誰の関心も惹かないだろうから、贅言に贅言を積み重ねる愚は慎むことにしたい。

 しかし、一部の狂信的な原理主義者を除けば宗教というものの重要性が日々薄れていくに違いないこれからの時代に、そうでなくても国民に占めるキリスト教徒の比率が世界的に見ても極めて低い日本という国で(遠藤はそうした日本の状況を「沈黙」などでいみじくも「泥沼」と表現している)、「カトリック作家」というレッテルを貼られることの多い遠藤周作の作品がどれだけの需要や必要性を獲得しうるのか、個人的には甚だ疑問視している。

 

 それでも2016年には名匠マーティン・スコセッシによって代表作「沈黙」が映画化されたこともあるし、既に死後かなりの歳月を経ながら未だコンスタントに作品が刊行され続けている数少ない作家のひとりであることも間違いなく、遠藤の現役時代を知っている現在40代以上の読者たちがやがて完全にこの世から消え去った後でも、細々とではあれ日本の読書界に命脈を保ち続ける可能性が皆無だとは言えないだろう。

 私個人としては遠藤の代表作と言えば、ありきたりな選択だと言われようとも「海と毒薬」や「沈黙」、「侍」、「死海のほとり」など挙げるしかないのだが、キリスト教色が極めて濃厚であるとは言うものの「沈黙」は広義の日本(人)論として読むことも出来、その意味では日本(人)の歴史的な恥部(の一例)を描いた「海と毒薬」と共に、少なくとも日本ではこれからもそうした文脈で読み続けられていくかも知れない。

 

 同時に、これら純文学作品以上に、軽重とりまぜた様々な経験談や面白おかしいエピソードからなる人生論的エッセイや、社会的弱者について触れた著作、患者の目線から医療の改革を訴えている啓蒙的な作品などの方に、ひょっとしたらより大きな需要があるのかも知れないとも思う。

 そもそも純文学作品にしても、上記のような文学的完成度の高い代表的作品よりも、通俗的(中間小説的)かつ啓蒙的な文体や内容を持つ(ただし従来のキリスト教にこだわった作品世界を越え、宗教的・思想的により広く大きな視点に立っていることも確かな)「深い河」のような作品が、これまでも一般的にはより高い人気を誇って来たのであって、必ずしも文学的に優れた作品が長く生き残るとは限らないのでもあるだろう。

 

 ただし、いわゆる中間小説的な作品群には(代表作にも挙げられるだろう「わたしが・棄てた・女」や「おバカさん」なども含め)、書かれた時代の風俗描写がそのまま登場することが少なくなく、小説でも映画でも最も早く古びてしまうのがまさにこの種の風俗描写であることから、将来にわたって長く読みつがれていくことは難しいかも知れない(そもそも私がこれらの作品を最初に読んだ40年程前でも、そうした描写は既に記憶の風化した「遠い過去」のように思われて古臭く感じたものである)。

 

 ともあれ、今では個人的にほとんど読み返すことがなくなってしまったものの、私自身の人生に大きな影響を与えたこの作家の作品が今後も末永く読みつがれていくことを願わずにはいられない。

 ちなみに私が上記の代表的純文学作品と同じくらい偏愛している小説に、「海と毒薬」と「おバカさん」の続編でもある「悲しみの歌」という作品があるのだが、行き過ぎた「政治的正しさ」の追求や、そうした「正しさ」をまるで水戸黄門の印籠のように大上段から振りかざして他者を容赦なく批判・否定するような傾向がますます強まりつつある今のような時代にこそ読まれる意義があるに違いない(もっとも私自身もう何十年も読み返していないので、今読んだらどのような感想を抱くか分からないのだが)。当記事の最後に、私の「イチオシ」として挙げておくことにしたい。

 

*

 

 最初に記した通り、以下ではこの2月から3月にかけて生誕100年(あるいは没後100年)を迎えた著名人(のうち、私個人が興味のある人たち)のことを簡単に記しておく(敬称略)。

 

 まずは生誕100周年から。

 

 

 映画監督・オペラ演出家のフランコ・ゼフィレッリ(Franco Zeffirelli。2月12日生まれ。2019年6月15日に満96歳で死去)。

 

 

 トム・ウルフのドキュメンタリー小説(及びその映画化作品)「ライトスタッフ」の主人公のモデルである(自らも映画にカメオ出演した)アメリカ空軍のパイロット、チャック・イェーガー(Chuck Yeager。2月13日生まれ。2020年12月7日に満97歳で死去)。

 映画「ライトスタッフ」ではイェーガーの役柄を俳優サム・シェパード(故人)が演じている。

 

 

 ザ・ビートルズの楽曲にエンジニアとして参加し、またピンク・フロイドのアルバムをプロデュースしたことなどで知られる英国の音楽エンジニア、プロデューサー、ミュージシャンであるノーマン・スミス(Norman Smith。2月22日生まれ。2008年3月3日に満85歳で死去。上の写真中央)。

 自らも「太陽を消さないで」(Don't Let It Die)や「オウ・ベイブ」(Oh Babe, What Would You Say)などのヒット曲を送り出した。

 

 

 「若大将」シリーズや「ゴジラ」シリーズ、「電送人間」(1960年)や「惑星大戦争」(1977年)などの特撮映画で知られる映画監督の福田純(2月17日生まれ。2000年12月3日に満77歳で死去)。

 

 

 アガサ・クリスティやC・S・ルイスの作品や、「ロザムンドおばさん」シリーズなどの訳業で知られる翻訳家の中村妙子(2月21日生まれ。100歳を迎えて今日もなお健在と思われる)。

 

 

 ベルトラン・タヴェルニエ監督の映画「ラウンド・ミッドナイト」(1986年)にも出演したジャズのテナー・サックス奏者デクスター・ゴードン(Dexter Gordon。2月27日生まれ。1990年4月25日に満67歳で死去)。

 

 

 昭和を代表する将棋棋士のひとり大山康晴(3月13日生まれ。1992年7月26日に満69歳で死去)。

 

 

 俳優・漫才師の鳳啓助(3月16日生まれ。1994年8月8日に満71歳で死去。上の写真左。右は元夫人の京唄子)。

 

 

 昭和を代表する(と個人的に思っている)名優のひとり船越英二(3月17日生まれ。2007年3月17日に満84歳で死去)。言うまでもなく子息は同じく俳優の船越英一郎。

 なよなよして捉えどころのない男性役を演じさせたらこの人の右に出る者はなく、映画だけでも代表作は数知れないほど多い。一般には大岡昇平原作・市川崑監督の「野火」の評価が高いだろうが、個人的にはもっとユーモラスな役柄の方が好みで、市川崑の「黒い十人の女」(1961年)や「私は二歳」(1962年)、増村保造の「最高殊勲夫人」(1959年)や川島雄三の「しとやかな獣」(1962年)などがとりわけ印象深い。

 

 

 詩人・翻訳家の田村隆一(3月18日生まれ。1998年8月26日に満75歳で死去)。

 誤訳も多いらしいが、この人が訳したアガサ・クリスティやロアルド・ダール作品はなんとも懐かしいし、本業(?)の詩ではやはり(極めてありきたりではあるものの)「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」という一節で有名な「帰途」だろうか(→http://web1.kcn.jp/tkia/trp/026.html)。

 

 

 パントマイムで知られるフランス出身のマルセル・マルソー(Marcel Marceau。3月22日生まれ。2007年9月22日に満84歳で死去)。

 


 これまた昭和を代表する迷優(?怪優?)で料理研究家でもあった金子信雄(3月27日生まれ。1995年1月20日に満71歳で死去)。

 この人も出演作は数知れず、代表作を選ぶのは至難の業だが、個人的に最も印象深いのはテレビ・ドラマ「白い巨塔」の岩田病院院長役だろうか。

 

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 以下は没後100周年。
 

 

 X線の発見により第1回ノーベル物理学賞を受賞したドイツの物理学者のヴィルヘルム・レントゲン(Wilhelm Röntgen。1845年3月27日生まれで、1923年2月10日に満77歳で死去)。

 

 

 フランスの伝説的な大女優サラ・ベルナール(Sarah Bernhardt。1844年10月22日生まれで、1923年3月26日に満78歳で死去)。