(臨時営業)改めてザ・ビートルズ最後の新曲「Now and Then」について
2023年11月11日(土) しつこくザ・ビートルズ最後の新曲「Now and Then」について。 どうでも良いことだが、この曲が最新の英国シングル・チャートで「ジョンとヨーコのバラード」以来50数年ぶりに1位になったそうである。 音楽チャートの順位など全く当てにならないもので(例えばザ・ビートルズでも「Strawberry Fields Forever/Penny Lane」や「Something」、「Let It Be」などの傑作や有名曲でも1位を獲得していないし、そもそも傑作・名作が多すぎてシングルとして発売されず、チャートの対象にすらなっていないものが少なくない)、特に昨今の音楽チャートなどは古臭い中年オヤジの私にとっては全く無縁で空疎なガラクタ一覧のようなもので、そんなもので1位になったところで「ああ、さいですか」というのが正直なところである。 まず最初に、当ブログで酷評した「Now and Then」のカヴァーだが、その後このデザインが、前回採り上げた「赤盤」「青盤」のカヴァー写真の手すりの角度と同じで、一種のオマージュになっているのではないかという話が出て来た(しかも実際には完全に同じ角度ではないらしい)。 個人的には「だからどうした?」と冷たい反応を示すしかなかったのだが(どんな意図があろうとこのデザインが不出来であることに変わりはない)、そんな風に無理やりこじつけでもしなければ救いようがないということだろう。 ちなみにこのカヴァーをデザインしたのは、公式サイト等で「有名アーティスト」と記されているエド・ルシェ(Edward/EdRuscha)という人だそうで、2020年にポール・マッカートニーが発表した「マッカートニーIII」というアルバムのカヴァーを担当してもいるらしい(下の画像。やはり当ブログで私はこのデザインのことも酷評している→https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12633589178.html)。この時も「アメリカの著名なアーティストのエド・ルシェ」という弁解めいた表現が使われており、つまりこんなひどいデザインでも「有名アーティスト」の作品なのだという苦しい擁護をせざるをえなかったのだろう。 要するにポール・マッカートニーの肝煎りでこの「有名アーティスト」にカヴァー・デザインを依頼したのだろうと思われるが、下の「マッカートニーIII」のお寒いカヴァーで懲りなかったのだとすれば、ポール・マッカートニーほどの音楽の天才であっても、その美的感覚は必ずしも当てにならないということなのだろう。 記事の最初に掲げた可愛らしい時計が用いられている裏カヴァーについては、当記事の最後で紹介することにしたい。 ここで本題に入るとすると、「ザ・ビートルズ最後の新曲」である「Now and Then」は、うるさがたの多い批評家の間だけでなく、長きにわたってザ・ビートルズの音楽に親しんで来た愛好家の間でも評価が大きく二分されているようである。 特にコアなファンの中には頭ごなしに否定する人が少なくなく、その理由はおおよそ以下の3点に要約されると言っていいだろう。1、解散後にジョン・レノンが作った曲であり、ザ・ビートルズ名義で発表するのは筋違いである。しかも死人に口なしで、ジョン・レノンへの冒涜でもある。2、歌詞もメロディも美しいBメロをバッサリ削除するという暴挙は到底許しがたい(このBメロについては以下の1分24秒から2分10秒を参照→https://www.youtube.com/watch?v=GI31JYUMtfc)。3、単に曲自体の出来が今ひとつで、所詮は完成途上のデモの域を出ていない。本当に優れた曲だったらジョン・レノンがソロ名義で発表していただろう。 いつもザ・ビートルズに関する貴重な情報を発信してくれているザ・ビートルズ研究家/ライターの野良さん(https://twitter.com/nora_fabs)によれば、「Free as a Bird」や「Real Love」と共に1995年の「アンソロジー」プロジェクトでこの曲を「新曲」として発表するかどうか検討した際のメモ入りの歌詞が残されているそうで(上の画像。ただし歌詞をタイプしたこの紙自体は1995年より遙か前のものかも知れないとのことである)、タイトルも元々はBメロの一節から取られた「I Don't Want to Lose You」だったことが分かる。 おそらく内容を精査した結果、このBメロ部分を削除することにしたためタイトルも「Now and Then」に改めることにし、今回も1995年の案を踏襲したのだろう(上のメモ書きのうち、Vが歌詞(verse)、CHがコーラス(Chorus)だろうとのことで、一方のBメロには何の記載もなく割愛予定だったことが伺われる)。 更に野良さんは、ポール・マッカートニーが1995年時点で既に「最初のセクションはすごくいいけど、そのあとちょっと安っぽくなる(goes a bit crummy)」、「それら全部をうまく作り変えなくちゃならないけど、ちょっと難しいな」と言っていたことも紹介している(https://twitter.com/nora_fabs/status/1721757013234073866)。 この曲については1995年当時、ジョージ・ハリスンが断固ダメ出ししてお蔵入りしたものと伝えられているが、ポール・マッカートニーも上のBメロを始め問題の多い曲であると見做していたことが分かる貴重な証言である。 順番が逆になるが、3つの否定的理由の2番目であるこのBメロについては、当ブログの過去記事に「ジョン・レノンの歌声もピアノもところどころ音程がはずれ、そのままではとても公式発表できるような演奏水準ではないとしか思えなかった」と書いたように、私には全く美しいとも優れているとも思えない部分である(歌詞にしてもありきたりなラヴ・ソング以上のものではない)。 だから今回の「新曲」を耳にした時、この不出来なパートがバッサリ削られているのを知って私は正直ホッとしたのだが、上の資料によって当時のメンバーたちも同じようなことを考えていたことが分かり、大いに納得したものである。The Beatles - Now And Then - Isolated Backing VocalsMade with MDX23.Mix used : Atmos MixThe backing vocals sampled from their catalogue are buried under the strings in this mix, so it makes it pretty hard for ...www.youtube.com 中にはこのBメロを削除するのではなく、中途半端な歌詞を完成させた上でポール・マッカートニーがソロでヴォーカルを取れば良かったのではないかという意見もあるが、齢81歳ですっかり声(量)の衰えたポール・マッカートニーと、当時30代だったジョン・レノンの若々しい声を同じ曲で並べてしまうと、音楽的な統一感が甚だしく損なわれかねない。そもそも今回の「Now and Then」でも、コーラス部分のポール・マッカートニーの歌声は痛々しいほど力がなく、往年の名歌手もさすがに寄る年波に勝てなかったことが分かる←ヴォーカルのみを抽出している上の動画を参照のこと)。The Beatles - Now And Then - Isolated Slide GuitarMade with MDX23.Mix used : Atmos MixPaul did a great job on slide I think, a fitting homage to George.Patreon : https://patreon.com/RockBandStemsPayPal : htt...www.youtube.com ちなみに公式版「Now and Then」にはこのBメロの代わりにギターの間奏が加えられているが(上の動画の最初の方)、楽器の演奏が出来ず譜面も読めない私には真偽の程は分からないものの、この間奏のコード進行(の前半部)は削除されたBメロと同じ(ただしキーは異なる)だそうで、Bメロへの一種のオマージュと見做すことが出来るかも知れない。 否定的理由の1番目である「ザ・ビートルズ名義で発表するのはおかしい」という意見は確かにその通りだとも思うのだが、このことは「アンソロジー」プロジェクトで発表された上記「Free as a Bird」と「Real Love」にしても同じことが言え、実際、解散後に録音されたものは一切、ザ・ビートルズの曲と認めないと主張する強硬派も少なくない(一方でこうした人々のことを「ビートルズ原理主義者」と揶揄する向きもある)。 私も当ブログで何度か批判的に書いた(しかし最近ではあっさりその軍門に降ってしまっている)商売っ気の強い「ビートルズ商法」には否定的なものの、海賊盤で音質的にも音楽的にも問題のある未発表曲やデモ曲を聴くのが昔から嫌いではなかったこともあり、「ザ・ビートルズ」の現存メンバーが未知の音源を「公表」してくれることには肯定的である。 むしろまだ埋もれている音源があるなら今後もどんどん出して欲しいとすら考えている位なのだが、その半面、AI技術などでメンバーの声を新たに合成し、完全な新曲を作ったりすることには断固反対である。あくまでメンバーが自分の声で歌ったり演奏した音源を、最新技術で雑音を除いたり編集加工することが最低条件であり、その意味では今回の「新曲」はぎりぎり許容範囲だと言っていい。 否定的理由の3番目で、この曲の元であるデモの出来がそもそも今ひとつで、今回の完成版にしても傑作・名作とは程遠いという意見には、過去記事にも書いた通り私もおおむね賛成である。 編曲にしても、「懐メロ風」をあえて狙ったのだろうものの、まるで昭和の歌謡曲のような(と誰かが書いてもいた)ヘンテコなエンディングなどは何度聴いても思わずズッコケてしまうチープさ加減である(特にタンバリンの使用が余りに安っぽい。一方でこのエンディングは下記の間奏部分と共に、ジョージ・ハリスンのソロ曲や、「Free as a Bird」や「Real Love」制作に関わったジェフ・リンの作風を思わせもする)。 しかし前回の記事にも書いたように、繰り返し聴いているうちにすっかり耳に馴染んで、今ではそのシンプルなメロディや歌詞が思わず口をついて出て来る程で、箸にも棒にもかからない駄作だと切って棄てるには惜しい気がしないでもない。 何よりも上に書いたように、私はまだ埋もれている音源があるならどんどん公開して欲しいという無節操な「非」原理主義者なので、多少出来が悪くても「公式曲」として出してくれること自体に意義があると思う口(くち)である。今後も「Now and Then」という曲を長く愛聴し続けるかどうか微妙ではあるものの、「Free as a Bird」や「Real Love」などと同じく、たまに思い出したように耳にして、そう言えばこんな曲もあったなと回顧/懐古するのも悪くはないだろう。 ザ・ビートルズと雖も傑作や名作ばかりが揃っている訳ではなく、中には滅多に聴き返すことのない凡曲や駄作もない訳ではない。今回の「Now and Then」も、アルバムの中にひっそり埋もれている少なからぬ曲と同様、折に触れて聴き返せば良いのではないだろうか。The Beatles - Now And Then (Official Music Video)Now and Then's eventful journey to fruition took place over five decades and is the product of conversations and collaborations between the four Beatles that...www.youtube.com その後公開されたピーター・ジャクソン監督による「Now and Then」のミュージック・ビデオ(上の動画)にも触れておくなら、映画「ザ・ビートルズ:Get Back」の先行特別映像(下の動画)の出来がミュージック・ビデオとしても実に素晴らしかったこともあって大いに期待していたのだが、最新技術を用いて既存の映像や写真に(1995年および今回の)制作過程の映像などを加工合成してそれなりにまとめ上げてはいるものの、多分に感傷的かつ懐古的な要素が大きく、中高年のコアなファン層以外の一般視聴者相手にどれだけ訴求力を持ちうるか、正直疑問でもある。 また、例えば上の動画の36秒目あたりから登場する、丸眼鏡をかけて夕陽を見つめるジョン・レノンに似た人は果たして「そっくりさん」なのだろうか。一瞬、ホームビデオに残されたジョン・レノン本人の姿かとも思ったのだが、画質が余りに綺麗なことからも、おそらく「そっくりさん」を使って新たに撮影したのだろう(それともCGによる合成か、息子のショーンの可能性も?←以下の証言によれば、ジョン・レノンの写真を元に作られた合成映像だそうである。また夕陽は息子のショーン・レノンが撮影したニュージーランドの風景らしい←https://twitter.com/beatles_univ/status/1726525872688255477)。だとしたらそれもまた私の目には「感動」作りのための過度な演出としか思えず、興ざめするしかない。「ザ・ビートルズ:Get Back」|先行特別映像|Disney+ (ディズニープラス)『ザ・ビートルズ:Get Back』未公開映像を含む 6 時間超の貴重なリストア映像によって構成されるオリジナル・ドキュメンタリー・シリーズとして、11 月 25 日(木)・26 日(金)・27 日(土)、3 話連続独占見放題で配信!登録▶︎ http://www.youtube.com/channel/UCm9...www.youtube.com* 最後に、上に改めて掲げた「Now and Then」の裏カヴァーだが、シングル盤レコードの説明文に、中央に置かれた時計に関する偶然とも奇蹟とも言えるエピソードが紹介されているそうである(私はシングル盤の現物を持っていないので、以下はネットにアップされていた他の人の翻訳を参照しつつ原文を要約したものである)。《「Now (and) Then」という文字の書かれたこの時計は、米国人アーティストChris Giffinの手になるもので、1997年に米国ロード・アイランド州プロヴィデンスの店でジョージ・ハリスンが購入し、妻オリヴィアと住んでいた家に何年も保管していたものだった。 最近になってオリヴィアはじっくり見てみようとこの時計を暖炉の飾り棚の上に置いてみた。その時、電話が鳴った。ポール・マッカートニーからだった。彼は「Real Love」や「Free As a Bird」の他に、3つ目の曲があったんだと言った。 オリヴィアが「覚えてるわ」と答えると、ポールは「Now and Then」という曲なんだよと言った。電話を手にして立ち尽くしたまま、彼女は「Now and Then」と書かれた時計を見つめていた。オリヴィアは呆然としてつぶやいた。「きっとジョージがOKと言っているのね」》 →その後、オリヴィア自身によるものと思われるこのエピソードの説明がTwitter(X)にアップされた(以下参照)。 Here’s a surprising magical story about Now and Then.@thebeatles | @johnlennon | @PaulMcCartney | @ringostarrmusic pic.twitter.com/v42YW40R4s— George Harrison (@GeorgeHarrison) November 20, 2023 同じ動画がYouTubeにもアップされている。Here’s a surprising magical story about Now and Then. #NowAndThenwww.youtube.com この時計を用いた裏カヴァーが、「最後の新曲」とデビュー曲とを組み合わせたシングル盤の正式な(表)カヴァーに選ばれなかったことがつくづく残念でならない。