2023年8月27日(日)

 引き続き日本映画の鑑賞記録だが、前回のようにコメントを書く気力もないので、以下は基本的に評点のみとする(と言いながら、結局かなりコメントが残ってしまった)。

 

・「三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜(2020年)」(豊島圭介監督) 3.5点(IMDb 7.3) 日本版DVDで視聴

 巧みな編集が奏功してもいるのだろうが、思いがけず三島由紀夫の新たな面を垣間見せてくれ、その死を改めて「もったいない」と思わせてくれるドキュメンタリー作品。冷笑的な全共闘学生らの不遜な態度にも決して興奮したり激したりせず、鋭い知性とユーモア感覚で次第に若者たちを掌中に収めていく三島という人間の懐の深さには脱帽させられる。

 その半面、若い頃から観念的で唯我独尊的な世界でふんぞり返っていた全共闘運動の敗残者たちが、齢70を過ぎても未だ幼稚で自足的な観念世界の中で自慰にふけっているのを見ると、そこにまたもう一つの劣化し没落した日本の姿を直視せざるをえなくなり、悲しいやら情けないやらである。

 

 

 これはテレビ・ドラマだが、

・「松本清張シリーズ・一年半待て」(1978年。演出:高野喜世志。NHK「土曜ドラマ」枠)

 原作既読。

 香山美子はともかく、藤岡弘のキャスティングはこの作品にはふさわしいとはとても思えない。

 

 

・「つげ義春ワールド ゲンセンカン主人(1993年)」(石井輝男監督) 2.5点(IMDb 7.4) 日本版DVDで視聴

 「李さん一家」、「紅い花」、「ゲンセンカン主人」、「池袋百点会」の4作を実写化(原作既読)。原作には遠く及ばないが、後に同じ石井輝男が撮った「ねじ式」よりはまだ見られる。4作中では「池袋百点会」がベストか。鏑木創による音楽が時に過剰ではあるものの作品の雰囲気を決定づけている。

 

 

・「ルパン三世 カリオストロの城(1979年)」(宮崎駿監督) 4.0点(IMDb 7.6) 日本版DVDで再見

 相変わらずの面白さ。やはり宮崎駿の最高傑作は今作だろう。

 

 

・「その街のこども 劇場版(2010年)」(井上剛監督) 3.0点(IMDb 7.3) 日本版DVDで視聴

 傑作ドラマ「エルピス」で脚本を担当した渡辺あやによる脚本である上、かなり評判も高いので見てみたのだが、もともとテレビ・ドラマとして作られたフォーマットそのままで公開されたのか、わざわざ「劇場版」とうたっている割には、良くも悪くもテレビ・ドラマの域を出ていない。

 

 

・「狙撃(1968年)」(堀川弘通監督) 2.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで視聴

 和製「007」を目指し、スタイリッシュな映像や音楽でそれなりに見せるものの、やはり日本人キャストが日本を舞台として演ずるには自ずと限界がある。殺し屋を演じている森雅之も正直ミス・キャストだろう。怪しいニューギニア・ダンスや、最後のカミュの言葉の引用、銃を作る男の青臭い独白など、意味不明で青臭い部分も奏功せず。

 

 

・「女を忘れろ(1959年)」(舛田利雄監督) 3.0点(IMDb なし、CinemaScape 3.5) 日本版DVDで視聴

   藤原審爾原作(未読)。

 もう少しで佳作になりえた惜しい作品で、箸にも棒にもかからない主題歌や演出や脚本の詰めの甘さ、安部徹などの余りに類型的な悪役ぶりなどが残念な出来で、陰影に富んだ見事な撮影や聖母のような南田洋子の演技などを十全に活かしきれていないのが痛恨である(南田洋子も役柄としては綺麗過ぎるのが難点か)。

 

 

・「人間に賭けるな(1964年)」(前田満州夫監督) 3.5点(IMDb なし、CinemaScape 4.0) 日本版DVDで視聴

 寺内大吉原作(未読)。

 突然テレビで元同僚の歌手が歌いだしたり、ラブホテルで踊りだしたりするおかしな展開もあるが、スタイリッシュな映像やグレゴリオ聖歌やキリスト教彫刻などを配したケレン味のある演出も悪くなく、意外な結末も決まっている。何よりも渡辺美佐子の魅力全開なのが嬉しい。シリアスな役柄にはどうかと思われた藤村有弘も決して悪くない。

 

 

・「競輪上人行状記(1963年)」(西村昭五郎監督) 3.5点(IMDb なし、CinemaScape 4.1) 日本版DVDで再見

 「人間に賭けるな(1964年)」と同じ寺内大吉が原作で(未読)、むしろ今作の派生として「人間に賭けるな」が作られたのではないかと思える内容である。今作にも渡辺美佐子がチョイ役だが最も印象深い人物として登場。

 こちらの方がコメディ色が強く、競輪というものに囚われていく人間の業をより直接に描いている(それでも競輪が出て来るのは映画が始まって30分以上経ってからのことである)。今村昌平の脚本らしく、人間の醜悪さや愚かさをとことんまで描いた作品でもある。

 

 

・「恋は緑の風の中(1974年)」(家城巳代治監督) 2.0点(IMDb 6.4) 日本版DVDで視聴

 性教育映画として作られたものなのか、両親と一人息子が性について実にあっけらかんと語り合う内容で、こんな家族や子供たちが日本に現実に存在したとはとても思えない頭でっかちの作品。アリスの音楽だけは素朴でなかなか良い。

 

 

・「七人の刑事 終着駅の女(1965年)」(若杉光夫監督) 3.5点(IMDb 他なし、映画.com 4.3) 日本版DVDで視聴

 テレビ・ドラマ版は見たことがないが、ドキュメンタリー・タッチでひとつの殺人事件を個性的な刑事たちが地道に捜査していく過程を群像劇のように描いていて秀逸である。無数の乗降客が行き来する上野駅などを舞台に、刑事や容疑者、関係者たちが縦横に行き来する様を手持ちカメラ(?)で追いかけるのも臨場感があって見ものである。

 

 

・「人間狩り(1962年)」(松尾昭典監督) 2.5点(IMDb なし、CinemaScape 3.6) 日本版DVDで視聴

 映像や雰囲気は悪くないのだが、実際にこんなセンチメンタルで文学的な刑事たちがいたら法治国家は成り立たなくなってしまうだろう。犯人を道徳的に赦すのは刑事の務めではなく、殺人を犯してからの15年という歳月を清廉潔白に生きた男に恩赦を与えうるのは裁判所だけである(あるいはより広義には神だけである)ということが根底から否定されているのが気になる。そもそも主人公の若い刑事自身はともかく、周囲の刑事たちまでもが殺人犯に同情して逃がしてやれなどと言うことは現実には決してありえないだろう。

 

 

・「時代屋の女房(1983年)」(森崎東監督) 2.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴

 村松友視原作(未読)で、日本版「ティファニーで朝食を」(ただし映画版ではなく原作寄りで)。

 森崎東という監督とはとことん相性が悪いのだが(何よりも下品なのが嫌である)、今作も映画そのものは低調だった80年代日本映画らしい貧相さとチープさに満ちているものの、しかしどこか完全に嫌いにもなれない作品でもある。

 どうして夏目雅子を1人2役にしたのかが疑問(あれでは同一人物としか思えない)。脚本を担当している荒井晴彦の常套で、学生運動の場面などが挿入されるのは如何にも「リベラル」気取りの凡庸さである。

 

 

・「野獣死すべし 復讐のメカニック(1974年)」(須川栄三監督) 2.0点(IMDb 7.1) インターネットで視聴

 大藪春彦原作(?)。

 ほとんど説明なしで主人公がただ次々と復讐を続けるだけで全体に凡庸。監督は夫人でもある真理明美という女優を使いたかっただけなのではないか。緑魔子が良い。

 

 

・「野獣死すべし(1959年)」(須川栄三監督) 3.0点(IMDb 7.3) 日本版DVDで再見

 大藪春彦原作(既読)。

 初見時よりは面白く見られたが、評点は同じ。後の「蘇える金狼」でも描かれる要素のほとんどは既に今作に見られる。

 

 

・「海街diary(2015年)」(是枝裕和監督) 3.5点(IMDb 7.5) 日本版DVDで再見

 吉田秋生原作(未読)。

 あざとい映像や音楽(人っ子ひとりいない満開の桜並木、マーラーのアダージェットそのままと言っていい甘ったるい音楽)、あざとい設定(古い民家、海辺、花火等々)や演技(特にリリー・フランキーの不自然な関西弁)など、ゲンナリさせられる要素に満ち溢れた作品で、初見時は厳しい評点をつけた覚えがあるのだが、最後で姉たちが末妹のすずに「ここにいても良いんだよ」と言う場面でそうした欠点の数々がなんとなく許せてしまうのも確かである。

 とにかく広瀬すずの透き通った存在感が素晴らしく、厳しさと面倒臭さを併せ持った(それでいて父親と同じく既婚男性と関係してしまう迂闊さもある)長女役の綾瀬はるかや、ノンシャランとした末妹役の夏帆の造型も悪くない(次女役の長澤まさみはいささか作り物っぽく一番浮いている)。

 

 

・「ど根性物語 銭の踊り(1964年)」(市川崑監督) 2.0点(IMDb 6.4) 日本版DVDで視聴

 江利チエミ(20代とまだ若いが既にオバサンぽい)を久々に見られたのは収穫だったが、勝新太郎が意外と生真面目な役どころで、そのせいか話がどこか大人しく面白くない。船越英二や浜村純といった個性的な俳優も今ひとつパッとせず、やはり脚本が弱いのと、映画「東京オリンピック」(1965年公開)の撮影を前に時間がなく急いで撮られたことが影響しているのかも知れない。

 

 

・「骨までしゃぶる(1966年)」(加藤泰監督) 3.5点(IMDb なし、CinemaScape 4.0) 日本版DVDで視聴

 貧窮故に人買いに売られて遊郭で春をひさぐようになる主人公(桜町弘子)が、救世軍の助けを借りて自主廃業を目指し、彼女に惚れた男(夏八木勲、これがデビュー作)と謀って遊郭を脱出する話。いささかご都合主義な展開もあるものの、いくら客を取って稼いでも借金が減らないどころか、かえって増えてしまいかねない詐欺同然の方法で女たちを搾取し続けようとする遊郭の主人たち(三島雅夫、三原葉子)の悪徳ぶりを目の当たりにすると、こうしたハッピー・エンディングも悪くないと思わせられる。ロー・アングルを多用する加藤泰らしい撮影や演出も素晴らしい。

 

 

・「魂萌え!(2006年)」(阪本順治監督) 3.0点(IMDb 7.7) 日本版DVDで視聴(再見?)

 桐野夏生原作(未読)。

 突然の夫の死と、彼が妻に秘していたもうひとつの顔があらわになることで、それまでノホホンと生きて来た中年女性が自我に目覚めて新たな人生を模索する物語。主演の風吹ジュンや、彼女と心理戦を繰り広げる愛人役の三田佳子、カプセル・ホテルの住人で宿泊客からお金をせしめようとする加藤治子など、女優陣の演技は悪くないのだが、作品に合っているとは思えない音楽のしつこい反復や、凡庸でわずらわしいカメラワークなどが鼻につく。最後の「ひまわり」の使用も如何にもで、そのちんまりとしたまとまり具合が惜しまれる。

 

 木下惠介監督作品を何作か。



 

・「夕やけ雲(1956年)」(木下惠介監督) 3.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴

 少年が厳しい現実に次々と直面し、夢を捨てて親の家業である魚屋を切り盛りしていくという地味な内容だが、堅実な演出で見せる。東野英治郎と望月優子の貧乏だが真面目な両親と、「アプレ」らしい奔放さと現実さとを兼ね備えた娘役の久我美子の対称が面白い。チョイ役の山田五十鈴と中村伸郎も良い味を出している。 

 

 

・「今年の恋(1962年)」(木下惠介監督) 2.5点(IMDb 7.1) 日本版DVDで視聴

 とにかくドタバタ慌ただしいコメディで、落ちもありきたりで全体に散漫な印象が強い。岡田茉莉子や吉田輝雄も演技がいささかオーヴァー過ぎ。ロケの風景などには懐かしさを覚えるものの、作品としてはとっちらかっていて今ひとつ。

 岡田茉莉子が父親の円遊に向かって「アホ!」と怒鳴るのは岡田茉莉子という女優のイメージとは不釣り合い。

 

 

・「風花(1959年)」(木下惠介監督) 3.5点(IMDb 7.1) 日本版DVDで視聴

 当時まだ20代後半の岸惠子が、同世代の久我美子や有馬稲子の母親世代を演じていながら実に自然な演技で見せる。大地主の没落と男女の密かな情愛を描いた類型的なメロドラマで大して面白くもないのだが、冒頭から時間を往来する凝った編集なども奏功して、それなりに見られる文芸映画(風)に仕上がっている。

 

 

・「香華 前編・後編(1964年)」(木下惠介監督) 3.5点(IMDb 7.2) 日本版DVDで視聴

 有吉佐和子原作(未読)。

 おのれの欲望に正直に生きる奔放でわがままな母親と、その母親の影響を被って生涯独り身で生きた娘との愛憎半ばする関係を大河小説のように淡々と描いた作品。彼女らの人生に関わる何人かの男たちが2人の生涯に彩りや喜怒哀楽をもたらすが、あくまで物語の中心にいるのは強烈な個性の塊である母と、彼女を反面教師として生きながらも、望んだはずのささやかな家庭の幸福すら得られないまま終わる娘である(娘には異父妹がいるが、彼女は母親と同じく奔放な人生を生きている)。

 岡田茉莉子と乙羽信子がこの母娘を見事に演じ、3時間という長尺を全く飽きさせない。演出は淡々としていて如何にも木下恵介らしく、派手さはないものの、文芸映画らしい品格を保っている。惜しむらくは監督の実弟である木下忠司の音楽のありきたりさで、その反復の多い凡庸な音楽が今作最大の瑕疵だと言って良い程である。

 

 

・「WiLd LIFe(1997年)」(青山真治監督) 2.5点(IMDb 6.2) 日本版DVDで視聴

 黒川博行原作(未読)。

 安っぽいVシネマのような緩い作品。音楽が最悪。

 

 

・「スラバヤ殿下(1955年)」(佐藤武監督) 1.0点(IMDb 7.1) 日本版DVDで視聴

 菊田一夫原作(未読)。

 森繁久彌主演のドタバタ喜劇だが、全く笑えず面白みもない駄作。

 

 片岡千恵蔵版「大菩薩峠」三部作を。

 


 

・「大菩薩峠(1957年)」(内田吐夢監督) 2.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 中里介山原作(未読)。

 机竜之助を演ずるには年寄りすぎる片岡千恵蔵は完全にミス・キャストで、その上滑舌が悪くて台詞がほとんど聞き取れない。話も飛び飛びで分かりづらく、優れた内容でありながら1作目のみで終わってしまった岡本喜八版には大きく劣る。

 

 

・「大菩薩峠・第2部(1958年)」(内田吐夢監督) 2.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 最後の10分まで眠くて仕方なかった。やはり片岡千恵蔵のミス・キャストぶりに違和感が大きく、そんな年寄り浪人に女性たちが次々身を捧げるのも余りに説得力がなく白ける。内容も駆け足過ぎて支離滅裂。

 

 

・「大菩薩峠・完結編(1959年)」(内田吐夢監督) 2.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 映像や美術には見るべきところがあるが、取ってつけたような結末にも明らかなように内容は依然支離滅裂である。

 既に鉄砲や大砲などが普及していた時代なので、大勢の武士が刀や矢だけを用いて机竜之助相手に次々殺されてしまうのにはさすがに無理がある。

 部屋にこもって酒を飲み、女を侍らせてウダウダと日を送りながら、時折衝動的に人を殺したくなって相手構わず辻切りをするだけの机竜之助にはアンチ・ヒーローとしても魅力が感じられない(そのくせ彼に近づく女性たちは例外なくあっさり籠絡されてしまうのだが)。

 

 

 最後はテレビ・ドラマだが、

・「砂の器(1977年)」(富永卓二監督) 3.5点 日本版DVDで再見

 松本清張の原作は既読。

 脚本は女優・演出家でもあり、仲代達矢夫人でもあった隆巴(宮崎恭子)で、原作にも他の映像化作品にもない今西刑事の妻子との関係や、義妹との禁じられた恋などの描写が一風変わっている。読売ジャイアンツが10連覇を果たせず、シーズン終了後に長嶋が引退した当時の話題が作中に頻繁に出て来るのも興味深い。