2023年5月29日(月)

 韓国は昨日の釈迦生誕日(旧暦4月8日)の振替休日。

 

 このところ私事で少々バタついていることもあり、ブログを書くのがますます億劫になってしまっている。

 そこでいつも以上にどうでも良い中年オヤジのつまらない愚痴(?)のようなものを。

 

 当ブログでも何度か採り上げて来たドラマ「孤独のグルメ」だが、ここ韓国のケーブルテレビ局で「日本文化専門チャンネル」と銘打っている「チャンネルJ」(채널J)では、毎日2~3話(あるいは別途スペシャル版)を1日に2~3度繰り返し放送している。

 朝起きてインターネットを渉猟したりメールを書いたりしている間、私は決まってNHKワールド・プレミアムかこの「チャンネルJ」を見るともなしにつけており(ただしインターネットやメールに集中してしまって内容はほとんど頭に入って来ない)、NHK「あさイチ」のテーマに興味が持てない時には(要するにほぼ毎日)、飽くことなく「孤独のグルメ」をつけたままにしている(当然ながら家人などはすっかり呆れている)。

 

《※追記

 ついでに書いておけば、韓国で放送されている「孤独のグルメ」では、お店のメニューや街のあちこちにある看板や表示、駅名などの多くが、最新技術を駆使して元の日本語版の字体に巧みに似せたハングル文字に置き換えられており(メニューの動きに合わせてハングル字幕も自然に動く凝りっぷりである)、台詞が日本語であることを除けば、まるで韓国で撮影されたのではないかと思ってしまうことすらある細かい変更が加えられている。

 中には中国料理店の漢字名を単に韓国語読みに書き換えただけで韓国人でも意味が全く理解出来ないだろうというものもあって、ハングル表記にする意味が分からず「何だかな~」と思ってしまう(もっとも韓国では中国映画の題名などでも漢字表記をそのままハングル表記したものが多く、漢字語表現(と思われるもの)ならば特に意味が分からなくても余り気にならないのかも知れない)。

 せっかく外国のドラマを見ているのに街なかの表示までハングルにしてしまうのは不自然極まりないと、我が家の家人などはこうした変更に批判的なのだが、メニューに書かれている料理名を細かく知りたいマニアなどには意外と受けているのかも知れない。ひねくれ者の私などは、字幕製作者の「こんなことも出来るぞ」という単なる自己満足なのではないかと意地悪く考えているのだが・・・・・・。

 ちなみに上の3枚の画像は韓国の某ブログから勝手に拝借したものである。》

 追記はここで終わり

 

 

 そこで先日、韓国が舞台となっているシーズン7の第9話と第10話の何(十?)回目かの再視聴をすることになったのだが(今回は珍しくそれなりに内容も追いながら見ていた)、「輸入雑貨商」を生業(なりわい)として海外取引先と頻繁に連絡をとったり業務の関係で海外出張に赴いたりすることも多く、過去にパリに住んでいたことさえあるという主人公・井之頭五郎の言動を改めて見直してみると、奇妙な「既視感」(déjà vu)に襲われたのである。

 

 パリ時代に関しては、シーズン1の第4話(千葉県浦安市の静岡おでん)でも、当時付き合っていた女優の小雪(これを「さゆき」と読ませるセンスはいわゆる「キラキラネーム」と同じくらい痛々しい)という女性のことを回想する場面があり、パリにはとても見えないコテコテ日本的なマンションが周囲に建ち並ぶビルの屋上で(★)それとなく結婚を迫ってくる小雪に対し、五郎は「そんなこと、出来る訳ないだろ」と全く理由にならない理由であっさり拒絶している(この回想シーンはSeason6の第9話(東京都品川区旗の台のサルスエラとイカ墨パエリア)にも再登場している。下の画像は原作漫画の小雪登場シーン)。

《★もっともこの回想シーンは白黒画面のため映像が不鮮明で、ビルの屋上からは遠くに海らしきものも見えているようで、また、ふたりの会話の背後には波音のような音も聞こえ、パリではなく日本の海外沿い(このエピソードの舞台である千葉県浦安市?)という設定なのかも知れない。それにしてはふたりの台詞が如何にも此処はパリですというような内容なのだが・・・・・・。》

 

 

 またSeason3の第9話(練馬区小竹向原のローストポークサンドイッチとサルシッチャ)では、練馬区小竹向原にある某パーラーの「キッシュ」(Quiche。下の画像)を目にして、「キッシュか、パリでよく食べたなあ」と追懐する場面があり、その食べごたえのあるキッシュを口にして「おお、かなりパリ」とつぶやいてもいる。

 

 

 当ブログでも何回か書いたことがあるのだが、上記の通り「輸入雑貨商」なる海外とも関係の深い職業ながら(さらにあれだけ食べることへの執着/関心が強いにもかかわらず)、この五郎という人物、Season5の第3話(杉並区西荻窪のラム肉のハンバーグと野菜のクスクス)に登場するモロッコ料理店に行っても、そこで供されるクスクスやフムス、ブリックやハリラ・スープ、砂糖を入れて飲む甘いミント・ティーなど、パリに住んだことがあるならまず間違いなく頻繁に接する機会があっただろう北アフリカ料理に全く通じておらず、マグレブ地域における民族/言語名である「ベルベル」や国名「モロッコ」の形容詞である「Moroccan」という言葉(英語)も初めて聞いたことを告白している(ちなみに仏語でモロッコは「マロック」(Maroc)で、形容詞も「マロカン=marocain」となるが、モロカン/モロッカンとマロカンでは音が似ているから、英語式表現に馴染みがなくとも当然想像はつくはずである)。

 

 

 上は野菜のクスクスとパン・セット(右=2枚目の写真右にある小皿がフムス)

 

 上は中に半熟の卵が入った表面サクサクのブリックとミント・ティー

 

 そもそもモロッコ料理店に行って、ラム肉とは言えわざわざ「ハンバーグ」(下の画像)などという料理を注文してしまう選択眼(?)が私には全く理解出来ないのだが、加えて砂糖入りのミント・ティーを口にして「ミントに砂糖。グンバツ(抜群)」などという古臭いダジャレ(?)を口にする言語センスもやはり私からすれば「お寒い」限りである(他にも50代以上の中高年でなければ分からないようなオヤジギャグを連発し、自分のことを「ボクちゃん」と呼んだり「期待もデカちゃんだ」などというふざけた言い方をするなど、痛々しい場面は枚挙に遑がない)。

 

 

 ちなみに原作漫画の第2巻最終話(第13話)には「フランス・パリのアルジェリア料理」というエピソードがあり(ただし手元にはないので他のブログなどを参照し、画像も拝借しました)、パリに出張することになった五郎がかつて上記の小雪と共に訪れたアルジェリア料理店を再訪する設定になっており、ドラマ版ほどの(かつてパリに住んでいたことの)不自然さは感じられないものの、在住歴ありにしては五郎のフランス語が実にお粗末そうなのと(下の画像参照。そのせいか仏語同様に拙そうな英語も使っているのだが、それにしても「ザッツ(That's? That?)」はないでしょう、「ザッツ」は・・・・・・ ★2)、これまたアルジェリア料理店でわざわざトリッパ料理を注文するセンスがやはり私には微塵も理解出来ない(「トリッパ」は牛などの胃を意味するイタリア語の「trippa」だが、仏語なら「トリプ(tripes)」である)。

《★2 その後原作漫画を参照する機会があったが、五郎は他人の食べている料理を指して「ザッツ」や「ザッツ レッド スープ」と言って注文する場面があるので、この「ザッツ」はどうやら「That」のことらしい(なぜザッツ?)。

 また、五郎は Bonjour、Merci、Oui、S'il-vous plaît の他は、料理名と「ワン(one)」という言葉しか発しておらず(「クスクス ワン」、「ワン シシカバブー」←店員が理解出来ないため、これがコテコテの日本式発音であることに気づいてか、「ケバブ」と言い直している)、パリに住んでいたと言っても仏語はほとんど話せないようである。

 さらに注文と注文の合間に「エーン」という言葉を何度か挟んでいるのだが、これはどうやら「And」のことらしい。別の箇所ではちゃんと「アンド」と言っているのだが、気取った発音をしているつもりなのだろうか。》

 

(ちなみにこの部分には日本の書籍によくある残念な綴りの間違いが見られる。Riz Perfume→Riz parfumé=香料で香りのつけられたお米のこと)

 

 ドラマの他のエピソードでも、五郎くらいのグルメ(?)であれば当然知っているだろう基本的な海外の料理(例を挙げれば、ギリシャ料理のムサカやドルマーデス(さらにタラモやピタパンも)、ドイツ料理のアイスバインなど)をよく知らなかったり、言葉にしても、例えばSeason2の第2話(中央区日本橋人形町の黒天丼)などに名前だけ登場する友人「Josephine/Joséphine」のことを、「ジョゼフィーヌ」ではなく「ジョセフィーヌ」と発音するなど、語学力もなんとも怪しいと言うしかない(あえて英語風?に発音しているのか、それとも「ベッド(bed)」や「バッグ(bag)」を「ベット」、「バック」などと書いたり言ったりしてしまう中高年と同じか)。
 ちなみにこの「ジョセフィーヌ」なる女性、ドラマ上ではフィンランド人という設定らしいのだが、フィンランドで「Josephine/Joséphine」に相当する名前は「Josefiina」で、「ヨゼフィーナ」と発音するらしい。つまりフィンランド語式という訳でもなさそうである。

 

 

 そもそもドラマでの井之頭五郎のイメージは、最初のうちこそ、フランスの漫画「バンド・デシネ」の影響を多大に受けた谷口ジローらしい原作同様、ハード・ボイルド風のニヒルな雰囲気を漂わせているのだが(上の画像はハードボイルド小説に出てくる探偵のような勇ましい姿)、ドラマがシリーズ化されてシーズンが進んでいくつれて、上記のような「お寒い」オヤジギャグを連発し、食事マナーも決して良いとは言えない典型的な日本の中年男へと変貌していっている(やたらとズルズル音を立ててスパゲッティやラーメンを食べたり飲み物を啜ったりするのもそうだが、ご飯の上にやたらと汁物やおかずをかけたり載せたりして食べる「猫まんま」や「ぶっかけご飯」好きなのも、どこか汚らしくて個人的には「引いて」しまう)。

 

 それには視聴者の多くがおそらく私のようなコテコテの中年オヤジたちであることも影響しているだろうし、またドラマ版「井之頭五郎」の造型に際して、毎回ドラマの最後に登場する原作者・久住昌之(くすみ・まさゆき)という人の「人となり」が反映されていることも大きいだろう。ドラマが進行して(わずか2巻しか存在しない)原作を離れていくにつれて、井之頭五郎は徐々に「久住」五郎となり、やがては「久住昌之」そのものへと変わりつつあると言えるのである(←ドラマ版のナレーションを真似た訳ではありません)。

 原作通りのニヒルな人物像では視聴者の大半を占めているだろう中高年のオッサンたちから余りに乖離してしまうからなのか、より視聴者目線に立った人物造型を図ったとも言えるものの、ならば職業も(超ドメスティックな原作者とは似ても似つかない)海外生活経験のある輸入雑貨商などにしなければ良かったと思うのだが、上記の通り番組制作の進行につれてキャラクターが少しずつ変わって行った結果なのだろうから、もはや「後の祭り」なのだろう。

 

 

 さて、ようやくここで長い前置きを終えて本題に入るが、今回見直すことになった韓国出張編(Season7の第9、10話)における五郎の(超ドメスティックな中年オヤジらしいお寒い)言動を以下に簡単に紹介しておくことにする。

 

 

 まずは第9話(韓国全州の納豆チゲとセルフビビンパ)の冒頭で、通りすがりの韓国人のおばさんに道を尋ねる場面があるのだが、五郎は住所が書かれていると思しきメモを相手に示しながら、そこそこ流暢そうな発音で「Excuse me. I want to go here.」と口にしている。

 「I want to go here.」という言い方は文法的には決して間違いではなさそうなのだが、まさに「ここに行きたいんだけど」という日本語表現のド直訳と言って良いもので、せめて「I want to」を丁寧な「I'd like to」にするとか、「here」を「この住所」とか「この場所」などと言い換えることは出来なかったのだろうかと思ってしまう。私ならば「(Could you) please tell me how to get to this address(from here)?」のような言い方をしたところだろう。

 あるいはここもまた、英語が余り得意ではない少なからぬ視聴者たち(あるいはドラマの中の会話相手である韓国人のオバサン)の目線に合わせたということなのだろうか。

 

 

 次いで全州(チョンジュ)のとある庶民的な食堂に入った五郎は、料理を注文する際に店員に向かって以下のような台詞を口にしている(ちなみにカタカナの韓国語を除いて基本的にはすべて日本語である)。

 上の写真にある通り壁のメニューを指さしながら、

 「これをお願いします。これです。これです。お願いします。カムサハムニダ~」

 慣れない(?)海外のせいなのか、五郎は同じ言葉を何度も繰り返すのが癖のようになっていて(以下の引用例も参照のこと)、そもそも相手が理解出来ない日本語を何度繰り返したところで通ずるはずがないのだが、ジェスチャーや表情(そして無意味な微笑)を交えながら執拗に同じ言葉を繰り返すのである。

 

 

 ちなみに五郎が注文したものは「家庭式白飯(가정식백반)」と称するもので(ここでの「白飯」は「定食」と同義で、おそらく日替わりメニュー)、たまたまこの日は以下の納豆チゲとビビンパが供されただけで、次回も同じ料理が出て来るとは限らない(むしろ別物が出て来ると考えた方が良いだろう)。

 

 

 また、最後の「ぶらっとQUSUMI」で原作者の久住昌之も似たような言い方を口にしているのだが(上の画像の字幕にある「のっけてくれちゃうスムニダ」というもので、つまりドラマ中の台詞もおそらく久住氏のアイディアなのだろう)、昔懐かしいタモリの「4ヶ国語マージャン」などとは到底比べ物にならないお粗末さの、「全然ケンチャナヨじゃないぞスムニダ」などという日本語混じりのデタラメ極まりない似非韓国語を披露していて、多少なりとも韓国語を齧ったことのある人間からすれば唖然とさせられるしかない代物である(見方によっては韓国や韓国語に対する侮蔑や偏見すら感じてしまう程である)。

 

 

 しかもこの回で五郎は、チョングクチャン/チョングッチャン(청국장=淸麴醬)という、外観や臭いが納豆に似た(しかし似て非なる)大豆味噌を用いたチゲと共に供されるビビンパ(ビビムパプ=비빔밥。発音例→https://ja.forvo.com/word/%EB%B9%84%EB%B9%94%EB%B0%A5/#ko)を「おかわり」するという実につまらない注文をしてもいて、一応グルメ番組なのだからひとつでも多くの料理を紹介するべきではないかと考える私としては、Season3の第3話(静岡県賀茂郡河津町の生ワサビ付わさび丼)でも、そうでなくても味が容易に想像出来てしまう「わさび丼」のようなものを五郎が何の工夫もなく「おかわり」した時と同じく、「他の料理を注文しろよ」と、思わずテレビ画面に向かって毒づきたくなってしまったものである。

 

 

 しかもこの五郎、いつかまたこの場所に来たら再度この納豆汁&ビビンパを頼んで頂点を極めたいなどという戯言(たわごと)を口にするのだが、600円(6,000ウォン)という安い値段からも分かる通り、この店のビビンパは雑多な具材を適当に放り込んでぐちゃぐちゃ混ぜて食べるだけの、何の飾るところもない超・庶民的な料理であって、こんなものに「頂点」も何もあるものかと、皮肉のひとつでも言いたくなってしまう。

 そもそもせっかくの海外出張編にもかかわらず、なぜ韓国のどこにでも腐るほど遍在しているような超・庶民的な店を選んだのかと、韓国人の家人などは大層不満のようである(次の豚カルビにしても同様で、撮影の都合なども影響してはいるだろうものの、私も初見時にもう少しまともな店にすることは出来なかったのかと思ったものである)。

 

 

 続く第10話(韓国ソウル特別市の骨付き豚カルビとおかずの群れ)は首都ソウルの極めて庶民的な界隈が舞台で、朝の出勤時間帯から通りに店を出している屋台のおでん屋で、五郎が店員相手に以下の会話を交わす場面から始まっている(ここもカタカタ以外の台詞はすべて日本語である)。

 (五郎が真っ赤な料理を指し示しながら)

 「トッポギ? トッポギ? あ、トッポギください」

 (次いでその横の揚げ物を指差して)  

 「これ天ぷら? 天ぷら? あ、天ぷら? じゃ、これとこれとこれをください」

 というように、ここでも五郎は同じ言葉を何度もしつこく繰り返している。

 ちなみに上の赤い食べ物は正確には「トッポギ」ではなく「떡볶이=トッポッキ/トクポッキ」で(発音例→https://ja.forvo.com/word/%EB%96%A1%EB%B3%B6%EC%9D%B4/#ko ご存じの方も多いだろうが、韓国風の細長いお餅や練り物などを甘辛ソースでからめた軽食)、日本ではよく使われるらしい(しかし明らかな間違いでもある)「トッポギ」という言い方でも屋台のおばさんが問題なく理解してくれているのは、単に(日本人)観光客慣れしているからだろう(一方の「天ぷら」という日本語は欧米などと同じく韓国でもそのまま通じるかも知れないが、一般的には「ティギム=튀김(揚げ物)」と称する)。

 

 

 次いでメインである豚カルビ屋での注文のやり取りは以下の通りである。

 

 (上の写真のように隣の客たちの食べているものを指差しながら)

 五郎「すみません。えっと、あの~。あれを、ください。あれ」

 店員「(韓国語で)ああ、豚カルビ」

 五郎「あ、カルビ。あ、そうそう。カルビ。あれ。あれを、いち。いち。いち」(と言いながら人差し指で「1」を示す)

 店員(やはり人差し指で「1」を示しながら韓国語で)「イリンブン(一人前)?」

 五郎「イリンブン。イリンブン」(と韓国語を自動反復)

 

 

 続いて今度はお椀から何かを食べるジェスチャーをしながら、

 「え~、あと、え~、ライス。ライス。ライス。ライス」と、これまた意味もなく言葉を執拗に繰り返している。

 (隣の客が店員に韓国語で)「豚肉1人前とご飯ひとつらしいよ」→店員「ああ、そうか。(五郎に)ええ、分かりました(←すべて韓国語)」

 すると五郎は店員に注文を伝えてくれた隣の客たちに向かって、

 

 

 「あ~、すいません、どうも。カムサハムニダ。(元のように食事してくださいという意味で)あ、食べて。食べて」←念のためだが、ここでも「カムサハムニダ」以外はすべて日本語である。

 そして五郎の滑稽で卑屈な姿を目にした隣の客たちは、思わず「面白い日本人だな」と言って苦笑(憫笑? 嘲笑?)するのである。ああ、情けない。

 

 

 さらに途中でご飯が足りなくなった五郎は、店員に向かって以下のようにおかわりを注文する。当然台詞は日本語(と実に拙い英語らしきもの)である。

 「すいません。すいません。えっとー、ごはん半分。あの~、ライス。ハーフ。ハーフ。ハーフ。OK?」

 一応「輸入雑貨商」なんだから、少しは(単語の羅列だけではない)英語くらい使えよ、とでも言いたくなる台詞の連続である。

 

 

 そして隣の客たちの食べているものを再び指差しながら、

 五郎「あと、え~、あれ。あれ」

 店員「(韓国語で)ああ、チャドルバギ?」(「チャドルバギ」とは牛のアバラ部分の霜降り肉のこと)

 五郎「チャドルバギ、ワン(と言っても犬の鳴き声ではなく英語の「one」のことらしい)」

 店員「(韓国語で)パプ パニラン チャドルバギ?」(半ライスにチャドルバギ?)

 五郎「パプ パニラン パドルバギ ワン」(ただ店員の言葉を適当に反復しているだけでチャドルバギの発音も間違っている)

 店員「(韓国語で)分かりました」

 

 

 以上が、パリ在住経験もあって海外との取引も多い(らしい)輸入雑貨商とはとても思えない、超ドメスティックな中年日本人オヤジ然とした井之頭五郎の、実にお寒い語学力と卑屈な言動の数々である。改めて、なんとも情けない・・・・・・。

 

 

 そして記事の冒頭に記した「奇妙な既視感(déjà vu)」というのは、当ブログでも紹介したことのあるBS朝日のグルメ番組「迷宮グルメ 異郷の駅前食堂」(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12724794120.html 公式サイト→https://www.bs-asahi.co.jp/ikyou_ekimae/)の中で、昨年10月に前任者の「ヒロシ」から交代して現在まで案内人を務めている「スギちゃん」の言動が、まさにこの井之頭五郎そっくりだからなのである(「井之頭五郎の中味は実はスギちゃん」説)。

 

 

 この「迷宮グルメ 異郷の駅前食堂」でスギちゃんが口にする現地語と言えば、ほぼ「こんにちは」と「ありがとう」の2種類のみで、あとは基本的にジェスチャー交じりで相手に全く通じない日本語を何度も繰り返すだけである(そしてたまに拙劣な日本式ベタベタ英語を用いるのだが、文法も何もあったものではないひどい代物ではあるものの、使用頻度はむしろ「国際ビジネスマン」の井之頭五郎より遙かに多いかも知れない)。

 つまりコテコテの日本語発音で「アンニョ(ン)ハセヨ」と「カムサハムニダ」しか口にせず(出来ず)、あとは身振り手振りで何度も同じ日本語を繰り返すだけの井之頭五郎はまさにこのスギちゃんそのもので(原作者の久住氏風に言うなら「クリソツ」)、「輸入雑貨商」という大層な肩書きを持ちながら、あんたはこれまで一体何をやって来たんだ? と思わず問いかけたくなるような「トホホ」な体たらくなのである。

 


 スギちゃんはお笑い芸人だからそれでも良いだろう(というより、彼はおのれの立ち位置をしっかり理解した上で、あえて英語ひとつ出来ないドメスティックな中年オヤジを見事に演じているとさえ言える)。

 一方の井之頭五郎は、如何にも海外に通じた「デキる」輸入雑貨商というお洒落(久住氏風に言うなら「シャレオツ」)なイメージを振りまきながら、実際には英語ひとつろくにこなすことが出来ず、外国人の前ではヘラヘラ/オロオロして無意味な笑顔を浮かべて日本語を繰り返すだけの、「痛い中年日本人オヤジ」でしかない(もっとも時々描かれる商売の場面を見ても、原作者やもスタッフが輸入雑貨賞の実態をよく知らないからなのか、仕事が「デキる」ようにはとても思えないのだが・・・・・・。特に配信ドラマ版「美味しいけどホロ苦い…井之頭五郎の災難」での言動を見ると、元々「ブラック」な井之頭五郎を意図して作られた内容らしいこともあって、こんな人間とは間違っても一緒に仕事をしたくないものだと思わせる程である)。

 そのくせひとたび一人飯で自分だけの閉ざされた世界に埋没する機会が訪れるや、周囲の世界や人間を「中二病」よろしく斜(はす)に眺めては皮肉めいた台詞を口にし、食べ物に関するゴタクをあれこれ並べ立てては自分のメニュー選びのセンスに自己満足してひとり悦に入っている有り様なのである(そしてそれはそのまま原作者の久住昌之という原作者の「人となり」を反映したものだろうということが分かっても来る)。まったく「やれやれ」と言うしかない。

 

 

 それに比べて上のスギちゃんの、少しも気負うところのない融通無礙で無邪気な言動や、薄汚い食堂で何を出されても真剣にその味と向き合い(よくあるグルメ番組などと違って、彼は料理を口にするかしないかのうちにあらかじめ準備された感想文を述べたりせず、何度も咀嚼を繰り返してはその味や香りなどを真面目に探り続けるのである)、じっくり吟味した上で自分の意見を述べるのが常で、たとえそれが「うまい、おいしい」という身も蓋もない直截的な表現でしかないとしても、その向こうには「スギちゃん」という人物の真摯さがありありと垣間見えるのである。還暦を過ぎてなお「中二病」であり続け、ひとりニヤニヤと自足しているだけの井之頭五郎とは何という違いだろうか。

 

 

 という訳で、私が愛好するテレビ番組のひとつだった「孤独のグルメ」は、今や日々私の心からすっかり遠ざかり、毎回のように井之頭五郎の言動にいちいちツッコミを入れては(幸か不幸かツッコミどころには事欠かない☆)、その向こうに透けて見える原作者・久住昌之という人への違和感や反撥を覚えつつ、苦々しく眺める対象に成り果ててしまった。

《☆ 例えば井之頭五郎には他人の言動を皮肉な目で見ては小馬鹿にするように「フン」と言ったり、相手の言葉をそのままオウム返しに訊き返したりする癖があるのだが、しょっちゅう見せつけられるとひどくイライラさせられ、映画「パルプ・フィクション」の有名なビッグ・カフナ・バーガーの場面のように(残酷なシーンがあるので閲覧要注意→☆)、「あと一度でもフンと言ったら/オウム返ししたら・・・・・・」と言いながら(想像上の)銃口を向けたくてたまらなくなる。

 ☆☆ショート・ヴァージョン https://www.youtube.com/watch?v=pL3qYm_Q9vg

 ロング・ヴァージョン https://www.youtube.com/watch?v=hLXns1U9I7k

 

 ついでながら、番組最後の「ぶらっとQUSUMI」における原作者・久住氏による料理のチョイスも、かなりの呑兵衛(のんべえ)だからか、あるいは「シャレオツ」なギョーカイ人だからか、往々にして私には理解不能なものが多く(良くも悪くもこの人らしいひねくれ根性も見て取れる)、しつこく繰り返される飲酒に対する弁解めいたコメントと共に、イライラさせられることが多い。

 もっともそこには上の写真のように私自身に「クリソツ」なハゲ頭を何百万、何千万という視聴者に恥ずかしげもなく晒して余裕綽々たるこの人物に対する「近親憎悪」や「嫉妬」と、何よりも「孤独のグルメ」好きの中年オヤジたちの間で「一世を風靡している」と言っていい久住昌之氏とは対照的に、井之頭五郎と比べても決して劣らない「中二病」患者で、定職すら持たず日々家に引きこもってウダウダ余生を無駄に費消しているだけの自分自身への深い絶望や自己嫌悪があるに違いないのだが。嗚呼・・・・・・。

 

 しかし何の生産性もないそんな行為に残りの人生の貴重な時間を無駄に費やすくらいならば、いっそ「孤独のグルメ」などという番組は金輪際見ないことにして、これまた何の生産性はないにせよ、読書や映画鑑賞などに時間を使った方が、精神衛生的にも多少はマシであるに違いない。

 明日からはインターネットやメールをする間もテレビは消して、クラシック音楽や大好きなザ・ビートルズの曲でもBGMにしながら、朝の穏やかな時間を平和に過ごしたいと思う。

 さらば、「孤独のグルメ」。さらば、井之頭五郎。