「無い袖は振れない」とあるので、今さらジタバタしても仕方ないと思うけれども、米価が急騰し、昨年の二倍になるに及んでニュースはこの話題で花盛りである。が、実態は玉突きゲームのようなものだったと思う。昨年は作柄も平年並みで、酷暑で品質が下がったことを除けば、これといって不作でもなかったことから、これで米価が上がるのは作為があると見るのが一つの見方である。

 今年と去年以前が大きく違うところは、今年は米の先物取引が認可されたことで、これは米価決定の客観的な基準を求めていた米農家の意向に沿う。取引に供せられる数量は大きくなく、それだけなら影響はそう大きなものではなかっただろう。

 計算が狂い始めたのは、この相場が概して高かったことで、相場を見たJAが農家への払い渡し金を引き上げたことである。JAは米流通のおよそ8割を占め、その動向は価格に大きな影響を及ぼす。市場を参考に渡金を決めるはずが競い合いのようになってしまい、相場もJAもどんどん価格を上げていったことがある。

 流通それ自体の仕組みにも問題があった。相場で落札された米はその場で引き渡されるのではなく、落札票を提示して現物を受け取るまでにはタイムラグがある。その間により高い金額を提示されれば、相場とは関係なく引き渡し前に売却されてしまうのである。種類売買の落札時点で商品の特定が行われない、あるいは特定の効力が非常に弱い問題があった。

 とどめは価格が上がり始めたことを見て、消費者が買い溜めに走ったことがある。普段10kgしか買わない顧客が20kg、30kgと買ったことで、小売店の在庫はあっという間に底を付き、これも価格上昇に寄与したのである。あるいは最大の原因かもしれない。米の生産はかなり管理されており、つい先年まで行われていた減反政策も相まって、消費量とほぼイーブンで生産されていた。

 ついでにもう一つ問題を指摘すれば、日本に限らないが、長く続く悪政と不公平な税制のせいで、この国では現金が一部に滞留していることがある。これらは投機先を求めて常に動いており、米に限らないが儲かりそうな所に投機が集中することがある。これはネットを見ると分かる。関心を払われないようなものの値段はほとんど上がっていないからだ。

 さらにもう一つ指摘できることがある。こういう問題が起きることについては、影響力のある企業や官庁のトップや関係者にそれほどの頭脳の持ち主がいないことである。JAと投機の関係については、見識のある人間なら予測できることであった。米農家の収益を改善するために引き上げを目論むにしても、堂島市場がそれなりの値を示していたからといって、対抗して値上げしろというのは阿呆のすることである。

 目論見があったとして、それが制御されたものならば、作柄それ自体は平年並みだったのだから、収益を改善しつつ、悪影響は与えずに済んだ。が、途中から事態は制御不能になり、備蓄米の放出も当初の目論見がそのようなものであったことから、ブレーキは元々壊れており、首相がいくら掛け声を上げても、農水省はサボタージュして動かないのである。当初の計画が壊れるからだが、そもそも対処する頭脳が無いのだろう。

 ここでバカとか阿呆とか書くのは、特定個人のそれを意味しない。そもそも与党の自民党は自由党と民主党が社会党に負けて結党した始まり以来、選挙ではただの一度も有権者の50%以上の支持を得たことがないのである。概ね3割を切るくらいで、自民党の政治家は選挙になれば投票率が下がることを神頼みし、選挙でない時は六本木ヒルズの友だちとドバイで豪遊して政治の仕方を忘れる与太者揃いである。

 きちんと民意を得た政治家なら、米農家を救済しつつ、米価を抑えて消費者に打撃を与えないような高度な政策は実行し得た。得ていないので、彼らのやり方はいつも物陰でコソコソするようなものであり、事態の急変に対処できず、無責任でツケを国民に廻すようないいかげんなものになるのである。一言で言えば、バブル世代の世間知らず、気宇だけは大きい政治家や官僚が身の丈に合わない策謀を弄して失敗した。これが現状を説明する説明の一つではなかろうか。

 いずれにしろ、ないものはしょうがない。まだ餓死者が出るような様子ではないので、秋までは小麦粉やパスタなど、投機家に注目されず、値上げの影響の小さい食材の比率を高くするか、外食を控えて家庭菜園などするしか、自衛策はないのだろう。
 

 先にストーカー男と乙女の比喩でウクライナ戦争を論じたが、トランプ政権は停戦につき従来とは異なるアプローチを取っている。バイデン政権は加勢であった。が、トランプ氏の「ディール」は一部には見るべき所もあるものの、政権の知識のなさ、トランプ氏自身の戦略眼の欠如により、進展は捗々しくないものになっている。

 先の検討で戦争を止揚するにはウクライナを援助するのみならず、ロシアの視線を「逸らす」ことが必要だと書いたが、現在までの様子を見るに、トランプ氏はここでも大きな間違いを犯しているといえるだろう。


1.求めるべきは停戦ではなく完全撤退

 トランプ氏は鉱産取引を軸に現在の戦線での停戦を呼び掛けているが、ロシア資源へのアクセスの条件に停戦仲介を求めたのはロシア側である。

 ここで先の検討を思い返すと、この戦争はロシアにとっても「バツの悪いもの」という認識である。ウクライナと戦闘しつつ資源開発するというモデルはロシアにとっても具合悪く、加えて経済制裁下では産出した資源は輸出できず、開発は進まない可能性がある。ロシアが戦争終結を求めるのは彼らとしては当然のことである。

 「視線を逸らす」アプローチでは、そもそもロシアがウクライナに固執するのは軍を侵攻させ、該国の一部を占拠しているからである。それに侵攻自体国際法違反の侵略戦争で、ポツダム宣言は旧ソ連も批准していたことから、これはロシアでも言い訳できないものである。これを除去するには、ウクライナとの関わりを完全に断つ以外にない。

 なので、求めるべきは停戦ではなく完全撤退であった。国際法上認められた2014年の線まで退らせれば、ロシアとウクライナの関わりはほぼなくなり、ウクライナに対するロシアの執着も氷解するものである。それ以外の立場では戦争の解決はまず不可能だろう。

 ロシアの視線を逸らす方策としては、ウクライナからなるべく遠い地域、東シベリアやアラスカが適当な場所である。地球温暖化の影響で北極海航路が取り沙汰されているが、露米合同によるアラスカ・東ユーラシア開発は戦争を終結させるのみならず、カナダやグリーンランドにおけるアメリカの問題をも解決するものである。

 現在のトランプ氏のアプローチはウクライナに割譲や政治的妥協を強いるものであるが、的外れである。ロシアに報奨を与えるのではなく、ロシアがウクライナに興味を失うよう仕向けることが必要で、現在までの所、それができる資源と実力を持つのはアメリカ合衆国だけである。


2.国際法主体としてのウクライナの主権を認める必要

 トランプ政権の現在のアプローチはウクライナの現政権に内政干渉し、不利な取引を押しつけ、意に沿わない大統領の解任を画策するなど一国に対するにひどく敬意を欠いたものである。そしてこれはウクライナの立場を弱くすると同時に、合衆国の交渉力をも低下させている。

 「視線を逸らす」アプローチでは、こういう交渉方法は推奨できない。むしろウクライナに完全な主権を認め、それに立脚して交渉することが最も立場の強い方法である。領土や国民、主権については一歩も譲らず、両国を対等な国家として遇する姿勢を崩さないことが大事である。

 それにより両国の境界が自ずと明らかになり、ロシアは戦争を放棄するという選択が可能になる。加えて終戦を条件に先に挙げた辺境開発などを報奨として与え、制裁を解除すれば、ロシアは自尊心を傷つけられることなく、戦域からの撤退が可能になるだろう。

 ウクライナの主権については、手を加える必要はない。手を加えれば必ずロシアとの問題になり、それで戦争が長引くことはあっても、終わることはないからである。交渉においては、2014年の主権を堅持して譲らないことが最も立場の強い交渉方法である。

 ウクライナのNATO加盟については、現時点では手を付ける必要がないように見える。NATOは元々対ソ戦略のための軍事同盟であり、組み入れた時点で対決構造が生じることから、これは時期を見てで良いものである。


3.財政破綻、賠償問題、縁故政治の計画的解体

 戦争が終わっても問題が残ることとして、戦役中のロシアは戦時ケインズ経済で軍需産業以外の産業は機能停止し、軍需産業も終戦により破綻することが予想されることである。2024年のロシアの経済成長率は4.1%であるが、全て官需であり、実質的にはマイナスである。石油価格も下落していることを見れば、現在のロシアは官需が貯蓄を収奪する共食い状態にある。軍事的には強大に見えるが、実際には空洞化が進んでいる。戦争の終結による財政破綻と社会の不安定化が為政者の最も恐れることである。

 ウクライナにしても、戦争による被害は1兆ドルに達し、これは凍結したロシアの在外資産3千億ドルで穴埋めしてもなお不足するものである。またこの凍結資産は戦費への充当が予定されており、復興に充てられる金額はさらに少ない。終戦してもロシアが賠償に応じられる状態でないことを見れば、これも手当が必要なものである。

 ただ、両国とも経済規模はEUやアメリカほど大きくなく、これらの国にとっては復興資金の確保はそう難しくないものである。加えてウクライナはEUの指導により改革が進んでいる。移民を入れるなど環境の変化はあるだろうが、ロシアよりは平易な相手である。

 ロシアの場合は、オリガルヒと権威主義的政治がやはり足枷となる。エリツィン時代においても、これらの存在により核兵器の廃絶や民主化など西側諸国が画策した方策はうまく行かないものであったし、整った計画もなかった。朽ちた原子力潜水艦や核ミサイルに怖気を振るった各国はそれらの始末に手一杯で、援助の多くが不正に蓄財されたこと、核技術者が多く流出して核保有国が急増したことなどに対する手当は不十分であった。そして援助の停滞はプーチンの台頭を促した。

 これはやっぱり長期的な計画が必要なものだろう。ロシアに民主主義に適合するポテンシャルがあることは、旧ソ連であるウクライナがほぼ完全に民主化したことを見れば明らかであり、計画さえ良ければロシアをより良い国にするチャンスはある。ソ連崩壊後の失敗を繰り返してはならない。

 手始めには、国内格差の是正から入るのが良いと思われる。援助の条件とすれば良く、都市部と辺境部で60倍もの所得格差があることが、今でもSVOへの志願者が絶えず、侵略を続ける原動力になっていることを見れば、再配分メカニズムをきちんと機能させることが同国の侵略傾向を改善し、政治経済の立て直しにも助けとなることは明らかなように見える。それに問題の地域は人口が少ない。開拓には大量の植民が必要なことを見れば、戦争なんぞやっている余裕はないことは明らかである。


4.まとめ

 少なくとも上述の三つの柱を基礎に交渉を行えば、トランプといえども成功したのではないかと思えるが、そうならなかったことは見ての通りである。きちんと安全率を取り、ポイントを明確にして交渉すれば、イデオロギーの相違は問題にならず、プーチンとゼレンスキー双方に納得の行く解決はできた可能性があるが、特使に人を得ていなかったし、無知につけ込まれてロシアに操られているような様子では戦争の解決などとうていできるものではなかっただろう。

 伝え聞くところによれば、ウクライナ戦争においては国務長官のルビオは蚊帳の外で、親ウクライナ的とみなされたケロッグは脇に追いやられ、トランプの友人のウィトコフが中心とのことだが、このウィトコフという人物、元は企業弁護士だが、口答えしないのが取り柄という人物で、そこをトランプに気に入られ、引き立てられたものらしい。もちろんロシアや中東については(彼はロシア・中東担当特使である)何の知識もない。終戦交渉はウィトコフ、実際には背後にいるトランプが取り仕切っているようだ。

 何の期待もできないが、複雑になりすぎたように見えるこの戦争も、見方を変えれば方策がないこともないように見える。が、関わる役者がこうも大根揃いでは、上記のようなことは書くだけムダだろうが、隠すほどの内容でもないので、とりあえず書いておく。

 あと、戦争犯罪については、ウクライナやガザで行われたことは紛れもない戦争犯罪だが、この種の犯罪は歴史的には勝者の裁判である。革命や政変などが機会となるが、被害者は証拠を蒐集して備える必要はあるものの、より優先する課題がある場合、外交においては優先順位はそう高いものでもない。しかし、トランプ政権が現在しているように検察部局を解体して証拠を散逸させるものでもない。時期が来れば処罰の可能性があることから、トランプ氏の行いはむしろ戦後国際法秩序に逆行するものであり、後世の批判に耐えず、これは誰のためにもならないものである。

 

(補記)

 この辺書いてみようと思ったのは、先にプーチンが対独戦勝記念日の5月8日を境に72時間の停戦を提案したことである。聞くところによると第二次世界大戦の参加者はロシアでは7千人、ウクライナでは4千人が存命であり、年齢的に多くは百歳以上だが、ロシアでは長時間の式典に耐えられる健康状態の持ち主を探すのに苦労しているようだ。通例、これらの式典で最高司令官の脇に侍るのは参謀将校や政治士官など旧ソ連でも特権的な階級の元士官だったが、そのような者は存命しておらず、式典の主催者も選り好みはできない様子らしい。

 

 人口比で見るとウクライナの方が存命比率が高く、これは先の戦争でもウクライナのコサック兵士がソ連軍の中核兵力として多大な貢献をしたことが挙げられる。停戦するなら今すぐすべきだとゼレンスキーは提案を一蹴したが、こういったイベントが両国の共通言語になると考えたプーチンには、この問題を読み解く鍵があるように見えたことがある。「視線を逸らす」アプローチで検討した内容では、彼のウクライナに対する感情は愛憎渦巻くかなり複雑なもののはずである。

 

 前にゼレンスキーとトランプの関係を仕送りを受ける学生と田舎の親に喩えたことがあったが、比喩なので故意に見逃した部分もあった。親がどんな人物かは問題にしなかったし、利口なのか愚かなのかについてもあえて論じなかった。あくまで「一般的な例」として視角を提供することが目的であった。

 ウクライナ戦争それ自体についても、三年も見ているとこの戦争の奇妙さ、奇天烈さが目に付くことになる。当初、ヴィースバーデンのアメリカ人顧問団とザルジニー将軍はロシア軍が撤退を判断するタイミングを「戦傷者10万人」としていた。それだけ損失を受ければロシアは侵略を諦めて、和平交渉のチャンスがあるだろう。実際の所は、その年の損失は20万人であった。現在は95万人であるが、まだ終わる気配がない。

 その上、30年遅れのショック・ドクトリン、この言葉自体死語になりつつあるが、50年間経済の見方が変わっていないドナルド・トランプが大統領になったことで、メディア界は精神汚染の場に変わり、およそこの戦争について、まとまった見通しを論ずることが難しいものになっている。ある知見をまとめて一定の立場を形成するには、まず状況を分析して自己の立ち位置を確認し、論理立てて周囲を説得する作業が不可欠であるが、その暇が与えられないのである。正論は断片的に、星屑のように分布している。

 トランプについては後にするとして、ごく単純かつ平明にこの戦争を見ると、ストーカー(ロシア)に言い寄られている妙齢の娘(ウクライナ)という喩えができるかもしれない。我々は当然娘(ウクライ娘)の味方であるから、ここではストーカー(ロシ男)をどうやって追っ払うか、あるいはストーキングを諦めさせるかという視点になる。

 ウクライ娘については、三年も経つと取れる対策はほぼ出尽くしていると言って良い。「世界の警察(アメリカ)」に通報したり、ボーイフレンドのEU男に交渉を頼んだり、ほか、防犯器具や護身術など、とにかくやれることはやっている。

 従来の我々の視点というのは、おそらくこの見方だったと思う。ロシ男に対抗するのに「○○催涙スプレー(HIMARS)」とかスタンガン(F-16)の効用は論じても、ロシ男の事情はあまり考えていなかった。話し合いを求めたら強姦されてしまうこともある。ロシ男はストーカーを辞める条件として、ウクライ娘の男女交際禁止やデート強要、ロシ男への隷従などを求めている。呑めるわけないだろう。

 さて、ここで考えなければいけないことは、ロシ男の行動はウクライ娘に対する憎悪ではなく、好意から来ているということである。他のボーイフレンド(NATO)との交際を禁ずるのも、ロシ男に対する偏見(ネオナチ)を放逐するよう求めるのも、動機は好意であって、破滅させることではない。ウクライ娘が恭順したら、彼は彼なりに彼女に良くしてやろうと努めるだろう。内容はともかくとして。

 なんだこれ、結構現状を説明できているじゃないか。プーチンは当初キエフに入場したロシア軍はジャベリンミサイルではなく歓待されると思っていた。今でも思っているかもしれない。

 こういった紛争の場合、紛争はロシ男のよこしまな野望、つまり劣情が持続する限り続く。95万人を犠牲にして、戦車1万台と装甲車2万台をスクラップにしても侵略に勤しむのは、それ自体ロシ男のウクライ娘に対する誠意であって、犠牲が大きければ大きいほど、それは誠意の証であり、彼にとってはそういう自分を尊ぶことはあっても、紛争を止めようなどとは思ってもいないのだ。

 問題はロシア国民がこういったロシ男(プーチン)の熱情をどこまで共有しているかであるが、SVOに反発するまともなロシア人を成敗することに熱心なことは分かる。何だ、ますます似ているな、自分でも怖いほどだ。

 ウクライナ側の見方では、ロシアのウクライナに対する野望は民族絶滅や思想改造を伴うもので、その源にあるのは際限ない憎悪としているが、上述の見方はその真逆である。憎まれているのではなく、愛されているから侵略されるのだ。そういう見方はなかったように思う。

 紛争それ自体は忌々しいものという認識は、ロシ男も実は同じである。ウクライ娘に対する狂熱を除けば、ロシ男はそれなりに常識もあり、場合によっては教養さえあるかもしれない。踊り子エスメラルダに劣情する司祭が良い例だ。フロロ司祭は踊り子への執着を除けば謹厳な宗教者であり、良き隣人であった。なので、この紛争はロシ男にとっては(彼以外はそうではないか)必要悪である。

 この紛争を止めさせる手段はないものか、今まで見たところでは、ウクライ娘を手助けするだけではどうもダメそうである。これで自衛はできるかもしれないが、ストーキングを止めさせることはできない。紛争を終焉するには、ロシ男の側に現在の状態が彼にとっても都合悪いもの、愛や自己犠牲を計算に入れたとしても、に、導くのが賢明である。そうなればロシ男は紛争を自発的に放棄し、ウクライ娘への働きかけは中断して距離を置くようになるだろう。

 トランプ氏の働きかけは従来に比べれば斬新ではあったが、ロシ男に劣情を放棄させるには至っていないことは、すでに占領した領土の保持とか、原発とか、NATO不加入などを声高に主張していることで分かる。ウクライ娘は彼にとってはまだ価値のある相手であり、犠牲を払うのに値するものだという認識は変わっていない。もし、トランプ氏がロシ男の関心を他に向けることに成功していたなら、これらは要求しないはずのものだからだ。では、どうすべきか。

 関心を逸らす方法は例えばウクライ娘より魅力的なリトアニ娘など、恋愛絡みのものである必要は無いように思う。例えば石油価格は現在でもロシアの生命線となるものだ。だからといって断てば良いというものでもない。ロシ男は困窮生活には慣れているので、それでは耐えるだけだからだ。むしろウクライ娘への熱情がさらに高まることさえ考えられる。

 ゼレンスキーは自分がプーチンに嫌われていると考えているし、たぶんその通りだが、実は好かれていると考えてみても良いかもしれない。その戦略が欠けているなら、今からでも考慮すべきである。

 さてこういうの、どうすれば良いのだろうね。私は恋愛経験は人並みより少ないか、むしろ貧しい方だし、上述のような状況になった男女が折り合う方法があるものかは思いつかない。ソフトランディング、つまり、一定の距離を置きつつ、礼節の範囲で二人が和解するのがおそらくいちばん理想的だが、これは現実の恋愛でもありそうにないシチュエーションである。

 私よりもっとモテる人間で、男でも女でも男女や人間関係の機微に巧みな人間は、もっと良い解決策を考えてもらいたい。

 より現実的なのは、やはり関心を逸らすことだろう。ロシアという国のあり方に根本的な変更が必要な状況が生じ、そのために紛争を整理する必要性が生じること、これこそがこの戦争を止揚するいちばんの処方箋だろう。革命がまず思い浮かぶが、プーチン体制ではまず不可能である。

 例えば、戦争をやっている側の反対側、ロシアでは貧困地域の東シベリアや極東で有望な鉱山が見つかるとか、人口百万単位の大規模な開発を行うとか、あるいは経済特区を作るとかいうものはどうだろう。中国はプレセンスを増しており、そこでの発展はロシアにとっても悪い話ではないはずだ。新しい産業が創出され、経済が活性化すれば戦争などには魅力はなくなる。その点、トランプの提案も全部が間違っているわけではない。この場合、ウクライナとは和解しなくても良いが、それは仕方のないことだろう。

 喩え話はあくまで喩えなので、何でもあてはまるわけではない。自ずと射程があり、限界がある。しかし、折りにつけ視点を変えることは、近視眼でバカ臭い宣伝が流布している、今のような時代では大事なことである。

 

... In the soundbites from the yet unpublished interview, Kuleba advised Ukrainians not to pay attention to various statements or leaked information concerning the negotiation process coming from either Ukrainian allies or Russia.

“You will protect your mental health better until the moment when real steps towards at least a ceasefire, and hopefully the end of the war, take place,” he said.
(Euromaidan Press, 4/28)

(訳)まだ公表されていないインタビューの音声の中で、クレバ氏はウクライナ国民に対し、ウクライナの同盟国やロシアからの交渉プロセスに関するさまざまな発言や漏洩情報に注意を払わないように助言した。

「少なくとも停戦、そして願わくば戦争の終結に向けた本当の一歩が踏み出されるその瞬間まで、皆さんは自分の精神衛生をよりよく守ることができるでしょう」。
(ユーロマイダン紙、4月28日)

 この「同盟国」や「さまざまな発言」、「漏洩情報」の主がアメリカとトランプ政権を指していることは明らかだが、クレバは退任後の現在もウクライナ外交のキーマンの一人で、その彼の見るところ、停戦工作は全然進んでいないもののようである。

 むしろ悪手を打ち続け、戦争は長期化しそうな様相である。これについては別の所で読んだ次のような引用がある。

“Whoever wants to spend less during a campaign, spends more; nothing requires such money and such unrestrained spending as a campaign; the more abundant the supplies, the sooner the campaigns end; whoever does not take this into account for the sake of saving money, drags out the matter and spends incomparably more. Therefore, the most dangerous thing is to begin a campaign when there is no large amount of money, and release funds from time to time; this is a way not to end a campaign, but to feed it.”
(Francesco Guicciardini, historian)

「戦役中に支出を抑えようとする者は、より多くの支出をする。戦役ほど多額の資金と奔放な支出を必要とするものはない。物資が豊富であればあるほど、戦役は早く終わる。経費節約のためにこのことを考慮に入れない者は、事態を先送りし、比較にならないほど多くの支出をすることになる。したがって、最も危険なのは、十分な資金がない状態で戦役を開始し、時折資金を放出することである。これは戦役を終わらせるのではなく、むしろ戦役を助長することになる。
(フランチェスコ・グイチャルディーニ、歴史家)

 これはプーチンもそうであったし、ウクライナを支援していたバイデン政権もそうであった。ダボス会議に集っていた経済人たちは、同席していたトヨタや日立の会長も含め、ことこの分野においては信じがたいほどの無能者揃いであった。トランプは言うまでもない。

 しかし、同じ歴史家の言葉として、この戦争がゼレンスキーを脅し上げた程度では終わらないことについては、次のような指摘もある。

"That which must fall not from one blow, but from exhaustion of strength, lives much longer than was thought at first; this happens because the movement is slower than one might think, and because people, having decided to endure, do and endure much more than one might believe; indeed, we see that some campaign, which should have ended because of hunger, difficult conditions, lack of money and similar circumstances, dragged on longer than it seemed possible.

Thus the life of a consumptive always lasts in spite of the opinion of doctors and those around him, so a merchant ruined by interest, before becoming bankrupt, holds out longer than was thought."
(Guicciardini, u.s.)

(訳)「一撃で倒れるのではなく、力尽きて倒れるものは、当初考えられていたよりもずっと長く生き残る。これは、運動が想像するよりも遅いからであり、人々は耐えることを決意すると、想像するよりもはるかに多くのことを実行し、耐えるからである。実際、飢餓、困難な状況、資金不足などの状況のた​​めに終わるはずだったいくつかの運動が、考えられていたよりもずっと長く続いたのを私たちは見ている。

それゆえ、結核患者の命は医者や周囲の人々の意見に反して必ず長生きし、同様に利子で破産した商人も破産する前に予想以上に長く生き続けるのである。」
(グイチャルディーニ、上掲)

 トランプはゼレンスキーが大嫌いだが、今回のバチカン訪問でも来賓席の最前列に着座した彼には拍手一つなかったが、同じく来迎したウクライナ大統領には喝采の嵐だった。が、彼が横車を押してウクライナの指導者を放逐したとしても、それで戦争が終わるわけではなかったこと、ゼレンスキーの方がまだマシであったと嗟嘆することになることは想像に難くない。

 なお、トランプ政治については、米国内でも批判の声がある。

But consider the price we are all paying. I don’t (only) mean those trillions of dollars wiped out at a stroke through tumbling stocks, or even the investments put on hold as businesses decide that, amid all this uncertainty, now is not the right time to open that new factory or launch that new product, thereby delaying, perhaps for ever, the jobs or wages that would have found their way to people who need them.

I mean instead the opportunity cost: the action the world could be taking if it were not forced to monitor, adjust to and accommodate the whims of one man, whose ideas on economics were formed five decades ago and were wrong even then.
(Jonathan Freedland, columnist)

(訳)しかし、私たち全員が払っている代償を考えてみてください。私が言っているのは、株価暴落によって一挙に消え去った数兆ドルのことだけではありません。あるいは、企業がこの不確実性の中で、今は新工場の開設や新製品の発売に適切な時期ではないと判断し、投資を保留にしていることさえあります。その結果、本来であれば必要としている人々に届くはずだった仕事や賃金が、おそらく永遠に遅れてしまうのです。

私が言っているのは機会費用、つまり、50年前に経済に関する考えが形成され、当時でも間違っていた一人の男の気まぐれを監視し、調整し、順応することを強いられなければ、世界がとることができたであろう行動のことである
(ジョナサン・フリードランド、コラムニスト)

 トランプ政権に対する対応は当初の懐柔から対決へ変化しており、ヨーロッパでもウクライナでも人々の内心は以下のようなものである。

Gradual strategic disengagement from America, coupled with renewed integration in a reformed, revitalised Europe, is the only sane, safe path.
(Simon Tisdall, the Observer's Foreign Affairs Commentator)

(訳)米国との段階的な戦略的離脱と、改革され、活性化したヨーロッパへの新たな統合が、唯一正気で安全な道です。
(サイモン・ティスダル、外交問題評論家)

 もし、我が国が他の国ではとっくに放棄された外交政策を変えずに、過去半世紀間そうであったように対米追従に終始し、気まぐれな政権の意向にいちいち従うのであれば、その結果はおそらく悲惨なものだろう。

 引用づくしになってしまったが、このブログは「覚え書き」なので、引用でもスクラップでも何でも良いのである。形式を整えることについては、タイトルも今のようなものなので、私はあまり興味がない。

 

 先にAIについて書いたが、NYTの論説にハマス掃討におけるイスラエル当局のAI活用事例があり、具体例がさっそく出たようだ。ガザにおけるイスラエル軍の民間人無差別攻撃と包囲による飢餓戦術は国外だけでなく、イスラエル国内にも反発の声があるものだが、こういった蛮行の裏打ちに人工知能を緩解薬として用いていたのかと思うと、ネタニヤフほかイスラエル当局者の知性のなさと頭の悪さに溜息が出る。まったく、何とかとハサミは使いようである。

 記事によると、イスラエル当局がAIに与えた指令はハマス幹部の殺害と拉致された自国民の所在の確認のみだった。コーパスに情報部が傍受した膨大なアラビア語のセンテンスが用いられ、目標とする人物の言動や周囲の状況からターゲットの所在を高い精度で割り出すことが可能になったという。

 そういうことから、幹部の所在はともかく、人質については人数や生死が比較的早い段階から明らかになっていた。テクノロジーの効用というものだろう。

 AIは英語で駆動するので、アラビア語のニュアンスの翻訳にはイスラエル軍の経験者が介助的役割をした。こうしてイスラエル当局はハマス幹部の所在と人質の場合は生死を判定することが可能になった。同時にAIは世論調査も行い、攻撃行動が特にイスラエル国内に及ぼす影響をシミュレートした。多くの場合、ハマス幹部は人口密集地に潜伏しており、攻撃は付随的被害を伴うものと考えられたからである。

 人道上の問題を前に、ネタニヤフ政権の対応は知っての通りである。わずか一人か二人の幹部を殺害するために数百人の市民を犠牲にする作戦におけるエクスキューズのハードルは非常に低かった。イスラエルでは攻撃決定まで自動化する案も検討されたが、さすがにそれは思いとどまったらしい。

 なるほど、こういうことかと国際的非難も省みず、非道な市民虐殺を続けるイスラエルにも一分の理はあるということだが、殺害に10年掛かったオサマ・ビン・ラディンに比べれば、確かにハイペースで殺害しているともいえるが、精度が上がったのは1月のトランプの仲介以降である。停戦で後ろ手を縛られたハマスはイスラエルの再攻撃で複数の幹部を殺害された。

 なお、難民テントが爆撃され、人道支援に従事していたパキスタン赤新月社の隊員15名が殺害され、救急車ごと郊外の砂漠に埋められたのもこの頃である。当初イスラエルは赤色灯を付けて走行していたパキスタン救急車をテロ団と釈明していた。

 今取られている飢餓戦術も物資の流通経路を通じて敵幹部特定のための施策と考えれば、ある程度納得は行く。幹部は現地では権力者で、モノも情報もそこに集まるからだ。それをピンポイントで叩く。

 まったく大したものである。しかし、ラディンよりは早いとはいえ、犠牲の割に大した戦果も挙がっていないことも本当である。これがどの程度のものか、同様のシステムを用い、イエメンのフーシ派爆撃を行ったアメリカ軍を見れば見当は付く。確かチャットではヘクゼスらは特定の幹部を標的にしており、リアルタイムでも殺害したことを吹聴している。

 しかし、誰も死ななかったのである。巻き添えになったのは80人余の民間人で、「ミサイル担当者」など幹部は一人もいなかった。後で「経済基盤の破壊が目的だった」などと苦しい言い訳をしているが、高価な攻撃だった割に貧しい戦果である。アメリカのシステムがイスラエルより劣るということはたぶんないだろう。

 それにイスラエルの戦果も数人の幹部の殺害と引き換えに数万人の犠牲などとても褒められたものではない。AIを使わなかった方がマシだったのではないか。

 AIで特定された標的というものはもやのようなもので、補足する情報がない限り、そこに本当に幹部がいるのか、正しい標的なのかといったことは分からない。推論の過程が自動化されているわけで、今のところ最終決定は人間が行っているのだけど、大方において仕組みを理解しておらず、機械抜きで同様の結論に達する思考力もなく、何か精神安定剤のようなものとして、これを常用する政治家や経営者が今までにない害を引き起こす。

 今回は軍事の話だったが、たぶん、この技術は今後も進化して政策決定過程に入り込んではいくだろう。アメリカ退役軍人の専門誌である「ザ・ブルワーク(反トランプ)」には、「愚劣な戦争もあるが、愚劣な指導者も排除しなくてはならないのではないか」と問題提起がなされていたが、憲法学も単に政治的責任とか、政治裁量、事後的判断などといった言葉でお茶を濁すことは許されなくなっている。そして裁判は愚行の責任を取らせる装置としてあまりに遅すぎる。

 トランプ一味においては、イスラエルにも関与していたであろうイーロン・マスクがDOGE団での大量首切りに用いたことが知られている。これは勤続30年の真面目な人間を「無能」と言って斬り捨てる無能なアルゴリズムであった。オペレータも若輩者で、知能は高いだろうが憲法学や行政学のイロハも知らないような無智者揃いだった。トランプ用語で言うならば、これは「敗者」であり、「ゴミ」である。少なくとも私にはそういう者どもに見える。

 こんなもので満足できるというなら、用いる人間もその程度のものなのだろう。それが今は大統領の椅子に座っている。隠れた例は他にもあるはずで、今後も増えるはずだ。AIについては我々はその動作を知らなければならないが、一度システムを構築したとしてそれに思考停止することは、まだ許されないもののようである。
 

 そろそろ三ヶ月だが、マスクもいなくなり、やることなすこと全てうまく行かないトランプ政権は順調に崩壊のプロセスを辿っているようである。後はどうやって引きずり下ろすかだが、少なくともアメリカの法制度では大統領は弾劾以外に引き下ろす手段はない。が、4年もこの大統領に政権を担わせてもいられないことは見れば分かるだろう。

 私としては適度に裏切り者が出、八方塞がりの大統領が意気消沈し、一期目みたいにある程度まともな人間の言い分を聞くようになればと思う。それでも一期目の終わりは米国民に取っても「悪夢のトランプ政権」だったが、少なくとも国際秩序を破壊したり、国際法を無視したり、金融制度を崩壊させるような愚挙は許すべきではないだろう。

 何で私がこんなことを書くかというと、アメリカの話は日本では対岸の火事だが、これまで見てきたこととして、アメリカで行われたことは必ず日本では劣化コピーが現れ、ミニトランプがさらに悪いことをして経済を沈滞させるからである。

 DOGE団やマスクの行状を悪行という向きは少しばかり記憶を遡り、小渕・小泉政権時代の竹中平蔵の行状を見てみたらどうだろう。マスクたちと同じか、実害においてはそれを上回る実情があるはずだ。大蔵省が真っ二つにされたり、郵便局や日本道路公団がバラバラにされたのもこの頃だ。マスクとどこが違うのだろう?

 安倍政権については、書くのは止めておこう。言えることはこういった「改革」にはほとんどのケースでアメリカに先行するモデルがあり、日本のはそのタチの悪い模倣と言うことである。MAGA運動もトランプも実は対岸の火事ではない。参政党のようにヘリテイジ財団から密かに資金援助を得ていたグループもある。

 最近の模造品の群れを見てみよう、兵庫県知事の斉藤に石丸に参政党の某に、共通していることは倫理や常識を鼻で笑っていることであり、共感力に乏しいか軽蔑さえしていることであり、法を軽視しており、デマゴーグで既存の政党政治では吸収しきれない層を取り込んでいることである。高学歴だが卑俗で軽薄な彼らはMAGAのモルモットとしては実に都合が良い連中だ。その完成形であるJ・Dバンスを見るがいい、トランプ政治は日本でテストされていたのである。

 ここまで言うのは言いすぎかもしれない。が、一芸は万芸に通ず、ウクライナ問題を調べていると極右将軍ケロッグの補佐官が以前は対日ロビーで参政党を担当していて、ロビイストとして参政党の神谷をスティーブ・バノンらトランプ政権の要人に面会させていたという話がある。ケロッグが軍ではほとんど唯一のトランプの顧問で、最古参の支持者の一人であったことを見ると、日本政治に興味のない私も知らないわけにはいかないのである。

 一言で言えば、日本でネトウヨを流行らせた連中は今はウクライナ問題を担当している、そういうことだ。彼らの提案を見て、ゼレンスキーやウクライナ国民が怒るのも無理もないことである。石丸や斎藤をこういう交渉にブチ込んだら何が起こるか考えれば分かるだろう。

 私はネトウヨや参政党のような輩は平和ボケの国だからこそ成り立つと思っている。相手が適度に常識的で良識的であることが前提であり、ウクライナに関して言えば、ロシアの所業に呼応してロシア都市を無差別攻撃したり、ロシアの代理人としか思えないウィトコフやケロッグをワシントンの路上で爆殺したりはしないことが前提である。彼らにそれができることは、ロシアよりも優れたドローンを持ち、あの警戒厳重なモスクワの路上でロシア将軍が殺されることは日常茶飯事なのだから分かるだろう。今月も参謀次長に電子戦責任者に、後方だからといって安全とは限らない。

 様子を見れば、トランプたちのやっていることは確かに愚かだが、我が国までもが付和雷同してDOGE愚連隊の仲間になることはないように見える。ドル安はアメリカには不幸だが日本には別に不利でもない。目玉の飛び出るような高関税は掛け合っているのはアメリカと中国で、日本は掛けていないのだから、アメリカで売れなくなった品は安く買えばいい。兵器については、国防省がああいう様子なので次期戦闘機はEUと開発すればいい。算盤勘定をきちんと行い、うまく立ち回ってくれればそれで良いのである。

 ムダを省くために、官庁でも企業でも少なくないアメリカ留学組は、特にHBS(ハーバード・ビジネス・スクール)出身者は徐々に要職から遠ざけるべきだろう。途上国においてこの学閥ネットワークが侮れない影響力を持つことは良く知られていることだ。日本でも機密取り扱い資格や認定ロビイスト制度を検討すべき時期かもしれない。学閥の影響力を避けるには、これらが必要だ。

 アメリカにしか軸足のない自動車メーカー、ホンダやスバル、日産などは潰してしまっても良いだろう。税金を使ってまで助けるこたあない。この連中の経営判断の拙劣さを国が救済する理由はないはずだ。大昔に財政破綻して厚生年金に無理矢理捻じ込んだ公務員共済のようなものは悪い先例だ。採用計画というものは基本的な経営判断で、いくら国の機関とはいえ、失敗したら責任を取らせるのは当たり前のことだからだ。

 消費税については、今や国家歳入の半分以上である。この税金の問題点は逆進性もあるが、これだけ国家が依存していながら、担税者である国民に政治的意思を表明する機会がないことである。これといった方法を野党が考えてもくれないことから、食料品など一部については廃止または引き下げもやむを得ないと思う。これは政策の変更であって、退歩ではない。欠陥を治癒する方法があるのなら、引き下げなくても良いと思う。この税金は金持ちに有利な部分もあるが、公平でもあるからだ。

 とりとめもない話ばかりだが、これ以上長くなってもロクなことがないので、今回はここまでにしたい。


(補記)
 トランプ氏は日本の貿易黒字にご不満のようだが、中国と比べると我が国は市場が小さい上に参入障壁がそれなりにあるので、これは個人的なことだが、自分でうどんを打つ私は少し困ったことになっている。

 実は小麦粉というのは大部分がアメリカないしカナダ産で、10年ほど前までは日本向けは専用の小麦が生産されていた。それがコスパが悪いという理由で栽培されなくなり(リッツクラッカーが消えたのもこの頃だ)、エンドユーザーの私は仕上がりが違うので塩分や加水率を変更しなければいけなくなった。

 本当をいうと、どうもまた変えたみたいなのである。また微修正しなければならんなと個人的には思っているが、輸入元については変わっていないはずなので、おそらく二次ないし三次下請けに変更があったのだろうと考えている。加水率は現在は40%だが、今度は何%にしようか。10年前は38%だった。これは案外繊細で、数%の違いでも食感に誰でも分かるほどの違いを生む。あと、水温も影響がある。中国人が良くやっているように両手で麺帯をビヨヨーンと伸ばしてだと、水温は高めにしなければいけない。

※ 自動車部品にも同じことが言える。トランスミッションがアメリカ製でもネジや歯車までがアメリカ製とは限らない。

 80カ国と貿易交渉しなければいけないトランプ氏にこういったことに構う余裕はなさそうだし、実際無いと思うが、ラーメン屋にとっては重要な問題なのである。特に最近は自家製麺がブームだ。私はアマチュアでブームの前から自家製麺だが、それで製品の違いが直に分かることもある。

 米にしても、今の日本の品種は大半がコシヒカリとその亜種だが、アメリカ米のカルローズは中粒種でコシヒカリとは品種自体が異なる。栽培方法も陸稲で、水稲の日本米とは違う。近いのはむしろ台湾米などだ。トランプ氏にとっては問題ではないだろうが、寿司屋にとっては問題である。日本人にとってこれは(他に選択肢がないので)我慢して食べる米である。

 こういうことを交渉する貿易交渉なら私は歓迎である。アメリカは技術も高いし農地も広い、消費者ニーズにきちんと対応するなら米もクルマも売れるだろう。何でも良いというわけではない。資本主義というのは社会主義の計画経済ではない。商売の基本は尊重すべきだ。
 

1.実は劣勢でもないウクライナ

 この所ウクライナには触れていないが、実はスジャ失陥はあったものの、全般としては割と優位に戦いを進めていることがある。奪われた領土はここ半年ほどは過去最小で、ロシア軍の砲や装甲兵力に甚大な損害を与えており、昨日などは300台もの車両を撃破したほどだ。

 兵器の国産化も進んでおり、EU諸国の援助もあり、砲弾などは60%、ドローンはほぼ100%の国産化に成功しており、昨年、一昨年に比べれば状況は好転している。それでも敗色濃厚のように見えるのはロシアのプロパガンダの巧みさと、それに便乗するアメリカ大統領、ウィトコフなど「ロシアの代理人」特使たちの存在がある。実情はニュースほどには悪くない。

 それでも主要都市に弾道ミサイルが落ちるなど、航空宇宙兵力でのロシアの優位は動かしがたいが、非道なテロ攻撃はそれ自体地上戦での行き詰まりを示している。トランプはロシアが本気を出せばウクライナなど鎧袖一触でやっつけられると豪語したが、アンコールに応える方(プーチン)は大変なのである。すでに春の攻勢は頓挫の様子が見え始めている。ロシア軍にウクライナ軍を打ち破る力はない。

 ウクライナを巡るトランプのあからさまなえこひいきについてはひとまず措く、クルスク戦線は突破されていないし(もちろん包囲もされていない)、イースター停戦はロシア軍は例によって破る気満々で60回近くも攻撃していたなどなど。この政権の事実誤認と捏造の数々を取り上げていたらキリがない。

 今回は彼に投票した有権者も含め、トランプ政権がなぜこうも期待を裏切り続けるのかについて観察を述べておく。しばらく見ていてトランプの発言には既視感があることに気づいたことがある。これはトランプ本人や年齢の高い高官に見られるもので、ルビオやマスクなど彼の取り巻きにはあまり見られないものである。


2.AIに小説は書けません

 私もそれほど詳しいわけではないが、AIを巡る議論に付き、この言葉が”Artificial
 Intelligence”(人工知能)という言葉であることから、これを「考えている」と誤解していることがあるが、実は違う。

 いちばん単純なモデルは、例えば「日が昇る」といったことばを「日」と「昇る」の二つに分節し、名詞である「日」の次にどんな単語が来るかを判別するものである。コーパスに800語ほどの単語があるとしてソートすると、コンピュータは「昇る」30%、「沈む」25%、「照る」10%、「陰る」5%といった具合に使用頻度順に列挙するはずである。この場合は「昇る」が最も使用頻度が高いので「日が昇る」となる。

 もっと複雑な例は「飛鳥山に」、「日が」、「昇る」、「朝焼けの」、「空に」など、数語を順列組み合わせ的に確率を求めるものだが、文法的に間違っていたり、国語的に矛盾していたりとあるので、実物はコーパスを増やすと同時にコンピュータにルールを「学習」させ、きちんとした出力が得られるようにする。

 データの量がそれなりになると、例えば学術論文などは類似した内容を学習させて比較して文章を生成することが行われる。ここまで来ると我々の知っているAIにごく近いものになる。実はこの「学習(learning)」が大事なのである。

 AIに学習させすぎると「過学習(overfitting)」という状態になり、新しい文章を生成することができなくなる。なので、エンジニアはある程度信頼できる答えが得られるようになった所で学習を打ち切る。この判断はエンジニアにより異なり、定量的なものはない。AI各社のアウトプットが各社ごとに内容や詳細さなど異なるのはこのことによる。

 ChatGPTなどAIに質問すると、同じ質問でも入力ごとに違う答えが返されることがある。これは担当したエンジニア(あるいはアルゴリズム)がこの程度で十分と学習を打ち切ったことによる。いくら情報が精確でも、回答を生成し得ないAIは実用に耐えない。人工知能を成立させるために、AIの出す答えは常にデフォルト(ボイド)を含む。この「揺らぎ」こそが人工知能を成立させているのである。

 なのでAIには小説は書けない。気の利いたエッセイも無理である。似たようなものを作ることはできるが、その働きは人間の知能とはかなりの部分で異なる。

 「考えるコンピュータは存在しない」ということは、現在においても、SFの世界では登場してすでに久しいが、いくら強調してもし足りないことである。

 学校教育では教師は均一なアウトプットを求め、同じ問題なら同じ回答を返すように生徒を訓練するが、AIの場合はそれでは困るのである。回答が生徒ごとに異なり、大筋では一致しているものの、バラツキがあるようにあえて訓練する。


3.トランプ政権とAI

 トランプ政権に話を戻すと、このところの様子を見て、私が何となく思い浮かんだのが、最近読んだこのAIを巡る一連の見解である。日ごとに言い分の変わるこの政権の応対は人工知能、それも学習がごく初期段階のものに似ているように見えることがある。

 そもそも普通の人間ならば、矛盾したことを言ったり、欠陥のある提案を頻繁に行うことは避けるものである。「信用」というものが人間社会では大事であり、そういった言動は信用を破壊するものだからだ。一度失われた信用は取り戻すことは難しい。なので成熟した人間であるほど、発する言葉には慎重になるものなのである。

 矛盾を全く恐れない様子は、何か確信的なものが彼らにあることを予感させる。妄言を繰り返すのがトランプやウィトコフ、ケロッグなど年配者であることを見れば、彼らがコーパスやAI的なものを判断の便にしているのではという推論は当然成り立つ。これらの人物は法律学や国際政治学を体系的に学習した経験がなく、知識の不足を補うために顧問的なものに頼ることはあり得ることである。たまたま人間でなかっただけだ。

 ロシアはこのことを熟知しており、ことウクライナ問題に関して膨大なコーパスを用意して学習させている。なので、ウクライナ戦争について尋ねると33%以上の回答が「ロシア寄り」になっているという記事もある。こういうことにつき、トランプらには「騙されている」とか、偏っているという自覚はたぶんない。

 トランプ政権が本当にAIを政策決定のツールに使っているかは定かではないが、見た様子では彼らの言動はAI的、それもあまり出来の良くないものに似ている。同じAIがDOGE団により数十万人の首切り、大部分は不当解雇であるもの、に、使われたことは記憶に新しい。

 裁判所を軽視するのも、LEXISや法令・判例データベースを網羅していれば判事よりも正しい判断ができるとうぬぼれるのも無理もないことだ。植民地時代の古代法令まで持ち出す所を見るとたぶんそうなのだろう。「敵性外国人法(1798)」などは、多くの判事は名前も知らなかったに違いない。同じことはCIAにも言える。これは本来大統領に上げる情報を整序する組織だった。

 これらの組織より大きな情報と迅速なハンドリングができるからといって、正しい判断ができるわけではない。AIは類似情報と順列組み合わせを駆使して一定の回答を吐き出すが、それ自体は数学的ロジックではあっても、考えてはいない。ボタンをクリックして回答のようなものに満足している人間も似たり寄ったりだ。


4.予測は意味がない

 もしトランプ政権の実態がこのようなものであれば、通常個人の判断に用いられるような手法、生い立ちを検討したり、影響を与えた書物や人物を研究したり、事件などを取り上げて、次の判断を予測することは全くの無意味ということになる。これはカオスであり、通常の法則が通用しないものだ。

 このことは現在のトランプらの行状にも見ることができる。彼らとて名声は得たいだろうし、賞賛される良い判断もしたいだろう。だが、そういう行動をするには彼らは経験が足りなすぎ、知識が足りなすぎ、経綸も不足している。大統領府は現在進行形の事柄であり、その人生で真の友情を育んだことがなく、信頼できるブレーンもいない彼らが人間でないものに頼ることはやむを得ないといえる。

 そしてウクライナ戦争については、機械はロシアに教育されており、それを読んだ彼らのやることなすことが全てウクライナやゼレンスキーいじめであることも、無責任や残虐行為を見なかったことにするのも、その言動行動に人間性の美しい部分を全く感じられないことも、たぶん、他の方途はないからなのだろう。

 成功体験があったこともある。ツイッターXの雑多な言の葉を取りまとめて選挙公約とすることには(使っていたなら)それなりの威力があったはずである。そこに思考というものは毫もなかったが、ある意味謙虚な人間であるトランプには結果に独断を挟むことは憚られたことがある。少なくとも選挙では間違いはなかったのであり、このことがブチャの虐殺やスームィのミサイル攻撃に対する政権の異様な冷淡さ、移民の強制送還やそのミスにおける見苦しいまでの自己弁護の根底にある。些細な部分は食い違っても、取りまとめられた回答は大筋では間違っていないはずなのだ。

 この人物(トランプ)には通常の指導者に求められる資質である胆力が不足している。困難な状況においてあえて立ち向かったり、孤立に耐える資質はリーダーとして不可欠なものだが、これまでのこの人物の行動を見ると、英雄的行動に憧憬がある割に、実際に英雄的に行動することには躊躇があるようである。



5.その対策

 このようにトランプ政権のもたらすカオスは政権にビルドインされたものであり、根底にあるものは知性はもちろん不足しているが、それだけではないと見るべきかもしれない。本当にそんなもの(AI)を用いているかどうかは分からないが、仮想機械をイメージすることで、この政権の支離滅裂ぶりは、意外と善良な個々人の人間性の部分も含めて、より良く理解できるように見えることがある。IT長者のイーロン・マスクが閣内にいることも、トランプ1.0とはメソッドの違いを感じさせ、政権における仮想機械の存在を強く推認させる。DOGE団を巡る騒動などは半可通の機械盲信主義者の行動そのものだ。

 しかし、対峙させられる方はたまったものではない。トランプらの行動については、当面の間は無視が最善の対策になろう。彼らの行動は信念に根ざしたものではなく、翌日になれば変わっているような性格のものであり、ベストとは言い難いが、のらりくらりとかわしても実害はごく少ない。これについては、政権の正体が周知されれば、もっと良い対策もあるかもしれない。
 

 気になるのは、こういう政権の誤断と迷走がすでに世界各地で死者を出していることである。彼らは間違っているが、間違いを犯し、その間違いに向き合わないならば、対策が講じられるまでにさらに多くの犠牲を出すことになる。彼らがそのことに何の悔恨も感じていないように見えることには背筋の寒くなるものを感じる。

 

 政権の実情が推論の通りのものであれば、イスラエルのネタニヤフのような戦争犯罪人相当の罪を犯しても、罪の自覚はおそらくないはずである。ネタニヤフはいずれそうなるが、彼らも囹圄に繋がれ、「法の不知は罰する」を身を以て経験することで、ようやく気がつくことになるのかもしれない。それではもう遅い。

 

 ハーバード大学にケンカを売り、そろそろあちこちから札付きのならず者扱いされているトランプ政権だが、財務長官のベッセントは臆病者揃いのこの政権で、唯一人キーウを訪問した閣僚で、私は何でトランプやバンスがウクライナ訪問を執拗に避けるのか理解できないが、ベッセントについては人を食ったような容貌で政権の通貨政策については「ブレトン・ウッズ体制の復権」が主な狙いらしいと報道があった。

 ええと、確か1ドル360円だったか、戦後のアメリカが大盤振る舞いしたこの固定相場制はフォート・ノックスで合衆国の金塊が尽きるまで続き、あまりの負担に耐えかねたアメリカがプラザ合意で変動相場制に変更するまでに日本やドイツなど多くの国で企業家の懐を潤した。こんな相場では何を作っても海外の方がずっと割安で、これらの国々では国内に買う物がなかったので貯蓄を奨励して、通貨が安い上に低い賃金水準で作られた商品はアメリカでは売れに売れた。

 


 ちなみにこれは1970年のVW社のコマーシャルだが、オチは出てくるクルマが全てコマーシャルの時代には倒産してしまったことが挙げられる。ハドソンは確かエアコンを最初に付けたクルマだった。パッカードはパワーステアリングだった。50年代のアメリカ車はどれも十分先進的で機能も優れていたが(Adのフォルクスワーゲンにはパワステもエアコンもない)、いかんせんアメリカで作ったのでは割が合わなかったのである(それだけではないが)。まずテレビのRCAが出て行き、クルマも70年代には国産でも日本など輸入部品をしこたま詰め込んだものになっていた。

 

※ うっとおしいロゴの出てくるOsbornTramainというのは古いビデオ専門のアメリカのパテント会社らしい。そもそも自分で作ったわけでもないフィルムでパテント主張もおごかましいが、これが今のアメリカというものである。

 

 ベッセントの案はこの「古き良き時代」を21世紀に蘇らせようというものらしいが、今さら1ドル360円に何のメリットがあるか分からない。思うにこれは深い考えではなく、トランプらが提起した高関税があまりに横紙破りで非常識なので、それを相殺する案として提起したものかもしれない。本気とは思えない。

 政権にテック大手のCEOが軒を連ねていることから、外国でも米国でもそれまでは時代の寵児だったこれらの経営者には人格を疑う声が出ている。そもそも自由や民主主義といった共通の価値観を持っていないのではないか、普遍的な美徳みたいなものは持ち合わせていないのではないか。疑いは世界中に拡がっており、いちばん弱そうなザッカーバーグが吊るし上げに遭っているが、欧州では報復課税の動きがある。寡占の弊害が出ているから、それはしょうがないことだろう。

 目には目を、トランプが70年代の恩讐で過酷な手段を採るなら、報復はもっと過酷なものになる。だから常識的な人間はそんなことはしないのだ。それに今の被害者はアメリカの公務員だが、それ以前の十数年、はるかに多くの人間が彼らの経営の横暴と搾取に晒されてきた。そろそろ年貢の納め時というものだろう。

 

 

(補記)

 関税交渉で訪米した赤沢経済再生大臣の襟首をむんずと掴まえて、トランプが交渉に濫入したが、いやしくも合衆国大統領ともあろう者がこんな軽量級大臣を掴まえて何をしたいのか分からない。赤沢は該地では副長官クラスの閣僚で、総裁選の論功行賞で大臣の席をあてがってもらっただけの小物にすぎない。決定権などなく、件の訪米も視察といったものである。

 

 この点で、褒める人があまりいない石破政権が外交では意外と賢明な立ち回りをしていることが理解できる。決定権のある閣僚、総理や外務大臣といった閣僚との会談は言質を取らせないため、要請があっても理由を付けて引き延ばし、閣僚の訪米もしなかったために、さしものトランプも小物を掴まえるしかなかったことがある。石破の作戦勝ちといえ、こんな大臣の言の葉は政局ではほとんど意味をなさないことから、我が国の格に見合った対応で、他の国に対する手前もあり、会談は成功と言えるだろう。

 

 この人物が総理に就任した際、戦略家ではないが戦術レベルでは小気味良い働きをするかもしれないと書いたが、さっそく見られるものになった。関税の行方は分からないが、肩透かしを食わせた点、今回の勝者は石破首相として良いだろう。惜しむらくは、この首相の抜きん出た賢明さを理解する国民がほとんどいないことである。

 

 もうすぐ三ヶ月、順調に自壊コースを辿っているように見えるトランプ政権だが、そろそろ不協和音も聞こえ、関税問題におけるマスクとナバロ、イエメンにおけるウォルツなど閣僚の対立は政権の脳死が近いことを感じさせる。

 関税問題はおそらくトランプ政権としては最初の挫折だった。世論の非難により高関税政策は中国を除き撤回せざるを得なくなったが、私はこの案は余計な部分を除けばそう悪くなかったと考えている。

 

※ その「余計な部分」が問題である。

 そう言う理由はこれがシンプルな算式であることで、経済学者からは轟轟たる非難を浴びせられているが、そもそもこの人たちは「変わらないこと」に最大の価値を見出す人々である。体制派(今では違うが)とかガクシャとはそういうものだ。

 

ΔTi=(xi-mi)÷(ε×φ×mi)

 

ε×φ=1


 では、彼らの言う「うまく行っていた経済」は本当にそうだったのか。そうではあるまい。良かったのは指標だけで内実はボロボロだった。だからトランプが当選したのだ。それに各種の批判も良く見ると説得力を欠く。

 そもそも経済学の基本原理はシンプルである。需給曲線は交叉する二つの曲線で、ISバランスも簡単な足し算だ。トランプ・ナバロ式はそれらに比べれば複雑ではあるが、初等数学で理解できるものだ。理屈も簡単である。「ああ輸入が多すぎるな、(関税が高いから)他の国のものを買おう」くらいの話だ。

 貿易不均衡を調整するメカニズムにはほか為替取引があるが、これは投資家や当局によって頻繁に操作され、必ずしも実態を反映していないことは以前から指摘があった。トランプ関税の基礎になる数字はこれよりもずっと大きいもので、操作は事実上不可能で、結果的には投機や為替にも影響を及ぼすものだ。

 例えばある国がアメリカに対して100億ドルの黒字を抱えていたとして、輸出総額が200億ドルなら、関税率は25%になる。それを解消するため50億ドルの輸入または資本輸出をするとして、関税率は12.5%に下がるが、同時に通貨も下がるはずである。仮に100ディネーロ/ドルとして、修正後に110ディネーロ/ドルになったとすれば、トータルの投資は45億ドルと少なくて済み、アメリカで販売しているその国の製品は100ドルから90ドルに下がるのである。

 円高に苦しんでいた我が国日本が政府専用機やオスプレイを買うほか、他にどんなことをしていたか考えてもらいたい。工場を他の国に出し、国内の雇用を奪っていたのではなかったか。政府は金融立国だの知財産業だのとでたらめを並べ立て、その実何をして良いか誰も分からず(ガクシャもだ)、非常に多くの人間を失職や家庭崩壊の不幸に突き落としていたのではなかったか。

 

 そんな中で政府の人間や身分の保障されたガクシャだけがホッと胸を撫で下ろしていたのではなかったか。これはモラルの腐敗を生んだ。我が国では倫理(あるいは改革)を叫ぶ人間が実はいちばん人間的にも低劣で堕落していたのである。

※ いちばんひどいのが自動車で、対米輸出は30年前も30%だったが、今も30%である。日米構造協議や輸出自主規制で政府にさんざん迷惑を掛けておきながら、その後継者どもは全く反省のない体たらくである。

 

※ ブレトン・ウッズ体制が終焉した頃、東南アジアではASEANがあったが、日本はつまらない戦争責任問題で嫌気され、結局これに関与できなかった(後にプラス3などいくらかの関与はしたが、ASEANは本質的に先の戦争の被害国による日本外しの同盟である)。ここで贖罪を頑なに拒んだ、一部政治家や財界人の近視眼なナショナリズムの主張が長期的な国の利益を損ねた。

 100ドルで売っていたUFOラジオを90ドルで売ることができれば、競争力は回復する。工場を国外に出す必要はなくなり、それに応じた計画を立てることもできる。関税は予測可能なもので、計算に組み入れて対処可能なものだ。比較優位の原則もこれでは崩れない。つまりアメリカ人はコーヒーを飲むのに石油コーヒーを発明する必要はない。輸出国も国内への投資を考慮せざるを得なくなり、雇用は安定し、空洞化もなくなる。

※ ここでも関税を加味する必要があるが、100ドルのUFOラジオは是正前は125ドルで、是正後は102ドルになる。元値は10ドルしか下がらないが、関税を加味することで23ドル下げることができ、競争力はむしろ上がる。

 元はこういうものだったと思う、経済学というより政治学の知見に基づくように見えるが、ああいうものになってしまったのは、これは愚かな社長や上司のいる会社の社員なら身に沁みて理解していることと思うが、採用したトランプが提案を理解しておらず、自分の都合の良い部分だけを早合点して改悪したためである。こういう社長やコンサルタントは実に多い。

※ だからアドバイスは人を見て行う必要があるのである。ここで無学な「シャチョウ」に知識を授けることはキチガイに刃物を持たせることに等しい。アメリカ大統領を見ろ。

(改悪点その1)最低税率10%

 算式に従うならば、貿易均衡を適正に保っている国の関税はゼロでなければならない。例えばイギリスは8%の輸入超過(アメリカから見て黒字)だが、税率は10%に設定されている。これには合理的な根拠がない。対米貿易で赤字を出しているなら、むしろアメリカが優遇したり投資すべきだ。最低でも免税というのは当然のことだ。最低税率は10%ではなく、0%である。

 

※ 理不尽であっても税金を取るというのがトランプ式重商主義の基本的な考え方である。もちろん間違っており、彼の考えは国際貿易を逼塞させるものだ。税率はたぶん、元は0%だったのだろう。

(改悪点その2)恣意的な国別関税

 現在中国は145%の関税を課されているが、このうちトランプ式に従うものは35%で、残り110%は大統領令により恣意的に積み増しされたものである。これが害しかないことは明らかであるし、基本算式を上回る上乗せはメリットを帳消しにするものだろう。貿易不均衡を是正するメカニズムを組み込んだ関税計算を採用するなら、その他の税は廃さなくてはならない。

 

※ むしろ関税を国ごとに(好き勝手に)設定できることがトランプにとっては最大のチャームポイントだったのではないか。

(改悪点その3)中小国への配慮不足

 貿易均衡といっても、それを実現しうる経済力を持つのはある程度大きな国である。日本、EU、中国にはそれだけの経済力があるが、ニュースで取り上げられたレソトのようにジーンズくらいしか売り物のない国では均衡するほどアメリカ製品を買う余裕なく、無理をすれば先にウクライナに提案したような国の債務奴隷化のようなものになってしまうに違いない。少なくとも一定規模以下の国に対しては配慮すべきではなかったか。

(改悪点その4)移行期間ゼロ

 通常、こういった大きな政策の変更は移行期間を伴うものである。最低でも1年、できれば3年程度の猶予期間を置き、対策状況を見て施行するのが適切だが、この関税は発表から全くその様子は見られなかった。

※ 恣意的で自分勝手というトランプのスタイルからは当然のことである。

(改悪点その5)個別交渉の煩雑さ

 トランプは関税の導入で70カ国が交渉を求めてきたと得意満面だが、ディールといっても世界80カ国の交渉団に大統領がいちいち応接していたら任期がいくらあっても足りない。また、合意内容も国ごとに異なるなど公平性に問題がある。

 

(改悪点その6)定期的な見直しの欠如

 

 こういったものは定期的に見直して税率を再設定する必要があるが、輸入国の努力を見て、税率を見直す期限(年ごとないし四半期ごと)が設定されていない。

 以上、6つほど問題点を挙げたが、こういったものがなければ、トランプ・ナバロ式の関税政策は問題提起としてそれなりに有益なものであった。が、提案は良くても上司があれでば生きるものも生きないのである。トランプは余計なオプションを付け、提案を台無しにしてしまった。

 ちなみに、この政策に反対する論説ならあまた目にしているが、実を言うと数式を使い、論理的かつ整合的に批判を展開しているものはほとんどないのが実態である。ほとんどが「天が落ちてくる」式な、何もかもがアメリカの不幸といった論調だが、これはこれでトランプの低知性と同じく問題だと思う。私に言わせれば、パラメータの一つが変わるだけで、冷静に対処すれば影響などほとんどないのだ。

 冷静に対処できないのはトランプの用い方が横紙破りで無軌道であることで、これはガクシャの責任ではないし、提案のせいでもない。対処の時間が与えられないこともあるが、政策を実行するには政権の質が低すぎることがいちばんの問題だ。

 私は自他共に認める「リベラル」だが、真のリベラル(中道)とは、左右両翼から孤立して攻撃されることを覚悟しているものだ。別に私は○○先生がこういったから、はいそうですかというような単純な人間(バカ)ではない。私は基本的にトランプについてはやることなすこと不支持だが、今回の関税非難の大合唱には乗らないこととしたい。

 

 就任以来のでたらめぶりに世界中で反トランプのデモが行われているが、このデモのやり方も淵源をどのあたりに置くかは別として、様変わりしているように見える。

 日本ではデモ含む集会や街頭行進には許可が必要だが、そもそもプラカードを持ったり、政治を揶揄するような仮装をして歩いても、それだけで捕まるとも思えない。その良い例がコミケで、晴海や渋谷の路上に仮装した群衆が何万人も押しかけても、押しかける人数が多すぎて橋が落ちても、それで捕まったという者はいないのだ。

 以前はデモというと、参加すると公安に写真を撮られ、大学生は就職活動に響くなどと言われたものだが、SNSの時代では写真を撮られるのはおまえたち政治家や公安職員の方だ。前者はともかく後者は顔が知られたら、スパイの世界では仕事はもうあるまいなあ。さんざん撮ってバラ撒いてやれ。

 見たところ、何万人、何十万人も参加しても、行動は極めて平和的である。合法性には非常な注意を払っているように見え、一般刑法で問題になるのは私有地公有地の不法占拠くらいで、安田講堂や浅間山荘のような暴力的なものはない。火炎ビンも目にしない。

 そうなると体制側は「言論の自由」という極めて重要でセンシティブな権利を争う方法に悩むことになる。法律(特別刑法)を作ればそれは精査され、イスラエルやハンガリーのような反民主的な国家以外は訴えられ、あからさまなものは違憲判決が出ることになる。体制側にとって得なことは何もない。見た目はコミケと大差ないのだから、新兵器エバンゲリオンのファンとMAGA反対デモの参加者をどうやって区別するのだろう? 「内心の自由」それはアカンな。

 主催する側の問題は、こういった抗議活動をいつどうやって政治的な成果に結びつけるかということだろう。安保法案を巡るデモで、国会前に集った民衆を見た安倍首相は心底恐怖したという。彼が恐怖したのは彼の祖父のように、デモ隊が鉄柵を踏み越えて官邸にいる自分を羽交い締めにすることではおそらくあるまい。そんなものなら自衛隊を派遣すれば済むことだ。

 心底怖いのは、こういった運動に感化され、警察や官僚機構が圧制者にNOを突き付けることである。彼らは安倍首相個人に忠誠を誓っているのではなく、誓っているのは日本国憲法に対してである。違憲の命令に従う義務はなく、そうなってしまった場合、彼の政治は根底から崩れる。良くて政界追放、悪ければ反逆罪で収監である。そういったことに対する恐怖ではなかろうか。

 しかし、それをやるのに一発の銃弾も一瓶の火炎ビンも使ってはいかんのだ。高度な戦略にリードされる必要がある。その点、安保闘争や成田闘争の過激派は稚拙にすぎた。彼らは本当の革命家ではなく、革命家のふりをした社会不適合者にすぎない。そういったものは参考にならない。

 一見した様子では、これがすぐに弾劾による解職や大統領辞任に繋がるとは思わない。そういったことにはたぶんならないだろう。しかし、いくつかのデモを通じて不法な政策を頓挫、あるいは未然に阻止することはたぶんできるだろう。

 ウォール街のデモでも見られた気ままな方式は、我が国ではまず例を見ないものである。マイダン革命のように暴力化した例もあるし、抗議運動の体裁については今だ適切な表現や言葉があるようにも見えない。それに悪用の危険もある。2021年のキャピトル・ヒルの占拠は運動理論が悪用された例だ。

 しかし、21世紀に生きる我々としては、携帯電話やインターネットが知らぬ間に生活必需品になったように、新しい政治のやり方はコモン・センスとして身に着けておく必要があるだろう。直ぐ暴力沙汰に結びつけなくても、僅かな骨折りで政治を変える方法はたぶんある。何もしないよりはずっとマシだ。

 

 プーチンは新しい法律を作り、ウクライナ人は今後50年間ロシア入国禁止という決まりを作った。たぶん、薄々感づいているのだろう。個々のウクライナ人がゲバラやレーニン張りのオルギストとは彼も思わないだろうが、マイダン革命をかつてのベルリンの壁崩壊と重ね、現在も執拗に抵抗するウクライナ軍に不気味さを感じているように、これが何なのかは彼にも説明できないのである。そしてトランプは民主主義の教師としては極めて不適切な人物である。