ハーバード大学にケンカを売り、そろそろあちこちから札付きのならず者扱いされているトランプ政権だが、財務長官のベッセントは臆病者揃いのこの政権で、唯一人キーウを訪問した閣僚で、私は何でトランプやバンスがウクライナ訪問を執拗に避けるのか理解できないが、ベッセントについては人を食ったような容貌で政権の通貨政策については「ブレトン・ウッズ体制の復権」が主な狙いらしいと報道があった。
ええと、確か1ドル360円だったか、戦後のアメリカが大盤振る舞いしたこの固定相場制はフォート・ノックスで合衆国の金塊が尽きるまで続き、あまりの負担に耐えかねたアメリカがプラザ合意で変動相場制に変更するまでに日本やドイツなど多くの国で企業家の懐を潤した。こんな相場では何を作っても海外の方がずっと割安で、これらの国々では国内に買う物がなかったので貯蓄を奨励して、通貨が安い上に低い賃金水準で作られた商品はアメリカでは売れに売れた。
ちなみにこれは1970年のVW社のコマーシャルだが、オチは出てくるクルマが全てコマーシャルの時代には倒産してしまったことが挙げられる。ハドソンは確かエアコンを最初に付けたクルマだった。パッカードはパワーステアリングだった。50年代のアメリカ車はどれも十分先進的で機能も優れていたが(Adのフォルクスワーゲンにはパワステもエアコンもない)、いかんせんアメリカで作ったのでは割が合わなかったのである(それだけではないが)。まずテレビのRCAが出て行き、クルマも70年代には国産でも日本など輸入部品をしこたま詰め込んだものになっていた。
※ うっとおしいロゴの出てくるOsbornTramainというのは古いビデオ専門のアメリカのパテント会社らしい。そもそも自分で作ったわけでもないフィルムでパテント主張もおごかましいが、これが今のアメリカというものである。
ベッセントの案はこの「古き良き時代」を21世紀に蘇らせようというものらしいが、今さら1ドル360円に何のメリットがあるか分からない。思うにこれは深い考えではなく、トランプらが提起した高関税があまりに横紙破りで非常識なので、それを相殺する案として提起したものかもしれない。本気とは思えない。
政権にテック大手のCEOが軒を連ねていることから、外国でも米国でもそれまでは時代の寵児だったこれらの経営者には人格を疑う声が出ている。そもそも自由や民主主義といった共通の価値観を持っていないのではないか、普遍的な美徳みたいなものは持ち合わせていないのではないか。疑いは世界中に拡がっており、いちばん弱そうなザッカーバーグが吊るし上げに遭っているが、欧州では報復課税の動きがある。寡占の弊害が出ているから、それはしょうがないことだろう。
目には目を、トランプが70年代の恩讐で過酷な手段を採るなら、報復はもっと過酷なものになる。だから常識的な人間はそんなことはしないのだ。それに今の被害者はアメリカの公務員だが、それ以前の十数年、はるかに多くの人間が彼らの経営の横暴と搾取に晒されてきた。そろそろ年貢の納め時というものだろう。
(補記)
関税交渉で訪米した赤沢経済再生大臣の襟首をむんずと掴まえて、トランプが交渉に濫入したが、いやしくも合衆国大統領ともあろう者がこんな軽量級大臣を掴まえて何をしたいのか分からない。赤沢は該地では副長官クラスの閣僚で、総裁選の論功行賞で大臣の席をあてがってもらっただけの小物にすぎない。決定権などなく、件の訪米も視察といったものである。
この点で、褒める人があまりいない石破政権が外交では意外と賢明な立ち回りをしていることが理解できる。決定権のある閣僚、総理や外務大臣といった閣僚との会談は言質を取らせないため、要請があっても理由を付けて引き延ばし、閣僚の訪米もしなかったために、さしものトランプも小物を掴まえるしかなかったことがある。石破の作戦勝ちといえ、こんな大臣の言の葉は政局ではほとんど意味をなさないことから、我が国の格に見合った対応で、他の国に対する手前もあり、会談は成功と言えるだろう。
この人物が総理に就任した際、戦略家ではないが戦術レベルでは小気味良い働きをするかもしれないと書いたが、さっそく見られるものになった。関税の行方は分からないが、肩透かしを食わせた点、今回の勝者は石破首相として良いだろう。惜しむらくは、この首相の抜きん出た賢明さを理解する国民がほとんどいないことである。