この所はウクライナをあまり取り上げていないが、実は今年の始めからトランプ政権成立に前後してウクライナの戦場は大きく様変わりしている。ドローンがますます重要な兵器となっているが、1月にロシアがクルスクで投入した光ファイバードローンは電波による通信距離がネックとなっていたドローンの飛行距離を飛躍的に伸ばし、これはウクライナ軍の補給線を寸断して同軍を撤退に追い込んだ。



 前年までドローンの飛程は実用的なレベルで1~3キロだったが、増加バッテリーを内蔵したファイバーリールを吊り下げたこのドローンは20キロ先まで進出でき、戦場における野戦築城や戦闘方法、交代要員の配置や兵站線などあらゆる要素に深刻な影響を及ぼしている。



 まず、戦車や装甲車といった重装甲の車両は両軍ともあまり見なくなった。現在のロシア戦車の損害は日数台のレベルであり、損失のない日さえある。これは車両の枯渇もあるが、ドローンが遠方まで進出して車両を破壊するようになったので、高額なこれらの兵器を用いる場面が激減したことがある。現在の戦線への移動手段はまず徒歩、次いで一般乗用車やオートバイである。

 戦線の様子も様変わりしており、迫撃砲や重機関銃陣地は急速に姿を消している。斥候も歩兵によるものはほぼなくなり、ドローンが代わりを務めている。さらに両軍とも土木技術を用いた大規模な要塞線は使われなくなり、周辺の地形に偽装した簡易陣地が用いられるようになっている。戦線の拡大により大要塞に配することのできる人員が相対的に少なくなり、また、人員のいない要塞はドローンや砲撃で簡単に無力化することがある。

 


※ 光ファイバーは案外軽く、一番細いもので1キロ/1万メートルほどである。つまり搭載量に影響しない。光ファイバーは同型品が電子機器のほか催事場のオブジェなどに用いられている。なお、一月遅れでウクライナ軍も同種のドローンを実戦投入した。上写真は両軍の放ったファイバーケーブルで作られた鳥の巣。

 

 塹壕線の長さは昨年までは数キロ単位だったが、現在は長くても30mくらいの陣地が主流である。塹壕の守備のため移動する部隊が狙われることがあり、一堡塁の人員は小隊以下、数人から十人以下となっている。休憩所も以前は前線から500メートル以内だったが、現在はより遠くに設置されている。はるか後方の訓練中の部隊が襲われるケースが多発したため、中隊規模での移動は前線でも訓練でも行われなくなっている。

 クルスクでウクライナ軍を下したロシア軍はスームィに侵攻したが、ウクライナ軍が構築したドローンを中心とする分厚い防御線に阻まれ、1ヶ月ほどの攻撃で攻勢は頓挫している。戦闘は大部隊同士の激突ではなく、こういったマイクロ陣地、マイクロ分隊による重層的衝突で、これまでとは様相が異なっている。

 

2023年におけるロシア要塞線図(BBC)

 

 一昨年におけるウクライナの反転攻勢は、ウクライナ軍の装備が現在のようなものなら、ウクライナは易々と三重に構築されたロシア要塞線を抜いただろう。ロシアも同程度の装備を備えていた場合は、そもそも試みられさえしなかっただろう。

 

※ トクマク市を中心にロシアが構築した要塞線は幅30キロのロシアが構築した要塞線としてはもっとも分厚いものだったが、今から見ると個々の堡塁に配された兵の数が少なく、薄く広く分散したために、戦闘が今のような様相なら突破されたものと思われる。それでも第二防衛線までは突破した。防御線の兵力は現在のポクロフスクは11万人だが、3万人ほどだったはずである。


 補給線については幹線道路など目に見えるようなものはもはや実用に堪えない。昼夜を問わない襲撃を受け、陣地への輜重品の搬送(そして帰路は負傷者の搬送)もドローンが用いられている。迫撃砲弾やロケット弾などは空中を飛ぶ大型ドローンが投下し、陸上を往くクローラードローンは水を運んでくる。ウクライナ軍はクルスクの橋頭堡を今だ維持しており、ドローンの進歩は従来の常識では信じられないような場所での抗戦を可能にしている。



 さらには無人ドローンの一小隊がロシア軍の堡塁を降伏させたことさえある。この戦闘ではドローン隊に加え、歩兵小隊が3個随行していたが、ドローンの攻撃のみで陣地は白旗を上げ、史上初の無人兵器による有人部隊の降伏となった。

 戦車や歩兵隊が前方を守らなくなったため、砲兵隊や対空ミサイル部隊は直接ドローンの攻撃を受けている。昨年(アウディウカ)まで戦場の大勢を決していたのは両軍の大口径砲による釣瓶撃ちだったが、第一次世界大戦以来初めて、大砲が戦場の女王の座から降りることになった。



 ここまでが今年に入ってからの戦場の変化である。戦場の急変から、たぶん両軍とも昨年までは有効と信じられていた計画の多くをスクラップにしなければならなくなった。またこの変化により、師団や航空団をチェスの駒のように動かし、数千キロの前線で対峙して反攻と突破の機会を伺う従来型のウォー・シミュレーション(兵棋演習)は転換を迫られている。

 

 なお、スパイダーウェブ作戦のせいで、「トップガン2」でも花形だった巡航ミサイルによる攻撃はほぼ途絶えている。極東の基地(エリソヴォ、アナデリ)からウクライナまで片道10時間掛かるからだ。

 “War strategy will focus not so much on capturing territory as on depleting the enemy’s resources and capabilities, creating chaos and ultimately eroding the nation’s capacity to resist,”

 “But by then, both demographic and economic constraints will make large-scale territorial warfare prohibitively expensive."

 “Half of winning is knowing what it looks like,”

(Valerii Zaluzhnyi, Ukraine's former commander-in-chief and current ambassador to Britain)

(訳)

「戦争戦略は領土を奪取することよりも、敵の資源と能力を枯渇させ、混乱を引き起こし、最終的に国家の抵抗能力を弱めることに重点が置かれるだろう。」

「しかし、その頃には、人口と経済の制約により、大規模な領土戦争は法外な費用がかかるものとなっているだろう。」

「勝利の半分は、それがどのようなものかを知ることだ。」

(ヴァレリー・ザルジニー、前ウクライナ軍総司令官、駐英大使)

 消耗戦というと、日本人には補給線の寸断で世界戦史でも稀に見る無残な敗戦を経験した太平洋戦争のトラウマがあり、ひたすら窮乏して国も人もボロボロになるまで戦い続けるというイメージがあるが、ザルジニーが提案しているのは「レジリエンス(回復力)」を基軸に置いた消耗戦である。元将軍は、①国家インフラの保護、②非対称戦術、③情報戦の3つをウクライナが抗戦しうる要素として提示している。

 “Large-scale attacks by autonomous swarms of cheap precision drones using entirely new navigation channels will destroy not only frontline personnel, weapons, and military equipment, but also the enemy’s critical economic and social infrastructure,”

 "The challenge is scaling successful innovations while protecting the infrastructure that keeps the country functioning."
 

(Zaluzhnyi, above)

(訳)

「全く新しいナビゲーションチャネルを使った安価な精密ドローンの自律的な群れによる大規模攻撃は、最前線の人員、武器、軍事装備を破壊するだけでなく、敵の重要な経済・社会インフラも破壊するだろう。」

「課題は、国の機能を支えるインフラを守りながら、成功するイノベーションを拡大することだ。」
 

(ザルジニー、上掲)

 元将軍の案はテクノロジーの進歩や財政状況を念頭に、最終的には戦争のコストにロシア国家が耐えられなくなるまで戦闘を続けるというものだが、現在までの様子だと、ロシア軍がキーウに辿り着くまでは70年掛かると言われている。よほどの技術革新がない限り、ロシアが現在の指導者の寿命を遥かに超えた年月を戦い抜けるとは考えにくい。戦線の膠着と先のNATO会議でアメリカを味方に引き込んだことにより、ロシアの敗戦はほぼ確実といえるものになったかも知れない。

 もっとも、ロシア側を見ると、彼らが心底恐れているのはテクノロジー戦争でウクライナに負けることではなさそうだ。

 “Society is probably afraid of its heroes who will return from the front. How to receive them, what to feed them with? It is clear what to feed them with. And not only and so much to feed, but to nourish. A little social preferences, redistributed from other social groups, and a lot of ideology. That same state-civilizational national-imperialism and the "Code of the Russian Man" - and more of it. You are great, spiritual, you do not need material things, the "elites" will eat well for you. And you are heroes, and that is enough.”

 “But will such a replacement of the material with the spiritual be able to calm the demobilized (in all senses) society? Will the Cold War, replacing the special operation, be enough to preserve sufficient elements of anti-Western mobilization?”

 “The inertial degradation of political, economic and social systems continues unabated, no matter how much you tighten the screws and frighten the population with external and internal enemies. And there is a complete lack of ideas about the future and an understanding of the goal-setting of the authorities and society. A long, unhappy, meaningless life.”

(Andrey Kolesnikov, columnist(Новая газета))

(訳)

「社会はおそらく、前線から帰還する英雄たちを恐れているだろう。彼らをどう迎え、何を与えれば良いのだろうか? 何を与えれば良いかは明白だ。そして、ただ食べさせるだけでなく、養う必要がある。他の社会集団から再分配された少数の社会的優遇措置と、大量のイデオロギー。国家文明主義、民族帝国主義、そして「ロシア人の規範」――そしてさらにそれ以上。あなたたちは偉大で、精神的に優れ、物質的なものは必要ない。「エリート」たちがあなたたちのために良い食事を与えてくれる。そしてあなたたちは英雄であり、それで十分だ。」

「しかし、物質的なものを精神的なものに置き換えることで、(あらゆる意味で)動員解除された社会を落ち着かせることができるのだろうか? 特殊作戦に取って代わる冷戦は、反西側動員の要素を十分に維持するのに十分だろうか?」

「政治、経済、社会システムの惰性的な劣化は、どれだけ締め付けを強め、内外の敵で国民を脅かしても、着実に続く。そして、未来への展望や、当局と社会の目標設定に対する理解は全く欠如している。長く、不幸で、無意味な人生だ。」

(アンドレイ・コレスニコフ、ノーヴァヤ・ガゼータ紙コラムニスト)

 ロシアは戦争に勝ちたいのではなく、止められないのである。何らかの形で休戦が成立したことによる社会不安は現体制にとっては存立を揺るがすものである。これまで掠め取ったウクライナの領土、戦闘により大半は廃墟になったドンバスは100万人の犠牲とそれに倍する帰還兵を養うのに十分ではない。また、侵略戦争を行ったロシアとの外交関係を西側諸国が回復させるとは考えにくい。

 間違いは2014年に始まった。プーチンの大統領就任は清新なリーダーを渇望していたロシア国民には歓迎されたが、その後のリーマン危機、シェールガス革命による原油価格の低落は資源偏重型のロシア経済を頭打ちにし、体制への不満が高まっていた。支持率回復を図ったクリミア危機によりロシアはG8からつまみ出され、ウクライナとの際限のない暗闘に突入し、格差は広まり経済はますます低迷した。

 経済の低迷と幾度かあった危機により出生率も低迷し、ウクライナで失った100万人はほぼ同国の出生数である。戦争は袋小路に陥り、おそらくこの倍の犠牲者を出したとしても、ロシアはウクライナに勝利し得ないだろう。

 

 "A greater threat to Putin’s war effort may lie in the economy. Defence spending now accounts for 40 percent of government expenditure. Drawing from the country’s National Wealth Fund has helped stimulate growth – for now. Yet the pivot to a war economy, coupled with sanctions, is creating distortions."

 "Labour shortages pushed wages up 18 percent last year. Interest rates have risen to 21 percent, deterring investment. Inflation is biting. The price of fruit and vegetables jumped 20 percent last year, straining households."

(James Rushton, journalist(The Telegraph),June 2025)

(訳)プーチン大統領の戦争遂行に対するより大きな脅威は、経済にあるかもしれない。国防費は現在、政府支出の40%を占めている。国家富裕基金(年金)からの資金引き出しは、今のところは経済成長の刺激に役立っている。しかし、制裁と相まって、戦時経済への転換は歪みを生み出している。

 労働力不足により、昨年の賃金は18%上昇しました。金利は21%に上昇し、投資を阻害しています。インフレは深刻化しています。果物と野菜の価格は昨年20%上昇し、家計を圧迫しています。

(ジェームズ・ラッシュトン、テレグラフ紙ジャーナリスト、2025年6月)
 

 物価については日本でも似たような症状が見られるのは、アベノミクスの推進で政府と日銀が一体化し、年金基金を運用するGPIFが市場に介入し、上場企業の株式を5~20%保有して準国有化し、寡占化の進行でイノベーションが損なわれ、加えてコロナ対策があったからである。なので、日本人には現在のロシアの苦境は賃金や金利を除けば(全く同じではないが)比較的イメージしやすいものになっている。こういうものを悪政というのだが、批判する者がいないことも両国は共通しているし、こういったものがいずれ頭打ちになり、長続きしないことも確かだ。その後は格差が拡大し、長く、不幸で、無意味な停滞が続くだろうことも共通している。

 温泉で有名な伊東市の市長が学歴詐称していたということで話題になっているが、「東洋大学卒業」が騙るに値する学歴なのか、少なくとも選挙中に連呼して当選に寄与するものには見えないだけに、現にそんな主張はしていなかったようだし、それは詐称は悪いが、話題にするほどのことかと思わせる。

 彼女の学歴については大学に照会するなり卒業証書を見せれば済む話であるが、例えばキャンパス生活があまり意義のあるものでなく、むしろ不快な経験であった場合、卒業証書を破り捨てて廃棄していることも考えられる。

 卒業証書は見たことはないが、権利証(現在は登記識別情報)なら、目の前で破り捨てて破棄したという事例なら見たことはある。そういう場合は本人確認というやや面倒な手続が必要だが、詳しくは聞かなかったものの、怨讐は深いものがあったはずである。伊東市の市長の場合も、そういうものが絡んではいまいか。

※ こうなるとプライバシーの問題にもなるので、「公人だから」という理由一本で吊し上げ(公選法235条)にして良いものかということになる。

 ここでハタと気づくのは、学歴はともかく、政治家は実績が大事のはずで、ここでこの市長につき、彼女の「業績」を語る言葉が何も思い浮かばないということである。よく調べれば、それは何かあるだろう。しかし全体として、政治家としての彼女を立体的に表す言葉が絶対的に不足しているのである。

 事績を表す言葉は簡潔なものでなければならない。簡潔でなければ受け止めることができず、これには単に文理的な意味だけでなく、事実に裏打ちされた公平な評価と言語体系(システム)が必要だ。だが、こと政治については、そういうものが皆目見当が付かないのである。支持政党に尋ねても分からないのではなかろうか。

 見当がつかないばかりでなく、むしろ意識的に開発してこなかったのではないかとさえ思わせる。例えばつい先日、ある政治学者のサイトでどこかの学者が参政党の支持者のことを「被害者意識コンプレックス」と揶揄する言動があった。彼らが立憲民主党を支持するのは別に良いが、私としては彼らのワキの甘さが気になった。

 なぜワキが甘いかというと、「被害者」認定するなら、そういう人間に想定される行動について、この社民党のインテリにはまるきり想像力に欠けていたからである。もし参政党の支持者が「被害者」というなら、本物の「被害者」、犯罪被害者や交通事故の被害者を見てみるがいい。それは正当な要求もあるが、嵩に掛かるとはこのことで、被害者であることを良いことに明らかに不当な要求、圧力を掛けてくる例などザラだ。少なくともこういう「被害者」が、受けた被害以下の要求しかして来ないことはまずありえない。

 これに比べれば、参政党の「被害者」たちの行動は、大体において礼儀正しく、主張も控えめで、「被害者」としては誠に殊勝だとは現在でも言えるものである。先のガクシャも「被害者意識」などと言の葉に載せるなら、想定すべきは参政党支持者の寛容さに甘えるのではなく、「本物の」被害者が取るはずの行動とその対策についてだろう。

 ここでは選挙に正当性の契機に関わる前国家的、自然法的な部分が絡むことが問題になる。これは罰金を払えば良い交通違反切符の世界ではなく、一言で言えば何でもありである。刑罰の歴史など紐解いてみれば良いだろう。もっとも原始的な形態は引き渡しとなぶり殺しであった。処罰感情や損失を「政治的責任」では充足し得ず、賠償も機能しないというなら、それも仕方あるまい。

 それをされないと思っているあたりですでに言葉の誤用があるし、本物の参政党にしても、アメリカでトランプがやっていること以上のことはたぶんしないと思うから、これは「被害者意識」あるいは「コンプレックス」という言葉を充てることが間違っているのである。違う表現を用いるべきだ。

 が、ここで気づくことになる。政治運動を説明しようにも、日本語のこの項目にはポッカリと穴が空いており、実に貧しい語彙しかないことに。その上、知らず知らずのうちに安保闘争時代の術語など使ってしまい、これは誤解され、さらにまずいことになってしまうことさえある。「忖度」という言葉が人口に膾炙したのも、裏を返せば、この分野における実用的な言葉の少なさの裏返しである。

 いずれにしても、伊東市の女性市長に非凡な事績があったとしても、10年後ならともかく、現在の時点で端的に説明する言葉がないことは確かだ。「被害者意識」にしても、明らかに不適切な当てはめであるにも関わらず、言葉と現実との食い違いは粗雑に無視してきたのが実情だ。そしてこのことが問題だとは、今のところ、識者は誰も思っていないようだ。

 「誤解です」は東大生の常套句である。公務員試験とか司法試験なら「撤回します」で済むだろう。だが、胸ぐらを掴まれ、首筋に刃が突きつけられている状況でそれが言えるか。自分の語彙力の少なさと思慮の浅さが生死に関わることになったなら、ヘナヘナと妥協するより仕方がないのではないか。ここでは「誤解」も「撤回」も許してはいけないのである。もし政治家がそれを発したなら、その人物には投票すべきでない。

※ IS(イスラム国)などをイメージすると良い。

 実の所はどうなのかと思ったので、先週の日曜討論で立民代表として出演していた小川淳也氏が本を書いたというのは取り寄せて読んでみることにした。別に私は彼の主張や政策には関心はない。政治現象や民衆現象を正しく捉え、的確に表現し得ているかということのみ関心があり、たぶん出演者の中では折り目正しい秀才で、知力も相当であろう彼にして、古めかしい語彙で、陳腐で珍怪な表現しかできないというのであれば、見たところ番組には彼以上の論客はいなかったようなので、後は推して知るべしということになる。怠慢の罪は重い。

 

 

 

 

 

 

We usually think of narcissism as a personal flaw — a grandiose ego, a craving for attention, a lack of empathy. But what if narcissism is not just a diagnosis, but a lens? A way of understanding how individuals — and even entire nations — cope with wounds too painful to face directly?
(Dr.Gary E Myers, Professor of psychiatry)


(訳)私たちは通常、ナルシシズムを個人的な欠点、つまり誇大な自尊心、注目を浴びたい欲求、共感力の欠如として捉えがちです。しかし、ナルシシズムが単なる診断ではなく、レンズだとしたらどうでしょうか?個人、さらには国家全体が、直接向き合うにはあまりにも辛い傷にどのように対処するかを理解する手段だとしたら?
(ゲイリー・E・マイヤーズ博士、精神医学教授)

※ マイヤーズ博士は南イリノイ大学メディカル・スクール教授、論説はヨーロピアン・プラウダから。

 ネットの匿名性と度を超えた誹謗中傷は、このメディアが始まった当初から問題視されていたものだけれども、彼らの言い分のおかしさや、躾のなっていない子供のような無礼な態度については、「教養が低いから(学がないから)」、「頭が悪いから(IQが低いのだ)」、あるいはもっと直截に「キチガイだから(精神を病んでいる)」で片付けられることが多かったと思うし、実は私もそう思っていた。

 

 「奴らと我々は違うのだ」

 私も面と向かった言動で殺意まで感じることはあまりないが、ことネットの中傷については、より強い殺意を感じる方は多かったのではないだろうか。それはたぶん、心理学者がメカニズムを解明していないだけで、おそらく正しい心的反応なのだろう。現に殺人事件もあり、たいがいは手口は執拗で残忍だ。

 ここで上記の引用をヒントに考えると、これは例によってSVO(特別軍事作戦)について述べた文章だけども、これを読んだ私は、上に述べたようなことととは別に、自分がメガネを購入した時の光景を思い出した。

 私はこういうもの(メガネ)には結構慎重で、何度も測定させ、時には複数の店で検討し、いつも店員が推奨する度数より一つ小さい度数で購入する。もちろん少し見にくいが、おかげで視力が落ちず、メガネが必要になった大学受験の時から視力がほとんど落ちていないことがある。実は運転免許も「眼鏡なし」で通っている。しかし、メガネを外すのは試験場だけだ。やはり運転に支障が出るので。

 普通の人は眼鏡店の自動測定機の結果のまま、店員が勧めるメガネをそのまま調製する方が多いと思う。そしてたぶん、2~3年後にはもっと強い眼鏡が必要になる。メガネ屋も商売なので、一概には非難できない。

 ここで先の引用を敷衍すると、最近はとみに目立つ排外主義や極論を吐く輩とこの私の違いは、実は受けた教育や教養知性の違いではなく、掛けているメガネが違うだけという見方も考えられる。

 いわゆる識者では、リベラルの政治学者である中島岳志と、ほぼ同じ歳の参政党の神谷宗平を考えてみよう。本当は山口二郎が良かったが、彼の年齢の極右アクティビストはいないので、より若い中島にした。

 一般的な理解では、この二人はまるきり別の人種である。が、ここでの見方では、この二人は同じ日本語を話すし、政治に関心があり、現状を憂いているので、これはベクトルは正反対だが、全般的な傾向は全く同じと考えることができる。今のところはおとなしい中島より、神谷の方にやや分があるようだ。

 

 この二人の違いは単に掛けているメガネが違うだけである。メガネの商品価値のほとんどがレンズなので、「レンズが違うだけ」と言い換えても良い。

Narcissism, whether personal or collective, doesn’t begin in arrogance. It begins in pain. A wound that feels too dangerous to name — too humiliating to acknowledge — gets buried. And what grows over it is a mask: invincibility, righteousness, exceptionalism.
(Myers, above)

(訳)ナルシシズムは、個人であれ集団であれ、傲慢さから始まるのではない。痛みから始まるのだ。名付けるにはあまりにも危険で、認めるにはあまりにも屈辱的な傷は、埋もれてしまう。そして、その上に覆いかぶさるようにして育つのが、無敵、正義、例外主義といった仮面だ。
(マイヤーズ、前掲)

 これが「レンズ」の正体である。中島のレンズには、たぶん「痛み」はないが、多くの聴衆を惹きつける神谷のレンズにはそれがある。そして、結ぶ像の輪郭もだいぶ異なる。

But the pain doesn’t disappear. It distorts. And it demands constant maintenance.
(Myers, above)

(訳)しかし、痛みは消えません。むしろ歪み、継続的なメンテナンスが必要になります。
(マイヤーズ、前掲)

 先に私自身のメガネ選びの例を挙げたが、私はメガネには「慎重な人」である。中島もたぶんそうだろう。しかし神谷は「普通の人」であるので、普通の選び方をしているようだ。そして、世の中にはメガネに限らず、神谷のような選択が圧倒的に多い。ナルシシズムには定期的なメンテナンスが必要で、それが彼らが容易に集団化し、同じ負の感情を舐め合う同志で連帯する理由である。

※ このあたりは維新よりもずっと前からアニヲタやネトウヨの行動原理を見てきた私には何となく分かる。特に人のサイトに電凸するような輩の心情風景には間違いなく「負の感情」がある。

 いや、そんな有害メガネ、普通は売らないでしょという意見はひとまず措く。彼らは「否認」を核に置き、ネガティブな感情を積極的に肯定して持論を展開する。議論は噛み合わず、たいがいは感情的な対立に陥る。

 治療法は、実はないこともない。博士はウクライナの例を挙げている。

In Ukraine, I’ve seen a kind of cultural resilience that doesn’t rely on fantasy. People write poetry about loss, gather in liturgies that name sorrow, and rebuild even in the midst of grief. Their strength doesn’t come from pretending not to be hurt. It comes from facing pain head-on and refusing to let it define the future.
 

In the Christian tradition, there’s a word for this: transformation.

(訳)ウクライナでは、空想に頼らない、ある種の文化的レジリエンス(回復力)を目にしました。人々は喪失について詩を書き、悲しみを象徴する典礼に集い、深い悲しみの中でも再建に取り組みます。彼らの強さは、傷ついていないふりをすることから生まれるのではなく、痛みに真正面から向き合い、痛みに未来を左右させないことから生まれるのです。

 キリスト教の伝統には、これを表す言葉があります。「変容(トランスフォーメーション)」です。

 私も三年間観察してきたが、この戦争を見ていて感心するのは、当の被侵略国のウクライナ、迫害された歴史を持ち、今もロシアの侵略を受けている、の国民に悲壮感がまるきりないことである。毎日前線では百数十人、都市でも数十人が死亡しているのに、地下壕では詩や歌を楽しむ余裕があり、爆撃でも被災した動物(主にペット)を消防隊員や空挺隊員が率先して救助し、参謀本部が「文明の尺度は動物をどのように扱うかによって測られる(ガンジー)」などと公然と言っている国は他にない。ウクライナ軍の戦果報告は戦争全期間を通じ、他のどの国の機関よりも精確である。これは二倍三倍水増し当たり前のロシアとは好対照をなしている。

※ 上のガンジーの言葉はウクライナ軍の参謀報告でたびたび引用されている。

 戦術や兵器の選択も実践的だ。例えばウクライナ大統領が散々懇請し、やっと少数が支給されたM1戦車、湾岸戦争で活躍した世界最強の戦車である、も、被弾して戦況不利と見るやアッサリと乗り捨て、もっと軽快なブラッドレー装甲車やマックスプロ軍用車に乗り換えてドローンで反撃するさまは、彼ら一人一人が個々の戦闘ではなく、戦争全体を考えて行動していることを示している。

 

※ 戦車より熟練した搭乗員が大事という考えは一貫している。

 なので陣地に近接されれば、装甲は薄いがより軽快で射撃の正確なレオパルド1型戦車で踊り込んで零距離戦闘を挑む。この変幻自在の柔軟性はロシア軍も、おそらくはアメリカ軍も遠く及ばない所である。これが兵器の質と量では圧倒的な差があるにも関わらず、ウクライナが三年間戦い続けられた理由であり、その基底には確かに「痛みに真正面から向き合い、痛みに未来を左右させない」意思を見ることができる。ウクライナの強さは参謀本部や軍隊ではなく、一人一人の国民の強さにある。

Collective narcissism tempts us to craft identities out of denial. It thrives on stories of victimhood that never admit weakness. But genuine healing — national or personal — requires something much harder: the courage to feel pain, the humility to learn from it, and the imagination to build something new from its ashes.
(Myers, above)

 集団ナルシシズムは、否認からアイデンティティを作り上げるよう私たちを誘惑する。それは決して弱さを認めない被害者意識の物語を糧に育つ。しかし、真の癒し――国家的なものであれ個人的なものであれ――には、はるかに困難なものが必要だ。痛みを感じる勇気、そこから学ぶ謙虚さ、そして灰の中から何か新しいものを築き上げる想像力だ。
(マイヤーズ、前掲)

 誤ったメガネを掛けてしまったなら、掛け直すことを勧めなくてはならない。しかし、他人が指摘できることはここまでで、それがメガネを選んだ本人の人格とか、勤める会社の勤務評定とか、とっくの昔に卒業した中学校の卒業アルバムなどに及ぶようであっては五十歩百歩の泥沼の争いに陥りかねない。連中との議論では、平穏に話し合いができるはずの内容が、簡単に人格否定と罵倒の飛ばし合いに陥る。

 住所や電話番号を調べ上げるなどは、連中は良くやることである。実は私も何人か手づから始末したことはある。が、それは意味のないことであって、本質とは全く関係のないことで、正当化できてもせいぜい自衛のためでしかなく、他には何の寄与もない、ムダな行為であることも指摘できることである。それが戦争であっても、相手を破壊することは問題解決の道ではない。ウクライナの場合も、ウクライナ国民の真の勝利はロシア国民の見方を変えることである。

 同じように、リベラル勢力がMAGAの豊富な資金をバックに勢力を伸ばしている参政党や同じ極右の維新に対抗するには、今は手の打ちようがないように見える支持者を「トランスフォーメーション」させるしか方法はない。

 まず、相手(参政党、維新、ネトウヨ、その他大勢)を対等な人間として認めることから始めよう。それから掛けているメガネを外してもらい、別のメガネを試してもらうことを考える。メガネ選びの過誤はその人間の罪ではない。不幸にして毒メガネを掛けてしまった側がそうした働き掛けをすることは皆無に等しいので、これは普通のメガネを掛けている者が率先してしなければならないことである。

 

 多少は公的で、多少は政治的影響力のある場で発言するなら、彼らの議論の矛盾や非倫理性を攻撃するのではなく、彼らを支持する人々の核にある「痛み」についての議論を議題の中心に据えるべきである。

 

(補記)

 実を言うと、個々の演説では、上記のようなことに触れている政治家は決して少ない数ではない。が、党など政治集団の方針として採用している例は皆無であり、有権者には政治家はおだめごかしは選挙の時だけで、普段はもっと違うもののために働いていると思われているのである。このことは活動資金や支持者、選挙割など複雑な事情が絡むが、そんな解像度の低い論説でも、当人が思いもしないのに「風が吹く」ことがあることは、個々の政治家には身に覚えのあることであるはずである。こと我が国では、政治家個々の出自は様々だが、彼らを束ねる政党の(憲法上の)政治的地位があいまいで、政党は野卑な権力闘争ばかりしているように見え、行動に科学性と予測可能性がないことも有権者の不満に拍車を掛けている原因の一つである。

 

 このブログでは石破首相の外交政策については、割と「評価する」記述が多かったと思うけれども、それは結果的なもので、例えるなら剣道やフェンシングの試合で、うまく切っ先をかわしているので負けはしなかったという意味の「評価」である。

 スポーツの試合ならそれでも良いが、政治家ともなればそれだけでは評価できない。この人物が就任した際に、私は「戦術家」と評したけれども、そのことについては期待以上で、トランプのような難しい人物相手に良くぞここまでとは評価したいが、政治家はそれだけで点数はやれないのである。対米交渉は行き詰まっているようだ。



、、対米投資額の大きさをアピールしている石破茂首相について、玉木氏は「石破さんは“投資を増やした”とか何とか言っていますが、関心ないですから。トレードディフィシット(貿易赤字)をいかに小さくするかなので」と、論点のズレを指摘した。

 玉木氏の言はともかく、私は首相の外交折衝については意見の必要はないと思っていた。もっと情報のあるブレーンがおり、時宜に応じたもっと適切な案を検討しているはずで、緊迫した伸るか反るかの状況でネット民ごときが口を出してもしょうがないと思っていたこともある。が、この意見には同意するところがあり、私もトランプ・ナバロ関税の原点に戻れと言いたい。

 

※ 右傾化している国民民主党の玉木はトランプのメッセンジャーと見ても、実はそう外れてはいない。参政党などMAGAは水面下で日本政治に工作してきた。

 


 みんな忘れているが、3ヶ月前のトランプ関税で失笑は買ったが、それなりに筋は通っていた公式には提起された問題もあった。この式では貿易差額が問題であり、差額さえゼロになれば理論上関税はゼロになる。そういうものであった。関税には一律10%の基礎部分があるが、これには理論的根拠がなく、トランプでさえ理由を説明できないものだった。つまり、10%は交渉余地がある。

 石破政権の交渉手法で問題なのは、玉木氏が指摘したように、巨額の対米投資やデジタル黒字は問題にしても、貿易不均衡については手つかずで残っていることである。七回もアメリカ旅行した赤沢氏もこれには触れなかったし、彼のパトロンであるトヨタの会長も都合悪いのかこれは避けていた。

 ここでは「貿易」という概念の理解に日米双方で隔たりがあることが問題である。日本側は国際投資も含む収支の総体として理解(それ自体は常識的でまとも)しているが、アメリカ側は経済学の教科書に載るようなごく一般的な理解である。これはアメリカ人が見方を変えれば良いだけの話であるが、80の年寄りを説得することはトランプでなくとも困難であるし、トヨタの手代の赤沢も自分の両親を思い出したせいか説得すら試みなかった。

※ どうもトランプだけではないらしく、この貿易理解は国務省の官僚もかなりの数がいるようである。国務省の官僚の意見を変えるには、アメリカ国民の理解を変えなければならないから、これはどの政権でも基本的な前提問題である。

 

※ 勘定項目が違うので、対外投資やデジタル黒字は貿易収支には計上されない。たぶん、これらを含んだ+-は日米貿易でもほぼゼロのあずである。が、これは日本国民の常識ですらない。

 ここではNATOのルッテ首相がトランプを「パパ」と呼んだことが含蓄深く思い出される。見方を変えるべきはトランプではなく石破の方である。ここで忘れかけていたあの公式が意味を持って来る。



 要は貿易不均衡を是正する措置を採れば良いのである。それも一時的にではなく恒久的に、為替相場による調整メカニズムは不完全で、実はそう長い歴史のあるものでもない。プラザ合意からわずかに40年だ。中国などは今だに固定相場制であるし、たかだか一世代前の常識を永遠の真理のように錯覚することはやめるべきだ。少なくとも江戸時代にはこの制度(変動相場制)はなかった。

 具体的には、日本国民にもっと現金を配る政策をすべきであるし、かつての満州国に似た、黒字を海外に再投資するのも上前をしっかり撥ねて再配分に廻すべきだ。カネは必要だし、再配分をもっとも効率的に行えるメカニズムは国家であってトヨタではない。それに投資の増減にはトランプは無関心だ。

※ ただ、こういうことには時間が掛かるので、対トランプでは即効性のある措置を打ってやり、加えて長期的改善に資するような提案を日米双方の国民に目配りしつつ、どこまで受け容れさせるかが問題である。

※ トランプはすでに匂わせているし、オランダのようにタックスヘイブン含む、海外での経済活動を含んだ企業の総体に課税するという税制改革も必要だろう。また、タックスヘイブンに関連して骨抜きにされている同族企業課税も再検討して良い。

 レソトのように輸出のほとんどをアメリカに依存していたような国には声を掛けてやり、ジーンズくらいはみんな買ってやるべきだ。それで日本国民の誰が困るというのだろう。

※ トランプで困っている国々に対しては、人気取りをすべきである。アフリカは人口伸長地域で、これは将来に役立つ。あと、イスラム教徒は将来的に世界人口で相当割合になるから、アメリカ人の報道は割り引いて良くしてやるべきである。イスラエルなんかあと100年経っても人口は500万人のままだ。これは私が小学生の時もそうだった。日本はもう少しイスラムに寛容であって良い。テロは願い下げだが。

 私は首相の外交手腕を評価しているけれども、欠点を挙げるとするなら、現在でも内政でことごとく躓いているように、この人物が国益に無関心なことである。国益とは潰れかけた日産を救い、トヨタが世界一の自動車会社になることではない。すべての国民にまっとうな収入を与え、能力と才覚に応じた働きの場を与えることであり、寡占資本家の自己満足ではない。それが分かっていないから、この人物の表情には笑顔がなく、国民も笑顔にならないのだ。

※ 出生率などは典型で、日本国民の大半は政府に期待してない。財務省が家計と消費税に寄生し、ほとんどすべての国民に損失ばかりを与えてきたからだ。

 「理屈は結構、国民が喜ぶような具体的な利益を持って来い」、これが今の首相に言いたいことである。相手は中国でもロシアでも構わない。それは私はロシアがウクライナでやっていることは非難しているし、中国がコソコソと殺人ドローンを極東で作ったり、アルバイトの兵隊を送っているのも全然気に入らない。が、そのくらいの現実感覚がなければ、この危機はとても乗り切れないのではないか?

 個人的には、以前とは考えを変え、ロシアと取引することは必ずしも悪いことではないと思っている。現在のロシアは特別軍事作戦のやりすぎで極端な労働力不足と民間資本不足に陥っており、日本が喜ぶものを輸出したくても、石油以外は何もないという状態である。その上一部の油田は枯渇が囁かれているし、元々ロシアの石油はヨーロッパ専売である。ここで日露貿易を再開することは、現在の特別軍事作戦の遂行を困難にすることはあっても、これで儲かる程度の現金で戦局がロシア有利に傾くことはありえない。漁船に乗る船員さえいないのだ。

※ 石油やガスのようなオリガルヒが喜ぶようなものではなく、コモディティを輸入するなら特別軍事作戦に参加する兵隊はいなくなり、ロシア軍も軍拡を諦めて、戦争は自動的に終わる。実はそんなに難しくない。ロシアに工場を建て、あるいはロシア人に建てさせて、我が国の基準で普通の給料を払うだけのことである。

 

※ 油田については本当に枯渇しているようなので、ウクライナに倦んだロシアはどうもコーカサス、アゼルバイジャン侵略を考えているらしい。

 中国については、あまり詳しいことは知らないが、レアメタルなど資源を引き出す方法はあるように思える。貿易収支に影響するとは思いにくいが、例えばこの資源の開発を国を挙げて行ったことにより、中国は環境汚染が深刻化している。レアメタルはウクライナで採掘するよりはずっと平易で、かつ、双方にメリットのある提案である。そもそも国内で適用している環境基準を海外では不適用というダブルスタンダードに問題があった。中国が日本の古い技術で公害自動車を製造するのは勝手だが、それを日本に持ち込む際には三倍くらいの関税と法人税の最高額を製造会社と技術を提供したホンダに掛ける分には誰も困らない。地球に対する罪は重い。

※ 「モノ作り」で人口の多い中国が有利なことは否めない。が、ロシアでも他の国でも中国製品の品質は悪い(すぐ錆びる、壊れる、長持ちしない)ことには定評がある。我々としては、きちんと消費者に情報を提供してやり、粗悪品を買わなければ良いだけのことである。まともなものだけ買えばいい。

 トランプが貿易や経済原則にことごとく背馳するような政策を取るというなら、反感を持つ国からは利益を引き出せば良いのである。アメリカと一緒に日本まで貧乏になる筋合いはなく、また交渉でも青筋立てることはなく、目的を厳選し、笑顔で交渉に応じ、アメリカからも必要な利益をせしめれば良いのである。

※ この点、トヨタの会長が堅持している「自動車関税25%撤廃」は、関税は相手の国のことであるし、裾野も広汎すぎて妥結する見込みはないと言うべきであろう。だいたいこの人物は家柄自慢の自動車レーサーの遊び人で、海外のことは知っているはずだが、優れた外交手腕や経営手腕で定評のある人物ではない。

 実は私は首相にここまでは期待してない。期待しても泥舟自民党に何ができるとも思えない。幹事長は労働人口3%のコメ農家のためにまなじりを決している始末だ。こんなものに何が期待できるだろう。そもそも私にはほとんど関係がない。関係がないから、彼らの失敗は私の責任ではない。

 しかし考えを変えることはでき、トランプの任期はまだまだ続くことから、ここはこの機会を利用して、これまで溜まりに溜まった問題につき、本気の体質改善を考えたらどうかと提案するだけである。しなければしないで、アメリカと同じような社会になり、同じように沈んでいくだけである。いや、あちらは資源があるから、沈むのはこちらの方がずっと早いだろう。
 

(補記)

 つい先日、郵便配達のバイクがモクモクと白煙を上げているのを見て、配達員のいない間にオドメーターを見ると8万キロであった。スーパーカブは頑丈さに定評のあるクルマだが、10年ほど中国で生産していたことがあり、このタイプは中国製だったはずである。郵便集配用のバイクの耐用年数と距離は7年8万キロで、今の事情では耐用限界の超過したモデルも用いられているようだが、メーカーは少なくともこの距離プラスアルファ(約10万キロ)は持つように作っていたはずで、これがこのクルマだとすると生産管理を日本人が監督したといっても中国製のカブにはやや難があるという印象である。それに日本郵政のバイクが定期的な整備を怠るとも思えない。あるいはホンダが考えを変え、8万キロで壊れるように作ったのかも知れない。現在のカブの生産は現在は再び日本に戻っている。為替事情もあるが、日本郵政に納品して何らかの問題もあっただろうことは考えられる話である。なお、集配用のバイクにはほかヤマハ・メイト、スズキ・バーディーがあったが、20年前に製造終了し、現在は集配用のバイクはホンダ一択である。

 


Sometimes, in diplomacy as in life, stability is the most underrated success.
(Olena Tregub, civil society leader (Ukraine))

(訳)時には、人生と同じように外交においても、安定は最も過小評価されている成功です。
(オレナ・トレグブ、市民運動家、NAKO事務局長)

※NAKO(独立汚職防止委員会)はウクライナのオンブズマン

 6月末、オランダのハーグでNATO首脳会議が開かれたが、会議の内容は毀誉褒貶が分かれるものだった。この会談はロシアの脅威への対抗とウクライナ支援の継続がメイン・テーマだったが、短い会議はほぼ全日、気まぐれなアメリカ大統領の歓迎会と化し、ハーグ離宮を借り切ったオランダ王室総出の歓待ぶりに大統領は終始ご満悦であった。成果の見た目の貧しさと、首脳陣のあまりの媚態ぶりには、メディアの中にはこれを屈辱と捉えるものもあった。

オランダのアレクサンダー国王とマキシマ王妃

 例によって慇懃無礼なトランプは会議中にルッテ事務総長(オランダ首相)からの私的なメールを暴露して事務総長に恥を掻かせたが、氏はトランプをさらに褒めそやし、大統領を「パパ」と呼ぶ媚の売りようだった。2日間の会談の成果はわずか450語、5条の宣言にまとめられたが、そのいちいちにトランプは賛意を示し、ルッテの勧めでゼレンスキーとも会談した大統領は上機嫌でハーグを後にした。

※ 通常、NATO会議の宣言の平均は5千語程度である。

 「首脳間の雰囲気を知りたければ、マルク・ルッテ首相のメッセージに書かれている内容とほぼ同じだ」とは、この会合に同席した関係者の言葉である。

 

「大統領閣下、親愛なるトランプ様」と媚びまくっているルッテのメール、トランプ風に平易な文体で大文字で強調表示しているのが痛々しい。

 

 なお、開催国でありながらトランプにオランダの拠出額の少なさを指弾されたルッテ首相は事務総長でありながら集合写真では最末尾に配され、メール暴露に続く屈辱を味わった。トランプの隣に配されたのは、彼のお気に入りのイタリアのメローニ首相である。



※ こちらの勘違いで、最終版の公式フォトを確認すると、拠出額の少なさを指弾されて最端に配されたのはオランダではなくスペインのサンチェス首相である。トランプは国王夫妻の隣にあり、ルッテはその背面にいる。なお、ゼレンスキーはマクロン、スターマー、ライエンのヨーロッパ三巨頭がぐるりと取り囲み、ウクライナに対する支持の強固さを暗示している。さすがに事務総長を最末席はない。

※ メローニがトランプの隣にある写真は確認できなかったが、私が読んだ記事ではそうあり、公式写真は何枚もあるので、中にはそういうものもあるかもしれない。上の一文は間違っているが、断言もできないのでそのままにしておく。

 前回の大統領執務室での事件で服装を指弾されたウクライナ大統領は黒づくめの、見ようによってはスーツにも見える怪しげな服装でトランプと対面したが、この譲歩は特に大統領に感銘を与えなかったようである。が、待ち受けていたマスコミは一斉に「両国首脳の和解」を声高に報道した。


新型ゼレンスキー服、デザインに苦慮したことが伺える

 これを見た私としては、久しぶりに感動したことを覚えている。立派な人たちだ。人間性の気高さは必ずしも高潔な行いの中ばかりにあるのではない。嘲笑や軽蔑に晒され、それに耐える人間にも見られることがあるのだ。媚態が彼ら自身の国家と国民に対する責任感から来たものだという証拠は、宣言における以下の文言にある。

NATOのルッテ事務総長

Allies reaffirm their enduring sovereign commitments to provide support to Ukraine, whose security contributes to ours, and, to this end, will include direct contributions towards Ukraine’s defence and its defence industry when calculating Allies’ defence spending.
(NATO declaration on Ukraine and defence spending, Article 3)


(訳)同盟国は、ウクライナの安全が我々の安全に貢献する同国を支援するという永続的な主権上のコミットメントを再確認し、この目的のため、同盟国の防衛費を計算する際に、ウクライナの防衛と防衛産業への直接的な貢献を含めるものとする。
(ウクライナと国防費に関するNATO宣言、第3条)

 これを読んだ瞬間、絶望的な戦いに一筋の光明を見出した会合の関係者に快哉を叫びたくなったというのが本当の所である。何という立派な人たちだろう。

 トランプは全てのNATO加盟国に一律GDP5%の防衛費増額を求めたが、第3条はその一部をウクライナへの支援に充当することを可能にするものである。ほか、第1条は集団防衛の原則(NATO第5条)の確認を、第2条ではロシアが直接的な脅威として名指しされている。そして画期的なことには、第3条により、今後のウクライナ防衛をNATO加盟国が予算で下支えすることが確認されたことがある。

 提示された理由によれば、一律5%といっても、ルクセンブルクやモンテネグロなど、元より小規模な自衛軍しかない軍隊ではこれだけの予算を消化し切れないことが挙げられたが、これは便法といえ、予算の多くがウクライナの軍需産業の育成に充てられることは明らかだ。

 ヨーロッパは優れた兵器を持つが、多くがアメリカのサプライチェーンに組み込まれ、また高コスト体質で急速に兵器生産を拡大しているロシアには追いつけないきらいがあった。NATO加盟国全ての軍需生産を合わせてもロシア一国に遠く及ばず、複雑すぎる工程は生産の拡大も困難な状況がある。

※ カルロス・ゴーンが日産を追放されなければ、この事情は改善された可能性がある。が、今の彼は日仏双方から逮捕状を出され、レバノンでイスラエル軍の爆撃を受ける身である。

 ウクライナの軍需産業は戦前は無に等しかったが、旧ソ連の時代に航空母艦を建造し、大型航空機や弾道ミサイルを製造していた実績があり、またドローン技術においては世界一の水準にある。すでに対艦ミサイルや長射程ドローン、弾道ミサイルを実戦配備しており、多くは戦争による急場凌ぎのものだが、どのNATO諸国よりも効率的で実践的な生産システムを確立している。ただ、慢性的に資金が不足している。

※ あまり知られていないが、ロシア艦隊の最大艦、空母クズネツォフやミサイル戦艦ピョートル・ヴェリーキーはウクライナ製である。

 気まぐれなアメリカ大統領の所業はしばしば条約を超越するが、この会合には実はもう一つの狙いもあった。ハンガリーはNATO加盟国では親ロシア、反ウクライナの急先鋒だが、首相のオルバンは会議前はウクライナ支援を議題から排除すると息巻いていた。この言い分は会合前のトランプのそれとほぼ一致しており、ハンガリー外交は伝統的に米国と深い繋がりがある。

ムダに豪華なNATO晩餐会だが、これも仕掛けの一つである

 が、結局は宣言に賛成し、対ロシア戦略とウクライナ支援は宣言の中核的内容となった。王宮での歓迎に気を良くしたトランプが前言をほとんど撤回し、トランプに同調していたオルバンも主張を取り下げざるを得なかったのである。長年の強権支配でオルバン政権が弱体化していること、それだけ政権がトランプに依存していることを見透かしたNATO首脳により、ハンガリーは無力化されたのである。その後ハンガリーではプライドデモが再燃し、オルバン政権は窮地に追い込まれている。

 会合後、ルッテ事務総長は今回の会合はウクライナのNATO加盟への架け橋を築くものとし、加盟は既定の方針となったが、このコメントが米国の同意なしに行われたものでないことは明らかで、これはウクライナ問題に対する米国のコミットメントの変化と捉えられている。

 帰国したトランプはかつての盟友で今は宿敵のイーロン・マスクの国外追放と、自らの企業の減税をも含む「大きな美しい法案」を巡って議会と抗争中だが、ハーグ会談でまんまと譲歩させられたことについては、あまり気にしている様子は見えない。このあたりヨーロッパ外交の老獪さと精髄を見たような気がし、私も久しぶりに良い気分である。激しい言葉で罵倒し合うばかりが外交ではないことをNATO首脳陣は実地に証明した。

 一方、トランプの矛先は我が日本にも向けられている。石破首相は対内的にはコメ対策における不手際など、あまり褒められない話が多いが、対外的にはほぼ無謬と言って良く、ゼレンスキーのような吊し上げの危機も紙一重でかわし、今まではかなり上手に情勢を立ち回って来た。今回トランプが突きつけてきた35%の関税は石破外交最大のピンチと言って良く、これをどう切り抜けるかはしばし見ものである。

 首相についてはいろいろ言われているが、大学における留学生予算の拡大はトランプが行っている大学教育の解体を念頭に置いたものである。ヨーロッパはすでに先行し、すでに数百人の研究者がアメリカから逃れ、ヨーロッパでは彼らに国内研究者と同等の待遇と混乱が終息するまでの避難所を提供する措置がすでに取られている。同じことを日本が率先した行ったことは評価して良い。普通の状況とは違うのだ。

※ 措置には嫉妬じみた非難も見られるが、学際ナショナリズムと言って良い。世界を論じるには、この人たち(我が国の一部研究者)は器が小さすぎる。

 彼にとっての幸運は、今の天皇は以前と違って文科系で、元外交官の皇后も語学堪能で外交上の問題は少ないことがある。彼女の父親と異なり、妃が経験を積んだ老練な外交官とは私は思わないが、イギリス王室の助言を仰いだり、「助言と承認」については考える所はあろう。

 後は首相の演技力だが、前回の対談を見る限り、かなりやれそうな気はしている。前任者の安倍晋三のような天賦の才は彼には期待してはいけないが、いずれにしろトランプにとっては自分以外は三枚目で、元ビジネスマンで青年会議所のルッテにできたことなら、彼にもできない道理はないだろう。
 

 

 最初から上手く行かないことは分かり切っている爆撃だった。イランの核濃縮施設は90mの深さにあり、爆撃で通用口が塞がれ、電源も喪失したものの、瓦礫は数週間もあれば除去はでき、中にある核物質(濃縮率60~80+%)を取り出すことはそう困難ではない。

 上手く行かないというのは、バンカーバスター爆弾の掘削力はコンクリートで60メートルだが、掘削する深さは運動エネルギーの4分の1乗に比例するからである。

 つまり、重さ10トンのバンカー爆弾の重量を二倍にしても、貫通できる深さは70メートルにしかならず、施設の深さは90メートルであるから、これも届かないとなる。それに今の爆弾も湾岸戦争で用いられた初期の貫通爆弾(2.2トン)に比べるとかなり大型である。それでも貫通力まで2倍になったわけではない。

 高度を上げれば運動エネルギーは高さに比例するから、2倍の高さなら同じ重さの爆弾でも2倍のエネルギーで直撃することが可能であるが、あの爆撃機(B-2)のフォルムを良く見てもらいたい。ゲイラカイトのような形をし、全面が灰色で塗色されている。これは高高度飛行専用の機体で、この作戦でも爆撃機は高度一万五千メートルの成層圏からエネルギーが最大になるように投弾したはずなのである。

※ 映画「シン・ゴジラ」では同じ爆撃機がごく低空から貫通爆弾を投弾していたが、知らない人の誤用で、本来はこういう用い方をするものではない。



 B-2の実用上昇限度は一万五千メートルなので、これ以上上昇の余地もなく、この爆弾では施設を破壊できないことは明らかだった。アメリカ空軍はかなりトリッキーな戦術、同じ場所に爆弾を2発落として貫通を狙ったが、航空写真を良く見ようとなる。ファルドゥは明らかに山岳地帯で、上空からは侵食の跡がハッキリ見える。つまりこれは岩盤(玄武岩、花崗岩)で、岩盤の硬さはコンクリートの2倍であることから、60メートルの掘削深さは30メートルになり、2発落としても貫通できないとなる。

 

 貫通できる場合も、効果があるのは1発目が開いた穴を2発目が何の抵抗もなく通過できた場合だけで、実際はあちこち跳ね返り、深さは良くて40メートルだろう。

 空軍はついでに護衛戦闘機を送り、適当に爆撃して基地に火災を生じさせたが、アリバイ作りであるように見える。これは住民により撮影され、爆撃が成功したように思わせた。たぶん、実行する方も分かっていたのではないか?

※ 当初提示されていた案では爆弾の貫通力が不足することは明らかだったので、投下前に通常航空機による大爆撃隊を出撃させて岩盤を貫通爆弾が有効な深さまで掘り崩す、破壊の確実を期すため戦術核爆弾を用いるなどの案があった。結局、いちばんお粗末な案に落ち着いたことになる。

 イランに核運搬キャリア(弾道ミサイル、魚雷など)の計画がないことは情報部の精査ですでに明らかになっていたが、その割には相当な量の高濃度核物質(400kg)を溜め込んでいることが知られており、天然資源が豊富で原子力発電に依存していない国としては周囲に疑念を抱かせるものだった。

 ちなみに同等のプルトニウムを日本は約2トン保有している。核兵器に必要なプルトニウムの量は概ね5~10kgほどで、濃度にもよるが、イランは20発ほど、日本は100~200発ほどを製造できることになる。このプルトニウムは原子力の平和用途には全く必要ない。

 爆撃の効果もあり、イランはトランプが提案した停戦に前向きの姿勢を示しているが、擬態と見た方が良さそうである。イランには運搬手段はないので、製造した爆弾はテロ専用と見て良く、しばらく後にアメリカのどこかの都市で核爆弾が炸裂するかもしれないが、それまでは渋々加盟していたIAEAからも北朝鮮に続いて脱退を決めたことがあり、計画を察知したり止める手段もなさそうだということがある。

 それを止めるには、やはり地上軍を送らなくてはならない。爆撃は短慮で、違う方法があったはずだと思っているのは、私だけではないだろう。

 

 もう一つ付け加えると、同じ攻撃は二度とできない。アメリカ空軍にあるMOP(大型貫通爆弾)の総数は20発ほどで、今回の攻撃で14発も大盤振る舞いしたため、残っている爆弾はもう数発しかないのである。

 

Caught in the trap

Airpower, even when paired with intelligence networks, has never toppled a government. Since the dawn of strategic bombing doctrines in World War I, early airpower theorists were captivated by the idea that, if organized correctly, bombing campaigns could encourage populations to revolt against their own governments. Since then, militaries have attempted a wide variety of schemes, including the intense bombing of cities to compel civilians to rise up and demand that their government make whatever concessions necessary to halt the assault. In over 40 instances of strategic bombing from World War I to the first Gulf War in 1991, such barrages, whether concentrated and heavy or light and dispersed, never compelled civilians to take to the streets in any meaningful numbers to oppose their governments.
(Robert A. Pape,  Professor of the University of Chicago)

(訳)罠に掛かった

航空戦力は、諜報ネットワークと組み合わされても、政府を転覆させたことはない。第一次世界大戦で戦略爆撃の教義が始まって以来、初期の航空戦力理論家たちは、正しく組織されれば爆撃作戦は国民を自国政府に対する反乱へと駆り立てることができるという考えに魅了されていた。それ以来、軍は、市民を蜂起させ、攻撃を中止するために必要なあらゆる譲歩を政府に要求させるために、都市を集中爆撃するなど、さまざまな計画を試みてきた。第一次世界大戦から1991年の第一次湾岸戦争までの40回を超える戦略爆撃の事例では、集中的で激しいものであろうと、軽く分散したものであろうと、そうした集中爆撃によって、政府に反対するために有意な数の市民が街頭に繰り出すことは一度もなかった。
(ロバート・A・ペイプ、シカゴ大学教授)

 

 トランプ氏がG7の会場から突然姿を消したが、聞く所によると、どうもゼレンスキーに会うのを嫌気したらしい。G7会合では米ウ直接対話も予定されており、外交圧力や備蓄が尽き始めた米国製兵器の補充など合意が必要な内容がてんこ盛りになっていた。それを直前で遁走、例によってTACO理論である。なお、トランプ政権以降、ウクライナへの追加支援パッケージは承認されていない。

 で、遁走したトランプ氏が口にしているイラン問題については、それとてもネタニヤフの腹話術人形だが、正常な頭脳を持つ彼のアナリストらによれば、イランに核計画はなく、フォルドゥ核施設(イランが空爆を想定して山中に建設した地下原爆工場)をバンカーバスター爆弾で貫くことは不可能という話である。この爆弾は地下60mの目標を貫通して仕留めることができるが、問題の施設の深さは80mある。加えて、山岳地では爆弾の貫通力は半減する。

※ このようにトランプはまともな人間のアドバイスを受けてもいるのだが、問題はそういうことを進言すると、その人物は意思決定の中心から遠ざけられてしまうことである。

 そういうわけで、ミスターTACOにはカードがないのだが、それでもテヘラン市民にハネメイを殺すから市内から退避しろなどと言っている。イスラエルが目標選定にAIを用いていることは前に書いたが、たぶんこのAIは30キロ四方のテヘラン市域なら、どの家屋を分析してもハネメイの顔が映るようにプログラミングされているのだろう。テヘランの人口は870万人である。ハネメイ一人を殺すのにいったい何人殺せば気が済むのだろう?

※ トランプとネタニヤフはどうもハネメイをヒトラー張りの独裁者と思っているようだが、イスラム国家の統治機構がそのようなものでないことはちょっと勉強すれば分かる話である。ヒトラーに近い言動行動はむしろトランプ自身である。

※ イスラエル軍は空爆でイランの核技術者と将軍を複数人殺害したとしているが、判定方法に問題があり、おそらく吹聴ほどの成果は挙げていないと考えている。

 TACOの支持者、アメリカのネットウヨクには中東については根深いトラウマがある。イラク戦争では犠牲者はイラク軍との直接戦闘より駐留後の方がよほど多かった。米軍と傀儡政権はイラク国民に全く好かれておらず、闇討ちで米兵が死んだりしたため、10年の駐留はヘクゼスやバンスのような根性の曲がった人間を輩出し、彼ら以外にもいたことから、彼らは実体験(安い給料、遅い昇進、いつ襲われるか分からない過酷な駐留生活)から、イランの占領統治など不可能なことを熟知しているのである。パージされたイラクの公務員は地下に潜ってISを作り、テロと謀殺でアメリカと同盟国を大いに苦しめた。そしてイランはイラクの10倍大きい国である。

※ 毎度おなじみ、沖縄や横須賀での米兵による婦女暴行事件を見ると、湾岸戦争を境に容疑者の年齢と階級が年を追うごとに劣悪になっていることが見て取れる。すなわち階級は三等水兵など地を這うように低く(年収200万以下)、年齢は二十代半ばから三十代以上と高齢化していることがある。本来なら5万ドルの年俸をもらい、家庭を持つべき年齢でこんな待遇では規律が弛緩して事件に走るのもむべなるかなである。もちろん除隊してもまともな仕事はなく、困窮してMAGAやQアノンなど粗悪思想に染まるのも、今のアメリカなら仕方のないことである。

※ 私の記憶違いで10倍ではなく2倍である。イラン・イラク戦争の頃はイランの人口は6千万で、イラクは1千万強だったが、その後人口が増え、現在はイラン9千万、イラク4.5千万である。なおイスラエルは5百万人くらいであまり変わらない。小学生の頃に覚えたデータが今も通用するのは日本くらいである。

 これはトランプといえども無視するわけにはいかない。ロシアが仲介に名乗りを挙げているが、今ウクライナを苦しめている最大の武器がイラン製のシャヘドで、最近ジェット化して「シャヘド2(ロシア製造型)」になったが、戦争遂行それ自体に関与している「悪の枢軸」との仲介はロシアに一方的に有利なものになるに違いなく、ロシアはイランの核開発を水面下で支え、シリアでの影響力を回復し、どこまでもアメリカに不利なディールになるに違いないことはトランプ以外はみんな知っている。トランプがこれを支持するのは、どう見ても折り合いの付かない自分の支持層を説得しなくて済むからである。

※ そもそもロシアには両国に対してあまりカードがない。強いていえばイランとの関係により強いメリット(カスピ海水運、テクノロジー)がある。イスラエル・アメリカ有利に動くはずはないことは言わずもがなである。

 

※ 結局、イスラエルはイランに対して地上戦を行う能力はなく、空軍のみでは核開発を完全に排除はできず、諜報機関は国内に協力者がおらずクーデターを使嗾する能力もないために、ネタニヤフはトランプに頼ると同時にイラン国民に体制変更を呼び掛けているのだが、根本的に破綻した計画であり軍事作戦である。分かっていないのはTACOだけだ。

 

※ 学生時代に数学をサボったTACOは複数の事象を並行して検討するに際し、期待値というものを考えたことはないのだろう。成功する可能性が低すぎ、これが宝くじだったら誰も買わないようなものだ。ネタニヤフはMIT卒の秀才だが、市民虐殺を続ける彼の知識には偏りがあるようだ。数学的素養がほんの欠片でもあれば、こんな作戦がうまく行かないことはすぐに分かる。

 この件では、ミスターTACOはロシアをG8に復帰させるべきだとのたまったが、TACOの世界ではこれは聞き容れられる提案なのだから聞き容れられたとすると、たぶん、ロシアはイランとの和平を手土産に、いくら戦っても勝てないウクライナ戦争を有利に停戦させるつもりだったのだろう。たぶんプーチンもできるとは思ってはおらず、そんなことを信じているのはTACOだけである。

※ 時間稼ぎというのが大方の見方である。

 現在のロシアは新規生産の航空機や戦車をウクライナには廻さず、備蓄して国境を伺う様子である。これらはウクライナに投入してもドローンの餌食だが、リトアニアに駐留しているアメリカ戦車部隊を蹴散らすくらいのことは十分できるものである。バルト三国にフィンランドが要注意の場所だが、可能性はかなり高いように見える。ロシア戦車が国境を破っても、今のTACOなら第5条発動を拒否するだろう。

※ 補給線が短く、国も小さいために、これらの国がウクライナみたいに戦えるとは思わないほうがいい、侵略は一瞬のうちに完了するだろう。

 経済制裁が上手く行っていないのもTACOのせいで、ヨーロッパのロシア天然ガス、核燃料の依存度は相変わらず高く、しかも増加の傾向がある。これがまずいことはこれらの国々も十分分かっているのだが、代替エネルギーに切り替えられないのは、代替品を提供するアメリカが信用ならない国だからである。そのためロシアは戦前よりもさらに潤い、ロシア中央銀行の外貨準備高は空前の額になっている。

※ 加えてイラン危機のせいで原油価格も上がっている。

 と、並べてみてもこれだけ世界とアメリカに不利益なトランプ政権である。アメリカ人でも気づいている人間は少なくないし、ここまで来ると以前トランプがやった議事堂占拠をリベラル派もやったらどうだと言いたくなる。ただし、キャピトル・ヒルではなくホワイトハウスで。

 しかし、これはあまり良くない。意に沿わない政策があれば反対派が官邸や議事堂を取り囲んで強訴するというのは、まるで「御所囲い」であり、そんな国の政治が安定しているはずがないからだ。ほか暗殺もあるが、これらを許すと同様の政変が二度三度と繰り返される可能性があるので、これらは禁じ手とすべきだ。

 アメリカの制度は性悪説と人間不信の論理が根底にあるとは、これを提唱したモンテスキュー以来言われていることである。制度は拙速のためではなく、熟慮のためにあり、合意形成を遅らせて独裁者の出現を防ぐシステムは、実際に独裁者が登壇してしまうと、引きずり降ろすのにも時間が掛かるというものである。1月以降、腸の煮え繰り返るような話が多いが、どんなに批判が高まっても、TACOがすぐに辞任するなどとは思わない方が良く、今は我慢して見ているしかない。

 

 空襲があった直後、CNNがテヘランとテル・アビブ双方の都市の住民にインタビューしたが、人種も信仰も異なる両都市の市民が口を揃えて言ったことは「この戦争は無意味」というもので、イスラエルが戦端を開いた動機が支持の低下しているネタニヤフの権力欲にあること、トランプも同様であることは両国の国民にはとっくに見透かされているのである。

 

 

 

 鳴り物入りで催されたワシントンでの軍事パレードだが、1時間ほどの式典で明らかになったのは「アメリカ軍はこういう任務には向かない」ということだった。同じ行事ならロシア軍や北朝鮮軍の方がはるかにカッコ良く、服装もきらびやかで見栄えのするものだが、迷彩服で行進するアメリカ兵はまるでピクニックのようで、だらけきった様子に閲兵したトランプも不満顔だ。

 


 同日は「ノー・キング」抗議活動も行われ、こちらはパレードよりもはるかに多い数百万人が参加した。移民排斥に端を発するこのイベントは10日ほど前から徐々に開催場所と数を増やし、今や反トランプが全米の合言葉になっている。

 イスラエルを巡る情勢については、先週ウクライナに送るはずだった特殊信管2万発をガザに転用したことで、イスラエルの攻撃がアメリカの承認の下に行われたことは明らかだが、この戦争はトランプを難しい立場に追い込んでいる。MAGA支持者には一切の外国紛争への介入を拒否する一派があり、イスラエル支持派と勢力を二分することから、トランプとしてはどちらを支持しても支持者を割ることになり、立場を明言できないものになっている。が、思慮と分別がこの大統領にないことは今や世界の常識である。



 上は陸軍記念日(フラッグ・デー)の米国国防省の挨拶文に添付されていた画像だが、図案を巡って疑惑が囁かれている。どう見てもロシア国旗にしか見えない図柄が図中にあり、こういった図柄は先年にも一昨年にも見られなかったことから、これは政権によるロシア支持を暗示する意図的なものという見方がある。

 官公庁による、こういうものの図案がどう起案されるかを考えれば、間違いやデザインということはありえず、ロシア国旗に似た図柄は明らかに意図的なもの、国防長官(ヘクゼス)の指示によるものというのがケレン味のない普通の見方である。これが好戦的で軽薄な人物であることはシグナル事件で明らかだ。イスラエルの件もあるが、相当にまずいトランプ政権である。これは3年持たないのではないか?

 イスラエルについては、トランプ自身はイラン攻撃にどちらかといえば反対だったが、支持者がキリスト教右派であることを見透かしたネタニヤフに足下を見られたというのが専らの見方である。彼の座右の銘でもある「無理を通せば道理が引っ込む(2)」、あるいは「やれることはやる(事実先行、既成事実化)」が、イスラエルにより具現化した例である。トランプはこの論法で憲法や裁判所など抑止力ある法令や命令を片端から無視してきた。

 まあ、元々まずいものを「まずい」と評定してもあまり面白くないかもしれない。当方が気にするのは、これらの戦争がどうも我が国にも飛び火しそうな気配があることである。

 スパイダーウェブ作戦で戦略爆撃隊に大被害を受けたロシア空軍は爆撃機を極東に移転させた。挙がっているのがウクラインカ、エリソヴォ、アナデリの各飛行場で、これらは我が国の目と鼻の先である。ウクラインカはアムール河畔、エリソヴォとアナデリはカムチャッカ半島で、各々ウクライナからは6~7千キロの距離にある。



※ エリソヴォはペトロハブロフスク・カムチャッキー、対岸のヴィリチンスクと隣接しており、前者はロシア海軍軍港、後者は潜水艦基地で、ロシア的には重要拠点である。特に潜水艦は新型核魚雷「ポセイドン」の発射母艦がある。ソ連潜水艦基地はかつてはシムシリ島(千島列島)にもあったが、現在は閉鎖されている。

 



 巡航ミサイル部隊による攻撃は事実上不可能になったのではないかと思うが、もしやるとしたら爆撃機は巡航速度700キロで10時間長駆し、ミサイルを発射してまた10時間掛けて戻ることになる。実際には36時間らしい。現にウクライナ参謀本部の報告を読むと、11日以降巡航ミサイルの攻撃は止んでいる。爆撃の主力はドローンと弾道ミサイルだ。同じく巡航ミサイルを発射できる艦艇は残存艦艇はノヴォロシスクにあり、黒海艦隊は壊滅して久しい。爆撃隊によるミサイル攻撃はウクライナに対する全ミサイル攻撃の3分の1を占めていたため、それでもまだ多いが、ウクライナはこのプラットフォームを製造工場も含め根こそぎ叩こうとしている。

※ Tu-95の航続距離は一万五千キロなので理論上はウクライナへの長距離爆撃も可能だが、搭乗員の疲労や機材の消耗など、このような作戦が実際の戦果以上にロシア空軍を弱体化させることは言うまでもない。



 ロシアの攻撃の特色は弾道ミサイルや戦略爆撃機など、冷戦期は核プラットフォームとして認知されていた兵器を通常爆撃に転用していることである。これらへの攻撃は冷戦期は核戦争と同視されていた。いわゆるレッドラインであり、3年前にバイデン政権がウクライナの反攻を途中で諫止した理由である。ハルキウで思わぬ大敗を喫したロシアは核攻撃のサインを西側に送っていた。

 

 潜水艦もあり、ロシアの潜水艦には核巡航ミサイルを発射できるタイプがある。これはオデッサや内陸部のイバノフランコフスク、リヴィヴへの攻撃に用いられた。

 ウクライナの軍と諜報機関はこのレッドラインを一つ一つ潰して行った。爆撃機もそうだが、ロシアが恐れられる理由の多くが核戦力にあることがあり、これを潰すことはウクライナの利益に叶うのである。そして核戦力の中で最も秘匿性が高く、攻撃しにくいのが原子力潜水艦である。次はどうもこれを攻撃するのではないかという噂がある。



 手始めはウラジオストクを母港とする巡洋艦ヴァリャーグである。これは潜水艦ではないが、黒海で沈んだモスクワの同型艦で、スラヴァ級と呼ばれる艦であり、現在のロシア太平洋艦隊の旗艦である。かつてのソビエト海軍は遥かに大型のミサイル艦、キエフ級やキーロフ級を司令艦としていたが、維持費の高額なこれらは除籍され、現在は中型艦のこれが司令艦になっている。潜水艦よりは平易な相手だ。

 いや、地球の裏側、海路では1万キロ以上彼方の軍艦など攻撃しても意味がないのではという言い分もあるが、先に挙げたエリソヴォ基地やアナデリ基地は極北のド僻地で、スパイダーウェブ作戦では、これらよりは「ややまし」なウクラインカ基地への攻撃は失敗に終わったことから、交通条件のさらに悪いこれらに陸路からの攻撃はまず無理である。



 なお、ウクラインカ基地のアムール川中国側対岸には大興安嶺があり、これは中国SF「三体」でヒロインが強制労働させられた場所で、描写は格別に酷かったことから、最良でもこのレベル、おそらくさらに悪いこれらの基地への攻撃が困難なことは分かるだろう。アナデリなどは配属自体が人類社会からの追放のような場所だ。

 ウクライナも打つ手ないのではと思わせるが、どうもあるらしいという話もある。いずれにしろ射程1万キロの武器はウクライナにはないので、船なりトラックなりで近づく必要があり、海上ドローンの場合は2千キロが攻撃レンジという。

 これは上記の二基地ならアリューシャン列島から十分に狙える距離であるし、ウラジオストクでも台湾や宮古島から攻撃できる。ウクライナは充実した海員養成のプログラムを持っており、ウクライナ人船員は世界の海運でそれなりの数を占める。輸送船に偽装したドローン母艦が東シナ海に入ったら要注意である。先のケルチ大橋爆破はこの予行演習という説もある。接近したドローンは船体を完全に水中に隠しており、橋脚直下に1トンの爆薬を運び込まれるまでロシア側は全く気づかなかった。
 

 情け容赦のないウクライナの諜報機関、DIUとSBUはそれが極東でも可能なら躊躇なく攻撃するだろうし、そのための手段を案出することにも長けている。攻撃に際しては台湾や日本政府の承諾があるように偽装することは十分考えられるし、それは当然ロシアの対応を呼ぶ。対岸の火事と思っていたものは、実はすぐ間近に近づいていたのである。

 

 アメリカの移民反対デモを見ていると、どうもトランプ氏と彼の一味の「危機管理」とは、災難を未然に防ぐのではなく、むしろ煽り立て、事態をさらに悪くするもののように見える。国内ですらこの体たらくなのだから、国外など推して知るべしで、ウクライナ、ガザ、イラン、一味の関わった紛争はすべて激化の一途を辿っている。遠い昔のアフガニスタンも、原因はトランプが現地政府の頭越しにタリバンと結んだ和平協定だ。

 私は今の日本国民やマスコミを本当にバカだと思っているけれども、だいたい危機というのは未然に防いだ人間はまず評価されない。大惨事が起きて初めて、やれ「こうすべきだった」、「誰それの責任だ」と騒ぎ立てるのがせいぜいで、マスコミも国民もそういう事態を未然に防いだ「日の当たらぬ英雄」を評価することは決してないのだ。

 昔からそうだったのかといえば、それは良く分からない。情報伝達の方法や受け手のリテラシー、そういったものがあり、過去も同じだったとは断言できない。もっと悪かったかもしれないし、良かったかもしれない。膾炙している文化もあろう、石丸伸二のような言い分を「姑息な言い訳」と一蹴するか、「それはあなたの見解ですね」とし、頭が良いと評価するかは、その社会の文化程度次第だ。

 望ましいか、望ましくないかで考えれば、我々はもっと日陰の人物の功績を評価すべきなのだろう。マスコミにはそのための情報を要求すべきで、我々ももう少し思慮深くあるべきであろう。それで悪いことはたぶんないのであるから。

 話をウクライナに移すと、先のスパイダーウェブ作戦は結構効果的だったようで、報道ではロシア軍はドニプロペトロウシクやスームィで進軍しているが、ウクライナの攻撃機も西進し、ロシア領でスホーイを撃墜したりしている。開戦時に6機しかなかったロシアの早期警戒管制機、航空戦ではチェス盤上のキングで、爆撃機より貴重なもの、は、昨年に2機が失われ、今回も2機が破壊されたことから、航空戦はスウェーデン製やイギリスの管制機を使えるウクライナが有利になっている。ロシアのミグ31はウクライナの戦闘機の射程外から空対空ミサイルを撃つことができるが、それも管制機の支援あってのことである。失われたメインステイ(A-50)の補充は今のロシアではまずできない。

 警戒機の破壊は、まず歩兵で威力偵察を行い、敵陣の配置を把握した後で重戦車や滑空爆弾で陣地ごと破壊するというロシア軍の戦法にも影響が出ると思われる。滑空爆弾の射程は当初の30キロから現在は90キロまで伸びているが、現在はウクライナ戦闘機はロシア領50~100キロまでは安全に侵入できる。AMRAAMミサイルの射程は120キロだ。問題は戦闘機が足りないこと。が、ウクライナ軍はスームィでロシア軍を止めており、作戦の効果は徐々に出つつある。

 ロシアの最深部への攻撃が可能になったことから、ウクライナの戦略は従来なら大規模爆撃隊で行うような作戦、敵国の工業基盤の破壊にシフトしている。爆撃機の次に狙われたのは大型航空機を製造しているツポレフ社で、ハッキングで設計図や社員リストが流出し、工場にはドローンが飛んでいる。使用している半導体製造工場もターゲットだ。こういった攻撃は従来はアメリカのような大国でなければ不可能だった。それも例は多くない。

 

 重爆撃以外は、ウクライナにはDIU(軍情報部)とSBU(保安局)の二つの諜報機関があり、どちらも有能で、国外でも活動していることから、ゼレンスキーは彼らを競わせ、戦果に貢献させているように見える。スパイダーウェブ作戦はSBUが実行した。どちらも元KGBであるが、DIUの方が西側寄りとされる。

※ ウクライナ建国直後、CIAはウクライナの諜報機関の再建を支援したが、どちらも腐敗の程度が酷く、対外向けでより与し易いと考えられたDIUの再建を優先した事情がある。DIUはイスラエルのモサド機関を手本にしており、実情もそれに近いものがある。一方内国担当だったSBUはゼレンスキーが再建し、DIUを牽制しているとされる。あまり知られていないがシリアやアフリカではこれら機関とFSB、ワグネルとの抗争が行われており、つい最近はシリア革命を成功させたり、マリでワグネルを撤退に追い込んだことがある。

 正直、毎夜毎夜ロシアミサイルがいかにもな民間施設を狙い、キーウやハリコフで市民を犠牲にしているのを見ると、同じことをやれば良いものをとは思う。はるかに平易で、市民に与える影響も大きい。捕虜にしても、ロシア兵は登降したウクライナ兵をすぐに射殺してさらし首にしたりしているが、ウクライナは国際人道法に則った取り扱いをしている。戦争犯罪は仔細に記録され、のちの裁判に備えている。

 もっとも、トゥルーソーシャル(トランプのSNS)などで見ると、そこにはまた違ったウクライナ像がある。そこでのウクライナは徹底的に腐敗しており、援助はゼレンスキーらが私腹を肥やすのに横流しされ、国内は格差社会で前線で苦闘する貧乏人の息子と美女を侍らせ毎夜贅沢にふけるオリガルヒの息子がいるといった具合だ。10年ほど前まではそうだったとは話には聞いている。

 インターネットが成熟し、AIも使えるのだから、今ほど情報が取捨選択できる時代はないと思うが、一昔前は口コミが最強の情報伝達ツールであった。ある年代以上では今だに用いている人も多い。しかし、真実は一つなのであるし、惰性に任せて探索しないのは怠慢だと今では思えるものである。見比べれば、何が正しいかは誰でも分かるものである。一部の人間を除いては。

 トランプとその一味を見ていると、私はこういう人間の下で働くことは我慢できないが、まさしく「愚者の楽園」で、それは我慢すれば利得はあるだろうが、加担することが世の中を進歩させたり、何か幸福につながるものとは、どうしても思えないことがある。

"An army in which commanders bear personal responsibility for the lives of their troops is alive. An army where no one is accountable for losses dies from within."
(Mykhailo Drapatyi, Commander of the Armed Forces of Ukraine)

「指揮官が兵士の命に対して個人的に責任を負う軍隊は生きています。損失に対して誰も責任を負わない軍隊は内部から滅びます。」
(ミハイロ・ドラパティ、ウクライナ軍指揮官)

 スパイダーウェブ作戦に前後して辞表を提出したドラパティ将軍はウクライナでは陸軍司令官だが、これは作戦の一週間前に起きた訓練場の被爆による。12人が死亡し、作戦の成功を見届けたドラパティは辞意を表明した。なお、陸軍司令官は日本では陸上幕僚長に相当する、陸軍全体を統括する将官の最高位である。ウクライナの場合はその上に総司令官がいる。ゼレンスキーは彼を慰留し、新たに統合軍司令官の地位に就かせた。兵士の信望が厚く、軍の改革の中心人物だったこともある。

※ 統合軍司令部というのはウクライナ軍ではNATO式の組織化が進んでおり、NATOの基準に基づき、作戦命令を発する司令部(統合軍司令部)と実戦部隊を掌握する司令部を明確に区分したことにある。ウクライナ軍は従来参謀本部の権力が強く(楽団まである)、最高司令官イコール参謀総長で指揮と命令の区分が明確でなかったが、そのあたりを改善するものである。あと、2014年以降の状況からウクライナ軍は旅団編成が中心で、それも私兵上がりの半官半民的なものだったが(独自の資金集め、隊員募集など)、これらも統合し軍団制にすることで、戦争はウクライナ軍全体を現代的な軍隊に脱皮させつつあり、ドローン軍など他国では編成すらない新部隊も加えている。

 トランプらがどう思っているかは知らないが、現在のウクライナ指導部はこのドラパティやゼレンスキーをはじめとして、概してウクライナの中産階級の出身がほとんどである。むしろあからさまな金持ちは野党におり、ポロシェンコなんか典型だ。下のドラパティの言葉なんかシグナル事件で誰も責任を取らなかったトランプたちに聞かせてやりたいくらいだ。

 "We will not win this war unless we build an army where honour is not just a word, but an action. Where responsibility is not a punishment, but the foundation of trust. Where every commander is accountable – for every order, every decision, every person – every single day."
(Drapatyi, above)

「名誉が単なる言葉ではなく行動となる軍隊を築かなければ、この戦争に勝つことはできない。責任が罰ではなく信頼の基盤となる軍隊を築かなければ、この戦争に勝つことはできない。すべての指揮官が、すべての命令、すべての決定、すべての人物に対して、毎日責任を負う軍隊を築かなければ。」
(ドラパティ、同上)

 日本でも消費者の大多数に損害を与えたコメ騒動は結局誰も責任を取らないまま終焉しそうである。この国もアメリカと同じ病に侵されてはいまいか。このウクライナを始めとして、アジアやアフリカにもある、新しい民主主義国に対して顔向けできないような恥ずかしい態度を我々は取ってはいまいか。

 

 

 ついにロシア軍の損失が100万人に達したが、英国情報部など外国はこれは戦死傷者で実際の死者は25万人としている。ウクライナ参謀本部ではこれは実際に殺害した員数ということになっている。トランプ就任以降だとすでに16万人が死亡していることになり、「24時間で終わらせる」という約束はいったいどこに行ったのだろうと思わせる。

 

 

 目立ちたがり屋で頭空っぽの小泉大臣がIT資本と結託して備蓄米の廉価販売を始めたことは今の話題だが、早くもなくなりかけているようで、この分では米は私の所に来る前になくなってしまうかもしれない。

 近所のファミリーマートでは朝から問い合わせがあるが、入荷していないとのこと。

 それはさておき、これがなくても昨年の米の品質はひどかった。酷暑が続いたこともあり、全体的に銘柄米でも小粒で、概して白目米が多く、普通に炊いたのではベチャッとして全然美味しくない。経験はあるのではないだろうか。

 実はこれ、炊き方にも原因があるように見える。私もたまりかねたので少し調べたが、農水省の試験場では気候変動やニーズに合わせ、毎年多種多様な米をリリースしている。コメ=こしひかり、あきたこまち、と、いうわけでは必ずしもなさそうだ。

 ご多分に漏れず、こちらもコメを探しにスーパーをハシゴしており、現在20kgほどの備蓄があるが(二人暮らしなら3ヶ月分)、品種はまちまちで、また、上に述べた品質不良があり、炊いては見たものの閉口するケースがままあった。

 



 これをテレビみたいに「粗悪米を混ぜている!」と断ずるのはそうだが、その前に少し考えようということで品種を調べると、どうも水量に問題があることが分かった。ミルキークィーンはおむすび向けの品種で、水量が少ない方が美味しく炊けるのだ。

 概して新しく導入された品種は必要な水量が少ないように見える。概ね1~2割減で、何回か試してみた結果、現在では1:1で炊飯している。現在の炊飯器の基準米であるコシヒカリはどちらかといえば水量はやや多めの米だ。炊飯器なら目盛線より2~5ミリほど低めで炊いたらどうだろうか。

 私の場合は計量して入れており、その際に氷を3分の1ほど混ぜる。炊飯器は最初に加熱して水分をコメに行き渡らせるので意味ないという考えもあるが、冷水で締めるのでこちらの方が美味しいような気がする。

 あと、もち麦を混ぜてみるのも一つの方法である。麦はコメよりも必要な水量が多いのでバッファになり、加えて精米法が無洗米等に使うような精度の良い機械を使っているので煮崩れしにくいことがある。



 新品種は多岐に渡るのでChatGPTも使い分類してみた。が、この表は間違っているので(間違えた理由も分かる)、実際に関連サイトを一つ一つ調べることをお勧めする。人工知能が信頼できるアドバイザーになるのはまだ先のようだ。

 

※ 人工知能が科学的根拠ではなく、食味を表現する文脈から必要な水量を当て推量したことによる。大量の情報を迅速に処理できるという点ではGPTは優秀だが、前提となる推論の立て方に問題がないとは言えない。というより、全く弱い。