We usually think of narcissism as a personal flaw — a grandiose ego, a craving for attention, a lack of empathy. But what if narcissism is not just a diagnosis, but a lens? A way of understanding how individuals — and even entire nations — cope with wounds too painful to face directly?
(Dr.Gary E Myers, Professor of psychiatry)


(訳)私たちは通常、ナルシシズムを個人的な欠点、つまり誇大な自尊心、注目を浴びたい欲求、共感力の欠如として捉えがちです。しかし、ナルシシズムが単なる診断ではなく、レンズだとしたらどうでしょうか?個人、さらには国家全体が、直接向き合うにはあまりにも辛い傷にどのように対処するかを理解する手段だとしたら?
(ゲイリー・E・マイヤーズ博士、精神医学教授)

※ マイヤーズ博士は南イリノイ大学メディカル・スクール教授、論説はヨーロピアン・プラウダから。

 ネットの匿名性と度を超えた誹謗中傷は、このメディアが始まった当初から問題視されていたものだけれども、彼らの言い分のおかしさや、躾のなっていない子供のような無礼な態度については、「教養が低いから(学がないから)」、「頭が悪いから(IQが低いのだ)」、あるいはもっと直截に「キチガイだから(精神を病んでいる)」で片付けられることが多かったと思うし、実は私もそう思っていた。

 

 「奴らと我々は違うのだ」

 私も面と向かった言動で殺意まで感じることはあまりないが、ことネットの中傷については、より強い殺意を感じる方は多かったのではないだろうか。それはたぶん、心理学者がメカニズムを解明していないだけで、おそらく正しい心的反応なのだろう。現に殺人事件もあり、たいがいは手口は執拗で残忍だ。

 ここで上記の引用をヒントに考えると、これは例によってSVO(特別軍事作戦)について述べた文章だけども、これを読んだ私は、上に述べたようなことととは別に、自分がメガネを購入した時の光景を思い出した。

 私はこういうもの(メガネ)には結構慎重で、何度も測定させ、時には複数の店で検討し、いつも店員が推奨する度数より一つ小さい度数で購入する。もちろん少し見にくいが、おかげで視力が落ちず、メガネが必要になった大学受験の時から視力がほとんど落ちていないことがある。実は運転免許も「眼鏡なし」で通っている。しかし、メガネを外すのは試験場だけだ。やはり運転に支障が出るので。

 普通の人は眼鏡店の自動測定機の結果のまま、店員が勧めるメガネをそのまま調製する方が多いと思う。そしてたぶん、2~3年後にはもっと強い眼鏡が必要になる。メガネ屋も商売なので、一概には非難できない。

 ここで先の引用を敷衍すると、最近はとみに目立つ排外主義や極論を吐く輩とこの私の違いは、実は受けた教育や教養知性の違いではなく、掛けているメガネが違うだけという見方も考えられる。

 いわゆる識者では、リベラルの政治学者である中島岳志と、ほぼ同じ歳の参政党の神谷宗平を考えてみよう。本当は山口二郎が良かったが、彼の年齢の極右アクティビストはいないので、より若い中島にした。

 一般的な理解では、この二人はまるきり別の人種である。が、ここでの見方では、この二人は同じ日本語を話すし、政治に関心があり、現状を憂いているので、これはベクトルは正反対だが、全般的な傾向は全く同じと考えることができる。今のところはおとなしい中島より、神谷の方にやや分があるようだ。

 

 この二人の違いは単に掛けているメガネが違うだけである。メガネの商品価値のほとんどがレンズなので、「レンズが違うだけ」と言い換えても良い。

Narcissism, whether personal or collective, doesn’t begin in arrogance. It begins in pain. A wound that feels too dangerous to name — too humiliating to acknowledge — gets buried. And what grows over it is a mask: invincibility, righteousness, exceptionalism.
(Myers, above)

(訳)ナルシシズムは、個人であれ集団であれ、傲慢さから始まるのではない。痛みから始まるのだ。名付けるにはあまりにも危険で、認めるにはあまりにも屈辱的な傷は、埋もれてしまう。そして、その上に覆いかぶさるようにして育つのが、無敵、正義、例外主義といった仮面だ。
(マイヤーズ、前掲)

 これが「レンズ」の正体である。中島のレンズには、たぶん「痛み」はないが、多くの聴衆を惹きつける神谷のレンズにはそれがある。そして、結ぶ像の輪郭もだいぶ異なる。

But the pain doesn’t disappear. It distorts. And it demands constant maintenance.
(Myers, above)

(訳)しかし、痛みは消えません。むしろ歪み、継続的なメンテナンスが必要になります。
(マイヤーズ、前掲)

 先に私自身のメガネ選びの例を挙げたが、私はメガネには「慎重な人」である。中島もたぶんそうだろう。しかし神谷は「普通の人」であるので、普通の選び方をしているようだ。そして、世の中にはメガネに限らず、神谷のような選択が圧倒的に多い。ナルシシズムには定期的なメンテナンスが必要で、それが彼らが容易に集団化し、同じ負の感情を舐め合う同志で連帯する理由である。

※ このあたりは維新よりもずっと前からアニヲタやネトウヨの行動原理を見てきた私には何となく分かる。特に人のサイトに電凸するような輩の心情風景には間違いなく「負の感情」がある。

 いや、そんな有害メガネ、普通は売らないでしょという意見はひとまず措く。彼らは「否認」を核に置き、ネガティブな感情を積極的に肯定して持論を展開する。議論は噛み合わず、たいがいは感情的な対立に陥る。

 治療法は、実はないこともない。博士はウクライナの例を挙げている。

In Ukraine, I’ve seen a kind of cultural resilience that doesn’t rely on fantasy. People write poetry about loss, gather in liturgies that name sorrow, and rebuild even in the midst of grief. Their strength doesn’t come from pretending not to be hurt. It comes from facing pain head-on and refusing to let it define the future.
 

In the Christian tradition, there’s a word for this: transformation.

(訳)ウクライナでは、空想に頼らない、ある種の文化的レジリエンス(回復力)を目にしました。人々は喪失について詩を書き、悲しみを象徴する典礼に集い、深い悲しみの中でも再建に取り組みます。彼らの強さは、傷ついていないふりをすることから生まれるのではなく、痛みに真正面から向き合い、痛みに未来を左右させないことから生まれるのです。

 キリスト教の伝統には、これを表す言葉があります。「変容(トランスフォーメーション)」です。

 私も三年間観察してきたが、この戦争を見ていて感心するのは、当の被侵略国のウクライナ、迫害された歴史を持ち、今もロシアの侵略を受けている、の国民に悲壮感がまるきりないことである。毎日前線では百数十人、都市でも数十人が死亡しているのに、地下壕では詩や歌を楽しむ余裕があり、爆撃でも被災した動物(主にペット)を消防隊員や空挺隊員が率先して救助し、参謀本部が「文明の尺度は動物をどのように扱うかによって測られる(ガンジー)」などと公然と言っている国は他にない。ウクライナ軍の戦果報告は戦争全期間を通じ、他のどの国の機関よりも精確である。これは二倍三倍水増し当たり前のロシアとは好対照をなしている。

※ 上のガンジーの言葉はウクライナ軍の参謀報告でたびたび引用されている。

 戦術や兵器の選択も実践的だ。例えばウクライナ大統領が散々懇請し、やっと少数が支給されたM1戦車、湾岸戦争で活躍した世界最強の戦車である、も、被弾して戦況不利と見るやアッサリと乗り捨て、もっと軽快なブラッドレー装甲車やマックスプロ軍用車に乗り換えてドローンで反撃するさまは、彼ら一人一人が個々の戦闘ではなく、戦争全体を考えて行動していることを示している。

 

※ 戦車より熟練した搭乗員が大事という考えは一貫している。

 なので陣地に近接されれば、装甲は薄いがより軽快で射撃の正確なレオパルド1型戦車で踊り込んで零距離戦闘を挑む。この変幻自在の柔軟性はロシア軍も、おそらくはアメリカ軍も遠く及ばない所である。これが兵器の質と量では圧倒的な差があるにも関わらず、ウクライナが三年間戦い続けられた理由であり、その基底には確かに「痛みに真正面から向き合い、痛みに未来を左右させない」意思を見ることができる。ウクライナの強さは参謀本部や軍隊ではなく、一人一人の国民の強さにある。

Collective narcissism tempts us to craft identities out of denial. It thrives on stories of victimhood that never admit weakness. But genuine healing — national or personal — requires something much harder: the courage to feel pain, the humility to learn from it, and the imagination to build something new from its ashes.
(Myers, above)

 集団ナルシシズムは、否認からアイデンティティを作り上げるよう私たちを誘惑する。それは決して弱さを認めない被害者意識の物語を糧に育つ。しかし、真の癒し――国家的なものであれ個人的なものであれ――には、はるかに困難なものが必要だ。痛みを感じる勇気、そこから学ぶ謙虚さ、そして灰の中から何か新しいものを築き上げる想像力だ。
(マイヤーズ、前掲)

 誤ったメガネを掛けてしまったなら、掛け直すことを勧めなくてはならない。しかし、他人が指摘できることはここまでで、それがメガネを選んだ本人の人格とか、勤める会社の勤務評定とか、とっくの昔に卒業した中学校の卒業アルバムなどに及ぶようであっては五十歩百歩の泥沼の争いに陥りかねない。連中との議論では、平穏に話し合いができるはずの内容が、簡単に人格否定と罵倒の飛ばし合いに陥る。

 住所や電話番号を調べ上げるなどは、連中は良くやることである。実は私も何人か手づから始末したことはある。が、それは意味のないことであって、本質とは全く関係のないことで、正当化できてもせいぜい自衛のためでしかなく、他には何の寄与もない、ムダな行為であることも指摘できることである。それが戦争であっても、相手を破壊することは問題解決の道ではない。ウクライナの場合も、ウクライナ国民の真の勝利はロシア国民の見方を変えることである。

 同じように、リベラル勢力がMAGAの豊富な資金をバックに勢力を伸ばしている参政党や同じ極右の維新に対抗するには、今は手の打ちようがないように見える支持者を「トランスフォーメーション」させるしか方法はない。

 まず、相手(参政党、維新、ネトウヨ、その他大勢)を対等な人間として認めることから始めよう。それから掛けているメガネを外してもらい、別のメガネを試してもらうことを考える。メガネ選びの過誤はその人間の罪ではない。不幸にして毒メガネを掛けてしまった側がそうした働き掛けをすることは皆無に等しいので、これは普通のメガネを掛けている者が率先してしなければならないことである。

 

 多少は公的で、多少は政治的影響力のある場で発言するなら、彼らの議論の矛盾や非倫理性を攻撃するのではなく、彼らを支持する人々の核にある「痛み」についての議論を議題の中心に据えるべきである。

 

(補記)

 実を言うと、個々の演説では、上記のようなことに触れている政治家は決して少ない数ではない。が、党など政治集団の方針として採用している例は皆無であり、有権者には政治家はおだめごかしは選挙の時だけで、普段はもっと違うもののために働いていると思われているのである。このことは活動資金や支持者、選挙割など複雑な事情が絡むが、そんな解像度の低い論説でも、当人が思いもしないのに「風が吹く」ことがあることは、個々の政治家には身に覚えのあることであるはずである。こと我が国では、政治家個々の出自は様々だが、彼らを束ねる政党の(憲法上の)政治的地位があいまいで、政党は野卑な権力闘争ばかりしているように見え、行動に科学性と予測可能性がないことも有権者の不満に拍車を掛けている原因の一つである。

 

 このブログでは石破首相の外交政策については、割と「評価する」記述が多かったと思うけれども、それは結果的なもので、例えるなら剣道やフェンシングの試合で、うまく切っ先をかわしているので負けはしなかったという意味の「評価」である。

 スポーツの試合ならそれでも良いが、政治家ともなればそれだけでは評価できない。この人物が就任した際に、私は「戦術家」と評したけれども、そのことについては期待以上で、トランプのような難しい人物相手に良くぞここまでとは評価したいが、政治家はそれだけで点数はやれないのである。対米交渉は行き詰まっているようだ。



、、対米投資額の大きさをアピールしている石破茂首相について、玉木氏は「石破さんは“投資を増やした”とか何とか言っていますが、関心ないですから。トレードディフィシット(貿易赤字)をいかに小さくするかなので」と、論点のズレを指摘した。

 玉木氏の言はともかく、私は首相の外交折衝については意見の必要はないと思っていた。もっと情報のあるブレーンがおり、時宜に応じたもっと適切な案を検討しているはずで、緊迫した伸るか反るかの状況でネット民ごときが口を出してもしょうがないと思っていたこともある。が、この意見には同意するところがあり、私もトランプ・ナバロ関税の原点に戻れと言いたい。

 

※ 右傾化している国民民主党の玉木はトランプのメッセンジャーと見ても、実はそう外れてはいない。参政党などMAGAは水面下で日本政治に工作してきた。

 


 みんな忘れているが、3ヶ月前のトランプ関税で失笑は買ったが、それなりに筋は通っていた公式には提起された問題もあった。この式では貿易差額が問題であり、差額さえゼロになれば理論上関税はゼロになる。そういうものであった。関税には一律10%の基礎部分があるが、これには理論的根拠がなく、トランプでさえ理由を説明できないものだった。つまり、10%は交渉余地がある。

 石破政権の交渉手法で問題なのは、玉木氏が指摘したように、巨額の対米投資やデジタル黒字は問題にしても、貿易不均衡については手つかずで残っていることである。七回もアメリカ旅行した赤沢氏もこれには触れなかったし、彼のパトロンであるトヨタの会長も都合悪いのかこれは避けていた。

 ここでは「貿易」という概念の理解に日米双方で隔たりがあることが問題である。日本側は国際投資も含む収支の総体として理解(それ自体は常識的でまとも)しているが、アメリカ側は経済学の教科書に載るようなごく一般的な理解である。これはアメリカ人が見方を変えれば良いだけの話であるが、80の年寄りを説得することはトランプでなくとも困難であるし、トヨタの手代の赤沢も自分の両親を思い出したせいか説得すら試みなかった。

※ どうもトランプだけではないらしく、この貿易理解は国務省の官僚もかなりの数がいるようである。国務省の官僚の意見を変えるには、アメリカ国民の理解を変えなければならないから、これはどの政権でも基本的な前提問題である。

 

※ 勘定項目が違うので、対外投資やデジタル黒字は貿易収支には計上されない。たぶん、これらを含んだ+-は日米貿易でもほぼゼロのあずである。が、これは日本国民の常識ですらない。

 ここではNATOのルッテ首相がトランプを「パパ」と呼んだことが含蓄深く思い出される。見方を変えるべきはトランプではなく石破の方である。ここで忘れかけていたあの公式が意味を持って来る。



 要は貿易不均衡を是正する措置を採れば良いのである。それも一時的にではなく恒久的に、為替相場による調整メカニズムは不完全で、実はそう長い歴史のあるものでもない。プラザ合意からわずかに40年だ。中国などは今だに固定相場制であるし、たかだか一世代前の常識を永遠の真理のように錯覚することはやめるべきだ。少なくとも江戸時代にはこの制度(変動相場制)はなかった。

 具体的には、日本国民にもっと現金を配る政策をすべきであるし、かつての満州国に似た、黒字を海外に再投資するのも上前をしっかり撥ねて再配分に廻すべきだ。カネは必要だし、再配分をもっとも効率的に行えるメカニズムは国家であってトヨタではない。それに投資の増減にはトランプは無関心だ。

※ ただ、こういうことには時間が掛かるので、対トランプでは即効性のある措置を打ってやり、加えて長期的改善に資するような提案を日米双方の国民に目配りしつつ、どこまで受け容れさせるかが問題である。

※ トランプはすでに匂わせているし、オランダのようにタックスヘイブン含む、海外での経済活動を含んだ企業の総体に課税するという税制改革も必要だろう。また、タックスヘイブンに関連して骨抜きにされている同族企業課税も再検討して良い。

 レソトのように輸出のほとんどをアメリカに依存していたような国には声を掛けてやり、ジーンズくらいはみんな買ってやるべきだ。それで日本国民の誰が困るというのだろう。

※ トランプで困っている国々に対しては、人気取りをすべきである。アフリカは人口伸長地域で、これは将来に役立つ。あと、イスラム教徒は将来的に世界人口で相当割合になるから、アメリカ人の報道は割り引いて良くしてやるべきである。イスラエルなんかあと100年経っても人口は500万人のままだ。これは私が小学生の時もそうだった。日本はもう少しイスラムに寛容であって良い。テロは願い下げだが。

 私は首相の外交手腕を評価しているけれども、欠点を挙げるとするなら、現在でも内政でことごとく躓いているように、この人物が国益に無関心なことである。国益とは潰れかけた日産を救い、トヨタが世界一の自動車会社になることではない。すべての国民にまっとうな収入を与え、能力と才覚に応じた働きの場を与えることであり、寡占資本家の自己満足ではない。それが分かっていないから、この人物の表情には笑顔がなく、国民も笑顔にならないのだ。

※ 出生率などは典型で、日本国民の大半は政府に期待してない。財務省が家計と消費税に寄生し、ほとんどすべての国民に損失ばかりを与えてきたからだ。

 「理屈は結構、国民が喜ぶような具体的な利益を持って来い」、これが今の首相に言いたいことである。相手は中国でもロシアでも構わない。それは私はロシアがウクライナでやっていることは非難しているし、中国がコソコソと殺人ドローンを極東で作ったり、アルバイトの兵隊を送っているのも全然気に入らない。が、そのくらいの現実感覚がなければ、この危機はとても乗り切れないのではないか?

 個人的には、以前とは考えを変え、ロシアと取引することは必ずしも悪いことではないと思っている。現在のロシアは特別軍事作戦のやりすぎで極端な労働力不足と民間資本不足に陥っており、日本が喜ぶものを輸出したくても、石油以外は何もないという状態である。その上一部の油田は枯渇が囁かれているし、元々ロシアの石油はヨーロッパ専売である。ここで日露貿易を再開することは、現在の特別軍事作戦の遂行を困難にすることはあっても、これで儲かる程度の現金で戦局がロシア有利に傾くことはありえない。漁船に乗る船員さえいないのだ。

※ 石油やガスのようなオリガルヒが喜ぶようなものではなく、コモディティを輸入するなら特別軍事作戦に参加する兵隊はいなくなり、ロシア軍も軍拡を諦めて、戦争は自動的に終わる。実はそんなに難しくない。ロシアに工場を建て、あるいはロシア人に建てさせて、我が国の基準で普通の給料を払うだけのことである。

 

※ 油田については本当に枯渇しているようなので、ウクライナに倦んだロシアはどうもコーカサス、アゼルバイジャン侵略を考えているらしい。

 中国については、あまり詳しいことは知らないが、レアメタルなど資源を引き出す方法はあるように思える。貿易収支に影響するとは思いにくいが、例えばこの資源の開発を国を挙げて行ったことにより、中国は環境汚染が深刻化している。レアメタルはウクライナで採掘するよりはずっと平易で、かつ、双方にメリットのある提案である。そもそも国内で適用している環境基準を海外では不適用というダブルスタンダードに問題があった。中国が日本の古い技術で公害自動車を製造するのは勝手だが、それを日本に持ち込む際には三倍くらいの関税と法人税の最高額を製造会社と技術を提供したホンダに掛ける分には誰も困らない。地球に対する罪は重い。

※ 「モノ作り」で人口の多い中国が有利なことは否めない。が、ロシアでも他の国でも中国製品の品質は悪い(すぐ錆びる、壊れる、長持ちしない)ことには定評がある。我々としては、きちんと消費者に情報を提供してやり、粗悪品を買わなければ良いだけのことである。まともなものだけ買えばいい。

 トランプが貿易や経済原則にことごとく背馳するような政策を取るというなら、反感を持つ国からは利益を引き出せば良いのである。アメリカと一緒に日本まで貧乏になる筋合いはなく、また交渉でも青筋立てることはなく、目的を厳選し、笑顔で交渉に応じ、アメリカからも必要な利益をせしめれば良いのである。

※ この点、トヨタの会長が堅持している「自動車関税25%撤廃」は、関税は相手の国のことであるし、裾野も広汎すぎて妥結する見込みはないと言うべきであろう。だいたいこの人物は家柄自慢の自動車レーサーの遊び人で、海外のことは知っているはずだが、優れた外交手腕や経営手腕で定評のある人物ではない。

 実は私は首相にここまでは期待してない。期待しても泥舟自民党に何ができるとも思えない。幹事長は労働人口3%のコメ農家のためにまなじりを決している始末だ。こんなものに何が期待できるだろう。そもそも私にはほとんど関係がない。関係がないから、彼らの失敗は私の責任ではない。

 しかし考えを変えることはでき、トランプの任期はまだまだ続くことから、ここはこの機会を利用して、これまで溜まりに溜まった問題につき、本気の体質改善を考えたらどうかと提案するだけである。しなければしないで、アメリカと同じような社会になり、同じように沈んでいくだけである。いや、あちらは資源があるから、沈むのはこちらの方がずっと早いだろう。
 

(補記)

 つい先日、郵便配達のバイクがモクモクと白煙を上げているのを見て、配達員のいない間にオドメーターを見ると8万キロであった。スーパーカブは頑丈さに定評のあるクルマだが、10年ほど中国で生産していたことがあり、このタイプは中国製だったはずである。郵便集配用のバイクの耐用年数と距離は7年8万キロで、今の事情では耐用限界の超過したモデルも用いられているようだが、メーカーは少なくともこの距離プラスアルファ(約10万キロ)は持つように作っていたはずで、これがこのクルマだとすると生産管理を日本人が監督したといっても中国製のカブにはやや難があるという印象である。それに日本郵政のバイクが定期的な整備を怠るとも思えない。あるいはホンダが考えを変え、8万キロで壊れるように作ったのかも知れない。現在のカブの生産は現在は再び日本に戻っている。為替事情もあるが、日本郵政に納品して何らかの問題もあっただろうことは考えられる話である。なお、集配用のバイクにはほかヤマハ・メイト、スズキ・バーディーがあったが、20年前に製造終了し、現在は集配用のバイクはホンダ一択である。

 


Sometimes, in diplomacy as in life, stability is the most underrated success.
(Olena Tregub, civil society leader (Ukraine))

(訳)時には、人生と同じように外交においても、安定は最も過小評価されている成功です。
(オレナ・トレグブ、市民運動家、NAKO事務局長)

※NAKO(独立汚職防止委員会)はウクライナのオンブズマン

 6月末、オランダのハーグでNATO首脳会議が開かれたが、会議の内容は毀誉褒貶が分かれるものだった。この会談はロシアの脅威への対抗とウクライナ支援の継続がメイン・テーマだったが、短い会議はほぼ全日、気まぐれなアメリカ大統領の歓迎会と化し、ハーグ離宮を借り切ったオランダ王室総出の歓待ぶりに大統領は終始ご満悦であった。成果の見た目の貧しさと、首脳陣のあまりの媚態ぶりには、メディアの中にはこれを屈辱と捉えるものもあった。

オランダのアレクサンダー国王とマキシマ王妃

 例によって慇懃無礼なトランプは会議中にルッテ事務総長(オランダ首相)からの私的なメールを暴露して事務総長に恥を掻かせたが、氏はトランプをさらに褒めそやし、大統領を「パパ」と呼ぶ媚の売りようだった。2日間の会談の成果はわずか450語、5条の宣言にまとめられたが、そのいちいちにトランプは賛意を示し、ルッテの勧めでゼレンスキーとも会談した大統領は上機嫌でハーグを後にした。

※ 通常、NATO会議の宣言の平均は5千語程度である。

 「首脳間の雰囲気を知りたければ、マルク・ルッテ首相のメッセージに書かれている内容とほぼ同じだ」とは、この会合に同席した関係者の言葉である。

 

「大統領閣下、親愛なるトランプ様」と媚びまくっているルッテのメール、トランプ風に平易な文体で大文字で強調表示しているのが痛々しい。

 

 なお、開催国でありながらトランプにオランダの拠出額の少なさを指弾されたルッテ首相は事務総長でありながら集合写真では最末尾に配され、メール暴露に続く屈辱を味わった。トランプの隣に配されたのは、彼のお気に入りのイタリアのメローニ首相である。



※ こちらの勘違いで、最終版の公式フォトを確認すると、拠出額の少なさを指弾されて最端に配されたのはオランダではなくスペインのサンチェス首相である。トランプは国王夫妻の隣にあり、ルッテはその背面にいる。なお、ゼレンスキーはマクロン、スターマー、ライエンのヨーロッパ三巨頭がぐるりと取り囲み、ウクライナに対する支持の強固さを暗示している。さすがに事務総長を最末席はない。

※ メローニがトランプの隣にある写真は確認できなかったが、私が読んだ記事ではそうあり、公式写真は何枚もあるので、中にはそういうものもあるかもしれない。上の一文は間違っているが、断言もできないのでそのままにしておく。

 前回の大統領執務室での事件で服装を指弾されたウクライナ大統領は黒づくめの、見ようによってはスーツにも見える怪しげな服装でトランプと対面したが、この譲歩は特に大統領に感銘を与えなかったようである。が、待ち受けていたマスコミは一斉に「両国首脳の和解」を声高に報道した。


新型ゼレンスキー服、デザインに苦慮したことが伺える

 これを見た私としては、久しぶりに感動したことを覚えている。立派な人たちだ。人間性の気高さは必ずしも高潔な行いの中ばかりにあるのではない。嘲笑や軽蔑に晒され、それに耐える人間にも見られることがあるのだ。媚態が彼ら自身の国家と国民に対する責任感から来たものだという証拠は、宣言における以下の文言にある。

NATOのルッテ事務総長

Allies reaffirm their enduring sovereign commitments to provide support to Ukraine, whose security contributes to ours, and, to this end, will include direct contributions towards Ukraine’s defence and its defence industry when calculating Allies’ defence spending.
(NATO declaration on Ukraine and defence spending, Article 3)


(訳)同盟国は、ウクライナの安全が我々の安全に貢献する同国を支援するという永続的な主権上のコミットメントを再確認し、この目的のため、同盟国の防衛費を計算する際に、ウクライナの防衛と防衛産業への直接的な貢献を含めるものとする。
(ウクライナと国防費に関するNATO宣言、第3条)

 これを読んだ瞬間、絶望的な戦いに一筋の光明を見出した会合の関係者に快哉を叫びたくなったというのが本当の所である。何という立派な人たちだろう。

 トランプは全てのNATO加盟国に一律GDP5%の防衛費増額を求めたが、第3条はその一部をウクライナへの支援に充当することを可能にするものである。ほか、第1条は集団防衛の原則(NATO第5条)の確認を、第2条ではロシアが直接的な脅威として名指しされている。そして画期的なことには、第3条により、今後のウクライナ防衛をNATO加盟国が予算で下支えすることが確認されたことがある。

 提示された理由によれば、一律5%といっても、ルクセンブルクやモンテネグロなど、元より小規模な自衛軍しかない軍隊ではこれだけの予算を消化し切れないことが挙げられたが、これは便法といえ、予算の多くがウクライナの軍需産業の育成に充てられることは明らかだ。

 ヨーロッパは優れた兵器を持つが、多くがアメリカのサプライチェーンに組み込まれ、また高コスト体質で急速に兵器生産を拡大しているロシアには追いつけないきらいがあった。NATO加盟国全ての軍需生産を合わせてもロシア一国に遠く及ばず、複雑すぎる工程は生産の拡大も困難な状況がある。

※ カルロス・ゴーンが日産を追放されなければ、この事情は改善された可能性がある。が、今の彼は日仏双方から逮捕状を出され、レバノンでイスラエル軍の爆撃を受ける身である。

 ウクライナの軍需産業は戦前は無に等しかったが、旧ソ連の時代に航空母艦を建造し、大型航空機や弾道ミサイルを製造していた実績があり、またドローン技術においては世界一の水準にある。すでに対艦ミサイルや長射程ドローン、弾道ミサイルを実戦配備しており、多くは戦争による急場凌ぎのものだが、どのNATO諸国よりも効率的で実践的な生産システムを確立している。ただ、慢性的に資金が不足している。

※ あまり知られていないが、ロシア艦隊の最大艦、空母クズネツォフやミサイル戦艦ピョートル・ヴェリーキーはウクライナ製である。

 気まぐれなアメリカ大統領の所業はしばしば条約を超越するが、この会合には実はもう一つの狙いもあった。ハンガリーはNATO加盟国では親ロシア、反ウクライナの急先鋒だが、首相のオルバンは会議前はウクライナ支援を議題から排除すると息巻いていた。この言い分は会合前のトランプのそれとほぼ一致しており、ハンガリー外交は伝統的に米国と深い繋がりがある。

ムダに豪華なNATO晩餐会だが、これも仕掛けの一つである

 が、結局は宣言に賛成し、対ロシア戦略とウクライナ支援は宣言の中核的内容となった。王宮での歓迎に気を良くしたトランプが前言をほとんど撤回し、トランプに同調していたオルバンも主張を取り下げざるを得なかったのである。長年の強権支配でオルバン政権が弱体化していること、それだけ政権がトランプに依存していることを見透かしたNATO首脳により、ハンガリーは無力化されたのである。その後ハンガリーではプライドデモが再燃し、オルバン政権は窮地に追い込まれている。

 会合後、ルッテ事務総長は今回の会合はウクライナのNATO加盟への架け橋を築くものとし、加盟は既定の方針となったが、このコメントが米国の同意なしに行われたものでないことは明らかで、これはウクライナ問題に対する米国のコミットメントの変化と捉えられている。

 帰国したトランプはかつての盟友で今は宿敵のイーロン・マスクの国外追放と、自らの企業の減税をも含む「大きな美しい法案」を巡って議会と抗争中だが、ハーグ会談でまんまと譲歩させられたことについては、あまり気にしている様子は見えない。このあたりヨーロッパ外交の老獪さと精髄を見たような気がし、私も久しぶりに良い気分である。激しい言葉で罵倒し合うばかりが外交ではないことをNATO首脳陣は実地に証明した。

 一方、トランプの矛先は我が日本にも向けられている。石破首相は対内的にはコメ対策における不手際など、あまり褒められない話が多いが、対外的にはほぼ無謬と言って良く、ゼレンスキーのような吊し上げの危機も紙一重でかわし、今まではかなり上手に情勢を立ち回って来た。今回トランプが突きつけてきた35%の関税は石破外交最大のピンチと言って良く、これをどう切り抜けるかはしばし見ものである。

 首相についてはいろいろ言われているが、大学における留学生予算の拡大はトランプが行っている大学教育の解体を念頭に置いたものである。ヨーロッパはすでに先行し、すでに数百人の研究者がアメリカから逃れ、ヨーロッパでは彼らに国内研究者と同等の待遇と混乱が終息するまでの避難所を提供する措置がすでに取られている。同じことを日本が率先した行ったことは評価して良い。普通の状況とは違うのだ。

※ 措置には嫉妬じみた非難も見られるが、学際ナショナリズムと言って良い。世界を論じるには、この人たち(我が国の一部研究者)は器が小さすぎる。

 彼にとっての幸運は、今の天皇は以前と違って文科系で、元外交官の皇后も語学堪能で外交上の問題は少ないことがある。彼女の父親と異なり、妃が経験を積んだ老練な外交官とは私は思わないが、イギリス王室の助言を仰いだり、「助言と承認」については考える所はあろう。

 後は首相の演技力だが、前回の対談を見る限り、かなりやれそうな気はしている。前任者の安倍晋三のような天賦の才は彼には期待してはいけないが、いずれにしろトランプにとっては自分以外は三枚目で、元ビジネスマンで青年会議所のルッテにできたことなら、彼にもできない道理はないだろう。
 

 

 最初から上手く行かないことは分かり切っている爆撃だった。イランの核濃縮施設は90mの深さにあり、爆撃で通用口が塞がれ、電源も喪失したものの、瓦礫は数週間もあれば除去はでき、中にある核物質(濃縮率60~80+%)を取り出すことはそう困難ではない。

 上手く行かないというのは、バンカーバスター爆弾の掘削力はコンクリートで60メートルだが、掘削する深さは運動エネルギーの4分の1乗に比例するからである。

 つまり、重さ10トンのバンカー爆弾の重量を二倍にしても、貫通できる深さは70メートルにしかならず、施設の深さは90メートルであるから、これも届かないとなる。それに今の爆弾も湾岸戦争で用いられた初期の貫通爆弾(2.2トン)に比べるとかなり大型である。それでも貫通力まで2倍になったわけではない。

 高度を上げれば運動エネルギーは高さに比例するから、2倍の高さなら同じ重さの爆弾でも2倍のエネルギーで直撃することが可能であるが、あの爆撃機(B-2)のフォルムを良く見てもらいたい。ゲイラカイトのような形をし、全面が灰色で塗色されている。これは高高度飛行専用の機体で、この作戦でも爆撃機は高度一万五千メートルの成層圏からエネルギーが最大になるように投弾したはずなのである。

※ 映画「シン・ゴジラ」では同じ爆撃機がごく低空から貫通爆弾を投弾していたが、知らない人の誤用で、本来はこういう用い方をするものではない。



 B-2の実用上昇限度は一万五千メートルなので、これ以上上昇の余地もなく、この爆弾では施設を破壊できないことは明らかだった。アメリカ空軍はかなりトリッキーな戦術、同じ場所に爆弾を2発落として貫通を狙ったが、航空写真を良く見ようとなる。ファルドゥは明らかに山岳地帯で、上空からは侵食の跡がハッキリ見える。つまりこれは岩盤(玄武岩、花崗岩)で、岩盤の硬さはコンクリートの2倍であることから、60メートルの掘削深さは30メートルになり、2発落としても貫通できないとなる。

 

 貫通できる場合も、効果があるのは1発目が開いた穴を2発目が何の抵抗もなく通過できた場合だけで、実際はあちこち跳ね返り、深さは良くて40メートルだろう。

 空軍はついでに護衛戦闘機を送り、適当に爆撃して基地に火災を生じさせたが、アリバイ作りであるように見える。これは住民により撮影され、爆撃が成功したように思わせた。たぶん、実行する方も分かっていたのではないか?

※ 当初提示されていた案では爆弾の貫通力が不足することは明らかだったので、投下前に通常航空機による大爆撃隊を出撃させて岩盤を貫通爆弾が有効な深さまで掘り崩す、破壊の確実を期すため戦術核爆弾を用いるなどの案があった。結局、いちばんお粗末な案に落ち着いたことになる。

 イランに核運搬キャリア(弾道ミサイル、魚雷など)の計画がないことは情報部の精査ですでに明らかになっていたが、その割には相当な量の高濃度核物質(400kg)を溜め込んでいることが知られており、天然資源が豊富で原子力発電に依存していない国としては周囲に疑念を抱かせるものだった。

 ちなみに同等のプルトニウムを日本は約2トン保有している。核兵器に必要なプルトニウムの量は概ね5~10kgほどで、濃度にもよるが、イランは20発ほど、日本は100~200発ほどを製造できることになる。このプルトニウムは原子力の平和用途には全く必要ない。

 爆撃の効果もあり、イランはトランプが提案した停戦に前向きの姿勢を示しているが、擬態と見た方が良さそうである。イランには運搬手段はないので、製造した爆弾はテロ専用と見て良く、しばらく後にアメリカのどこかの都市で核爆弾が炸裂するかもしれないが、それまでは渋々加盟していたIAEAからも北朝鮮に続いて脱退を決めたことがあり、計画を察知したり止める手段もなさそうだということがある。

 それを止めるには、やはり地上軍を送らなくてはならない。爆撃は短慮で、違う方法があったはずだと思っているのは、私だけではないだろう。

 

 もう一つ付け加えると、同じ攻撃は二度とできない。アメリカ空軍にあるMOP(大型貫通爆弾)の総数は20発ほどで、今回の攻撃で14発も大盤振る舞いしたため、残っている爆弾はもう数発しかないのである。

 

Caught in the trap

Airpower, even when paired with intelligence networks, has never toppled a government. Since the dawn of strategic bombing doctrines in World War I, early airpower theorists were captivated by the idea that, if organized correctly, bombing campaigns could encourage populations to revolt against their own governments. Since then, militaries have attempted a wide variety of schemes, including the intense bombing of cities to compel civilians to rise up and demand that their government make whatever concessions necessary to halt the assault. In over 40 instances of strategic bombing from World War I to the first Gulf War in 1991, such barrages, whether concentrated and heavy or light and dispersed, never compelled civilians to take to the streets in any meaningful numbers to oppose their governments.
(Robert A. Pape,  Professor of the University of Chicago)

(訳)罠に掛かった

航空戦力は、諜報ネットワークと組み合わされても、政府を転覆させたことはない。第一次世界大戦で戦略爆撃の教義が始まって以来、初期の航空戦力理論家たちは、正しく組織されれば爆撃作戦は国民を自国政府に対する反乱へと駆り立てることができるという考えに魅了されていた。それ以来、軍は、市民を蜂起させ、攻撃を中止するために必要なあらゆる譲歩を政府に要求させるために、都市を集中爆撃するなど、さまざまな計画を試みてきた。第一次世界大戦から1991年の第一次湾岸戦争までの40回を超える戦略爆撃の事例では、集中的で激しいものであろうと、軽く分散したものであろうと、そうした集中爆撃によって、政府に反対するために有意な数の市民が街頭に繰り出すことは一度もなかった。
(ロバート・A・ペイプ、シカゴ大学教授)

 

 トランプ氏がG7の会場から突然姿を消したが、聞く所によると、どうもゼレンスキーに会うのを嫌気したらしい。G7会合では米ウ直接対話も予定されており、外交圧力や備蓄が尽き始めた米国製兵器の補充など合意が必要な内容がてんこ盛りになっていた。それを直前で遁走、例によってTACO理論である。なお、トランプ政権以降、ウクライナへの追加支援パッケージは承認されていない。

 で、遁走したトランプ氏が口にしているイラン問題については、それとてもネタニヤフの腹話術人形だが、正常な頭脳を持つ彼のアナリストらによれば、イランに核計画はなく、フォルドゥ核施設(イランが空爆を想定して山中に建設した地下原爆工場)をバンカーバスター爆弾で貫くことは不可能という話である。この爆弾は地下60mの目標を貫通して仕留めることができるが、問題の施設の深さは80mある。加えて、山岳地では爆弾の貫通力は半減する。

※ このようにトランプはまともな人間のアドバイスを受けてもいるのだが、問題はそういうことを進言すると、その人物は意思決定の中心から遠ざけられてしまうことである。

 そういうわけで、ミスターTACOにはカードがないのだが、それでもテヘラン市民にハネメイを殺すから市内から退避しろなどと言っている。イスラエルが目標選定にAIを用いていることは前に書いたが、たぶんこのAIは30キロ四方のテヘラン市域なら、どの家屋を分析してもハネメイの顔が映るようにプログラミングされているのだろう。テヘランの人口は870万人である。ハネメイ一人を殺すのにいったい何人殺せば気が済むのだろう?

※ トランプとネタニヤフはどうもハネメイをヒトラー張りの独裁者と思っているようだが、イスラム国家の統治機構がそのようなものでないことはちょっと勉強すれば分かる話である。ヒトラーに近い言動行動はむしろトランプ自身である。

※ イスラエル軍は空爆でイランの核技術者と将軍を複数人殺害したとしているが、判定方法に問題があり、おそらく吹聴ほどの成果は挙げていないと考えている。

 TACOの支持者、アメリカのネットウヨクには中東については根深いトラウマがある。イラク戦争では犠牲者はイラク軍との直接戦闘より駐留後の方がよほど多かった。米軍と傀儡政権はイラク国民に全く好かれておらず、闇討ちで米兵が死んだりしたため、10年の駐留はヘクゼスやバンスのような根性の曲がった人間を輩出し、彼ら以外にもいたことから、彼らは実体験(安い給料、遅い昇進、いつ襲われるか分からない過酷な駐留生活)から、イランの占領統治など不可能なことを熟知しているのである。パージされたイラクの公務員は地下に潜ってISを作り、テロと謀殺でアメリカと同盟国を大いに苦しめた。そしてイランはイラクの10倍大きい国である。

※ 毎度おなじみ、沖縄や横須賀での米兵による婦女暴行事件を見ると、湾岸戦争を境に容疑者の年齢と階級が年を追うごとに劣悪になっていることが見て取れる。すなわち階級は三等水兵など地を這うように低く(年収200万以下)、年齢は二十代半ばから三十代以上と高齢化していることがある。本来なら5万ドルの年俸をもらい、家庭を持つべき年齢でこんな待遇では規律が弛緩して事件に走るのもむべなるかなである。もちろん除隊してもまともな仕事はなく、困窮してMAGAやQアノンなど粗悪思想に染まるのも、今のアメリカなら仕方のないことである。

※ 私の記憶違いで10倍ではなく2倍である。イラン・イラク戦争の頃はイランの人口は6千万で、イラクは1千万強だったが、その後人口が増え、現在はイラン9千万、イラク4.5千万である。なおイスラエルは5百万人くらいであまり変わらない。小学生の頃に覚えたデータが今も通用するのは日本くらいである。

 これはトランプといえども無視するわけにはいかない。ロシアが仲介に名乗りを挙げているが、今ウクライナを苦しめている最大の武器がイラン製のシャヘドで、最近ジェット化して「シャヘド2(ロシア製造型)」になったが、戦争遂行それ自体に関与している「悪の枢軸」との仲介はロシアに一方的に有利なものになるに違いなく、ロシアはイランの核開発を水面下で支え、シリアでの影響力を回復し、どこまでもアメリカに不利なディールになるに違いないことはトランプ以外はみんな知っている。トランプがこれを支持するのは、どう見ても折り合いの付かない自分の支持層を説得しなくて済むからである。

※ そもそもロシアには両国に対してあまりカードがない。強いていえばイランとの関係により強いメリット(カスピ海水運、テクノロジー)がある。イスラエル・アメリカ有利に動くはずはないことは言わずもがなである。

 

※ 結局、イスラエルはイランに対して地上戦を行う能力はなく、空軍のみでは核開発を完全に排除はできず、諜報機関は国内に協力者がおらずクーデターを使嗾する能力もないために、ネタニヤフはトランプに頼ると同時にイラン国民に体制変更を呼び掛けているのだが、根本的に破綻した計画であり軍事作戦である。分かっていないのはTACOだけだ。

 

※ 学生時代に数学をサボったTACOは複数の事象を並行して検討するに際し、期待値というものを考えたことはないのだろう。成功する可能性が低すぎ、これが宝くじだったら誰も買わないようなものだ。ネタニヤフはMIT卒の秀才だが、市民虐殺を続ける彼の知識には偏りがあるようだ。数学的素養がほんの欠片でもあれば、こんな作戦がうまく行かないことはすぐに分かる。

 この件では、ミスターTACOはロシアをG8に復帰させるべきだとのたまったが、TACOの世界ではこれは聞き容れられる提案なのだから聞き容れられたとすると、たぶん、ロシアはイランとの和平を手土産に、いくら戦っても勝てないウクライナ戦争を有利に停戦させるつもりだったのだろう。たぶんプーチンもできるとは思ってはおらず、そんなことを信じているのはTACOだけである。

※ 時間稼ぎというのが大方の見方である。

 現在のロシアは新規生産の航空機や戦車をウクライナには廻さず、備蓄して国境を伺う様子である。これらはウクライナに投入してもドローンの餌食だが、リトアニアに駐留しているアメリカ戦車部隊を蹴散らすくらいのことは十分できるものである。バルト三国にフィンランドが要注意の場所だが、可能性はかなり高いように見える。ロシア戦車が国境を破っても、今のTACOなら第5条発動を拒否するだろう。

※ 補給線が短く、国も小さいために、これらの国がウクライナみたいに戦えるとは思わないほうがいい、侵略は一瞬のうちに完了するだろう。

 経済制裁が上手く行っていないのもTACOのせいで、ヨーロッパのロシア天然ガス、核燃料の依存度は相変わらず高く、しかも増加の傾向がある。これがまずいことはこれらの国々も十分分かっているのだが、代替エネルギーに切り替えられないのは、代替品を提供するアメリカが信用ならない国だからである。そのためロシアは戦前よりもさらに潤い、ロシア中央銀行の外貨準備高は空前の額になっている。

※ 加えてイラン危機のせいで原油価格も上がっている。

 と、並べてみてもこれだけ世界とアメリカに不利益なトランプ政権である。アメリカ人でも気づいている人間は少なくないし、ここまで来ると以前トランプがやった議事堂占拠をリベラル派もやったらどうだと言いたくなる。ただし、キャピトル・ヒルではなくホワイトハウスで。

 しかし、これはあまり良くない。意に沿わない政策があれば反対派が官邸や議事堂を取り囲んで強訴するというのは、まるで「御所囲い」であり、そんな国の政治が安定しているはずがないからだ。ほか暗殺もあるが、これらを許すと同様の政変が二度三度と繰り返される可能性があるので、これらは禁じ手とすべきだ。

 アメリカの制度は性悪説と人間不信の論理が根底にあるとは、これを提唱したモンテスキュー以来言われていることである。制度は拙速のためではなく、熟慮のためにあり、合意形成を遅らせて独裁者の出現を防ぐシステムは、実際に独裁者が登壇してしまうと、引きずり降ろすのにも時間が掛かるというものである。1月以降、腸の煮え繰り返るような話が多いが、どんなに批判が高まっても、TACOがすぐに辞任するなどとは思わない方が良く、今は我慢して見ているしかない。

 

 空襲があった直後、CNNがテヘランとテル・アビブ双方の都市の住民にインタビューしたが、人種も信仰も異なる両都市の市民が口を揃えて言ったことは「この戦争は無意味」というもので、イスラエルが戦端を開いた動機が支持の低下しているネタニヤフの権力欲にあること、トランプも同様であることは両国の国民にはとっくに見透かされているのである。

 

 

 

 鳴り物入りで催されたワシントンでの軍事パレードだが、1時間ほどの式典で明らかになったのは「アメリカ軍はこういう任務には向かない」ということだった。同じ行事ならロシア軍や北朝鮮軍の方がはるかにカッコ良く、服装もきらびやかで見栄えのするものだが、迷彩服で行進するアメリカ兵はまるでピクニックのようで、だらけきった様子に閲兵したトランプも不満顔だ。

 


 同日は「ノー・キング」抗議活動も行われ、こちらはパレードよりもはるかに多い数百万人が参加した。移民排斥に端を発するこのイベントは10日ほど前から徐々に開催場所と数を増やし、今や反トランプが全米の合言葉になっている。

 イスラエルを巡る情勢については、先週ウクライナに送るはずだった特殊信管2万発をガザに転用したことで、イスラエルの攻撃がアメリカの承認の下に行われたことは明らかだが、この戦争はトランプを難しい立場に追い込んでいる。MAGA支持者には一切の外国紛争への介入を拒否する一派があり、イスラエル支持派と勢力を二分することから、トランプとしてはどちらを支持しても支持者を割ることになり、立場を明言できないものになっている。が、思慮と分別がこの大統領にないことは今や世界の常識である。



 上は陸軍記念日(フラッグ・デー)の米国国防省の挨拶文に添付されていた画像だが、図案を巡って疑惑が囁かれている。どう見てもロシア国旗にしか見えない図柄が図中にあり、こういった図柄は先年にも一昨年にも見られなかったことから、これは政権によるロシア支持を暗示する意図的なものという見方がある。

 官公庁による、こういうものの図案がどう起案されるかを考えれば、間違いやデザインということはありえず、ロシア国旗に似た図柄は明らかに意図的なもの、国防長官(ヘクゼス)の指示によるものというのがケレン味のない普通の見方である。これが好戦的で軽薄な人物であることはシグナル事件で明らかだ。イスラエルの件もあるが、相当にまずいトランプ政権である。これは3年持たないのではないか?

 イスラエルについては、トランプ自身はイラン攻撃にどちらかといえば反対だったが、支持者がキリスト教右派であることを見透かしたネタニヤフに足下を見られたというのが専らの見方である。彼の座右の銘でもある「無理を通せば道理が引っ込む(2)」、あるいは「やれることはやる(事実先行、既成事実化)」が、イスラエルにより具現化した例である。トランプはこの論法で憲法や裁判所など抑止力ある法令や命令を片端から無視してきた。

 まあ、元々まずいものを「まずい」と評定してもあまり面白くないかもしれない。当方が気にするのは、これらの戦争がどうも我が国にも飛び火しそうな気配があることである。

 スパイダーウェブ作戦で戦略爆撃隊に大被害を受けたロシア空軍は爆撃機を極東に移転させた。挙がっているのがウクラインカ、エリソヴォ、アナデリの各飛行場で、これらは我が国の目と鼻の先である。ウクラインカはアムール河畔、エリソヴォとアナデリはカムチャッカ半島で、各々ウクライナからは6~7千キロの距離にある。



※ エリソヴォはペトロハブロフスク・カムチャッキー、対岸のヴィリチンスクと隣接しており、前者はロシア海軍軍港、後者は潜水艦基地で、ロシア的には重要拠点である。特に潜水艦は新型核魚雷「ポセイドン」の発射母艦がある。ソ連潜水艦基地はかつてはシムシリ島(千島列島)にもあったが、現在は閉鎖されている。

 



 巡航ミサイル部隊による攻撃は事実上不可能になったのではないかと思うが、もしやるとしたら爆撃機は巡航速度700キロで10時間長駆し、ミサイルを発射してまた10時間掛けて戻ることになる。実際には36時間らしい。現にウクライナ参謀本部の報告を読むと、11日以降巡航ミサイルの攻撃は止んでいる。爆撃の主力はドローンと弾道ミサイルだ。同じく巡航ミサイルを発射できる艦艇は残存艦艇はノヴォロシスクにあり、黒海艦隊は壊滅して久しい。爆撃隊によるミサイル攻撃はウクライナに対する全ミサイル攻撃の3分の1を占めていたため、それでもまだ多いが、ウクライナはこのプラットフォームを製造工場も含め根こそぎ叩こうとしている。

※ Tu-95の航続距離は一万五千キロなので理論上はウクライナへの長距離爆撃も可能だが、搭乗員の疲労や機材の消耗など、このような作戦が実際の戦果以上にロシア空軍を弱体化させることは言うまでもない。



 ロシアの攻撃の特色は弾道ミサイルや戦略爆撃機など、冷戦期は核プラットフォームとして認知されていた兵器を通常爆撃に転用していることである。これらへの攻撃は冷戦期は核戦争と同視されていた。いわゆるレッドラインであり、3年前にバイデン政権がウクライナの反攻を途中で諫止した理由である。ハルキウで思わぬ大敗を喫したロシアは核攻撃のサインを西側に送っていた。

 

 潜水艦もあり、ロシアの潜水艦には核巡航ミサイルを発射できるタイプがある。これはオデッサや内陸部のイバノフランコフスク、リヴィヴへの攻撃に用いられた。

 ウクライナの軍と諜報機関はこのレッドラインを一つ一つ潰して行った。爆撃機もそうだが、ロシアが恐れられる理由の多くが核戦力にあることがあり、これを潰すことはウクライナの利益に叶うのである。そして核戦力の中で最も秘匿性が高く、攻撃しにくいのが原子力潜水艦である。次はどうもこれを攻撃するのではないかという噂がある。



 手始めはウラジオストクを母港とする巡洋艦ヴァリャーグである。これは潜水艦ではないが、黒海で沈んだモスクワの同型艦で、スラヴァ級と呼ばれる艦であり、現在のロシア太平洋艦隊の旗艦である。かつてのソビエト海軍は遥かに大型のミサイル艦、キエフ級やキーロフ級を司令艦としていたが、維持費の高額なこれらは除籍され、現在は中型艦のこれが司令艦になっている。潜水艦よりは平易な相手だ。

 いや、地球の裏側、海路では1万キロ以上彼方の軍艦など攻撃しても意味がないのではという言い分もあるが、先に挙げたエリソヴォ基地やアナデリ基地は極北のド僻地で、スパイダーウェブ作戦では、これらよりは「ややまし」なウクラインカ基地への攻撃は失敗に終わったことから、交通条件のさらに悪いこれらに陸路からの攻撃はまず無理である。



 なお、ウクラインカ基地のアムール川中国側対岸には大興安嶺があり、これは中国SF「三体」でヒロインが強制労働させられた場所で、描写は格別に酷かったことから、最良でもこのレベル、おそらくさらに悪いこれらの基地への攻撃が困難なことは分かるだろう。アナデリなどは配属自体が人類社会からの追放のような場所だ。

 ウクライナも打つ手ないのではと思わせるが、どうもあるらしいという話もある。いずれにしろ射程1万キロの武器はウクライナにはないので、船なりトラックなりで近づく必要があり、海上ドローンの場合は2千キロが攻撃レンジという。

 これは上記の二基地ならアリューシャン列島から十分に狙える距離であるし、ウラジオストクでも台湾や宮古島から攻撃できる。ウクライナは充実した海員養成のプログラムを持っており、ウクライナ人船員は世界の海運でそれなりの数を占める。輸送船に偽装したドローン母艦が東シナ海に入ったら要注意である。先のケルチ大橋爆破はこの予行演習という説もある。接近したドローンは船体を完全に水中に隠しており、橋脚直下に1トンの爆薬を運び込まれるまでロシア側は全く気づかなかった。
 

 情け容赦のないウクライナの諜報機関、DIUとSBUはそれが極東でも可能なら躊躇なく攻撃するだろうし、そのための手段を案出することにも長けている。攻撃に際しては台湾や日本政府の承諾があるように偽装することは十分考えられるし、それは当然ロシアの対応を呼ぶ。対岸の火事と思っていたものは、実はすぐ間近に近づいていたのである。

 

 アメリカの移民反対デモを見ていると、どうもトランプ氏と彼の一味の「危機管理」とは、災難を未然に防ぐのではなく、むしろ煽り立て、事態をさらに悪くするもののように見える。国内ですらこの体たらくなのだから、国外など推して知るべしで、ウクライナ、ガザ、イラン、一味の関わった紛争はすべて激化の一途を辿っている。遠い昔のアフガニスタンも、原因はトランプが現地政府の頭越しにタリバンと結んだ和平協定だ。

 私は今の日本国民やマスコミを本当にバカだと思っているけれども、だいたい危機というのは未然に防いだ人間はまず評価されない。大惨事が起きて初めて、やれ「こうすべきだった」、「誰それの責任だ」と騒ぎ立てるのがせいぜいで、マスコミも国民もそういう事態を未然に防いだ「日の当たらぬ英雄」を評価することは決してないのだ。

 昔からそうだったのかといえば、それは良く分からない。情報伝達の方法や受け手のリテラシー、そういったものがあり、過去も同じだったとは断言できない。もっと悪かったかもしれないし、良かったかもしれない。膾炙している文化もあろう、石丸伸二のような言い分を「姑息な言い訳」と一蹴するか、「それはあなたの見解ですね」とし、頭が良いと評価するかは、その社会の文化程度次第だ。

 望ましいか、望ましくないかで考えれば、我々はもっと日陰の人物の功績を評価すべきなのだろう。マスコミにはそのための情報を要求すべきで、我々ももう少し思慮深くあるべきであろう。それで悪いことはたぶんないのであるから。

 話をウクライナに移すと、先のスパイダーウェブ作戦は結構効果的だったようで、報道ではロシア軍はドニプロペトロウシクやスームィで進軍しているが、ウクライナの攻撃機も西進し、ロシア領でスホーイを撃墜したりしている。開戦時に6機しかなかったロシアの早期警戒管制機、航空戦ではチェス盤上のキングで、爆撃機より貴重なもの、は、昨年に2機が失われ、今回も2機が破壊されたことから、航空戦はスウェーデン製やイギリスの管制機を使えるウクライナが有利になっている。ロシアのミグ31はウクライナの戦闘機の射程外から空対空ミサイルを撃つことができるが、それも管制機の支援あってのことである。失われたメインステイ(A-50)の補充は今のロシアではまずできない。

 警戒機の破壊は、まず歩兵で威力偵察を行い、敵陣の配置を把握した後で重戦車や滑空爆弾で陣地ごと破壊するというロシア軍の戦法にも影響が出ると思われる。滑空爆弾の射程は当初の30キロから現在は90キロまで伸びているが、現在はウクライナ戦闘機はロシア領50~100キロまでは安全に侵入できる。AMRAAMミサイルの射程は120キロだ。問題は戦闘機が足りないこと。が、ウクライナ軍はスームィでロシア軍を止めており、作戦の効果は徐々に出つつある。

 ロシアの最深部への攻撃が可能になったことから、ウクライナの戦略は従来なら大規模爆撃隊で行うような作戦、敵国の工業基盤の破壊にシフトしている。爆撃機の次に狙われたのは大型航空機を製造しているツポレフ社で、ハッキングで設計図や社員リストが流出し、工場にはドローンが飛んでいる。使用している半導体製造工場もターゲットだ。こういった攻撃は従来はアメリカのような大国でなければ不可能だった。それも例は多くない。

 

 重爆撃以外は、ウクライナにはDIU(軍情報部)とSBU(保安局)の二つの諜報機関があり、どちらも有能で、国外でも活動していることから、ゼレンスキーは彼らを競わせ、戦果に貢献させているように見える。スパイダーウェブ作戦はSBUが実行した。どちらも元KGBであるが、DIUの方が西側寄りとされる。

※ ウクライナ建国直後、CIAはウクライナの諜報機関の再建を支援したが、どちらも腐敗の程度が酷く、対外向けでより与し易いと考えられたDIUの再建を優先した事情がある。DIUはイスラエルのモサド機関を手本にしており、実情もそれに近いものがある。一方内国担当だったSBUはゼレンスキーが再建し、DIUを牽制しているとされる。あまり知られていないがシリアやアフリカではこれら機関とFSB、ワグネルとの抗争が行われており、つい最近はシリア革命を成功させたり、マリでワグネルを撤退に追い込んだことがある。

 正直、毎夜毎夜ロシアミサイルがいかにもな民間施設を狙い、キーウやハリコフで市民を犠牲にしているのを見ると、同じことをやれば良いものをとは思う。はるかに平易で、市民に与える影響も大きい。捕虜にしても、ロシア兵は登降したウクライナ兵をすぐに射殺してさらし首にしたりしているが、ウクライナは国際人道法に則った取り扱いをしている。戦争犯罪は仔細に記録され、のちの裁判に備えている。

 もっとも、トゥルーソーシャル(トランプのSNS)などで見ると、そこにはまた違ったウクライナ像がある。そこでのウクライナは徹底的に腐敗しており、援助はゼレンスキーらが私腹を肥やすのに横流しされ、国内は格差社会で前線で苦闘する貧乏人の息子と美女を侍らせ毎夜贅沢にふけるオリガルヒの息子がいるといった具合だ。10年ほど前まではそうだったとは話には聞いている。

 インターネットが成熟し、AIも使えるのだから、今ほど情報が取捨選択できる時代はないと思うが、一昔前は口コミが最強の情報伝達ツールであった。ある年代以上では今だに用いている人も多い。しかし、真実は一つなのであるし、惰性に任せて探索しないのは怠慢だと今では思えるものである。見比べれば、何が正しいかは誰でも分かるものである。一部の人間を除いては。

 トランプとその一味を見ていると、私はこういう人間の下で働くことは我慢できないが、まさしく「愚者の楽園」で、それは我慢すれば利得はあるだろうが、加担することが世の中を進歩させたり、何か幸福につながるものとは、どうしても思えないことがある。

"An army in which commanders bear personal responsibility for the lives of their troops is alive. An army where no one is accountable for losses dies from within."
(Mykhailo Drapatyi, Commander of the Armed Forces of Ukraine)

「指揮官が兵士の命に対して個人的に責任を負う軍隊は生きています。損失に対して誰も責任を負わない軍隊は内部から滅びます。」
(ミハイロ・ドラパティ、ウクライナ軍指揮官)

 スパイダーウェブ作戦に前後して辞表を提出したドラパティ将軍はウクライナでは陸軍司令官だが、これは作戦の一週間前に起きた訓練場の被爆による。12人が死亡し、作戦の成功を見届けたドラパティは辞意を表明した。なお、陸軍司令官は日本では陸上幕僚長に相当する、陸軍全体を統括する将官の最高位である。ウクライナの場合はその上に総司令官がいる。ゼレンスキーは彼を慰留し、新たに統合軍司令官の地位に就かせた。兵士の信望が厚く、軍の改革の中心人物だったこともある。

※ 統合軍司令部というのはウクライナ軍ではNATO式の組織化が進んでおり、NATOの基準に基づき、作戦命令を発する司令部(統合軍司令部)と実戦部隊を掌握する司令部を明確に区分したことにある。ウクライナ軍は従来参謀本部の権力が強く(楽団まである)、最高司令官イコール参謀総長で指揮と命令の区分が明確でなかったが、そのあたりを改善するものである。あと、2014年以降の状況からウクライナ軍は旅団編成が中心で、それも私兵上がりの半官半民的なものだったが(独自の資金集め、隊員募集など)、これらも統合し軍団制にすることで、戦争はウクライナ軍全体を現代的な軍隊に脱皮させつつあり、ドローン軍など他国では編成すらない新部隊も加えている。

 トランプらがどう思っているかは知らないが、現在のウクライナ指導部はこのドラパティやゼレンスキーをはじめとして、概してウクライナの中産階級の出身がほとんどである。むしろあからさまな金持ちは野党におり、ポロシェンコなんか典型だ。下のドラパティの言葉なんかシグナル事件で誰も責任を取らなかったトランプたちに聞かせてやりたいくらいだ。

 "We will not win this war unless we build an army where honour is not just a word, but an action. Where responsibility is not a punishment, but the foundation of trust. Where every commander is accountable – for every order, every decision, every person – every single day."
(Drapatyi, above)

「名誉が単なる言葉ではなく行動となる軍隊を築かなければ、この戦争に勝つことはできない。責任が罰ではなく信頼の基盤となる軍隊を築かなければ、この戦争に勝つことはできない。すべての指揮官が、すべての命令、すべての決定、すべての人物に対して、毎日責任を負う軍隊を築かなければ。」
(ドラパティ、同上)

 日本でも消費者の大多数に損害を与えたコメ騒動は結局誰も責任を取らないまま終焉しそうである。この国もアメリカと同じ病に侵されてはいまいか。このウクライナを始めとして、アジアやアフリカにもある、新しい民主主義国に対して顔向けできないような恥ずかしい態度を我々は取ってはいまいか。

 

 

 ついにロシア軍の損失が100万人に達したが、英国情報部など外国はこれは戦死傷者で実際の死者は25万人としている。ウクライナ参謀本部ではこれは実際に殺害した員数ということになっている。トランプ就任以降だとすでに16万人が死亡していることになり、「24時間で終わらせる」という約束はいったいどこに行ったのだろうと思わせる。

 

 

 目立ちたがり屋で頭空っぽの小泉大臣がIT資本と結託して備蓄米の廉価販売を始めたことは今の話題だが、早くもなくなりかけているようで、この分では米は私の所に来る前になくなってしまうかもしれない。

 近所のファミリーマートでは朝から問い合わせがあるが、入荷していないとのこと。

 それはさておき、これがなくても昨年の米の品質はひどかった。酷暑が続いたこともあり、全体的に銘柄米でも小粒で、概して白目米が多く、普通に炊いたのではベチャッとして全然美味しくない。経験はあるのではないだろうか。

 実はこれ、炊き方にも原因があるように見える。私もたまりかねたので少し調べたが、農水省の試験場では気候変動やニーズに合わせ、毎年多種多様な米をリリースしている。コメ=こしひかり、あきたこまち、と、いうわけでは必ずしもなさそうだ。

 ご多分に漏れず、こちらもコメを探しにスーパーをハシゴしており、現在20kgほどの備蓄があるが(二人暮らしなら3ヶ月分)、品種はまちまちで、また、上に述べた品質不良があり、炊いては見たものの閉口するケースがままあった。

 



 これをテレビみたいに「粗悪米を混ぜている!」と断ずるのはそうだが、その前に少し考えようということで品種を調べると、どうも水量に問題があることが分かった。ミルキークィーンはおむすび向けの品種で、水量が少ない方が美味しく炊けるのだ。

 概して新しく導入された品種は必要な水量が少ないように見える。概ね1~2割減で、何回か試してみた結果、現在では1:1で炊飯している。現在の炊飯器の基準米であるコシヒカリはどちらかといえば水量はやや多めの米だ。炊飯器なら目盛線より2~5ミリほど低めで炊いたらどうだろうか。

 私の場合は計量して入れており、その際に氷を3分の1ほど混ぜる。炊飯器は最初に加熱して水分をコメに行き渡らせるので意味ないという考えもあるが、冷水で締めるのでこちらの方が美味しいような気がする。

 あと、もち麦を混ぜてみるのも一つの方法である。麦はコメよりも必要な水量が多いのでバッファになり、加えて精米法が無洗米等に使うような精度の良い機械を使っているので煮崩れしにくいことがある。



 新品種は多岐に渡るのでChatGPTも使い分類してみた。が、この表は間違っているので(間違えた理由も分かる)、実際に関連サイトを一つ一つ調べることをお勧めする。人工知能が信頼できるアドバイザーになるのはまだ先のようだ。

 

※ 人工知能が科学的根拠ではなく、食味を表現する文脈から必要な水量を当て推量したことによる。大量の情報を迅速に処理できるという点ではGPTは優秀だが、前提となる推論の立て方に問題がないとは言えない。というより、全く弱い。

 

I mean, honestly, it’s kind of hard to imagine how Ukraine would have survived without drones.
(Marc Santora, jounarist)

(訳)正直なところ、ドローンなしでウクライナがどうやって生き延びたか想像するのは難しいです。
(マーク・サンドラ、ジャーナリスト)

 

 6月1日にウクライナがシベリアと極地地方で行った「パラヴィナ(クモの巣・スパイダーウェブ)」作戦は世界を驚愕させているが、同時にこの戦争で顕在化したドローンによる戦闘が進化と分化を続けていることも明らかにした。作戦の二日後、今度は海上から発進した水中ドローンがケルチ大橋に爆弾を仕掛けて起爆に成功し、さらに二日後には長距離ドローンの爆撃隊がロシアのエンゲルス空軍基地を攻撃した。

 迎え撃つ方も進化しており、シャヘドドローンの量産化に成功したロシアはスパイダーウェブ作戦の報復として400機のドローンでキーウを攻撃したが、大半は撃ち落とされ、両軍初の迎撃ドローンが使用されたとされる。これはドローン30機を撃墜したとされる。それまでは迎撃ミサイルや携帯式地対空ミサイル、機関銃が主な手段だったが、英国で開発された電磁パルス照射装置は一度に数十機のドローンの電子機器を故障させ、墜落させる能力を持つ。つい最近もウクライナ軍は歩兵用の対ドローン兵器として散弾銃の代わりに小型電子戦装置(電波ガン)の配布を始めたばかりだ。

 あまり報道されなかったが、昨年あたりからウクライナのドローンはいくつかに機能分化していた。戦車を襲うFPV(一人称)ドローンの映像ばかりがクローズアップされるので目立たなかったが、実ははるかに大型の「ヴァンパイア」ドローンも並行して用いられており、これは夜間に活動し、FPVが撃ち漏らしたロシア兵を手榴弾を投下して掃討したり、個々の堡塁に物資を運搬するのに用いられた。物資運搬については、かなり前から地上を走行するラジコンのような台車ドローンが物資や負傷者の運搬に用いられている。

 

 

 スジャの突出部など一見補給困難な場所でウクライナ軍が戦線を維持できるのも、こういったドローンの活躍あってこそである。ドローンがドローンを運ぶドローン空母も用いられ、単独では数キロしか飛行できないFPVドローンの行動半径を数十キロに拡大した。パラヴィナ作戦の全容は明らかにされていないが、これまでのウクライナ・ドローン戦術の集大成のような作戦であることは間違いない。

 映像を見てまず疑問に思ったのは、数千キロ離れた飛行場で、しかも高度な妨害装置があるのが普通の軍事基地でウクライナがどうやって操縦のための通信線を維持したのか、場所が場所だけにスターリンクを用いることはできない。これまでも前線でロシア戦車に近づいたドローンが妨害装置で通信を遮断され、そのまま墜落するのを見てきたことを考えると、この運用にはリスクが伴う。この種基地の近くでは妨害装置による通信途絶はまず避けられない。ウクライナの技術者はAIを用いることでこの空隙を埋めることを考えた。通信が途絶している間はAIがドローンの操縦を行い、場合によっては突入まで行うようプログラミングされていた。もちろん人間による操縦もできる。

 ぶつけ方にも一工夫ある。被爆した爆撃機はTu-95が最も多いが、二重反転プロペラのこのレシプロの最高傑作はかつてウクライナも保有しており、軍事博物館に展示されている機体があった。通例、ドローンの小容量の爆薬でこの種大型機を破壊するのは難しい。大型爆撃機はそれ自体堅牢に作られており、一部は装甲もされ、空中でも多少被弾したくらいでは落ちないように設計されている。博物館で実機を研究したウクライナの技術者はこの爆撃機の脆弱部分や燃料タンクを狙うようにAIをコーチングし、ドローンが爆撃機のその部分を狙うように仕向けた。映像にはわざわざ爆撃機の翼下まで潜り、起爆を狙うドローンの映像まである。これは人間オペレータかもしれない。



 トレーラーに積まれたプレハブ建物に偽装し、内部で発進を待つドローン基地にはドローン空母の技術が用いられている。今年から顕在化した光ファイバードローンは今回の作戦では用いられていないが、数日、あるいは1月以上、作戦の機会を伺うドローンに給電し、通信の中継を行う基地には空母のノウハウが活かされている。ドローンそれ自体の飛行能力も通常より長いようだ。光ファイバーのリールとバッテリーをセットにした飛行距離延長パックは今年から用いられている。今回はそれは間に合わず、バッテリーを増設したのだろう。

 攻撃時に対象となる航空機が駐機しているかどうかもポイントである。攻撃しても爆撃機が出動していて基地がカラでしたでは攻撃は空振りに終わるからだ。Tu-95爆撃機による、これまでの再三再四の空襲から、ウクライナは爆撃機の動向をある程度掴んでいた。攻撃は三つのタイムゾーンに分かれていたのである。

 もっともエンゲルス空軍基地における残存爆撃隊の掃討は失敗に終わった。核戦力の一つである大型爆撃機はロシアでもアメリカでも非常時には緊急発進して在空して基地での被弾を回避する。マニュアル通りの行動で、これは仕方がない。ウクライナは爆撃機が帰着する翌日以降を狙ったが、空振りだったようだ。

 このように作戦自体独創的、画期的ともいえるパラヴィナ作戦だが、個々の技術は以前にも見たものである。映像を見たロシア軍関係者がまず懸念したのは、今回は専らウクライナ諸都市へのミサイル攻撃に用いられていた旧式爆撃隊だったが、これが核ミサイルのサイロや原子力潜水艦、ムルマンスクにあるロシア艦隊の旗艦「ピョートル・ヴェリーキィ」だったらどうだろうかというものである。

 ロシアもアメリカも核戦力の主軸は大陸間弾道ミサイル、大型爆撃機、弾道ミサイル潜水艦の三本柱からなる。これらへの攻撃は核による報復を覚悟すべきもので、迎撃にも核の使用が許容される。そういったものであったはずであった。

 例えば我が国の潜水艦が、今はいないが、オホーツク海のソ連原潜の蝟集海域に入り込んだなら、ソ連はすぐさま核爆雷を落として自衛艦を排除したはずで、冷戦期には北極海やバレンツ海でそういった沈黙の戦いがギリギリの線で行われていた。特使のケロッグが攻撃リストに北方艦隊が加わっていることを見て懸念を示したのも冷戦期を知る軍人なら当然の反応であった。

 ウクライナは今回の攻撃は専らウクライナを爆撃する通常兵器の爆撃隊を排除するものとし、核については触れていないが、被爆して核兵器が起爆した機体もなかったので、現在のTu-95には核は積まれていないのだろう。Tu-160(ブラックジャック)ならありそうに見えるが、現代の防空網の突破はマッハ2を出せるこの爆撃機でも困難である。相方のB-1はとうの昔に通常爆撃機に仕様変更されている。

 「国民の僕2」があるなら、「スパイダーウェブ作戦2」もありそうな感じである。ロシアは国境線の警護を強化し、不審車両の摘発にその資源を割かなければならない。ここでも状況は非対称的で、侵略を受けているウクライナでは不審人物や侵入者は地元住民により告発されるが(ダース単位で試みられたゼレンスキーの暗殺が成功しない理由である)、侵略国ロシアではプーチン政権に対する反感から、作戦に現地の協力さえ得られそうだといういうことがある。そしてこれまで見るところ、ウクライナはこういった反間を多数抱えている。カードは元々あり、ウクライナの戦略はロシアに戦争による負担を耐えられないものにすることである。

When I spoke with Russian prisoners, all of them said they wanted to earn money from the Putin regime to improve their financial situation. Not one of them mentioned ideological motives, higher values, or noble goals. Only credit, debt, mortgages, poverty, and children to feed…
(Said Ismagilov, Ukraine’s former chief mufti, medic)

(訳)ロシア人の囚人たちと話をしたとき、全員がプーチン政権から金を稼ぎ、経済状況を改善したいと言っていました。イデオロギー的な動機や高尚な価値観、崇高な目標を口にする者は一人もいませんでした。ただ、借金、借金、住宅ローン、貧困、そして養わなければならない子供たちのことばかり…
(サイード・イスマギロフ、ムフティ、救急救命士(ウクライナ))

 トランプ政権の反応は、まあ、予想通りである。報道を聞いたトランプはまず何が起こったか分からずに凍りつき、実はプーチンも凍りついていたが、そちらは報道されなかった。しばらく後に事前に相談しなかったことにつきウクライナを非難し始めた。交渉ではプーチンはおそらく核をちらつかせたが(当然ではある)、積んでいたなら基地は核爆発したはずである。ソ連時代のロシアでこの種核事故が本当にあったことは知っている人は知っている。

And here is the uncomfortable truth: Western audiences can’t spot the difference between Russian dissidents and Russian imperialists. Ukrainians can — and they’re tired of explaining why it matters.
(Vira Kravchuk, Ukrainian journalist)

 

(訳)そして、ここに不都合な真実がある。西側諸国の人々はロシアの反体制派とロシア帝国主義者の違いを見分けられないのだ。ウクライナ人は見分けられる――そして、なぜそれが重要なのかを説明するのにうんざりしている。
(ヴィラ・クラフチュク、ジャーナリスト)

 核はおそらくないだろうが、ここでトランプに我が身の幸運を考えてもらいたいのは、この種ドローン攻撃が旧型爆撃機や貯蔵タンクくらいで済んでおり、ロシアみたいにスーパーマーケットやファミレス、遊園地や老人ホームを標的にしたものではなかったことである。電波妨害装置のないこれらはロシア基地よりずっと平易な目標だ。モスクワにしてもシェレメチェボ空港を襲うより、プーシキンスカヤのロシア歓楽街を襲う方がずっと容易い。ロシアはヘルソン市役所を爆破してウクライナに攻撃のヒントを与えた。これもウクライナの持つカードの一枚である。

 イスラエルのネタニヤフは食料配給所を偽装して集まってきたガザ住民を機関銃で殺し、犠牲者の多くは年端もいかぬ子どもたちだった。卑劣な行いをする人間には共通項がある。それは自分がやっていることを、他の他人が同じことをできることを、常に忘れている点だ。傲慢を口にした人間は同じ傲慢の報いを受ける。かなり高い確率で、それは本当のことだ。

 

So first of all, we talked about how this was a year and a half in the planning. So while President Zelensky was in the Oval Office being berated, he knew that this plot was being cooked up. So in any case, he knew he had some cards in his back pocket.

(Sandra, above)

(訳)まず、これは1年半前から計画されていたという話をしました。ゼレンスキー大統領は大統領執務室で非難を浴びていたにもかかわらず、この陰謀が企てられていることを知っていました。つまり、いずれにせよ、彼は自分の懐にいくつかのカードを持っていることを知っていました。
(サンドラ、上掲)
 

 トランプ政権については1月の就任式以降、1月目は混乱、3月目は造反、半年後は瓦解と書いたけれども、それから半年経ち、どの政策も行き詰まり、マスクは閣内を離れ、瓦解とは言わないまでも内部から腐朽した見掛け倒しの様相を呈している。

 これをあと3年半続けても迷惑なのはアメリカ国民だが、自分らの選んだ大統領なのだから、自分たちで何とかしろというのがこちらの言いたいことである。が、世界に迷惑を掛けるのは良くない(すでに十分迷惑だが)。ガザやウクライナはあまりに無責任だ。

 で、スパイダーウェブ作戦は後にするにしても、半年も経つといいかげん慣れてくる。私もトランプ政権の特徴として3つのルールを創案してウケを取ったけれども、これはこんな感じになる。

<トランプ政権3つのルール>

1.常に逆張り・・人と同じことは言わない。正しいことはしない。

2.無理を通せば道理が引っ込む・・関税問題など

3.勉強したら負け・・ウクライナ問題など


 これだけ取れば我が国にもいる、どこぞのおっさん、酔っぱらいと変わらない。どこにでもいそうな気がする。そんなのが世界最強の国の舵取りをしているのだ。

 何事も行き当たりばったりであるから、状況把握力が極めて乏しいのも一期目からの特徴で、ウクライナ問題についてはウクライナに譲歩させ、得意満面で「ボールはロシアにある」とほざいたものの、そのボールは一日でプーチンに投げ返され、死球を喰らったトランプは、その後数日間沈黙を保ち続けた。あるヨーロッパの外交専門家は、大統領のこの態度を「愚鈍」と評している。私も同意見だ。

 なのでスパイダーウェブ作戦についても、実施を聞いたら政権が「凍りつく」ことは想定の範囲内であった。気を利かせた側近が懲罰としてウクライナ向けの近接信管(ドローン撃墜に用いるもの)の搬出を禁止したが、これはウクライナの注文でバイデン政権下で承認されたものであった。

 アメリカの対ウクライナ援助額は3千億ドルではなく800億ドルで、3年間の戦費の6割はウクライナ自身が支払ったものである。米国メーカーへの発注もこれに含まれる。アマゾンだったら返金案件だろう。

 実を言うと、ドッジ団のリストラで大量の公務員が鶴首されたとか(失業率の上昇の原因である)。ハーバード大学に嫌がらせといった話にはこちらはあまり興味がない。これらはアメリカの問題であり、彼ら(アメリカの有権者)がそれを選んだ以上、結果がいかに悪くても、その損失は彼ら自身が甘受すべきものだからだ。しかし、愚鈍な政権のせいで、アメリカ人以外の人間が死んだり傷ついたりするのを見るのは我慢がならない。

 トランプ関税の公表後、その後の株価の急落と政権の態度の変化から、あるヨーロッパの経済専門家は株式市場が政権のアキレス腱であることに気づいた。この政権は彼らのせいで失業したり倒産したりした人々には一顧だにしないが、トランプと彼の友人の財産の目減りには敏感であり、加えて米国株式市場は流動性が高く、比較的簡単な方法で株安にできることから、経済を武器に対処すべきだと主張した。欧州や日本の財務当局が米国債の放出を検討し始めたこともある。トランプが強気に出た後にすぐに主張を撤回することは「TACO理論」として知られるが、その背後には米国特有の株式市場や債券市場の脆弱性がある。ソフト・パワーの恩恵を十二分に受けたこれら市場は実体よりもかなり高い価値で取引されているからだ。

 日本でも石破政権はことトランプ政権相手には賢明な立ち回りをしていると思うが、そこで日本側が持ち出した概念に「デジタル黒字」がある。登記上の本拠を米国内に持たないGAFAが日本から持ち出している金額は6兆円なので、これをみなし対米赤字とし、政権が主張する貿易黒字8兆円と相殺すれば関税は大幅に下げられるはず。以降無視されているが、国際経済交渉の場にGAFAを持ち出した初の事例として、顛末は世界中が注視しているに違いない。

 ウクライナのスパイダーウェブ作戦については、計画は1年半前からということなので、これはバイデン政権にも秘密であったことから、より愚鈍なトランプ政権が作戦を知り得たはずはなかった。戦果は誇張という声もあるが、我が国にもよく飛来してきたTu-95(ベア)は半数がやられ、これもおなじみのTu-22M(バックファイア)やTu-160(ブラックジャック)、A-50メインステイ哨戒機も被爆したというのだから、それなりの被害で、特にメインステイは残り4機しかなかったものの2機なので、これは航空作戦に甚大な影響を及ぼす。

 緒戦では300機ほどの損失を受けたものの、以降2年間は損失は稀にしかなく、ロシア空軍はロシアの切り札として温存されてきた。しかし今回の件はその空軍も実は張り子の虎(現代的航空戦を行う要素が欠落しつつある)ではないかという疑いを生じさせ、作戦の成果が明らかになるのは後のことだが、公表された戦果がある程度事実なら、影響はすぐに現れるはずである。このところのウクライナ空軍はクルスクやブリャンスクでミグやF-16でロシア領に侵入して作戦することが増えていることから、影響はすでに出ているかもしれない。