最初から上手く行かないことは分かり切っている爆撃だった。イランの核濃縮施設は90mの深さにあり、爆撃で通用口が塞がれ、電源も喪失したものの、瓦礫は数週間もあれば除去はでき、中にある核物質(濃縮率60~80+%)を取り出すことはそう困難ではない。
上手く行かないというのは、バンカーバスター爆弾の掘削力はコンクリートで60メートルだが、掘削する深さは運動エネルギーの4分の1乗に比例するからである。
つまり、重さ10トンのバンカー爆弾の重量を二倍にしても、貫通できる深さは70メートルにしかならず、施設の深さは90メートルであるから、これも届かないとなる。それに今の爆弾も湾岸戦争で用いられた初期の貫通爆弾(2.2トン)に比べるとかなり大型である。それでも貫通力まで2倍になったわけではない。
高度を上げれば運動エネルギーは高さに比例するから、2倍の高さなら同じ重さの爆弾でも2倍のエネルギーで直撃することが可能であるが、あの爆撃機(B-2)のフォルムを良く見てもらいたい。ゲイラカイトのような形をし、全面が灰色で塗色されている。これは高高度飛行専用の機体で、この作戦でも爆撃機は高度一万五千メートルの成層圏からエネルギーが最大になるように投弾したはずなのである。
※ 映画「シン・ゴジラ」では同じ爆撃機がごく低空から貫通爆弾を投弾していたが、知らない人の誤用で、本来はこういう用い方をするものではない。
B-2の実用上昇限度は一万五千メートルなので、これ以上上昇の余地もなく、この爆弾では施設を破壊できないことは明らかだった。アメリカ空軍はかなりトリッキーな戦術、同じ場所に爆弾を2発落として貫通を狙ったが、航空写真を良く見ようとなる。ファルドゥは明らかに山岳地帯で、上空からは侵食の跡がハッキリ見える。つまりこれは岩盤(玄武岩、花崗岩)で、岩盤の硬さはコンクリートの2倍であることから、60メートルの掘削深さは30メートルになり、2発落としても貫通できないとなる。
貫通できる場合も、効果があるのは1発目が開いた穴を2発目が何の抵抗もなく通過できた場合だけで、実際はあちこち跳ね返り、深さは良くて40メートルだろう。
空軍はついでに護衛戦闘機を送り、適当に爆撃して基地に火災を生じさせたが、アリバイ作りであるように見える。これは住民により撮影され、爆撃が成功したように思わせた。たぶん、実行する方も分かっていたのではないか?
※ 当初提示されていた案では爆弾の貫通力が不足することは明らかだったので、投下前に通常航空機による大爆撃隊を出撃させて岩盤を貫通爆弾が有効な深さまで掘り崩す、破壊の確実を期すため戦術核爆弾を用いるなどの案があった。結局、いちばんお粗末な案に落ち着いたことになる。
イランに核運搬キャリア(弾道ミサイル、魚雷など)の計画がないことは情報部の精査ですでに明らかになっていたが、その割には相当な量の高濃度核物質(400kg)を溜め込んでいることが知られており、天然資源が豊富で原子力発電に依存していない国としては周囲に疑念を抱かせるものだった。
ちなみに同等のプルトニウムを日本は約2トン保有している。核兵器に必要なプルトニウムの量は概ね5~10kgほどで、濃度にもよるが、イランは20発ほど、日本は100~200発ほどを製造できることになる。このプルトニウムは原子力の平和用途には全く必要ない。
爆撃の効果もあり、イランはトランプが提案した停戦に前向きの姿勢を示しているが、擬態と見た方が良さそうである。イランには運搬手段はないので、製造した爆弾はテロ専用と見て良く、しばらく後にアメリカのどこかの都市で核爆弾が炸裂するかもしれないが、それまでは渋々加盟していたIAEAからも北朝鮮に続いて脱退を決めたことがあり、計画を察知したり止める手段もなさそうだということがある。
それを止めるには、やはり地上軍を送らなくてはならない。爆撃は短慮で、違う方法があったはずだと思っているのは、私だけではないだろう。
もう一つ付け加えると、同じ攻撃は二度とできない。アメリカ空軍にあるMOP(大型貫通爆弾)の総数は20発ほどで、今回の攻撃で14発も大盤振る舞いしたため、残っている爆弾はもう数発しかないのである。