Caught in the trap

Airpower, even when paired with intelligence networks, has never toppled a government. Since the dawn of strategic bombing doctrines in World War I, early airpower theorists were captivated by the idea that, if organized correctly, bombing campaigns could encourage populations to revolt against their own governments. Since then, militaries have attempted a wide variety of schemes, including the intense bombing of cities to compel civilians to rise up and demand that their government make whatever concessions necessary to halt the assault. In over 40 instances of strategic bombing from World War I to the first Gulf War in 1991, such barrages, whether concentrated and heavy or light and dispersed, never compelled civilians to take to the streets in any meaningful numbers to oppose their governments.
(Robert A. Pape,  Professor of the University of Chicago)

(訳)罠に掛かった

航空戦力は、諜報ネットワークと組み合わされても、政府を転覆させたことはない。第一次世界大戦で戦略爆撃の教義が始まって以来、初期の航空戦力理論家たちは、正しく組織されれば爆撃作戦は国民を自国政府に対する反乱へと駆り立てることができるという考えに魅了されていた。それ以来、軍は、市民を蜂起させ、攻撃を中止するために必要なあらゆる譲歩を政府に要求させるために、都市を集中爆撃するなど、さまざまな計画を試みてきた。第一次世界大戦から1991年の第一次湾岸戦争までの40回を超える戦略爆撃の事例では、集中的で激しいものであろうと、軽く分散したものであろうと、そうした集中爆撃によって、政府に反対するために有意な数の市民が街頭に繰り出すことは一度もなかった。
(ロバート・A・ペイプ、シカゴ大学教授)

 

 トランプ氏がG7の会場から突然姿を消したが、聞く所によると、どうもゼレンスキーに会うのを嫌気したらしい。G7会合では米ウ直接対話も予定されており、外交圧力や備蓄が尽き始めた米国製兵器の補充など合意が必要な内容がてんこ盛りになっていた。それを直前で遁走、例によってTACO理論である。なお、トランプ政権以降、ウクライナへの追加支援パッケージは承認されていない。

 で、遁走したトランプ氏が口にしているイラン問題については、それとてもネタニヤフの腹話術人形だが、正常な頭脳を持つ彼のアナリストらによれば、イランに核計画はなく、フォルドゥ核施設(イランが空爆を想定して山中に建設した地下原爆工場)をバンカーバスター爆弾で貫くことは不可能という話である。この爆弾は地下60mの目標を貫通して仕留めることができるが、問題の施設の深さは80mある。加えて、山岳地では爆弾の貫通力は半減する。

※ このようにトランプはまともな人間のアドバイスを受けてもいるのだが、問題はそういうことを進言すると、その人物は意思決定の中心から遠ざけられてしまうことである。

 そういうわけで、ミスターTACOにはカードがないのだが、それでもテヘラン市民にハネメイを殺すから市内から退避しろなどと言っている。イスラエルが目標選定にAIを用いていることは前に書いたが、たぶんこのAIは30キロ四方のテヘラン市域なら、どの家屋を分析してもハネメイの顔が映るようにプログラミングされているのだろう。テヘランの人口は870万人である。ハネメイ一人を殺すのにいったい何人殺せば気が済むのだろう?

※ トランプとネタニヤフはどうもハネメイをヒトラー張りの独裁者と思っているようだが、イスラム国家の統治機構がそのようなものでないことはちょっと勉強すれば分かる話である。ヒトラーに近い言動行動はむしろトランプ自身である。

※ イスラエル軍は空爆でイランの核技術者と将軍を複数人殺害したとしているが、判定方法に問題があり、おそらく吹聴ほどの成果は挙げていないと考えている。

 TACOの支持者、アメリカのネットウヨクには中東については根深いトラウマがある。イラク戦争では犠牲者はイラク軍との直接戦闘より駐留後の方がよほど多かった。米軍と傀儡政権はイラク国民に全く好かれておらず、闇討ちで米兵が死んだりしたため、10年の駐留はヘクゼスやバンスのような根性の曲がった人間を輩出し、彼ら以外にもいたことから、彼らは実体験(安い給料、遅い昇進、いつ襲われるか分からない過酷な駐留生活)から、イランの占領統治など不可能なことを熟知しているのである。パージされたイラクの公務員は地下に潜ってISを作り、テロと謀殺でアメリカと同盟国を大いに苦しめた。そしてイランはイラクの10倍大きい国である。

※ 毎度おなじみ、沖縄や横須賀での米兵による婦女暴行事件を見ると、湾岸戦争を境に容疑者の年齢と階級が年を追うごとに劣悪になっていることが見て取れる。すなわち階級は三等水兵など地を這うように低く(年収200万以下)、年齢は二十代半ばから三十代以上と高齢化していることがある。本来なら5万ドルの年俸をもらい、家庭を持つべき年齢でこんな待遇では規律が弛緩して事件に走るのもむべなるかなである。もちろん除隊してもまともな仕事はなく、困窮してMAGAやQアノンなど粗悪思想に染まるのも、今のアメリカなら仕方のないことである。

※ 私の記憶違いで10倍ではなく2倍である。イラン・イラク戦争の頃はイランの人口は6千万で、イラクは1千万強だったが、その後人口が増え、現在はイラン9千万、イラク4.5千万である。なおイスラエルは5百万人くらいであまり変わらない。小学生の頃に覚えたデータが今も通用するのは日本くらいである。

 これはトランプといえども無視するわけにはいかない。ロシアが仲介に名乗りを挙げているが、今ウクライナを苦しめている最大の武器がイラン製のシャヘドで、最近ジェット化して「シャヘド2(ロシア製造型)」になったが、戦争遂行それ自体に関与している「悪の枢軸」との仲介はロシアに一方的に有利なものになるに違いなく、ロシアはイランの核開発を水面下で支え、シリアでの影響力を回復し、どこまでもアメリカに不利なディールになるに違いないことはトランプ以外はみんな知っている。トランプがこれを支持するのは、どう見ても折り合いの付かない自分の支持層を説得しなくて済むからである。

※ そもそもロシアには両国に対してあまりカードがない。強いていえばイランとの関係により強いメリット(カスピ海水運、テクノロジー)がある。イスラエル・アメリカ有利に動くはずはないことは言わずもがなである。

 

※ 結局、イスラエルはイランに対して地上戦を行う能力はなく、空軍のみでは核開発を完全に排除はできず、諜報機関は国内に協力者がおらずクーデターを使嗾する能力もないために、ネタニヤフはトランプに頼ると同時にイラン国民に体制変更を呼び掛けているのだが、根本的に破綻した計画であり軍事作戦である。分かっていないのはTACOだけだ。

 

※ 学生時代に数学をサボったTACOは複数の事象を並行して検討するに際し、期待値というものを考えたことはないのだろう。成功する可能性が低すぎ、これが宝くじだったら誰も買わないようなものだ。ネタニヤフはMIT卒の秀才だが、市民虐殺を続ける彼の知識には偏りがあるようだ。数学的素養がほんの欠片でもあれば、こんな作戦がうまく行かないことはすぐに分かる。

 この件では、ミスターTACOはロシアをG8に復帰させるべきだとのたまったが、TACOの世界ではこれは聞き容れられる提案なのだから聞き容れられたとすると、たぶん、ロシアはイランとの和平を手土産に、いくら戦っても勝てないウクライナ戦争を有利に停戦させるつもりだったのだろう。たぶんプーチンもできるとは思ってはおらず、そんなことを信じているのはTACOだけである。

※ 時間稼ぎというのが大方の見方である。

 現在のロシアは新規生産の航空機や戦車をウクライナには廻さず、備蓄して国境を伺う様子である。これらはウクライナに投入してもドローンの餌食だが、リトアニアに駐留しているアメリカ戦車部隊を蹴散らすくらいのことは十分できるものである。バルト三国にフィンランドが要注意の場所だが、可能性はかなり高いように見える。ロシア戦車が国境を破っても、今のTACOなら第5条発動を拒否するだろう。

※ 補給線が短く、国も小さいために、これらの国がウクライナみたいに戦えるとは思わないほうがいい、侵略は一瞬のうちに完了するだろう。

 経済制裁が上手く行っていないのもTACOのせいで、ヨーロッパのロシア天然ガス、核燃料の依存度は相変わらず高く、しかも増加の傾向がある。これがまずいことはこれらの国々も十分分かっているのだが、代替エネルギーに切り替えられないのは、代替品を提供するアメリカが信用ならない国だからである。そのためロシアは戦前よりもさらに潤い、ロシア中央銀行の外貨準備高は空前の額になっている。

※ 加えてイラン危機のせいで原油価格も上がっている。

 と、並べてみてもこれだけ世界とアメリカに不利益なトランプ政権である。アメリカ人でも気づいている人間は少なくないし、ここまで来ると以前トランプがやった議事堂占拠をリベラル派もやったらどうだと言いたくなる。ただし、キャピトル・ヒルではなくホワイトハウスで。

 しかし、これはあまり良くない。意に沿わない政策があれば反対派が官邸や議事堂を取り囲んで強訴するというのは、まるで「御所囲い」であり、そんな国の政治が安定しているはずがないからだ。ほか暗殺もあるが、これらを許すと同様の政変が二度三度と繰り返される可能性があるので、これらは禁じ手とすべきだ。

 アメリカの制度は性悪説と人間不信の論理が根底にあるとは、これを提唱したモンテスキュー以来言われていることである。制度は拙速のためではなく、熟慮のためにあり、合意形成を遅らせて独裁者の出現を防ぐシステムは、実際に独裁者が登壇してしまうと、引きずり降ろすのにも時間が掛かるというものである。1月以降、腸の煮え繰り返るような話が多いが、どんなに批判が高まっても、TACOがすぐに辞任するなどとは思わない方が良く、今は我慢して見ているしかない。

 

 空襲があった直後、CNNがテヘランとテル・アビブ双方の都市の住民にインタビューしたが、人種も信仰も異なる両都市の市民が口を揃えて言ったことは「この戦争は無意味」というもので、イスラエルが戦端を開いた動機が支持の低下しているネタニヤフの権力欲にあること、トランプも同様であることは両国の国民にはとっくに見透かされているのである。