I mean, honestly, it’s kind of hard to imagine how Ukraine would have survived without drones.
(Marc Santora, jounarist)

(訳)正直なところ、ドローンなしでウクライナがどうやって生き延びたか想像するのは難しいです。
(マーク・サンドラ、ジャーナリスト)

 

 6月1日にウクライナがシベリアと極地地方で行った「パラヴィナ(クモの巣・スパイダーウェブ)」作戦は世界を驚愕させているが、同時にこの戦争で顕在化したドローンによる戦闘が進化と分化を続けていることも明らかにした。作戦の二日後、今度は海上から発進した水中ドローンがケルチ大橋に爆弾を仕掛けて起爆に成功し、さらに二日後には長距離ドローンの爆撃隊がロシアのエンゲルス空軍基地を攻撃した。

 迎え撃つ方も進化しており、シャヘドドローンの量産化に成功したロシアはスパイダーウェブ作戦の報復として400機のドローンでキーウを攻撃したが、大半は撃ち落とされ、両軍初の迎撃ドローンが使用されたとされる。これはドローン30機を撃墜したとされる。それまでは迎撃ミサイルや携帯式地対空ミサイル、機関銃が主な手段だったが、英国で開発された電磁パルス照射装置は一度に数十機のドローンの電子機器を故障させ、墜落させる能力を持つ。つい最近もウクライナ軍は歩兵用の対ドローン兵器として散弾銃の代わりに小型電子戦装置(電波ガン)の配布を始めたばかりだ。

 あまり報道されなかったが、昨年あたりからウクライナのドローンはいくつかに機能分化していた。戦車を襲うFPV(一人称)ドローンの映像ばかりがクローズアップされるので目立たなかったが、実ははるかに大型の「ヴァンパイア」ドローンも並行して用いられており、これは夜間に活動し、FPVが撃ち漏らしたロシア兵を手榴弾を投下して掃討したり、個々の堡塁に物資を運搬するのに用いられた。物資運搬については、かなり前から地上を走行するラジコンのような台車ドローンが物資や負傷者の運搬に用いられている。

 

 

 スジャの突出部など一見補給困難な場所でウクライナ軍が戦線を維持できるのも、こういったドローンの活躍あってこそである。ドローンがドローンを運ぶドローン空母も用いられ、単独では数キロしか飛行できないFPVドローンの行動半径を数十キロに拡大した。パラヴィナ作戦の全容は明らかにされていないが、これまでのウクライナ・ドローン戦術の集大成のような作戦であることは間違いない。

 映像を見てまず疑問に思ったのは、数千キロ離れた飛行場で、しかも高度な妨害装置があるのが普通の軍事基地でウクライナがどうやって操縦のための通信線を維持したのか、場所が場所だけにスターリンクを用いることはできない。これまでも前線でロシア戦車に近づいたドローンが妨害装置で通信を遮断され、そのまま墜落するのを見てきたことを考えると、この運用にはリスクが伴う。この種基地の近くでは妨害装置による通信途絶はまず避けられない。ウクライナの技術者はAIを用いることでこの空隙を埋めることを考えた。通信が途絶している間はAIがドローンの操縦を行い、場合によっては突入まで行うようプログラミングされていた。もちろん人間による操縦もできる。

 ぶつけ方にも一工夫ある。被爆した爆撃機はTu-95が最も多いが、二重反転プロペラのこのレシプロの最高傑作はかつてウクライナも保有しており、軍事博物館に展示されている機体があった。通例、ドローンの小容量の爆薬でこの種大型機を破壊するのは難しい。大型爆撃機はそれ自体堅牢に作られており、一部は装甲もされ、空中でも多少被弾したくらいでは落ちないように設計されている。博物館で実機を研究したウクライナの技術者はこの爆撃機の脆弱部分や燃料タンクを狙うようにAIをコーチングし、ドローンが爆撃機のその部分を狙うように仕向けた。映像にはわざわざ爆撃機の翼下まで潜り、起爆を狙うドローンの映像まである。これは人間オペレータかもしれない。



 トレーラーに積まれたプレハブ建物に偽装し、内部で発進を待つドローン基地にはドローン空母の技術が用いられている。今年から顕在化した光ファイバードローンは今回の作戦では用いられていないが、数日、あるいは1月以上、作戦の機会を伺うドローンに給電し、通信の中継を行う基地には空母のノウハウが活かされている。ドローンそれ自体の飛行能力も通常より長いようだ。光ファイバーのリールとバッテリーをセットにした飛行距離延長パックは今年から用いられている。今回はそれは間に合わず、バッテリーを増設したのだろう。

 攻撃時に対象となる航空機が駐機しているかどうかもポイントである。攻撃しても爆撃機が出動していて基地がカラでしたでは攻撃は空振りに終わるからだ。Tu-95爆撃機による、これまでの再三再四の空襲から、ウクライナは爆撃機の動向をある程度掴んでいた。攻撃は三つのタイムゾーンに分かれていたのである。

 もっともエンゲルス空軍基地における残存爆撃隊の掃討は失敗に終わった。核戦力の一つである大型爆撃機はロシアでもアメリカでも非常時には緊急発進して在空して基地での被弾を回避する。マニュアル通りの行動で、これは仕方がない。ウクライナは爆撃機が帰着する翌日以降を狙ったが、空振りだったようだ。

 このように作戦自体独創的、画期的ともいえるパラヴィナ作戦だが、個々の技術は以前にも見たものである。映像を見たロシア軍関係者がまず懸念したのは、今回は専らウクライナ諸都市へのミサイル攻撃に用いられていた旧式爆撃隊だったが、これが核ミサイルのサイロや原子力潜水艦、ムルマンスクにあるロシア艦隊の旗艦「ピョートル・ヴェリーキィ」だったらどうだろうかというものである。

 ロシアもアメリカも核戦力の主軸は大陸間弾道ミサイル、大型爆撃機、弾道ミサイル潜水艦の三本柱からなる。これらへの攻撃は核による報復を覚悟すべきもので、迎撃にも核の使用が許容される。そういったものであったはずであった。

 例えば我が国の潜水艦が、今はいないが、オホーツク海のソ連原潜の蝟集海域に入り込んだなら、ソ連はすぐさま核爆雷を落として自衛艦を排除したはずで、冷戦期には北極海やバレンツ海でそういった沈黙の戦いがギリギリの線で行われていた。特使のケロッグが攻撃リストに北方艦隊が加わっていることを見て懸念を示したのも冷戦期を知る軍人なら当然の反応であった。

 ウクライナは今回の攻撃は専らウクライナを爆撃する通常兵器の爆撃隊を排除するものとし、核については触れていないが、被爆して核兵器が起爆した機体もなかったので、現在のTu-95には核は積まれていないのだろう。Tu-160(ブラックジャック)ならありそうに見えるが、現代の防空網の突破はマッハ2を出せるこの爆撃機でも困難である。相方のB-1はとうの昔に通常爆撃機に仕様変更されている。

 「国民の僕2」があるなら、「スパイダーウェブ作戦2」もありそうな感じである。ロシアは国境線の警護を強化し、不審車両の摘発にその資源を割かなければならない。ここでも状況は非対称的で、侵略を受けているウクライナでは不審人物や侵入者は地元住民により告発されるが(ダース単位で試みられたゼレンスキーの暗殺が成功しない理由である)、侵略国ロシアではプーチン政権に対する反感から、作戦に現地の協力さえ得られそうだといういうことがある。そしてこれまで見るところ、ウクライナはこういった反間を多数抱えている。カードは元々あり、ウクライナの戦略はロシアに戦争による負担を耐えられないものにすることである。

When I spoke with Russian prisoners, all of them said they wanted to earn money from the Putin regime to improve their financial situation. Not one of them mentioned ideological motives, higher values, or noble goals. Only credit, debt, mortgages, poverty, and children to feed…
(Said Ismagilov, Ukraine’s former chief mufti, medic)

(訳)ロシア人の囚人たちと話をしたとき、全員がプーチン政権から金を稼ぎ、経済状況を改善したいと言っていました。イデオロギー的な動機や高尚な価値観、崇高な目標を口にする者は一人もいませんでした。ただ、借金、借金、住宅ローン、貧困、そして養わなければならない子供たちのことばかり…
(サイード・イスマギロフ、ムフティ、救急救命士(ウクライナ))

 トランプ政権の反応は、まあ、予想通りである。報道を聞いたトランプはまず何が起こったか分からずに凍りつき、実はプーチンも凍りついていたが、そちらは報道されなかった。しばらく後に事前に相談しなかったことにつきウクライナを非難し始めた。交渉ではプーチンはおそらく核をちらつかせたが(当然ではある)、積んでいたなら基地は核爆発したはずである。ソ連時代のロシアでこの種核事故が本当にあったことは知っている人は知っている。

And here is the uncomfortable truth: Western audiences can’t spot the difference between Russian dissidents and Russian imperialists. Ukrainians can — and they’re tired of explaining why it matters.
(Vira Kravchuk, Ukrainian journalist)

 

(訳)そして、ここに不都合な真実がある。西側諸国の人々はロシアの反体制派とロシア帝国主義者の違いを見分けられないのだ。ウクライナ人は見分けられる――そして、なぜそれが重要なのかを説明するのにうんざりしている。
(ヴィラ・クラフチュク、ジャーナリスト)

 核はおそらくないだろうが、ここでトランプに我が身の幸運を考えてもらいたいのは、この種ドローン攻撃が旧型爆撃機や貯蔵タンクくらいで済んでおり、ロシアみたいにスーパーマーケットやファミレス、遊園地や老人ホームを標的にしたものではなかったことである。電波妨害装置のないこれらはロシア基地よりずっと平易な目標だ。モスクワにしてもシェレメチェボ空港を襲うより、プーシキンスカヤのロシア歓楽街を襲う方がずっと容易い。ロシアはヘルソン市役所を爆破してウクライナに攻撃のヒントを与えた。これもウクライナの持つカードの一枚である。

 イスラエルのネタニヤフは食料配給所を偽装して集まってきたガザ住民を機関銃で殺し、犠牲者の多くは年端もいかぬ子どもたちだった。卑劣な行いをする人間には共通項がある。それは自分がやっていることを、他の他人が同じことをできることを、常に忘れている点だ。傲慢を口にした人間は同じ傲慢の報いを受ける。かなり高い確率で、それは本当のことだ。

 

So first of all, we talked about how this was a year and a half in the planning. So while President Zelensky was in the Oval Office being berated, he knew that this plot was being cooked up. So in any case, he knew he had some cards in his back pocket.

(Sandra, above)

(訳)まず、これは1年半前から計画されていたという話をしました。ゼレンスキー大統領は大統領執務室で非難を浴びていたにもかかわらず、この陰謀が企てられていることを知っていました。つまり、いずれにせよ、彼は自分の懐にいくつかのカードを持っていることを知っていました。
(サンドラ、上掲)