「無い袖は振れない」とあるので、今さらジタバタしても仕方ないと思うけれども、米価が急騰し、昨年の二倍になるに及んでニュースはこの話題で花盛りである。が、実態は玉突きゲームのようなものだったと思う。昨年は作柄も平年並みで、酷暑で品質が下がったことを除けば、これといって不作でもなかったことから、これで米価が上がるのは作為があると見るのが一つの見方である。
今年と去年以前が大きく違うところは、今年は米の先物取引が認可されたことで、これは米価決定の客観的な基準を求めていた米農家の意向に沿う。取引に供せられる数量は大きくなく、それだけなら影響はそう大きなものではなかっただろう。
計算が狂い始めたのは、この相場が概して高かったことで、相場を見たJAが農家への払い渡し金を引き上げたことである。JAは米流通のおよそ8割を占め、その動向は価格に大きな影響を及ぼす。市場を参考に渡金を決めるはずが競い合いのようになってしまい、相場もJAもどんどん価格を上げていったことがある。
流通それ自体の仕組みにも問題があった。相場で落札された米はその場で引き渡されるのではなく、落札票を提示して現物を受け取るまでにはタイムラグがある。その間により高い金額を提示されれば、相場とは関係なく引き渡し前に売却されてしまうのである。種類売買の落札時点で商品の特定が行われない、あるいは特定の効力が非常に弱い問題があった。
とどめは価格が上がり始めたことを見て、消費者が買い溜めに走ったことがある。普段10kgしか買わない顧客が20kg、30kgと買ったことで、小売店の在庫はあっという間に底を付き、これも価格上昇に寄与したのである。あるいは最大の原因かもしれない。米の生産はかなり管理されており、つい先年まで行われていた減反政策も相まって、消費量とほぼイーブンで生産されていた。
ついでにもう一つ問題を指摘すれば、日本に限らないが、長く続く悪政と不公平な税制のせいで、この国では現金が一部に滞留していることがある。これらは投機先を求めて常に動いており、米に限らないが儲かりそうな所に投機が集中することがある。これはネットを見ると分かる。関心を払われないようなものの値段はほとんど上がっていないからだ。
さらにもう一つ指摘できることがある。こういう問題が起きることについては、影響力のある企業や官庁のトップや関係者にそれほどの頭脳の持ち主がいないことである。JAと投機の関係については、見識のある人間なら予測できることであった。米農家の収益を改善するために引き上げを目論むにしても、堂島市場がそれなりの値を示していたからといって、対抗して値上げしろというのは阿呆のすることである。
目論見があったとして、それが制御されたものならば、作柄それ自体は平年並みだったのだから、収益を改善しつつ、悪影響は与えずに済んだ。が、途中から事態は制御不能になり、備蓄米の放出も当初の目論見がそのようなものであったことから、ブレーキは元々壊れており、首相がいくら掛け声を上げても、農水省はサボタージュして動かないのである。当初の計画が壊れるからだが、そもそも対処する頭脳が無いのだろう。
ここでバカとか阿呆とか書くのは、特定個人のそれを意味しない。そもそも与党の自民党は自由党と民主党が社会党に負けて結党した始まり以来、選挙ではただの一度も有権者の50%以上の支持を得たことがないのである。概ね3割を切るくらいで、自民党の政治家は選挙になれば投票率が下がることを神頼みし、選挙でない時は六本木ヒルズの友だちとドバイで豪遊して政治の仕方を忘れる与太者揃いである。
きちんと民意を得た政治家なら、米農家を救済しつつ、米価を抑えて消費者に打撃を与えないような高度な政策は実行し得た。得ていないので、彼らのやり方はいつも物陰でコソコソするようなものであり、事態の急変に対処できず、無責任でツケを国民に廻すようないいかげんなものになるのである。一言で言えば、バブル世代の世間知らず、気宇だけは大きい政治家や官僚が身の丈に合わない策謀を弄して失敗した。これが現状を説明する説明の一つではなかろうか。
いずれにしろ、ないものはしょうがない。まだ餓死者が出るような様子ではないので、秋までは小麦粉やパスタなど、投機家に注目されず、値上げの影響の小さい食材の比率を高くするか、外食を控えて家庭菜園などするしか、自衛策はないのだろう。