一昨日からこれまで動きの無かったシヴェルシュチナ軸、ハリコフとベルゴルドの州境を含む戦区でロシア軍が攻勢を掛けていることはキエフに衝撃を与えているけれども、以前からISWが「次はハリコフ」と1ヶ月以上前から連呼していたため、ロシア軍としてはアンコールに応えた感じである。この機関の分析はまあ、続く報道も読む前から中身が分かるようだ。

図がないと分かりにくいという人がいるから参考まで、青色はウクライナ陣地、赤丸はISWによる現在交戦中の位置と予想進路(黄色)、赤矢印は当方の見立て、ピンク丸はヒリボケ村。作るの面倒だからいちいち書かないよ。

 この正面を担当するのは中央管区軍、司令官はアレクセイ・モルドヴィチェフ上級大将、どこかで聞いた名前だと思ったら、以前の南部管区軍で副司令官(中将)を務めており、ヘルソンで戦死が伝えられた人物である。ドヴォルニコフに次ぐ同管区軍のナンバー2で、上長が「シリアの虐殺者」で、同僚(スロビキン)が「アルマゲドン将軍」なので、プーチン派の好戦的な人物に見えるが、昨年に中央管区軍の司令官に任命されて以降は鳴りを潜めていた。ウラルを拠点とする同管区軍はロシア四管区軍の中では最小最弱だが、ことウクライナ戦争では他の三管区軍を凌ぐ活躍をし、損失も最も少なかった部隊である。

※ スペック的にあまりに弱そうに見えたことから、戦車兵上がりのドサ回り司令官ラピンを筆頭に、政治力ゼロの冴えない面子の揃ったこの軍団は、中央のきらびやかな世界では誰にも注目されなかったことがある。実際、私もこれが活躍するとは思っていなかった。が、2年経ってみると弱者の特権で良く策を巡らし、実に巧妙に戦う部隊である。

 南部管区軍は将官の半数が戦死または負傷していることから、モルドヴィチェフは数少ない同管区軍の生き残りだが、抜擢人事で四管区軍の指揮官としては格下なことがある。二階級特進で昨年に上級大将になったが、たぶん部隊の掌握に時間がかかったのだろう。中将は中央管区軍にも何人もいる。

 ここ一年の中央管区軍の戦いぶりはドニプロ、ザポリージャ戦線を担当する南部、東部管区軍と比べても消極性が目立った。司令官は変わっても参謀や大佐以下の中級指揮官はラピン時代のままなので、一時はウクライナ方面軍総司令官も務めた前任者の後釜は簡単ではなさそうだ。およそまともなロシアの軍人で、この戦争に賛成している佐官以上の士官は前司令官のラピンやジドコも含めて、誰もいないはずである。

 中央管区軍には緒戦の忌まわしい集団的記憶がある。キエフ北方の車列の60キロ渋滞、汚職体質のウクライナで役人が道路工事代金を着服したせいで、2月にチェルノブイリから高規格道路のP56号線を南下した同軍団は途中で未整備の「道路のような何か」に踏み込んでしまった。それがあの大渋滞で、その後ウクライナ軍の攻撃と春の温暖化によるぬかるみで散々な目に遭って追い払われたことがある。この道路は地図上では高規格道路と記載されていた。道路は同管区軍の鬼門で、以降は細心の注意を払うようになったようである。ウクライナの地図は信用できない。

※ この60キロ渋滞と翌月のヴィタリー・ゲラシモフ少将の戦死は同管区軍には戦訓となったように見える。現地調査と情報秘匿の重要性であり、中央管区軍から西部管区軍に出向していたヴィタリーは総参謀長ゲラシモフの甥であり、携帯電話の盗聴で位置が暴露され、ロケット砲の攻撃で戦死したとされる。なので、これらの戦訓を踏まえた今回のハリコフ襲撃はウクライナ軍には完全な奇襲となったと思われる。

 で、戦況を見ると、ISWが選挙運動のように連呼していたから、E105号線は使いたいだろう。これはベルゴルドからハリコフに通じる道で、今は亡き西部管区軍が用いていた。西部管区軍はベルゴルドに司令部を置き、ハリコフの戦いまで同市を包囲していた部隊である。もう一つ東側に並行して間道のような道があり、もちろんウクライナ軍が要塞化しているが、どうも見るとこれらではなく、一見地図には載らない農道のような道を辿ってきたようである。

 

※ たしかに農道なのであるが、空撮で周囲の農地を見ると大型トラクターのキャタピラ痕が多くあり、地盤はそんなに悪くなさそうに見える。現地調査を行い、装甲車両の通過が可能なことを十分確認して進軍したのだろう。

 

 焦点はヒリボケという間道と農道の交差点にある村で、現在ここで激戦が行われているという。そこから西側の貯水池を迂回してE105号線に迫る作戦かもしれない。同管区軍の今までの戦いぶりから見て、そのままハリコフになだれ込むとは思えないことがある。西進してマリ・プロクホディまで迫れば、E105号線と呼応してウクライナの州境付近の防御を破壊し、ハリコフ市に重砲を落とす距離には迫ることができる。西部管区軍はサーモパリック爆弾だったが。

 ライマンを含むクビャンスク軸でも中央管区軍は攻撃を活発化させており、これは昨年にもあったが、サーモパリック爆弾まで使いながら結局村落は取れずに引き揚げている。農道の方は、過去に痛い目に遭っており、通行量も制限されることを見れば、そう大部隊とは思えない。未訓練兵をバンザイ突撃させるドニプロのような戦い方はしないだろう。編成その他は続報がないので分からないが、装甲車中心の機動部隊ではないか。将棋で言えば敵陣に入り込んだ飛車角のような動き方である。

※ NYタイムズの記事では、避難した現地住民の証言として、砲撃より機関銃の音が先に聞こえ、しかも近づいてきたことが言われている。射手が装甲車または戦車に乗っていたことはほぼ確実だろう。アホ将軍の集団のように言われるロシア軍だが、邪悪で腐敗した非民主主義の人権蹂躙国ロシアでも人材がいないわけではない。

 ここは思案のしどころで、モルドヴィチェフが管区軍を完全に掌握していたなら、彼はプーチン派でその後は攻撃を激化させ、西部管区軍が取れなかったハリコフを狙う動きをするかもしれない。ハリコフ・キエフの線はウクライナ攻略の王道で、本気でウクライナを征服するつもりなら、必ず意識するルートである。

※ 総司令官のゲラシモフがこのルートを念頭に置いてしていたらしいことは、昨年検討したことがある。確かに正規の教育を受けたプロの職業軍人なら、緒戦のようなハンパで怪しい戦法は取らずに、このルートでキエフに進軍しただろう。ハリコフを陥とさずしてウクライナを征服することは叶わないのである。そしてそのFSB謹製の謎戦略に付き合わされ、強面の割に前線に出ることは稀な上長ドヴォルニコフの代わりにヘルソンでHIMARS攻撃を受けて負傷したのがモルドヴィチェフである。

 が、前回のように再び逡巡したなら、ハリコフ攻略はおろか、ロシア軍内部の不協和音が露わになり、後プーチンのことを考えても、これはマークしておいた方が良い軍団となる。中央管区軍より装備が良く、モスクワ守備の切り札だった西部管区軍はプーチンの手でほとんど解体されてしまった。侵略の手先となった南部管区軍はもうボロボロでネパール人を突撃させるしかなく、師匠のドヴォルニコフに使嗾された東部管区軍は虫の息である。黒海艦隊は壊滅し、北方艦隊を除けば、中央管区軍は唯一開戦当初の軍組織を温存しているロシア軍になる。

※ 緒戦の東部管区軍を指揮していたチャイコは最年少の上級大将で、シリア戦役でのドヴォルニコフの子飼いの部下である。ただでさえキエフ近郊の戦いで苦戦しているのに、古の腐れ縁でさらに戦下手のドヴォルニコフに戦力を抜き出されたため、彼の管区軍はウクライナの反撃で無様な敗戦することになった。プーチンは軍司令官人事については派閥を作らないようにしていたので、このドヴォルニコフ・チャイコの師弟関係は「例外」として、とても良く目立ったことがある。

 齢71歳の終身独裁者、インチキ選挙で当選し、ますます迷妄の度を深めているロシア大統領について行くのは嫌だろうとは、隣でアウディウカの屍山血河を見せつけられた中堅以下の若い将校は誰でも思うだろう。残念なことにナワリヌイは死んでしまった。最近のプーチンはロシア正教のお告げで核の使用を考え始めており、バンザイ突撃もイヤだし、核戦争もイヤだとなれば、彼らの行き着く所は自ずから決まっているようにも見える。

 アウディウカ正面のウクライナ軍を分散させる陽動作戦と緩衝地帯の創設というのがISWの見立てだが、緩衝地帯というのは要するに焼き討ちで、私は連中、陽動もマジメにやるとは思えない。前面のロシア軍につき、シルスキーの手元にどのような情報があるか興味深い所である。これまでのドニプロ軍とは相手が違うため、M1戦車も含む想定以上の兵力を送り、ガツンと叩いて戦意を見るというのが、ありそうな所ではないだろうか。

 

※ 衛星写真を眺めながらコーヒーを飲むのが日課の、究極のコタツ記事作成団体、先に報じられたISWの変なレポが念頭にあるので、ハリコフへの兵力転用は悪いこととジャーナリズムには思われており、シルスキーのこの行動は悪手で不吉なものと捉えられている。ISWみたいな楽な仕事があるなら、地図書き間違えても平気だし、私だって就職したい。

 

(補記)

 インチキ選挙が終わり、小泉悠によると演説でロシア人のハートをガッチリ掴んだプーチンはこれまでは我慢していた戦争に不平不満を洩らす手下たちの粛清を始めたようである。ショイグ国防相とパトリシェフ総書記が解任され、ポスト・プーチンと目された有力幹部がまたしてもクレムリンから消えた。このことを予測したメディアはなかったわけではなかったと思うが、確か英国国防省のレポに示唆があったが、戦争ヲタク系のISWほか多くには立板に洪水、寝耳に水であったと思われる。

 

 特にショイグはロシアの越後屋プリゴジンを粛清してまでして守ったプーチンの腹心であり、関係は冷却化していたとされるが、ここで切られることは想定外と言える。パトリシェフもポスト・プーチンの最有力と目されており、ショイグのような失点もなかったことから、排除の理由にはなにかドロドロとしたものがあるはずである。

 

 先の覚え書きで、アウディウカで再編したロシア軍の動きの奇妙さから、政権内部に何か派閥抗争のようなものがあるのではと漠然と書いたが、この戦争のもう一つの目的が、超長期政権で国民に飽きられたプーチンの政権基盤強化であることは忘れてはならない。戦争遂行に掛けるのと同程度、あるいはそれ以上の熱意でプーチンが潜在的な敵の排除に勤しんでいたことがあり、それが緒戦でハリコフを陥とせなかった理由である。

 

※ 軍に力がないことから、「派閥抗争=クレムリン内部の政治抗争」と考えて差し障りはないと思う。

 

 初代司令官がゲラシモフの西部管区軍はフルンゼ陸軍大学閥を中心とした最新最強の兵備を持つロシアで最も優良な部隊だったが、ここ10年間の司令官人事は修羅場で、司令官は頻繁に首をすげ替えられてはカザフスタンの僻地に送られるという人事を繰り返していた。2年間の戦争ではついに事実上の解体に成功し、現在のロシアで大統領に歯向かう高級軍人のグループはいないとされる。

 

 そんな中、出身兵もウラルの辺境民で、二線級のボロ装備を纏い、それでいて組織も戦力を温存し、プリゴジンとも関わらなかった中央管区軍は異色の存在である。ウクライナでもおよそ1年間怠業していたこの軍団にプーチンが目を付けなかったことは私もかねがね不審に思っていたが、実際の所はどうだったのかはこれから分かることになるだろう。

 

 ウクライナ戦争はついに800日を数えたが、3月のアウディウカ失陥、プーチン再選以降のロシア軍の戦略はやや混乱している。いわゆるドネツクの魚の骨(アウディウカ、マリンカ)を除いた後、ロシア軍の進軍は止まり、ウクライナ軍が南北に長大な包囲線を築いたことで突出した部隊による散漫な戦闘はあったものの、都市を抜いたロシア軍は部隊を分散させ、ウクライナ軍の弾薬不足も相まって、北はクビャンスクから南はオリヒフまで全戦線で激しい攻撃を掛けていた。


地図がないと分かりにくいという人がいるので参考まで

 が、4月末にウクライナ支援予算が可決され、武器弾薬が戦線に行き渡り始めたことでロシア軍は再びアウディウカに戦力を集め始め、都市北方のT511号線とN15号線を軸に北はポクロフスク、南はマリンカ西方のクラコフに圧力を掛けている。

※(やられすぎたので)展開しても全戦線を攻撃する余力がないことに今さらながら気づいたのかも知れない。

※ 全線に展開しても攻撃の様子からロシア軍の配備は薄い(各個撃破のチャンスである)と前に書いたが、ロシアでも同じような考えをする人がいたかもしれない。

 アウディウカを放棄したウクライナ軍は都市の西方にあるM14号線付近の貯水池に陣地を築いていたが、これは都市戦闘の最中でも機能していた後方要塞の一部で、ロシア軍の包囲を受けつつも、しぶとく抗戦していた場所である。


元の図面(ISW)を無くしてしまったので、ロシア軍の進路は赤(ISW)ではなくおそらく青。青線のウクライナ陣地は今はなく、ロシア軍はより西方に進出している。青丸部分はISWの地図では空白地帯として記述されていた。

 ISWの例によっていい加減な図面による報告では、ロシア軍はこの陣地の目前を横切り、ステロープを抜けて北方のノヴォカリノヴェに出現したとされ、これはその後の動向も相まって目的不明とされたが、私にはこれは横断運動ではなく繞回運動に見えたことがある。勢力を恣意的に色分けするISWの地図では旋回するロシア軍の動きが見えないが、この地図はいいかげん作図の例としてつい先日まで取っておいたものである。

※ あの色分け地図は英国国防省も使っているが止めた方が良いと思う。少なくとも私は色分け図で戦況を見ていないし、見ても信用していない。

※ ISWはチャシフ・ヤールやハリコフが戦略上の焦点のようなことを言っているが、バフムト戦線は北方(至セベロドネツク)をウクライナ軍が半包囲していることにより案外安定している。ハリコフに至っては中央管区軍は動く気配もない。

※ だいたいこいつら(アメリカの軍事ヲタク)の言う事を真に受けて配備を厚くすると膠着か大損害というのが通り相場である。こいつらが半年も前から攻略を連呼していたのでロシア軍に防備を固める暇を与えてしまい、攻略に失敗したザポリージャ戦線は記憶に新しい。


 やはりこの線が生き始め、ロシア軍は中部ウクライナに向かう二本の矢を持つが、T511号線を進めばその先にはドニプロがあり、これはこの地区の中心都市である。抜かれれば南部ウクライナは干上がり、ハルキウは孤立するだろう。N15号線の先にはザポリージャがあり、これも重要都市である。しかし、戦力を集中させたいなら、なぜ一方向から攻撃しないのか。そもそも戦力を分散させず、最初から攻撃しておれば、今頃はウクライナ軍の補給地パブログラードを抜き、ドニプロに迫っていたのではないか?

 過去の例ではプリゴジン軍団と共闘することを嫌気したゲラシモフがヴフレダルに布陣してメタメタにやられたことがある。どうも今の動きは選挙後の論功行賞か、派閥争いの匂いがする。惑いすぎのロシア軍の様子を見たシルスキーが現地に出張し、直接指揮したことで両軍団はかろうじて抑えられている。

 インチキ選挙とはいえ正統性を得たことで、4月はプーチン軍総攻撃の月だったが、働かない中央管区軍、チェチェン軍については後者に変化が見られる。何でも親ロシアの領袖を中心に9千人の部隊を編成し、ウクライナ戦に投入するらしい。この国に親ロシア以外の勢力などあったのか、入院中のラムザン(二代目カディロフ)はどうなったのか。

 

※ プーチンの大統領就任式では一応顔だけはいた。出ないとプリゴジンみたいに殺されるからだろう。

 

 二代目カディロフはビジネスマンで自軍のチェチェン兵士の損失を恐れており、マリウポリなど激戦地に立つ自身の画像もグロズヌイからの合成で、チェチェン軍はもっぱら後方で残酷映像を撮影して送るTikTok軍と呼ばれていた。カディロフの弱体化で、今度はプーチンがこの国に直接手を突っ込んで足腰立つ面子を総ざらいしはじめたのかもしれない。

※ 二代目カディロフがプーチンに協力するのは観光産業への投資などビジネス目的が理由で、戦争は二の次と言われていた。なのでTikTokではウクライナ軍相手に勇戦しているチェチェン軍は自国軍兵士の数が極端に少なく、多くは外人部隊で構成されているとされる。

 なお、滑空爆弾がウクライナ兵士の実録証言付きで西側に大々的に喧伝されたことにより、気を良くしたプーチンはこの兵器の大増産を指令している。この爆弾自体は大した値段ではないが、運ぶのに大型ジェットのSu-35が必要で、これは高価で高性能なジェット機であることから、これはひどい指図ミスと私には見えるが、プーチンが失策に気づくのは前線でこの戦闘機がバンバン撃ち落とされてからのことになるのだろう。ロシアの独裁者には思い通りにならないことが少なからずあるが、物理法則もその一つである。

※ この爆弾を巡る報道自体がウクライナ情報部の謀略ではないかと疑っている。

 以前にアウディウカ戦について、ロシアの悪あがきのせいでいつ終わったのか分からないようなものと書いたが、補給を受けたウクライナ軍の戦果は最盛期の水準を回復している。独裁者の逡巡と気まぐれは往々にして対立する勢力の利益だが、そもそもウクライナ支援予算もプーチンがハマスとネタニヤフを扇動しなければ可決しなかった。

 兵力不足(実を言うとプーチンは支持基盤であるモスクワとサンクトペテルブルクの市民を戦争に巻き込みたくない)のロシア軍は悪い政治のせいで貧乏な辺境の少数民族も枯渇し始めたので、ネパールやインドの貧民を甘言で騙して前線に送っているようである。ルハンシクではネパール人兵士の集団脱走事件があり、特別軍事作戦は限界が近づいている。

※ 旧ソ連は格差社会でマルクスの理論にそういう記述があったとは思えないが、都市は資源の優先配分順にランク分けされていた。モスクワなどはAで、キエフ、トビリシなどは同じ人口でもBないしCと制度化されていた。概してロシア人の多い都市ほどランクが高く、少数民族の多い都市は人口が多くても同じ大きさのロシア人都市に対し低い優先順位に留まっていた。また、政府機関のポストや学者などもモスクワ出身者が優遇され、CISとして独立した後でも政府の主要ポストはロシア人という例がまま見られた。ウクライナもキエフ、ハリコフなど大都市と農村部には出自を巡る格差があったとされている。なので、危険な戦線に少数者や地方出身者を送るのは彼らの論理では理の当然なのである。

 別のコラムで書こうと思ったが、残虐で話し合いのしようもないように見えるロシア、とりあえず侵略を非難するのが社交儀礼だが、の、政策は案外西側のそれと似ていたのである。トリクルダウン理論はロシアでも用いられたし、シカゴ学派のどうしようもない経済運営も同じだ。ロシアのエコノミストは自国の市民と話すより、欧米の経済学者と話す方が共通言語を多く見つけられただろう。

 都市や大企業に富を集中し、地方を窮乏化させる政策は大量の失業者を生み、その失業者は職を求めて都市になだれ込む。その都市では流入した安価な労働力により平均賃金が下がり、都市もまた貧しくなる。都市が貧しくなれば地方への需要が減り、さらに貧しくなる。トリクルダウン理論は経済を縮小させ、貧乏人を大増産する政策で、貧困スパイラルを生じさせるだけでなく、国を分裂させ、社会不安を煽る政策である。

※ 格差と言われているが、「二重経済」という方がより的確な表現だと思う。これは日本やアメリカなどにも当てはまる。

 極東のタタール系ロシア人の生命がモスコビッチのそれより軽いなどということがあろうか。それが格差というものであり、一つの国の中に二つの世界が併存しては、その国は存続することはできない。プーチンが西側に追いつきたければ、彼が取るべきは真逆の政策であった。ウクライナを占領して搾取した所で、彼が過去10年間違い続けてきたところの本質的な部分が変わらなければ、それでロシアが豊かになることは金輪際ないのである。
 

 

(補記)

 就任式に合わせてロシアがウクライナで鹵獲したウクライナ軍兵器が赤の広場で展示されたが、2月前に鳴り物入りで投入されたM1エイブラムス戦車の姿もあり、撃破された同戦車を回収に向かった戦車回収車も鹵獲されて展示されている。ウクライナとしては情けない展示会だが、ウクライナでは同様の鹵獲兵器はキーウ市内にずっと前から展示されているが、アルマータ戦車はそこにはないことに気をつけるべきだろう。供与された最新兵器を躊躇なく戦線に投入したウクライナに対し、新型戦車の鹵獲を恐れて旧式のT-64やT-72を投入し続け、ウクライナに数倍する損失を出したロシアには用兵の明晰さ、軍事作戦の果断さに明らかな差がある。ロシアはすでに型落ちの米軍戦車やドイツ戦車の捕獲を喜ぶ前に、自軍の最新戦車が前線で戦っていないこと、また戦っても戦車の安全を保証できないことを恥じるべきだろう。

 

 アメリカで支援予算の成立が決まり、ここ数日はウクライナの様子を注意深く見ていた。これまでの傾向から欧米からの砲弾や対空ミサイルが前線に届くのは概ね1~2日、2年間の戦いでウクライナ軍のロジスティクスは飛躍的な改善を遂げており、兵器それ自体はポーランド国境やラムシュタインの飛行場に集積されていたと思うので、遅くても数日内には攻撃力の改善が見られるだろうと思っていたが、関心があったのはここ数日間、ロシアの兵器で何がいちばんやられたかである。


支援再開と同時に封鎖していた国境を空けたポーランド農民、東欧で何がいちばん恐れられているか分かる一コマである。

 ウクライナ軍はノヴォミハイリフカを含むアウディウカ戦線で後退を始めたが、これは採決が行われるまでに決まっていた方針と思われる。今回の予算が成立しなければウクライナは戦線を縮小し、領土を割譲して停戦交渉をしたものと思われる。ウクライナ軍の攻撃力はこの1ヶ月で30%低下しており、これ以上の戦闘継続は不可能になりつつあった。後退は規定の方針だったと思われる。

 砲弾やミサイルの補給が再開された後の傾向を見ると、陣地の放棄は規定の方針だったが、ウクライナの反撃でロシア軍は兵員輸送車両の損害が格段に増加したことに気づく。これはいわゆるトラックやタンクローリーなどで、装甲はなく、本来の用途は前線の近くまで兵員や燃料物資を運ぶための車両である。戦うことは前提としていない。

 長射程兵器についてはまだ充足していないようなので、これは迫撃砲やドローン、戦車といった比較的短射程の兵器による戦果で、こういった傾向だとロシア軍は本来なら前線の後方に下げておけなければいけない車両を攻撃に参加させていることになる。ロシアの優勢といっても実情はこんなもので、おそらく航空機のほか、戦車・装甲車の生産の立ち上がりも遅れているのだろう。これまでの撃破数からすると、長期保管の旧式車両は底を突いているはずである。知らない間にロシア軍は第一次大戦時代の残忍な軍隊に先祖返りしたようだ。

 

 なお、ミサイルの補充が届いたことで防空も幾分改善している。ミサイルの不足が顕在化したことで、ここ一月間の民間人の被害は前月比20%増となり、発電所など重要施設も被害を受けた。

 ドローンについては実情はやや掴みにくい。どうも中国が肩入れしているようで、これまではウクライナが優位を保っていたドローンは中国、イラン、北朝鮮の支援を受けたロシアが優勢となっている。電子戦能力でも優位に立っているという報告もあるが、その割にはロシア軍はウクライナ軍のどの戦線も突破できていないことがあり、専らドローンが主兵器のクリンキ要塞も落ちないことがある。ウクライナ軍は別方向のヘルソン河畔ネストリハ砂州に進出し、微妙な戦況にも関わらず、この地域に関心があることを示している。

 エコノミチア・プラウダ誌の報告では、一昨年に侵略が始まって以降、外資系企業の多くはロシアから撤退したが、一部の企業は居残り、侵攻前よりも利益を上げている。ペプシ、ネスレといったおなじみの企業の他に日本たばこ産業株式会社(JT)の名前があり、昨年の売上は76億8,300万ドル(侵攻前の137%)と数ある残留ロシア企業の中でも群を抜いて高い収益(ペプシは47億ドル)を誇っている。

 建設作業機会社のコマツも3億7,800万ドルとアップルの7倍の収益を上げており、こういうのを見ると日本人として情けなさを感じると同時に、この戦争がプーチン一人の妄想によって引き起こされたものではなく、行き詰まったグローバリゼーションのなれの果て、自由主義が腐食した結果として起こったものなのだと改めて感じることとなる。
 

 現大統領バイデン氏の衰えが目立つことから、前大統領トランプ氏の支持が拡がっているが、彼を論評することには困難が伴う。さながら困った隣人のように、この人物は自分に不利な報道をしたジャーナリストに圧力を掛け、訴訟を起こし、率直な論評をできなくしてしまうからだ。

 ネットフリックスの特集番組「トランプ・アメリカンドリーム」によると、訴訟の多用は初期の彼の成功体験、コモドアホテルの買収に端緒がある。トランプはビジネスマンとしては異質な人間で、成功に公権力を利用することを躊躇しなかった。コモドアの後もプラザホテルの買収、トランプタワーの建設で彼はニューヨーク市から巨額の免税を受けており、これらは訴訟になったが、彼の師であり敏腕弁護士のロイ・コーンの活躍で全て勝訴した。現在でもややいかがわしい所のある彼の学歴や健康状態について調べるなら、調べた者は弁護士事務所からの電話を覚悟しなければならないだろう。

※ 対日貿易摩擦で庶民は今の日本のようなつましい生活をしていた時期である。予算の不足で警官も解雇され治安も悪化していた。そのため高額所得者のトランプが免税を受けることについては当初から批判があった。

 ネットフリックスの番組はこういう扱いにくい人物を取材するにあたり両論併記のスタイルを取り、制作者はおそらくトランプの行状や政治家としての資質に批判的なものがあるはずだが、その部分は視聴者の判断に任せるというスタイルを取っている。それによるとトランプの人格形成には先ず父親、次いで最初の妻の影響が大きいようだ。彼の母親は最大の支持者だが、息子のやることには何でも賛成で、人格への影響はさほど大きくないように見える。

 トランプは半世紀に及ぶそのキャリアで様々なビジネスに手を出したが、少し俯瞰してみると名声への渇望が何より優先するものとしてあることに気づく、体面を傷つけられることを極度に嫌うのであり、そのためにはビジネスや政治につき他人が驚くほどの柔軟性を見せることがある。彼にとっては「ドナルド・トランプ」という名がひとかどの人物として認知されるなら、他のこと、ビジネスや政治家としての実績はどうでも良いのである。これはおそらく少年期の挫折と父親との不協和音に理由がある。

※ 父親とは不和ではなかったが、トランプの父親は常に彼の批判者であった。

 彼の父フレッドはブルックリンの実業家で、3万戸のマンションを建設したビジネス・タイクーンである。存命中、彼は常に息子のビジネスに批判的だったが、時に助け舟を出し、しかも長命したので(93歳)初老に至るまでドナルドにとっては壁となって立ちはだかっていた。マスコミに露出した彼の名声は父親を凌いだが、3万戸を建設した父親と異なり、トランプが建てたのはトランプ・タワーだけだったこともコンプレックスに拍車を掛けた。

※ 経営計画のズサンさから経営していたカジノ「タージマハル」が破綻に瀕した時、フレッドは弁護士を通じて500万ドルを融通し、これは弁護士がカジノでわざと負け、賭金を支払うという形で支払われたが、そもそもフレッドはカジノ事業に反対だった。


 私が見る所、トランプという人物は自分の適性を当初から政治家と見ていた節がある。が、父親のせいで先ずビジネスでの成功が求められ、生まれたブルックリンでは父親がすでに牙城を築いていたことからマンハッタンに活路を見出さざるを得なかった。5番街のあるマンハッタンはセレブの集う地で、名声と富を手っ取り早く得られると目論んだことがある。

 が、名声はともかく富の方は父親に遠く及ばなかった。トランプ財閥はその90%以上が父フレッドの資産であり、40代に差し掛かる頃にはマンハッタンの住人にもビジネスの才能については見切りを付けられていた。コモドアホテルにしろプラザホテルにしろ、先鞭を付けたのは彼だったが、最後に笑うのはいつもアジアや中東のどこかの投資家だったのである。この人物には経営センスが欠けていた。

 彼を救ったのは最初の妻であるイヴァナの存在がある。チェコ出身の元モデルで非常に頭が良い彼女はドナルドに欠けている資質を全て持っていた。彼女はトランプが取得したホテルやカジノの実質的な経営者で、加えて美人でもあり、父フレッドのお気に入りだった。80年代を通じ、ドナルドの役回りと言えば美人妻のエスコートかその付録であり、スポットライトを浴びたのは常にイヴァナであった。

 トランプという人物には女性偏見はあまりないように見えるが、これは彼より才覚器量の上回る妻の存在が大きかったと思われる。ドイツのメルケル首相は物理学の博士号を持つ世界の政治家の中でも有数の才女だが、会談したトランプはドイツ首相の知力が自分を遥かに上回ることを悟ると、以降は借りてきた猫のように大人しくなったとされる。彼はメルケルの頭痛の種だったが、トランプの彼女に対する態度は常に紳士的だった。女性に偏見がなく、能力を正当に評価できることは彼の数少ない美点といえるかもしれない。トランプ・タワーの建設も総指揮は女性の設計士によるものである。

※ 番組では後のように描かれているが、マー・ア・ラゴの所有権を取得したのもこの時期である。これはジェネラル・フーズの実質的な創業者マージョリー・ポストがアメリカ大統領の別邸として寄進するために作られた。マージョリーは彼の妻イヴァナと同等かそれ以上の女傑で、このことも彼が女性の才覚に敬意を払っていることの傍証となる。

 

 が、父親と妻という、自分を遥かに上回る才質の持ち主が初老に至るまで重石としてあったことは、彼の人格をいくぶん歪んだものにしたかもしれない。もし父親が彼にビジネスの才がないことを見抜いていたなら、彼は父の後援で本来の希望である下院議員か上院議員、あるいは知事や市長の道を目指していただろう。ようやく彼にそれができるようになったのは父親の死後5年、2004年の「ア・プレンティス」に出演した時からである。そこでも彼は「大統領志望者」ではなく「ビジネスマン」として紹介され、民主党の大会では後援していたヒラリー・クリントンにニヤ笑いを披露していた。彼がヒラリーを破って大統領となったのはその10年後である。

※現在の彼は共和党だが、アメリカと日本では政党システムが違うことに留意する必要がある。とにかく、2000年代の半ばまで彼は民主党支持者だった。

 「ア・プレンティス」への出演は2015年までおよそ10年間続いたが、番組の後期には彼は大統領への野心を隠さなくなっていた。すでに父親は亡く、泥沼裁判となったイヴァナとはとうに離婚し、立候補した彼に苦言を呈する者は誰もいなくなっていた。

※イヴァナの後、彼は3回結婚したが、現在の妻で最も長続きしているメラニア以外は前妻への当てこすりである。メラニアは聡明だが野心のない女性で、トランプが時折見せるリベラル的側面は自身リベラルである彼女の影響とされる。

 番組を見て、彼は当初からビジネスではなく政治家向きの人間だったのだろうと思ったが、経路が歪んでいるためにその政治手法も正攻法を取ることができなくなったことがある。少なくともジャーナリストやエスタブリッシュメントに彼を支持する者は一人もいない。大統領予備選では、彼は単純ではあるが効果的な方法「金集め」で他の候補を寄せ付けない実力を示したが、これは彼のビジネスをも傾けるものだった。だからビジネスで成功したアメリカ人が大統領になる例はほとんどないのである。金儲けが問題ならば、こんな割の合わないビジネスはない。が、彼だけは違っていた。

 大統領になっても正当な政治家で彼を認める者は皆無だったが、短期間雇用された後にオフィスを去った閣僚らは例外なく大統領のことを「適性がない」とこき下ろしているが傲慢な言葉である。そしてワシントンでのその見られようはトランプ自身が最も傷つき、意識していることである。政治家として彼を認める人間はアメリカ国内ではなくむしろ海外からやってきた。

※ トランプ内閣は彼の人気から当初は各界でも一流の人物を揃えていた。しかし、ほぼ全員がトランプのやり方に嫌気して離職し、半年も経たないうちにバノンのような得体のしれない人物が跋扈する伏魔殿と化したことで、名声のある人物は入閣を避けるようになっていた。

 一人は安倍晋三、もう一人はイギリスのメイ女史である。後者はすぐ退陣したが、前者は勘違い山上徹也の怒りの銃弾が元首相を狙撃するまで影響力があり、トランプにとっても特別な存在であっただろうことが伺える。番組はこの時代まで及ばないが、あと、金正恩やプーチンなども彼にとってはかけがえのない友人なのだろう。

 トランプ自身の人となりについては側近さえ人柄を明確に述べることはできない。行動的でプラグマティックな側面がある反面、残酷で幼児的な部分もあり、自分を批判したアナリストを雇用して側近として重用する懐の深さを見せる反面、敵に対しては容赦ない一面もある。政治的信条はなきに等しく、そもそもビジネスですら、彼は何も実現したことがない。父親のフレッドは快適な住宅を、妻のイヴァナはカジノで現代の桃源郷を作ることに情熱を注いだが、そういったものは彼にはないのである。

 が、ある意味、政治家としては一方の極限にいる人物なのかも知れない。もう一方の極限はメルケルである。理系の彼女は自身を政治機械と見做し、「司(つかさ)」であることに全精力を注いだ。政争からは距離を起き、仲裁に入ることで中立を保ち、その在任中いかなるスキャンダルとも無縁の政治家生活を送った。彼女に反対する者ですら、連立政権で地位を保つためには彼女の協力が絶対に必要だったのである。

※ メルケルは当初からトランプを「要注意人物」と見ており、「ア・プレンティス」のビデオを取り寄せて視聴して将来の大統領に対する対策を検討していた。相手について徹底的に調べ上げ、その長所と短所を分析することは科学者である彼女の面目躍如だが、それゆえに彼女はゼレンスキーとプーチンを和解させることができ、トランプについても会う前からその人となりを知り尽くしていたことがある。

 トランプにメルケルのような真似はできないが、どの政治勢力とも無縁で、名声が最大の関心事である彼は民衆の偶像(イコン)である。移民が生活を脅かしていると聞けばそれを聞き、生活が苦しいと聞けば高額所得者に課税をとも言いかねない。彼は民衆の声によって動き、どの政治思想とも関わらない。それは時として矛盾を孕むが、当人はそのことを何とも思っていない。そして名誉のためならばいかなる犠牲をも払う用意がある。これもまた、程度の差こそあれ政治家の一典型である。

 

 ようやくアメリカ議会でウクライナ支援の緊急予算が成立したが、戦況の方はといえば苦戦が伝えられている。元々アウディウカを撤退したシルスキーの戦術が弥縫策で、兵力に劣るウクライナ軍が大兵力のロシア軍を包囲するという南北長さ20キロの鶴翼陣形だが、南部のノヴォミハイリフカ、北のチャシフ・ヤールがほぼ同時期に破られ、これは弾薬枯渇の影響と思われる。都市に飛来するミサイルも撃墜数がめっきり減り、変電所や水力発電施設への被爆を許している。ヘルソン州クリンキの橋頭堡も滑空爆弾の攻撃で惨憺たる有様だ。

 動きのなかったチェルニヒウ州でも攻撃があり、スームィが空爆されたが、どうもロシアの関心はドンバスからハルキウを含む北東部に移っている感じである。ハルキウはキーウ攻略の要といえる都市で、余裕ができてここに力点を置くということは、やはりロシアはドンバス割譲などでは満足せず、キーウを占領して城下の盟を誓わせることを最終目標にしているようだ。

 ただ、このハルキウという都市、人口は140万(札幌市とほぼ同等)もあり、一昨年の侵攻では西部管区軍がサーモパリック爆弾を使用してまでしても落ちなかった都市でもある。都市のコンクリート建物は案外頑丈で、もっと小さな都市(マリウポリ)さえも南部管区軍とカディロフ軍団が総掛かりで、空軍も砲車も西側兵器もない民兵隊、旧ソ連製型落ち兵器だけのアゾフ大隊相手に3ヶ月攻撃してようやく陥したところを見ても、ハルキウの攻略がこれより易しいとは思いにくい。

 ミサイル攻撃を受けたカニフ水力発電所のあるドニエプル川の貯水池は霞ヶ浦ほどの大きさで、ここへの攻撃は「カフホカの惨劇再び」というロシア指導部の飽くなき破壊願望の表れと思われる。ただ核攻撃を想定した旧ソ連製のダムは丈夫で、カフホカも構造を熟知したロシア人技術者による内部からの共振破壊によるものだった。

 これらを見ると反転攻勢に失敗したウクライナはロシアの反撃を受け総崩れの様相にも見えるが、それ以前の数ヶ月から当てにならないアメリカ議会を念頭にウクライナ軍は戦線縮小、退却を考えていたと見える節がある。

 思うに今回も議案が採決されなければ、ウクライナ軍は戦線を大幅に縮小し、キエフやオデッサなど少数の重要都市の防御に切り替え、領土割譲を条件にロシアと講和を進めた可能性が高かったと思われる。採決は本当にギリギリのタイミングであった。

 Osintで情報を仕入れているとされるForbes誌のコラムニストDavidAxe氏は例によって近視眼で「ウクライナ軍の戦線が破られた」と吹聴しているが、氏によるとロシア軍が踏み込んだ時にはすでに軍の影はなく、軽装備の旅団が応対した程度でそんなのはすぐやられるという話だが、彼やISWの言うことを聞いていては、指揮官は移動も退却もできず、弾がないから反撃もできず、優勢なロシア軍相手に自滅するだけである。

 そもそも最初の鶴翼陣形がロシア軍の傾向を読み切った上での一時的なものである。シルスキーが知らないはずがない。まあこいつらはウクライナ兵が全滅してもオフィスでコーヒーを飲んでいれば良いだけだけれども。

 ようやくアメリカの援助が期待できるようになったけれども、ボロ陣地でめげずに防戦したおかげで飽きっぽいロシア軍は例の「ブラウン運動」で各所に拡散し、攻撃は激しいけれども配備は薄いと思われる。戦争の初期に比べればロジスティクスは改善され、兵器の質も改善している。ビザの更新を中止してまでして揃えた兵力を長大な戦線に付き合い良く並べるのはいかにも頭が悪い。長距離ミサイルで後方を攻撃し、敵陣を破って遊撃戦で各個撃破する好個のチャンスである。今のうちはロシアに頭に乗らせるだけ乗らせておけば良いのである。

 クリンキは少々難しいところである。これはアウディウカ戦の最中、クリミア半島のロシア兵力を引きつける陽動として試みられた。現在までの所、軽装甲車以外に渡河したという話はなく、村落はロシア爆弾の攻撃でほとんど更地になっている。実験的な部隊を当て、一時期は一日の戦果の半分がこの地域という戦果を挙げたが、陽動はというと、クリミア半島の戦力が元々少なかったこともあり、あまりうまく行ったとは言いがたい。

 ただヘルソン対岸のこの場所はロシア航空兵力を引きつけるには一定の価値がある。メインステイやバックファイアが旧式S200ミサイルで無惨にも撃墜されたのは哨戒機がこの地域をもカバーするように配されたせいだし、今でもスホーイが飛来して爆弾を落としている。距離は戦闘装備のロシア機がロストフから発進してギリギリという場所で、ロシア軍機の墓場には格好のロケーションでもある。維持することにはそれなりの価値があるが、全体を見ればこれは余力があればというものだろう。

 アメリカ議会での法案の棚晒し、採決遅延には在野で気勢を挙げているトランプ元大統領の意見が大きく影響したとされている。この人物に現在の情勢を理解する知力があるとは私は思わないが、議案をウクライナとは縁もゆかりも無いメキシコ移民と絡めたり、一部を借款にしたりというのはトランプの策謀である。

 が、これも見方による。法案が上下院を行ったり来たりしている間にプーチンの策謀によるハマス襲来があり、戦争犯罪人ネタニヤフの虐殺があったりで、そのまま行けばデッドロックのこの法案はトランプの努力も虚しく、プーチンと愉快な仲間たちの貢献で採決されてしまった。ある意味、ウクライナ最大の恩人はウラジミール・プーチンともいえる結果であり、この独裁政治の気まぐれさはウクライナ最大の武器であるが、ハルキウ侵攻作戦もこれでどうなるかは分からないものになっている。

 ゼレンスキーの「国民の僕」は彼のマニフェストで、暇があったら見ておいて損はないドラマである。上記のようなゴチャゴチャした情勢に対しても彼は処方箋を考えていたことは、ドラマ(特に後半)を見るとよく理解できるし、たぶん、ウクライナ国民も理解しているだろう。

 トランプについては、ナワリヌイと並びネットフリックスに彼の特集番組(全3回)があったので並行して視聴した。思っているよりだいぶ複雑な人物である。これについては後のこととしたい。

 司令官を解任されたザルジニー氏についてはまだ英国大使館に着任していないようである。人事のとばっちりで軍人まで辞めなければならなかったこの人物については退任後の手続きがおそらく色々あるのだろう。侵攻が始まる前は寡黙な彼に代わり奥さんが私生活など色々公開していたが、以降はないので元司令官の近況は現在は分からないものになっている。

 なお、ウクライナ特需でウハウハしている国はまず北朝鮮、滅びた方が良いこの世界のゴロツキ国家は今回もまた生き延びた。「愛の不時着」などでイメージは多少改善しているが、儲けた金の使い道はミュージックビデオである。

 あとトルコ、エルドアンはロシアのプーチンとよく似た指導者で個人的にも親しいが、国家経済でロシアに依存することは慎重に避けている。ロシア産肥料を使わないトルコ産のオリーブ油、パスタは肥料と電力不足でシェアが低下している地中海諸国を押しのけ市場を席巻する勢いである。我が国の政治家にもこのくらいの深謀遠慮があればと思うが。

 ほかイラン、ウクライナで猛威を振るっている爆薬付きラジコン機シャハドの元締めで、自分で作っているので余剰があり、先日イスラエル向けに300機を「予告付きで」バラまいた。イスラエル当局への電話から迎撃まで3時間もあったので99%以上が撃墜されたが、こんなくらいの数はこの国にはどうも余裕のようである。これも見ると北朝鮮もテポドンを撃つ前に首相官邸に電話くらい入れたらどうだと言いたくなる。

 もう一つはベラルーシ、特需の恩恵はなく、ロシアと一緒に禁輸で貧乏になっているこの国だが、プーチンよりもキャリアの長いルカシェンコ(30年)は石油の採れない同国で油田掘削を厳命した。これはロシア・欧米双方へのサインと思われる。ベラルーシくらいが必要とする量はアメリカもロシアも簡単に確保できるからだ。ベラルーシはロシアと並ぶカリ硝石の生産国だが、西側に付いた時の政治的ダメージは肥料などよりなお大きい。

 ワグネルの乱までは存在感を示していたチェチェンの二代目カディロフはどうもプーチンに毒を盛られて入院中のようである。彼を副首相時代のプーチンに紹介したのは先代カディロフだが、当時の好青年も戦争の不調で猜疑心の塊になっているプーチンには不逞な野心を抱く髭面小太り中年にしか見えなくなったらしく、チェチェン部隊が出すのが外国人傭兵ばかりで実兵力が少なかったことも災いしたようだ。重い腎障害でまだ若いのに余命は長くないとされる。独裁者は親しくしてもロクなことはないという良い例である。

 最近のバイデン大統領を見ると、私などは末期のルーズベルトを思い浮かべる。写真を見るとジェダイのオビ・ワン・ケノービのようなローブを纏った姿に品のある老人で、戦後世界を作った聡明で思慮深い人物でもあるが、末期は病に冒され覇気を欠き、ヤルタ会談ではスターリンに良いように引っ掻き回されることになった。我が国では北方領土に欧州では鉄のカーテンと領土不拡大の原則に反する失地の理由の大半に、この大統領の優柔不断が寄与したことは記憶しておいて良い。

 

 ウクライナのEU加盟については、つい最近EU委員会の指導を受けたウクライナの行政委員会が地方自治に関する勧告を提出したが、この内容が結構ものすごい。問題なのは政府で、日本でも地域ボスが跋扈する反民主的な地方自治体なんか対象にならないだろうと思ったらさにあらず、EUは本当にこんな基準で地方自治を運営しているかと思うと慄然とするものがある内容である。長くなったのでトランプ同様、これは後回しにしたい。

 

 先にAIを使った語学講座の話をしたけれども、外国語の勉強自体はもっと前からしており、労力の割に遅々として進まない現状に少々苛立ってもいた(現在は解決されている)。実用というよりは教養として身につけているもので、英語(あまり不自由ない)のほか、周縁を広げるという意味でいくつか取っているのだけど、ペースメーカーとして一昨年からNHKの語学番組も視聴している。

 昨年10月から始まった「しあわせ気分の~語」シリーズは軟派なタイトルとは異なり、内容は以前の「旅する~語」よりハードになっており、「旅する」の方は外国人が出演する日本語で視聴しても問題ない紀行番組の趣きだったが、それでは学習効果が上がらないと思ったのだろうか、「しあわせ」の方はほとんどネイティブが喋りまくる番組で、当初は字幕すらなかったが、ハードすぎるということで最近は付いているようだ。前番組との落差に最初は相当面食らった。

 毎回きちんと視聴できているというわけではないが、視聴の目的は語学というより諸国情報の収集で、どの番組もテーマを決めており、それなりに視聴者の立場に立って特集していることから旅番組としても質の高いものになっている。何より、芸人のつまらん駄洒落に時間を取られないのが良い。番組は20分だが、この旅番組より放送時間が長く中身の薄い民放の番組は数多あることがある。

 「良質なオリーブオイルの定義とは」など、案外知ってそうで知らない内容もあるが、やっぱり我が国の少子高齢化を憂いているのか、高齢化先進国である欧州の集住形態を取り上げているのが興味をそそられるところである。

※ 良質なオリーブオイルとは

 そもそも日本人は常用しないので案外分かりにくい。

1.若い(青い)果実を使うこと

2.搾油から瓶詰めまで低温で処理すること

3.色が緑色で香りが良いこと

 要するに摘んだオリーブの実をその場で搾油して瓶詰めするわけで、オリーブオイルの品質の基準は酸価であるが、摘果後すぐに加工するこの方法なら酸価が高いはずはなく、新鮮で香りの良いオイルが得られることになる。これがエキストラバージン(一番搾り)で、搾りカスは更に絞って搾油することの方が多いが、番組の工場ではバイオ燃料や発酵させて肥料として再利用していた。良質なオリーブオイルは料理の決め手として番組でも度々登場する。ただし、日本人には品質の違いがわからないオイルなので、番組を見てマネをしても美味しい料理になるとは限らないし、高いからといって良質とも限らない。


 我が国でも「グループホーム」などあるが、運営が官僚的で紋切り型の補助金頼みの事業で、画面に映っているような和気藹々とした雰囲気はまるで見られない。自ら運営に参画する所に特色があり、例えばバカンスで帰省時の家賃はどうするかとか話し合いで決めているところも良い。また、グループホームは年齢制限があるが、イタリアでは若者も入り混じった集住形態がある。

 ありていに言うと、孤立した生活にはいろいろ問題がある。譲るべきは譲り、共通の利益のためにこういう生活方法を取ることにメリットがあること、そのことに関する合意が社会全般にできているからこそ可能なのだろう。若者の場合は人格の発展のため、高齢者は生活の負担や末期の心配をなくすため、揉め事を解決するケアワーカーもあり、集団生活において生じる様々な問題について良く考えられた跡がある。

 4つの番組の中ではドイツのWG(ウォーヌングゲゼルシャフト)の紹介頻度が最も多いが、大学の寮に似たこれ、私が経験したのと比べると設えなどはほぼ同程度だが、学生の自意識の高さに驚かされる。共益費の負担や炊事洗濯など日常家事の負担は平等であることが望ましいが、こと私が経験した国立大学の某寮ではこれが難事であった。そもそも見当外れの文部省の方針で「寮は個室」というドグマが支配的で、構造も標準規格品はその式であったことも意思疎通の障害になった。

 問題になるのは、仕組みを平等に合理化すればするほど、環境を良くすればするほど、それに便乗する「フリーライダー」が必ずいるということである。集住のメリットは享受しながら負担を履行しようとしない、非常に困ったことである。

 彼らを野放しにしていると居住空間はたちどころにゴミ屋敷になってしまい、それが嫌な人も少なからずいるので、そういう人は自発的に掃除をしたり供託金を割増で負担したりするが、それがさらに便乗を助長することがある。話をしてみても、そもそも環境を維持する必要性のレベルからして理解を拒絶することがあり、噛み合わないことがある。ドイツの学生とはえらい違いである。たぶん彼らなら、そういった問題者は投票で追放処分にするだろう。実際、私もやりたかったのが何人もいる。

 まあ、一言で言うと、資本主義の工業化社会で規格化された会社に勤めている親から生まれた子供は自発性や協調性が必要な局面では、からきし無能ということである。盗癖もかなり目撃し、実のところ私の所もかなり盗まれた。しかし、供託金をきちんと管理し、適正に運用していたなら生活物資は確保されるはずなので、月末に米やトイレットペーパーに困って他所に盗みに入るというのは財産管理能力の無能の証明である。当時の私はそう見たし、今でも間違っているとは思わない。あと、共用部のマンガの被害も多かった。私の所にいたフリーライダーの一人が金に困ってブックオフで換金したからだ。

 こういった問題は場所や年齢、国を問わず集団生活ではありがちだと思うし、合理的な対処法というのも実はあるのだろう。少なくとも番組を見る限りでは、こういう生活に私が感じる問題点は解決済みのように見えた。民度も違うように見え、互いの人格を尊重しつつ、共同の利益のために互譲し協調するというのは、彼らには彼らの問題があるはずだが、少なくとも私が経験したものよりは進歩した人類のそれに見えたことはある。

 世紀も変わったのだし、都市の孤立や犯罪傾向、高齢化の問題は以前からあったものである。宗教は解決の一つになりうるが、ここはやはりもう少し知恵を絞りたいものである。


(補記)
 元長野県知事の村井仁氏は田中康夫に対抗して立候補する前はグループホームの事業を考えており、それを措いて知事選に出馬した。当選し一期勤めたが、高齢化社会に目を付け、いち早く行動を起こしていたことは慧眼と言うべきで、彼のその後は消息がないが、こと松本界隈では誰もが一目置く人物であったことは本当である。生きていれば90歳近い年齢なので、彼の企図がどんなものであったのかは今は知るすべがないが、識見は優れたいたことから、今の社会がどうあるべきかにつき、もう少し話を聞きたかった人物ではある。
 

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 恒例の禁則リスト(Yahoo!Excluder)だが、昇順で並べ替えてしまったのでいつリストに加えたかは分からなくなっている。いずれにしても、読まなくても困らない「じゃまもの」リストなので、項目は今後増えることはあっても減ることはないと思うし、一度加えた項目を減らすこともないと思う。

 

 聞く所によると、Yahoo!ニュースのニュースフィードに挙げられる記事は一日7,500記事もあり、大手新聞社などもあるが大半は安直なジャンク記事である。そのため、100や200省いても困ることはありえないものになっている。

 

 「朝ドラ」、「大河ドラマ」も項目に加えようと思ったが、たいていタイトルで出ているので今回は「虎に翼」を禁則リストに加えた。前作は佳作だったし、今回も見れば出来が悪いとは言えないが、ヨイショ記事がウザすぎることがある。それにこれらはスクリーニングしても半分減らせれば良い方で、いずれにしろ困ることはあまりない。番組を見なくてもストーリーは分かる。

 

 ただ、と思うのは、最近評判のドラマを見ていると感想の内容まで指図されなければいけないのかという不愉快さがあり、およそ異なった視角の評論というものはトンと出てこない。というよりこれらは感想でも評論でもない。制作側の見解を鵜呑みにしただけの文字の残骸である。

 

 「虎に翼」について書くと、数度見た印象ではライターが門外漢のせいかドラマとしてはそれなりなものの、主人公の専門である法律学については踏み込みが甘いと感じた。それらしい言葉は出てくるが、登場人物の所作が法学徒らしくないのである。一言で言えば「リーガルマインドを感じない」。映画なら誤魔化せるが、半年の連続ドラマでは馬脚が見えてしまう。

 

 「諸君らに必要なのは写真的記憶力(Photographic memory)ではない。事実と分析力(fact and analysis)だ」とは、ハーバード・ロースクールを舞台にした映画「ペーパーチェイス」で新入生等を前にキングスフィールド教授が叱咤する場面であるが(他にも「君等のうち3人に1人は在学中にいなくなる」というのもあった)、これと比べると「虎に翼」のあのヌルいファクトもアナリシスもない民事訴訟法教授は何なのだろうか。後のピクニックでこの教授が実は不倫していたことが明かされる。どうでもよいではないか、こんなこと。

 

 もっとも、この映画を私に見せた実際にハーバード大学を卒業した先生によると、これでもまだ大甘で、実際はもっと厳しい場所でラブロマンスの余地もないとの話であるが。3人に1人の話はホントらしい。

 

 あと、米国に移住した小室夫妻のその後については高い渡航費を掛けてまで追いかける内容ではないと思うし、別に興味ないのでリストに加えた。全く連中の記事を見ていると僻み、嫉み、やっかみ以外に書く内容がないのかと少し腹が立つ。

 

 日刊ゲンダイデジタルはリストに加えていないが、最近はニュースフィードで見なくなっている。見ても読まないが、ここの編集者はかなりの間抜けで、記事の最後に必ず(本人は気が利いていると思っている)一言文を入れたがる。たいてい見当外れで、誤解を招くだけであり、世の中おまえが思っているほど単純じゃないというものであるが、最近は見ないのでリストにも加えそびれた。

 

 タイトルの表現に品がないものも出版社ごとリストに加えることがある。少なくとも私の前で「ワイ」とか「馬鹿」とかやったら一撃でアウトである。言葉を大事にしない人間にまともなものが書けるはずがないからだ。

 

“History will judge us by our actions here today,” he continued. “As we deliberate on this vote, you have to ask yourself this question: ‘Am I Chamberlain or Churchill?’”
----Representative Michael McCaul, Republican of Texas

 ウクライナ支援予算案におけるマッコール議員(テキサス)の演説の一部であるが、採決と同時に凍結されているロシア資産の転用も決まったとはいえ、これで戦争に勝てるのか、あるいは戦争を続けることができるのかについては今後を見なければならない。

 防戦できるのかについては、ここ4ヶ月でもアウディウカ・マリンカの防衛拠点の放棄、優勢に進めていたバフムト戦線での退却、キエフほか諸都市のミサイル攻撃による被爆があり、ハリコフなどは危機的な状況で、ウクライナでは徴兵年齢を下げて対応しているが、元々の国力差もあり、これまでの10万人近い損失を埋め合わせることは困難が伴う。

 ほとんどニュースになっていないが、TIME誌の世界を動かす100人に宮崎駿に加え、ほとんど無名のウクライナ大統領府長官イェルマークが選ばれたことは、政権内では米国による一定のシグナルと見做されている(前年はゼレンスキーだった)。米国の態度が冷淡になるにつれ、ゼレンスキーは国防大臣のレズニコフのほか、多くの閣僚級、次官級ポストの人物を解任したが、多くは欧米通の人物で、これは米国に対するシグナルと思われる。これでイェルマークまでいなくなれば政権内に米国とのパイプはほぼなくなったことがある。
 

 米国の支援については、最近インタビューに応じたアゾフ大隊の司令官がかなり細かい注文のあるもので、ロシア・米国双方で「極右」と見做されているアゾフ大隊への支援は事実上禁止されていたと証言している。この兵団は開戦後にウクライナ軍の指揮下に入り正規軍となっているが、それでも用いているのは旧ソ連製で、リーダーが招待されるなどウクライナ一般で指導部が受けていた扱いには「一切縁がなかった」としており、そもそも現在の規模は旅団以上で「大隊」ではない、と、ロシア・米国双方の当局者に苦言を呈している。
 

 もっともこのインタビューはつい先日の戦いで右派セクターの代表的な兵団、バフムト防衛の第67機械化旅団がかなりひどい負け方をし、極右の司令官も副司令官も戦死したことがあるかもしれない。ウクライナ軍はロシアとの紛争が長期に渡っていたこともあり、正規軍以外に各地に対ロシアの地場兵団がおり、アゾフ大隊(第12突撃旅団・マリウポリで壊滅)などはその代表だが、67旅団の敗北はシルスキーの性格からしてたぶん切り捨てられたのだろうと思われる。司令官戦死後、シルスキーはこの部隊を前線から下げ、大規模な内部査察を行って右派軍団は事実上解体の方向に向かっている。なのでアゾフ司令官の苦境には同情するが、ウクライナ戦争全体から見ればノイズの一つといえるかもしれない。

 

※軍隊の編制単位・・・起源は古代ローマの重装歩兵で、3個が基本単位である。小隊(10~50人程度)が3つ集まれば中隊(100人)、中隊3個で大隊(300人)、大隊3個で連隊(1,000人)となり、連隊3個が旅団、旅団3個が師団というのが大まかなところである。ただ、編成や人数等、時代ごと国ごとの違いが大きいため、およその目安程度である。例えば戦時編成の場合、フル編成3個に加え人数も3倍程度に増やされることがある。ウクライナ軍はNATO式の編成を採用しているため、全体の規模はロシア軍に劣るが、個々の軍団の規模は勝っているケースが多いように思う。

 

 ほか、巡航ミサイルでキエフ攻撃の帰途にあったTu-22Mバックファイア爆撃機が撃墜されたが、アゾフ海東岸のこの地区はと見れば毎度毎度同じパターンで、早期警戒管制機メインステイを4機(うち2機は地上破壊)も含め、本来なら撃墜されないはずの大型航空機を立て続けに失っていることについては、ロシア軍の戦略の歪みがこの地区で顕出していると見ることもできる。

 

 何でこの場所かといえば、地形上、アゾフ海上空は早期警戒機ではバフムトとヘルソンの両戦場を1機でカバーできる唯一の空域であり、爆撃機に取ってはオデッサ・キエフを同時に狙えるミサイル発射場として好適だからである。だからこれらの機体は危険なほどにウクライナ領土に接近し、旧式ミサイルの餌食になっているが、これも十分な機数があったなら防げるはずのものである。いや、機数はあるのだが出し惜しみ、変な吝嗇さで乗務員に無理を強いている所がいかにもロシアらしい。

 

※メインステイ、バックファイア撃墜・・・一応公式発表ではどの事例も旧ソ連製の改造S200ミサイルによるものとされている。このS200というミサイル、開戦当初は使い道がなかったためにウロ双方とも対地攻撃に用いていたが、対空ミサイルにあるまじきこととして爆薬量(200kg)だけはやたらと多く、これはパトリオットの3倍、ホークの5倍にもなり、平均的な空対空ミサイルと比べても10倍以上の爆薬を仕込んである。が、物理の当然として、爆薬量を10倍仕込んでも被爆範囲まで10倍になるわけではなく(せいぜい2倍強)、大きくて動きが鈍く扱いにくいこのミサイルが対空戦闘にことさら有利なわけでもない。なぜかウクライナ軍技術者の手で性能向上し、本来ならかわされるはずの大型機やSu-35をバンバン撃ち落としており、バックファイアに至っては燃料が切れて運動性がなくなる最大射程付近で撃破しているが、普通のパイロットならかわせると思うので、これは眉に唾を付けて見た方が良い話でもある。

 

 ドネツク東部アウディウカの陥落から一月が経過したが、撤退に前後してウクライナ軍の総司令官が交代し、新司令官となったシルスキーの采配で撤退したウクライナ軍は都市の近くに踏み止まり防戦を続けている。

 全般としてはロシア軍優勢と伝えられるが、大統領選が終わったことで、ロシアは各線線で物量に任せた同時攻撃を志向している。比較的平穏だったクビャンスク方向、バフムト、ザポリージャ以南、ヘルソンで攻撃を再開しており、ウクライナの劣勢は拭い難い。

 現在のクレムリンの関心は戦闘の進捗よりも最大の支援国アメリカにおける親ロシア派のトランプ元大統領が復活するか否かである。野党共和党に工作することでねじれ状態の議会でウクライナ支援法案採決阻止に成功し、トランプが復活して戦争は終われば、兵を損ねない上に、これまで払った40万人以上の犠牲も正当化できるのだからプーチンがサイバー工作に余念がないのも宜なるかなである。

 とはいうものの、ロシアは大国で大軍に確たる用兵なしというが、ここまで粗雑な戦略、お粗末なブレーン、成り行き任せの政治工作で勝ってしまって良いものかというのはある。ドンバスのロシア兵についてはロクな訓練もされず突撃して死ぬだけである。

 彼らの頭脳については、CNN制作の「ナワリヌイ」を見たが、ナワリヌイ暗殺を指図するプーチンとその取り巻きのパスワードは「モスクワ4」、最初は「モスクワ1」だったが、ベリングキャットに見破られ番号だけ変えていったもののようである。もちろん破られたが、痛快な話は番組を見てもらいたい。


副題は「プーチンが最も恐れた男」だが、「プーチンと愉快な仲間たち」の方がシックリ来る映画「ナワリヌイ」

 トランプにしても期待は大きいようだが、以前の政権にしても後まで思い通りになったものではなかった。プーチンはどうも資産家のモスクワでの乱交パーティーの映像、それ自体スキャンダルを切り札として持っているというのが噂だが、前政権もトランプが大統領として自覚を深めるにつれ、工作も通用しなくなったというのが本当である。

 最高司令部に緻密さが欠けること、将軍らが主体的に判断せず、いちいちモスクワに指図を仰いでいることは今でも明らかなロシア軍の弱点である。例えばアウディウカはウクライナ軍を下した後、間髪入れず追撃戦を仕掛けるべきであった。それにキエフやハリコフにおける電力インフラへのミサイル攻撃、火力発電所は破壊されたが、なぜ(電力需要の低い)今なのだろうか? とっくの昔にやっておくべき攻撃ではなかったか。

 日本でこの戦争の論説を読む場合、論者が前提としている情報が数ヶ月前であったり先日だったりするので、状況を読むのは少し熟慮を要する。今の彼らの話題は昨年から投入されたロシア滑空爆弾のようである。私に言わせれば、これはそんなに大した脅威ではない。むしろ、ロシア軍敗戦のチャンスにすらなりうる。

 この爆弾は戦後やベトナム戦争の時代に作られた古いもので、それ自体は旧式兵器だがなにぶん火薬量が1.5トンと並の巡航ミサイル、弾道ミサイルの3倍以上あり、堡塁やコンクリート建物には絶大な威力を有する。

※ 見た目の破壊力は巡航ミサイルや弾道ミサイルも大きいが、これらは不発の場合でも燃え残りのジェット燃料、運動エネルギーの大きさがあり、実質的な威力はほぼ同等といえる。が、堅固建物の破壊には炸薬量の多さは有利に働く。

 試しにシミュレータを用い、私の大嫌いな東京大学の安田講堂(嫌いなのは講堂のデザインで大学ではない)で爆発させてみたが、爆発でもちろん講堂は全壊し、中にいる人間も全員爆死するが(たぶん遺体も残らない)、余波は隣接する工学部と医学部に及び、こちらもビル半壊の被害を受けることになる。

 もう少し分かりやすい建物、イオンモール川口の場合は三分の一が吹き飛び、おそらく全壊扱いになるだろう。人的被害はたぶんこちらの方が多いかも知れない。北海道大学でもやってみようと思ったが、人文科学棟のつまらない建物など吹き飛ばしても面白くないのでやめにした。

 それはすごいだろうと上の例を見て思う人もいるかもしれないが、実は撃ち放し巡航ミサイルや弾道ミサイルと違い、この爆弾を投射するには発射母機に一定の運動を強いることがある。ロシア軍では最近射程が伸びたと喜んでいるようだが、古い爆弾に翼と誘導装置を付けた爆弾の射程を伸ばすには、攻撃機は戦線近く(20~30キロほど)をかなりの高度まで上昇しなければならないことがある。動力装置のない爆弾の射角はごく狭い。また、爆弾に異なるベクトルを与えないため、攻撃機は投射までブレのない等速直線運動を強いられる。これらは物理法則なのでプーチンの都合やDavidAxeのご都合主義では変えられない。

※ あと、投射速度がある。遅すぎれば爆弾はウクライナ軍に撃ち落されるし、速すぎれば母機に危険が及ぶ。従って、爆弾の射程により等速直進運動する母機の運動傾向には一定の値がある。

※ 30キロだった爆弾の射程を60キロに伸ばすには、弾道は放物線なので、攻撃機は投射の際には一定の角度で上昇するコースを取っていると思う。もちろん敵に腹を見せており、これは対空ミサイルなど身に迫る危険には全く気づかない。

 これはもちろん対空ミサイルの格好の餌食になる。特にパトリオットミサイルで、いくらこのミサイルが高価といってもロシアの攻撃機よりは数も多いし安いし量産も効くので、こんな戦術が通用するのは今のうちと私が言う理由である。ウクライナ軍がそれをしないのは最初に被弾したことでアメリカ議会にミサイルの使用を止められているからである。使用ができた一月前は毎日2~3機の割合で攻撃機を撃ち落としていた。

※ 同様の理由でHIMARSも今は前線から下げられている。ミサイル搭載車をロシア軍に見つけられ、ミサイル攻撃で各々一両づつ失ったためである。これは米国議会で問題視されている。なお、パトリオット搭載車両が破壊されたのは半年前のロシア軍によるキエフミサイル攻撃以来である。この時は数十発のミサイルを囮として用い、ようやく搭載車一両を破壊した。

※ パトリオットは分散型のシステムで、ミサイル搭載車の破壊だけではシステムの破壊に繋がらず、代わりの車両を持ってきて戦闘を継続することができる。


 アメリカ議会の議員、日本などもこれに含まれるが、に、せめて中学物理程度の科学の初歩知識があればと思うところである。Su-35やSu-37などのロシア攻撃機を撃ち落とすことはそれだけロシアの国力低下に繋がり、1個中隊の撃破はロシア兵士数万人に匹敵する損害をロシアに与える。ロシアという国に対するに、こんなに効率の良い破壊手段はない。

※ ロシアのこの種攻撃機の量産能力は年産20機程度である。以前のプロペラ機と比べるとジェット戦闘爆撃機の生産は格段に手間が掛かり、機材も高価なことはどの国も同じである。

 爆弾の話になってしまったが、ウクライナ軍は戦術で何とか持ち堪えているものの、限界点も近づいている感じである。ロシアも同様であるが、参謀本部によるここ一月のロシア軍の損害は月3万人と反転攻勢以降最大規模のものになっている。

 

※ 参考までに言うと、6月~10月の南部ザポリージャ戦線における反転攻勢では月2万人、10~3月のアウディウカ作戦では月2.5万人である。

 

 筆者のブログでビッグモーター関連の参照がこのところ多いが、私としては概ね想像通りのこの会社の顛末には興味はない。だいいち引き受けた伊藤忠も記者会見もなく、会社(ビッグ社)の弁護もしないのだから、この程度の公式発表では論評に値しない。おそらく会社分割につき重要な部分がまだ決まっていないのだろう。

 ウクライナについては、アウディウカの失陥から二十日が過ぎ、情勢はいくらか落ち着いたようである。Forbes誌のコメントによれば、ちょうどシルスキーが撤退命令を発した時点で、都市の北西でロシア軍が攻勢限界に達したことをISWが予測したということだが、この機関の予測はいつも後出しだし、そんなバカな攻勢限界があるかということになる。おそらくロシア軍は当初から都市の外縁までの攻撃しか計画していなかったのだろう。

※ そもそもこの作戦はショイグらが敗北した場合のことも十二分に考え、公式には「防衛作戦」と説明されていた。現状維持が勝利で、拡大はいわば余録である。

 何でそう思うのかといえば、去年の6月以降、こちらもウクライナ参謀本部の戦果報告を整理していたことがある。アウディウカの戦いは去年の10月に始まったが、同時期のウクライナ軍のクリンキ上陸もあり、10月以降の損害はそれ以前の2倍になっている。特に人員の損失が著しく、戦車・装甲車の損失も激増し、今年に入ってからは飛行機も良く落ちた。

※ この半年間ウクライナ軍の脅威だった滑空爆弾も弱点が見抜かれたことがある。この兵器を効果的に投射するには一度上昇して一定の速度とコースを誘導弾を投射するまで維持する必要がある。そこを極超音速ミサイル(PAC3・マッハ5)で射落とせば爆撃コースに入った戦闘爆撃機はなすすべもなく爆散することになる。


 が、後半に比べればまだ緩慢な戦いである前半の方が損失数が多い兵種がある。それは長射程ロケット砲(MLRS)、地対空ミサイル(SAM)、そして戦闘ヘリ(Ka-52、Mi-24、Mi-8など)だが、ヘリはともかくMLRSとSAMはより激しい戦いでの損傷が少なかったことを見れば、どうもロシア軍はこれらの兵器を前半でほぼ使い切ったらしいことが分かる。

※ どちらも通常の榴弾砲の射程外に配されていたはずなので、これらの損失が多いことはウクライナ軍が反転攻勢で空陸一体攻撃を行ったということである。制空権がなく、ドローンの観測機能だけで水平線の彼方の目標を正確に攻撃できるのかについては別の説明が必要だろう。

※ 欧米から供与されたハイテク兵器を現場がつまらない目標に浪費しているというザルジニーの苦言も去年にはあったので、そのことかもしれない。

 

※ とはいうものの陣地変換の急激さでウクライナ軍は数百名の負傷兵を置き去りにした上、M1戦車1両とHIMARS2基、そしてミグ機1機を失っている。


 砲兵隊は前半も後半も等しく損失を受けているが、損失率は後半の方がやや低く、これはロシア砲兵が有能だからというより、使えるような大砲が前半で激減し、後半はほぼジリ貧だったと見る方がそれらしい。

 現在のロシア軍は長距離攻撃能力と防空能力に問題を抱えており、それは夏季の反転攻勢で有用な兵器の多くを失ったことが原因である。追撃などできるはずはなかったのである。都市を退いたウクライナ軍が兵力に劣るにも関わらず、素早く郊外で半包囲の陣形を敷いたのも、ロシア軍のこの弱点をシルスキーが良く見抜いていたことによる。航空機やロケットの支援の乏しい人海戦術だけの部隊なら装備を駆使すれば薄い包囲でも対処できる。

※ 兵員の数を投入するだけで戦闘に勝てるのなら、ロシア軍はマスケット銃で武装するか、長槍を持たせた重装歩兵にして突撃させれば良いだけである。

 曲がりなりにも一度敗走した部隊を散開させて戦闘陣形で迎え撃つというのは、それで勝てるかどうかは自信の持てないものだし、普通は考えないと思われる。それが可能と判断するのは指揮官自身の戦機を見るセンスで、シルスキーは自身の経験と勘から対抗戦術を発動したが、ハリコフの戦いと並び、ロシアのショイグ国防相のコメントとは別の意味で戦術の教科書に載るような戦いだと思う。

※ 現在の両軍では旧ソ連の戦術ドクトリンに最も通暁しているのがシルスキーということもあるかもしれない。彼に比べればロシア軍で東部、西部管区軍を預かるクレメンコやニキフォロフなど若年将官が経験で劣ることは否めず、ウクライナ軍が完全に潰走しなかったのは将官の能力の差が決定的だろう。

 どうも目論見は成功したようで、先月から進出したロシア部隊はウクライナ軍が即席で作った縦深陣に引き込まれては叩かれ、さらにはシルスキーがウクライナ中から掻き集めたドローンを雲霞のように放ち、勝ったにも関わらず散々な目に遭わされている。155ミリ砲弾が届くまで待たなくても、生身の兵隊相手ならラジコン機で十分なのである。戦場も数キロ四方の都市部から10倍に膨らんだので、SAMがカバーできない空域にはミグまで飛んでくる始末である。

 一連の戦いの後、ゼレンスキーは前線の後方に長さ二千キロに及ぶ要塞線の構築を終えたと発表したが、三重の防御陣を持つとされるそれはロシアのスロビキン線のコピーである。ザポリージャに建設された一連の要塞群はトクマクを司令部にウクライナ軍の浸透を良く防いだが、最大の特徴はこれが長大な線(80キロ)を驚くべき寡兵で防御し得たことだった。

 この要塞に機動力を加え、ロシア軍に徐々に出血を強いるというのが今後の戦いの方針になると思うが、とりあえず現在までの様子だと、アウディウカの戦いは潮目がまた変わったことで、いつ終わったのかも分からないようなものになりそうだ。