アメリカで支援予算の成立が決まり、ここ数日はウクライナの様子を注意深く見ていた。これまでの傾向から欧米からの砲弾や対空ミサイルが前線に届くのは概ね1~2日、2年間の戦いでウクライナ軍のロジスティクスは飛躍的な改善を遂げており、兵器それ自体はポーランド国境やラムシュタインの飛行場に集積されていたと思うので、遅くても数日内には攻撃力の改善が見られるだろうと思っていたが、関心があったのはここ数日間、ロシアの兵器で何がいちばんやられたかである。


支援再開と同時に封鎖していた国境を空けたポーランド農民、東欧で何がいちばん恐れられているか分かる一コマである。

 ウクライナ軍はノヴォミハイリフカを含むアウディウカ戦線で後退を始めたが、これは採決が行われるまでに決まっていた方針と思われる。今回の予算が成立しなければウクライナは戦線を縮小し、領土を割譲して停戦交渉をしたものと思われる。ウクライナ軍の攻撃力はこの1ヶ月で30%低下しており、これ以上の戦闘継続は不可能になりつつあった。後退は規定の方針だったと思われる。

 砲弾やミサイルの補給が再開された後の傾向を見ると、陣地の放棄は規定の方針だったが、ウクライナの反撃でロシア軍は兵員輸送車両の損害が格段に増加したことに気づく。これはいわゆるトラックやタンクローリーなどで、装甲はなく、本来の用途は前線の近くまで兵員や燃料物資を運ぶための車両である。戦うことは前提としていない。

 長射程兵器についてはまだ充足していないようなので、これは迫撃砲やドローン、戦車といった比較的短射程の兵器による戦果で、こういった傾向だとロシア軍は本来なら前線の後方に下げておけなければいけない車両を攻撃に参加させていることになる。ロシアの優勢といっても実情はこんなもので、おそらく航空機のほか、戦車・装甲車の生産の立ち上がりも遅れているのだろう。これまでの撃破数からすると、長期保管の旧式車両は底を突いているはずである。知らない間にロシア軍は第一次大戦時代の残忍な軍隊に先祖返りしたようだ。

 

 なお、ミサイルの補充が届いたことで防空も幾分改善している。ミサイルの不足が顕在化したことで、ここ一月間の民間人の被害は前月比20%増となり、発電所など重要施設も被害を受けた。

 ドローンについては実情はやや掴みにくい。どうも中国が肩入れしているようで、これまではウクライナが優位を保っていたドローンは中国、イラン、北朝鮮の支援を受けたロシアが優勢となっている。電子戦能力でも優位に立っているという報告もあるが、その割にはロシア軍はウクライナ軍のどの戦線も突破できていないことがあり、専らドローンが主兵器のクリンキ要塞も落ちないことがある。ウクライナ軍は別方向のヘルソン河畔ネストリハ砂州に進出し、微妙な戦況にも関わらず、この地域に関心があることを示している。

 エコノミチア・プラウダ誌の報告では、一昨年に侵略が始まって以降、外資系企業の多くはロシアから撤退したが、一部の企業は居残り、侵攻前よりも利益を上げている。ペプシ、ネスレといったおなじみの企業の他に日本たばこ産業株式会社(JT)の名前があり、昨年の売上は76億8,300万ドル(侵攻前の137%)と数ある残留ロシア企業の中でも群を抜いて高い収益(ペプシは47億ドル)を誇っている。

 建設作業機会社のコマツも3億7,800万ドルとアップルの7倍の収益を上げており、こういうのを見ると日本人として情けなさを感じると同時に、この戦争がプーチン一人の妄想によって引き起こされたものではなく、行き詰まったグローバリゼーションのなれの果て、自由主義が腐食した結果として起こったものなのだと改めて感じることとなる。