“History will judge us by our actions here today,” he continued. “As we deliberate on this vote, you have to ask yourself this question: ‘Am I Chamberlain or Churchill?’”
----Representative Michael McCaul, Republican of Texas

 ウクライナ支援予算案におけるマッコール議員(テキサス)の演説の一部であるが、採決と同時に凍結されているロシア資産の転用も決まったとはいえ、これで戦争に勝てるのか、あるいは戦争を続けることができるのかについては今後を見なければならない。

 防戦できるのかについては、ここ4ヶ月でもアウディウカ・マリンカの防衛拠点の放棄、優勢に進めていたバフムト戦線での退却、キエフほか諸都市のミサイル攻撃による被爆があり、ハリコフなどは危機的な状況で、ウクライナでは徴兵年齢を下げて対応しているが、元々の国力差もあり、これまでの10万人近い損失を埋め合わせることは困難が伴う。

 ほとんどニュースになっていないが、TIME誌の世界を動かす100人に宮崎駿に加え、ほとんど無名のウクライナ大統領府長官イェルマークが選ばれたことは、政権内では米国による一定のシグナルと見做されている(前年はゼレンスキーだった)。米国の態度が冷淡になるにつれ、ゼレンスキーは国防大臣のレズニコフのほか、多くの閣僚級、次官級ポストの人物を解任したが、多くは欧米通の人物で、これは米国に対するシグナルと思われる。これでイェルマークまでいなくなれば政権内に米国とのパイプはほぼなくなったことがある。
 

 米国の支援については、最近インタビューに応じたアゾフ大隊の司令官がかなり細かい注文のあるもので、ロシア・米国双方で「極右」と見做されているアゾフ大隊への支援は事実上禁止されていたと証言している。この兵団は開戦後にウクライナ軍の指揮下に入り正規軍となっているが、それでも用いているのは旧ソ連製で、リーダーが招待されるなどウクライナ一般で指導部が受けていた扱いには「一切縁がなかった」としており、そもそも現在の規模は旅団以上で「大隊」ではない、と、ロシア・米国双方の当局者に苦言を呈している。
 

 もっともこのインタビューはつい先日の戦いで右派セクターの代表的な兵団、バフムト防衛の第67機械化旅団がかなりひどい負け方をし、極右の司令官も副司令官も戦死したことがあるかもしれない。ウクライナ軍はロシアとの紛争が長期に渡っていたこともあり、正規軍以外に各地に対ロシアの地場兵団がおり、アゾフ大隊(第12突撃旅団・マリウポリで壊滅)などはその代表だが、67旅団の敗北はシルスキーの性格からしてたぶん切り捨てられたのだろうと思われる。司令官戦死後、シルスキーはこの部隊を前線から下げ、大規模な内部査察を行って右派軍団は事実上解体の方向に向かっている。なのでアゾフ司令官の苦境には同情するが、ウクライナ戦争全体から見ればノイズの一つといえるかもしれない。

 

※軍隊の編制単位・・・起源は古代ローマの重装歩兵で、3個が基本単位である。小隊(10~50人程度)が3つ集まれば中隊(100人)、中隊3個で大隊(300人)、大隊3個で連隊(1,000人)となり、連隊3個が旅団、旅団3個が師団というのが大まかなところである。ただ、編成や人数等、時代ごと国ごとの違いが大きいため、およその目安程度である。例えば戦時編成の場合、フル編成3個に加え人数も3倍程度に増やされることがある。ウクライナ軍はNATO式の編成を採用しているため、全体の規模はロシア軍に劣るが、個々の軍団の規模は勝っているケースが多いように思う。

 

 ほか、巡航ミサイルでキエフ攻撃の帰途にあったTu-22Mバックファイア爆撃機が撃墜されたが、アゾフ海東岸のこの地区はと見れば毎度毎度同じパターンで、早期警戒管制機メインステイを4機(うち2機は地上破壊)も含め、本来なら撃墜されないはずの大型航空機を立て続けに失っていることについては、ロシア軍の戦略の歪みがこの地区で顕出していると見ることもできる。

 

 何でこの場所かといえば、地形上、アゾフ海上空は早期警戒機ではバフムトとヘルソンの両戦場を1機でカバーできる唯一の空域であり、爆撃機に取ってはオデッサ・キエフを同時に狙えるミサイル発射場として好適だからである。だからこれらの機体は危険なほどにウクライナ領土に接近し、旧式ミサイルの餌食になっているが、これも十分な機数があったなら防げるはずのものである。いや、機数はあるのだが出し惜しみ、変な吝嗇さで乗務員に無理を強いている所がいかにもロシアらしい。

 

※メインステイ、バックファイア撃墜・・・一応公式発表ではどの事例も旧ソ連製の改造S200ミサイルによるものとされている。このS200というミサイル、開戦当初は使い道がなかったためにウロ双方とも対地攻撃に用いていたが、対空ミサイルにあるまじきこととして爆薬量(200kg)だけはやたらと多く、これはパトリオットの3倍、ホークの5倍にもなり、平均的な空対空ミサイルと比べても10倍以上の爆薬を仕込んである。が、物理の当然として、爆薬量を10倍仕込んでも被爆範囲まで10倍になるわけではなく(せいぜい2倍強)、大きくて動きが鈍く扱いにくいこのミサイルが対空戦闘にことさら有利なわけでもない。なぜかウクライナ軍技術者の手で性能向上し、本来ならかわされるはずの大型機やSu-35をバンバン撃ち落としており、バックファイアに至っては燃料が切れて運動性がなくなる最大射程付近で撃破しているが、普通のパイロットならかわせると思うので、これは眉に唾を付けて見た方が良い話でもある。