先にAIを使った語学講座の話をしたけれども、外国語の勉強自体はもっと前からしており、労力の割に遅々として進まない現状に少々苛立ってもいた(現在は解決されている)。実用というよりは教養として身につけているもので、英語(あまり不自由ない)のほか、周縁を広げるという意味でいくつか取っているのだけど、ペースメーカーとして一昨年からNHKの語学番組も視聴している。

 昨年10月から始まった「しあわせ気分の~語」シリーズは軟派なタイトルとは異なり、内容は以前の「旅する~語」よりハードになっており、「旅する」の方は外国人が出演する日本語で視聴しても問題ない紀行番組の趣きだったが、それでは学習効果が上がらないと思ったのだろうか、「しあわせ」の方はほとんどネイティブが喋りまくる番組で、当初は字幕すらなかったが、ハードすぎるということで最近は付いているようだ。前番組との落差に最初は相当面食らった。

 毎回きちんと視聴できているというわけではないが、視聴の目的は語学というより諸国情報の収集で、どの番組もテーマを決めており、それなりに視聴者の立場に立って特集していることから旅番組としても質の高いものになっている。何より、芸人のつまらん駄洒落に時間を取られないのが良い。番組は20分だが、この旅番組より放送時間が長く中身の薄い民放の番組は数多あることがある。

 「良質なオリーブオイルの定義とは」など、案外知ってそうで知らない内容もあるが、やっぱり我が国の少子高齢化を憂いているのか、高齢化先進国である欧州の集住形態を取り上げているのが興味をそそられるところである。

※ 良質なオリーブオイルとは

 そもそも日本人は常用しないので案外分かりにくい。

1.若い(青い)果実を使うこと

2.搾油から瓶詰めまで低温で処理すること

3.色が緑色で香りが良いこと

 要するに摘んだオリーブの実をその場で搾油して瓶詰めするわけで、オリーブオイルの品質の基準は酸価であるが、摘果後すぐに加工するこの方法なら酸価が高いはずはなく、新鮮で香りの良いオイルが得られることになる。これがエキストラバージン(一番搾り)で、搾りカスは更に絞って搾油することの方が多いが、番組の工場ではバイオ燃料や発酵させて肥料として再利用していた。良質なオリーブオイルは料理の決め手として番組でも度々登場する。ただし、日本人には品質の違いがわからないオイルなので、番組を見てマネをしても美味しい料理になるとは限らないし、高いからといって良質とも限らない。


 我が国でも「グループホーム」などあるが、運営が官僚的で紋切り型の補助金頼みの事業で、画面に映っているような和気藹々とした雰囲気はまるで見られない。自ら運営に参画する所に特色があり、例えばバカンスで帰省時の家賃はどうするかとか話し合いで決めているところも良い。また、グループホームは年齢制限があるが、イタリアでは若者も入り混じった集住形態がある。

 ありていに言うと、孤立した生活にはいろいろ問題がある。譲るべきは譲り、共通の利益のためにこういう生活方法を取ることにメリットがあること、そのことに関する合意が社会全般にできているからこそ可能なのだろう。若者の場合は人格の発展のため、高齢者は生活の負担や末期の心配をなくすため、揉め事を解決するケアワーカーもあり、集団生活において生じる様々な問題について良く考えられた跡がある。

 4つの番組の中ではドイツのWG(ウォーヌングゲゼルシャフト)の紹介頻度が最も多いが、大学の寮に似たこれ、私が経験したのと比べると設えなどはほぼ同程度だが、学生の自意識の高さに驚かされる。共益費の負担や炊事洗濯など日常家事の負担は平等であることが望ましいが、こと私が経験した国立大学の某寮ではこれが難事であった。そもそも見当外れの文部省の方針で「寮は個室」というドグマが支配的で、構造も標準規格品はその式であったことも意思疎通の障害になった。

 問題になるのは、仕組みを平等に合理化すればするほど、環境を良くすればするほど、それに便乗する「フリーライダー」が必ずいるということである。集住のメリットは享受しながら負担を履行しようとしない、非常に困ったことである。

 彼らを野放しにしていると居住空間はたちどころにゴミ屋敷になってしまい、それが嫌な人も少なからずいるので、そういう人は自発的に掃除をしたり供託金を割増で負担したりするが、それがさらに便乗を助長することがある。話をしてみても、そもそも環境を維持する必要性のレベルからして理解を拒絶することがあり、噛み合わないことがある。ドイツの学生とはえらい違いである。たぶん彼らなら、そういった問題者は投票で追放処分にするだろう。実際、私もやりたかったのが何人もいる。

 まあ、一言で言うと、資本主義の工業化社会で規格化された会社に勤めている親から生まれた子供は自発性や協調性が必要な局面では、からきし無能ということである。盗癖もかなり目撃し、実のところ私の所もかなり盗まれた。しかし、供託金をきちんと管理し、適正に運用していたなら生活物資は確保されるはずなので、月末に米やトイレットペーパーに困って他所に盗みに入るというのは財産管理能力の無能の証明である。当時の私はそう見たし、今でも間違っているとは思わない。あと、共用部のマンガの被害も多かった。私の所にいたフリーライダーの一人が金に困ってブックオフで換金したからだ。

 こういった問題は場所や年齢、国を問わず集団生活ではありがちだと思うし、合理的な対処法というのも実はあるのだろう。少なくとも番組を見る限りでは、こういう生活に私が感じる問題点は解決済みのように見えた。民度も違うように見え、互いの人格を尊重しつつ、共同の利益のために互譲し協調するというのは、彼らには彼らの問題があるはずだが、少なくとも私が経験したものよりは進歩した人類のそれに見えたことはある。

 世紀も変わったのだし、都市の孤立や犯罪傾向、高齢化の問題は以前からあったものである。宗教は解決の一つになりうるが、ここはやはりもう少し知恵を絞りたいものである。


(補記)
 元長野県知事の村井仁氏は田中康夫に対抗して立候補する前はグループホームの事業を考えており、それを措いて知事選に出馬した。当選し一期勤めたが、高齢化社会に目を付け、いち早く行動を起こしていたことは慧眼と言うべきで、彼のその後は消息がないが、こと松本界隈では誰もが一目置く人物であったことは本当である。生きていれば90歳近い年齢なので、彼の企図がどんなものであったのかは今は知るすべがないが、識見は優れたいたことから、今の社会がどうあるべきかにつき、もう少し話を聞きたかった人物ではある。