『トラック野郎 一番星北へ帰る』を観ました。
福島県から帰ってきた桃次郎は食あたりで寝込んでしまう。独り身を案じる松下夫妻は、桃次郎にお見合いの話を持ち込む。
が、桃次郎が一目惚れしたのは、見合い相手の付き添いに来ていた静代。静代は夫と死別した未亡人で、息子の誠と暮らしていた。初めは険悪だった誠との関係も徐々に和らぎ、桃次郎は誠と、そして静代とも親密になって行く。
一方、桃次郎は赤沢という警察官に執拗に狙われる。赤沢は二代目花巻の鬼代官とまで呼ばれる、かつての金造の後輩だった。
年明け早々、2時間で小さな村に荷を運ぶ仕事を請けた桃次郎。一番星で爆走する桃次郎を発見、追跡する赤沢だったが、桃次郎が運んでいるのは入院している妻の処置に使う医療機器である事を知り……といったお話。
基本的にトラック野郎シリーズはいくつかのエピソードが集まった、お話としての縦筋は短く、横道が多くて長いという構成を採っています。
これまでの前7作分の横道の部分で、ちょいちょい語られてきた桃次郎の出自が僅かに明確になるのが一つの見どころです。幼少時、自分が住んでいた土地がダム建設に伴い水の底に沈んでしまったというヤツですね。
回が変われば前回の出来事を忘れるのが昭和シリーズの悪癖であり、トラック野郎シリーズも例外ではありませんが、今作=第8作にしてこの設定は不動だった事に気付きます。
そして、それが桃さんの台詞だけでしか明らかにされないのが粋です。回想シーンなんてダッセー真似をせず、桃さん=菅原文太さんの独り語りだけで十分に説得力を感じます。
ついでに言えば、昨今流行りの”エピソード・ゼロ”商法よろしく、桃さんがトラック野郎になるまでの生い立ちをわざわざ描いていないのもいいですね。映画は、観客に想像の余地を与えるくらいの曖昧さがある方が見終えた後の余韻を感じるものですし。
そんな桃さんの過去バナをハッキリさせただけでなく、主題歌『一番星ブルース』がなかったりマドンナに一目惚れする瞬間の星が出なかったりと、いつものお約束がないあたりに違和感を抱きます。
長寿シリーズには一つくらいの異色回があるものですが、トラック野郎シリーズで言うところのそれは今作でしょう。
そして異色回とは賛否両論があるものですが、個人的には全10作中8作目というタイミングが絶妙だったと思います。
本作の隠しテーマは、“母と子”じゃないかと。
桃さんが一目惚れする静代は夫と死別したバツイチ子持ちという、シリーズ中でも異色のマドンナです。桃さんにも少なからずの好意を抱いているだろうけど、”女”である事よりも”母”である事を優先しているからこそ、桃さんの好意を安易に受け入れられないんですよね。
母と子と言えば、桃さんが母親への思いを吐露するシーンもいいですね。
父に死なれ、自分と妹(サラッと初出し情報)を女手一つで育ててくれた母が、たまにコップ酒を飲んでいるのが男みたいで嫌だなと感じていた桃次郎少年も大きくなり、酒を飲んでいた理由を理解できるようになったのがしみじみさせます。まるで演歌のシチュエーションじゃないですか(笑)。
静代に反発する誠がパチンコ(Y字型でゴムを引っ張って飛ばすヤツね)を向けるシーンはハッとさせられる、本作の白眉です。ひと昔前のアニメにありがちじゃないですか、「親に銃を向けるのか!」みたいな(笑)。
そんな誠を、小学生相手でも容赦なく顔を張ってまで叱りつける桃さんもカッコ良いんですよ。子供であっても、誠を男と捉えて真摯に向き合っている証左です。
何においても暴力は生粋の悪であると思い込んでいる、当人らの真意も分からない他人が騒がしい昨今には、こういうシーンの良さは伝わらないんだろうね。
過去バナが明確化したのは桃さんだけでなく、ジョナサンも同様です。
ジョナサンは警察に勤めていた頃、”花巻の鬼代官”と呼ばれていたようですが、今作では当時の後輩だったという赤沢が登場します。演じているのが田中邦衛さんという事で、シリーズ第2作『~爆走一番星』でのワッパライバル=ボルサリーノ2を思い出す人も多いかな? ジョナサンの逆パターンでトラック野郎から警察官になったのか、みたいな(笑)。
余談ながら、花巻の鬼代官とは、トラック等が乗っかるくらいのデカい秤で重量を測る”台貫”という用語と掛けているんですよね。これは絶妙なネーミング。
もはや目の仇のごとくトラック運転手に厳しい赤沢ですが、ジョナサンが警察に勤めていた時代はこんな感じだったんだろうなと。
そんな赤沢が、妻の命と法の遵守の間で葛藤する様も見どころです。道路交通法を破りまくって爆走する桃次郎を捕まえれば、自分の妻のために運んでいる医療機器の到着が遅れてしまう。それでも……みたいなね。
オチがチト弱かったようにも思うけど、そこに行き着くまでの赤沢の苦悩はよく出ていたように思えます。邦衛さんはこういう役もハマるんだよなぁ。
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Blu-ray版の映像特典は、いつも通りの予告編のみです。
もう少し発売が早ければ、出演者や監督を交えてのオーディオコメンタリーがあっても良かったよなぁ。まぁ東映ビデオに過度な期待は禁物なので…。
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