「彼は押しも押されぬ大スターだ」
この文に違和感を覚えるでしょうか?
実はこの「押しも押されぬ」という言葉は誤りです。
正しい表現が分かるでしょうか?
正解は、
「押しも押されもせぬ」または「押すに押されぬ」です。
ぱっと見ると「どこがちがうの?」と思わず見返してしまいそうですね。
「押しも押されもせぬ」「押すに押されぬ」は、どちらも「疑問を差し挟む余地のない、れっきとした」という意味を表します。
おそらく「押しも押されぬ」という言葉を使っている人は、これと同じ意味で用いているはずです。
では、なぜこのような間違いが広まっているのでしょうか。
まずは正しい言葉と誤用を改めて整理しておきましょう。
正しい表現
「押しも押されもせぬ」
「押すに押されぬ」
間違った表現
「押しも押されぬ」
正しい表現を見ると、「押すことも押されることもない」または「押そうにも押すことができない」という意味で「押す」という言葉を使っていることが分かります。
これに対して、誤用のほうは「押すことも」「押すことができない」という意味になり、言葉のつながりがおかしくなっています。
「〜も〜も」は必ずセットで使われるので、「押しも押されぬ」とは言わず「押しも押されもせぬ」が正しい、と覚えておくといいでしょう。
このように、類似する表現が混同されて誤用が広まってしまう例は他にもあります。
たとえば「上を下への大騒ぎ」という表現は、よく「上や下へ」「上へ下へ」などと間違えられます。
本来は「上のものを下にし、下のものを上にする」という混乱した状態を表す言葉ですので、「上や下」と例を挙げているわけでもなければ、「上へ」「下へ」と進む方向を表しているわけでもないのです。
ただ、日常生活では「上の階へ向かう」などの使い方をすることはよくあるので、思わず「上へ下へ」などと言ってしまいそうですよね。
言葉は「語感」や「リズム」によって記憶され、本来の意味が曖昧なまま使われていることがあります。
「押しも押されぬ」もまた、「〜も〜ぬ」というリズムによって何となく記憶していると、思わず間違えて使ってしまいそうな言葉の1つといえそうです。