次の例文を見てください。
「彼女は憮然とした面持ちで部屋を出て行った」
このとき「彼女」はどのような心境だったと思いますか?
1.腹を立てて話したくもないという心境
2.失望してぼんやりしてしまうような心境
おそらく、多くの人は「1」と解釈するのではないでしょうか。
「憮然」の本来の意味は「失望・落胆してどうすることもできない様子」「驚きあきれている様子」です。
「腹を立てる」という意味は含まれていないのですね。
したがって、先ほどの例文では「彼女」の心境は「2」だったといえます。
このブログでよく取り上げている、文化庁による「国語に関する世論調査」では興味深い結果が出ています。
先に挙げた「1」(=本来は誤り)と「2」(=本来の意味)に分けた場合、調査年度ごとの推移は次のようになっています。
平成15年度 「1」69.4% 「2」16.1%
平成19年度 「1」70.8% 「2」17.1%
平成30年度 「1」56.7% 「2」28.1%
平成15年から平成19年では誤用が微増しているのに対して、平成19年から平成30年では誤用は減少に転じているのです。
なぜこのような現象が起きたのでしょうか。
あくまで個人的な推測ですが、平成19年から平成30年の約10年間で起きた大きな変化の1つにスマートフォンの普及が挙げられます。
このブログのように言葉の誤用について話題にするメディア記事を多くの人が目にするようになり、間違えやすい言葉やよくある誤用について知る機会が増えているのかもしれません。
言葉の意味は時代とともに変化していき、誤用がいつしか広く使われるようになる、といったことはよくありそうですが、「憮然」のように本来の意味を知る人が増えるケースもあるのですね。
なお、最近の辞書では「憮然」の意味として「不機嫌なさま」「不興なさま」を挙げる辞書も出てきています。
いずれは「憮然」も両方の意味で使われるようになるのかもしれませんね。