企業が優秀な学生を他社よりも早く確保するために、採用活動の開始前に内定を出すことを、何と言いますか?
「青田刈り」と表現したことのある人がいるのではないでしょうか。
実は「青田刈り」という言葉は本来なら間違いです。
なぜ間違いなのか、正しくはどう言えばいいのか、説明できますか?
正しくは「青田買い」と言います。
「青田」は、稲が実っていない緑色の水田のことです。
本来なら収穫時期が来てから稲を刈るわけですが、米を先買いするために水田ごと買い取ることを「青田買い」と言います。
稲が実る時期を学生の卒業になぞらえ、能力のある学生を早期に確保しておくことを「青田買い」と言うようになったのです。
では「青田刈り」とはどういう意味なのでしょうか。
「青田」を「刈る」わけですから、稲が実っていない未成熟の状態で刈り取ってしまうわけです。
これでは、米として収穫することはできなくなってしまいます。
刈り取ってしまったら役に立たなくなるにも関わらず、なぜ「青田刈り」という言葉があるのでしょうか。
これは、戦国時代の戦術に由来します。
戦国時代には、敵の兵糧を断ち食糧不足に陥らせる戦術がありました。
青田刈りもそうした作戦の1つで、稲が実っていない田を刈り取って潰してしまうことにより敵の戦意を喪失させ、戦力を弱めるのが目的だったのです。
せっかく優秀な学生を見つけても、能力が実を結ぶ前に刈り取って潰してしまっては意味がありません。
つまり「青田刈り」は本来なら間違った使い方です。
平成16年度に文化庁が実施した「国語に関する世論調査」では、「青田買い」を使う人は全体の44.1%、「青田刈り」を使う人が38.3%いたことが分かっています。
興味深いのは、10代・20代の人は4割以上が「青田買い」を使うのに対して、50代・60代以上の人は4割前後が「青田刈り」を使うと答えている点です。
40代では、「青田買い」「青田刈り」が33〜34%前後で拮抗しています。
当時の調査では、40代を境に若者のほうが本来の使い方をする人が多く、年齢が高くなると誤用が増えるという結果になったわけです。
「若者が使う日本語が乱れている」と言われることがありますが、そうとも言い切れないケースがあるのですね。
ちなみに「青田買い」と「青田刈り」は、現代ではどちらも同じ意味で使われることが増えています。
辞書によっては「青田刈り」の見出し語も掲載し、「青田買い」が転じた表現と解説しているものもあります。
どちらも使われているとはいえ、本来の意味としては「収穫するため」と「収穫できないようにするため」と真逆になってしまいます。
とくに文章を書くときには、正しいほうの「青田買い」を使うようにしましょう。