病気で高熱が出て苦しんでいる様子を「熱にうなされる」と表現しているのを耳にすることがあります。
この言葉は間違っているのですが、なぜ間違っているのか、正しくは何と言うのか、説明できるでしょうか?
正しい言い方は「熱に浮かされる」です。
高熱が出てうなされたり、物事に熱中して浮き足立っている様子を「熱に浮かされる」といいます。
「浮かれている」という言葉と同じ意味で使われることもあると考えると、「熱に浮かされる」が適切だと分かるはずです。
文化庁が平成18年度に実施した「国語に関する世論調査」では、「熱に浮かされる」を使う人が35.6%、「熱にうなされる」を使う人が48.3%と、本来なら誤用のほうを使う人のほうが多くなっているという結果が出ています。
「熱にうなされる」と見聞きしても違和感がないのは、無理もないことなのです。
では、なぜ「熱にうなされる」という表現が広く使われるようになったのでしょうか。
そもそも「熱に浮かされる」には「うなされる」という意味が含まれており、紛らわしいところがあります。
「浮かされる」「うなされる」は響きが似ているため、しだいに「浮かされる」が「うなされる」へと変化していったと考えられます。
「うなされる」は「魘される」と書きますが、漢字は見慣れない人が大半なのではないでしょうか。
字面を見慣れないのと同じように、実は「うなされる」という言葉はわりと特殊な部類に入ります。
「悪夢にうなされる」といった使い方をすることはありますが、これ以外に使う場面がほとんどないのです。
「熱(を出して寝ているときに悪夢)にうなされる」ことはあっても、発熱そのものに「うなされる」ことはないのです。
このように、用例が限られる言葉は使い方を覚えてしまうのもひとつの手です。
「夢・悪夢」に「うなされる」をセットで覚えてしまい、それ以外の使い方はしないと考えると間違いを防ぐ上で役立つでしょう。