文章を書くのが苦手な人がよく気にしているのが「語彙」です。
語彙とは、その人が知っている言葉の量やバリエーションのことを指します。
知らない言葉を使うことはできないので、文章を書く上で語彙が必須と考える人がとても多いのです。
では、語彙は文章を書く上で絶対に必要な能力なのでしょうか。
結論から言うと、私はそうは思いません。
もちろん、語彙が豊富なほうが「引き出し」を多く持っている状態なので、文章を書く上で負担感は少なくなるでしょう。
では、語彙が豊富な人は知っている言葉をすみずみまで使って文章に登場させているのでしょうか。
実際のところは、決してそうではありません。
語彙が多くないと文章が書けないと感じるのは、「難しい言葉が使われている文章は格調が高い」とか「難解な言葉を知っていると頭がよさそうに見える」といったイメージを持たれやすいからだと思います。
しかし、読者の立場から考えてみると、難しい言葉が多用された文章は単純に「読みにくい」「読んでいて疲れる」「鼻につく」といったネガティブな印象を持ちやすいのではないでしょうか。
語彙が多いほうが有利になることがあるとすれば、あることを伝えたいときに適切な言葉を見つけやすいという点に尽きるでしょう。
ただ、これは書きたいものが実用的な用途であれば、実はほとんど問題にならないことです。
なぜなら、実用的な文章で使われる語はかなり限られており、無理をして難しい言葉を使うとかえって文章が分かりにくくなることのほうが多いからです。
「10年ぶりの邂逅だった」と書くよりも、「10年ぶりに思いがけなく再会した」と書いたほうが、ずっと伝わりやすいはずです。
まして、インターネットで類語や類似表現を検索することもできますので、必ずしも頭の中に語彙をインプットしていないと文章が書けないわけではありません。
「文学作品を書いて賞を取りたい」のであれば、それなりに語彙が必要になるでしょう。
しかし、おそらくこのブログを読んでくださっている方々の多くは、もっと身近な、実用的な文章を書く力を向上させたいと考えているはずです。
語彙は多ければ有利なこともありますが、語彙が少ないと絶対に文章が書けないわけではありません。
もし自分の語彙に自信がないのであれば、自分と同じくらいの語彙の人に向けて文章を書けばいいのです。
そうすることで、かえって「読みやすい」「伝わりやすい」文章にすることができます。
語彙を増やすということは、なかなか短期間でできるものではありません。
語彙を増やそうと無理に本をたくさん読んだりするよりも、自分が持っている語彙の中で伝わりやすい文章の工夫を重ねていくほうが、ずっと文章の上達に役立つはずです。