人生をピンセットでつまむ -23ページ目

部屋

男はいつもセックスをしていた。

今日もまたそうだ。


私はいつもの様に男のアパートを訪れ、

鍵が開きっぱなしのドアノブを回す。

カチャリと乾いた音を立てドアは開き、

その向こうで繰り広げられている行為を感じることが出来た。

匂い、湿度、きしみ、喘ぎ・・・

開かれたドアの向こうから外へと流れる空気に乗り、

それらが私の頬をかすめ外界へと漏れ消えた。

靴を脱ぎ真っ直ぐ伸びた廊下を歩き、

男の寝室の反対にあるキッチンに入る。

私は冷蔵庫を開け麦茶を取り出し、

グラスに注ぎ一杯飲み干した。

昨日の深酒のせいか喉を通る麦茶が細胞の隅々まで染み渡り、

お陰で脳にスイッチが入った気がする。


パチン ON。


空になったグラスにもう一杯注ぎ、

ベルベットパンツのポケットからタバコを取り出し火をつけた。

シュボっと音をたてオレンジ色の火が揺らめき、

それにくわえたタバコを近づけ火をつける。

キッチンの椅子に座り虚空に煙を吐き出した。

ぐるぐると回転した煙はやがてゆらゆらと空を漂った後、

どこかへと吸い込まれる様に消えて行った。

一口麦茶を飲む。

向かいの部屋から熱を帯びた性交を感じる。

そんな部屋の扉を椅子に座り眺めながら、

タバコをくゆらせる。

携帯が鳴った。

ポケットから取り出しやや神経質に耳と口に寄せる。

用件は数分で済む。

いつもそうだ。


私は立ち上がり残りの麦茶を飲み干し、

グラスをシンクの中に置き、男の部屋の前へと進んだ。

木製の扉を二つ叩き、扉に付いたすりガラス窓がガタガタと揺れる。

「おい、時間だ」

そう扉の向こうへ告げた。

男が裸で扉を開け分かったよと言った諦めの表情で出てくる。
その裸は均整のとれた姿態だ。

やがて男はボロボロのジーンズに、

よく着込まれたブルーのダブルのライダースに着替え現れた。

「じゃあ行くか」

男がそう言い、私が乗ってきた白のワンダーシビックに二人乗り込み、

目的の場所へと向かった。

その向かう車中言葉を交わさなかった。

これもいつもの事だ。

私達はお互いの事に興味は持たず聞く事もない。

沈黙の車中にはFM NACK5が流れ、

パーソナリティーが最近起こった面白エピソードらしき話を語り、

それから曲を流す。

レディオヘッドの『パックト・ライク・サーディンズ・イン・ア・クラッシュト・ティン・ボックス』とパーソナリティーが告げる。

金属を叩いた様な電子音が車内を包む。

そうして目的の場所へと辿り着く。

そこは8階建て程のマンションがそびえ立っていた。

音大が近いらしく数部屋が防音らしい。

私達は車から降り、そのマンションを眺めた。

そこで男はアパート以来初めて口を開く。

それもいつもの決まった行動だ。

私達はもう6年、いや7年こうして数々の仕事をこなして来た。

「今日はどんな奴をやるんだ?」

そう男がいつものセリフを言う。

だから私はいつものように答える。

「俺達の知った事じゃないよ」

「だな」

私達は事前に渡されていた鍵でエントランスの自動ドアを開け、

エレベーターに乗り込み4階のボタンを押した。

無機質な鉄の塊は静かに上へと向かう。

チ~ンと言う到着音の後、廊下を進み407号室を目指した。

細心の注意を払い鍵を差込み回す。

カチャリッと静かな音を立て鍵は開き、

私は扉を開ける。

暗闇の中に真っ直ぐな廊下が見える。

私達はその闇へと進み、部屋を順番に回る。

しかし、どの部屋もガランとして物が置いてある様子がない。

いや、人の住んでいる気配が無い。

そして最後に残された部屋へと進む。

そこも何も置かれていない借りられる前の様な部屋だった。

「何だよこれ?」

男は不信感をあらわにした声で私に向かって言った。

私はその時、胸元から銃を取り出し、

男に狙いを定めた。

男は「あぁ」と全てを理解した声を上げ私を暗闇から見つめた。


パン!パン! パン!


と、防音が利いた部屋にその銃声が吸い込まれて行き、

ドサリと男が倒れる音がその部屋に響いた。

私はポケットから携帯を取り出し、

先ほどの着信にリダイアルをした。

「終わりました」

「そうか」

それだけ告げ電話は切れた。

私はその場に座り込み、

まだ暖かいであろう男の死骸を暗闇を凝視し眺めた。

その暗さながら男の表情は微笑んでいる様にも思えた。

男のまだ消えぬ体温が空気を伝って私は感じる事が出来た。

男は時間をかけこの暗い部屋で冷えて行くだろう。

私の頬からは生暖かい雫が零れ床に落ちた。

ポタリ・・・ポタリ・・・

と、零れる音もまたその部屋の壁に吸い込まれた。

暗闇の中で泣いている私がいる。

そして、その私を助けてくれる者は誰もいない。

そうして私はまた孤独になった。


パチン OFF。


いつもと変わらない時が私の中にまた流れ出した。

そんな楽園

秋花粉に襲われてからというもの、

鼻づまりで浅い眠りの為か、

よくよく金縛りになる。

脳は目覚めているのに、体が眠っているから起こるとの事。

だがしかし、あの状態になると何故、人が見えちゃったりするのだろうか?

女の人、男の人、女の子、男の子、おじいちゃん。(お婆ちゃんは今まで無い)

色んな人が私の布団の上やら、背後やら、顔の横やら、目の前やら、

現れては脅かし去って行く。

まあ、この状態にもう慣れたので怯えは少ないが、

目が覚めているのに起き上がれないのは正直しんどい。

それから慣れたから思うのだが、

何故、そういう時はおどろおどろしい人物が現れるのだろうか?

つい昨日なんかは、

突如目が覚めると汚らしい中年男が私の布団の上を勢い良く踏みつけ、

私の上に馬乗りになった。

目はそれを確実に捉えていたが、これもまた幻想なのだろう。

何故、怖ろしい雰囲気の人物達ばかりなのか?

そんな時は、たまにでいいから美しい女性が私に擦り寄って来る。

みたいな幻想を見てもいいだろう。

おもむろに私の布団へスルスルと滑り込んできた美しい女性。

そんな美しき女性が寄り添い、やがて私のトランクスをサササッ!っと脱がし!

ちょめちょめ・・・

キャー!恥ずかしい!!赤面。

みたいな金縛りがあってもいいじゃないか!!

減るもんじゃあるまいしっ!!

などと最近の金縛りに憤りを感じているのだ。

夢の延長なのならばどうかそうして頂きたい。


なので、今日の金縛りは美しい女性に馬乗りを希望。

それが、相沢紗世さん 辺りだったら金縛りが楽園に変わるのだろう・・・


金縛りパラダイスっ!!


そんな夜を切にセツに私は希望する。

舞う粉に攻められて

私はここの所、秋花粉に攻め込まれrている。

四六時中鼻が洪水を起こし、

溺れた様に口をパクパクしている。

そして、更に頭痛が発生し、

頭を誰かが木槌でトントンと叩いている。

更にそれだけに飽き足らず、激しく便秘で腹が重い。

なんなんだ?

なんなんだ?

Nan Nan Da?

などと乙女チックに思いながら、

倦怠感に包まれた私は、

お便所に篭城するのである。


鼻をかみケツを拭く。

みたいな。

賽の川原

安部公房の『カンガルー・ノート』を読んだ。

以前、この著者の『箱男』を読み、

かなりの衝撃を受けた。

正直な感想は。

なっ・・・なんだこれは・・・

だった。

そんな再度の衝撃を期待しつつ、

『カンガルー・ノート』を貪り読んだ。


あらすじ


ありふれた日々を過ごしていたサラリーマン。

そんなある日、目を覚ますと男の脛に突如かいわれ大根が生える。

男はあまり真剣には受け取らず、

ズボンを穿けば隠れるなどと思う。

が、翌日耐え難い脛の痒みで目を覚ます。

そうしてやっと病院へと行くこととなる。

しかし、医師からは手に負えそうになく、

地獄谷の様な硫黄泉の強い温泉で、

療養するくらいしか思いつかないと言われる。

寝転がったベッドが何故か自走し外へと向かう。

男はベッドに乗ったまま町を走る。

やがて、トンネルの中のレールを走る。

そして、地獄谷の様な場所へとたどり着く。

男はかいわれ大根をむしり口へと放り込んだ。

行く先はいったいどこなのだ?


と言ったようなもうまるで予測不能なストーリー展開をする。

この作品は安部公房の最後の長編小説(安部の死後にフロッピーディスクから未完の長編『飛ぶ男』が発見され、そちらが最後の長編とされる向きもある。)
であり病床に伏していた為か、随所に死の臭いや雰囲気が漂い、

これは安部公房自身の死への不安を描いたものだろうと思った。

それ程に死を受け入れようとする姿勢と、

そこから逃げたいと思っているであろう描写が多かった様に思う。


「オタスケ オタスケ オタスケヨ オネガイダカラ タスケテヨ」


この表現がその一つであり、

私を非常に惹きつけた言葉だ。

人が死を迎える時、

果たして何を思うのだろうか?

生に執着してあがくのか?

それを受け入れるのか?

私はその時どうするのだろう?

そんな思いがこの作品を通して、

今、私の体を駆け巡っている。


オタスケ 


オタスケ


オタスケヨ


オネガイダカラ


タスケテヨ


やはり


私も


死が怖い。

D!V!D!

『Helpless』『自虐の詩』『キサラギ』の三作邦画を借りてきた。

久しぶりのDVDレンタルの為か色々観たい物があり、

迷ったがとりあえず前から観たかった物と最近興味を惹かれた物を選んだ。


まず一本目の『「Helpless 』はちょっと興味が惹かれて観たのだが、

この映画全体的に漂う焦燥感?が個人的には好きで、

どこか登場人物に共感できる所があり、がっつり見入ってしまった。

なんだろうこの感じは・・・何とも言い表せない。

また最近気になっていた俳優の光石研が若く、

あ~こりゃかっこいいな、なんて思った。

今もかっこいいのだけれど、

若い頃も味があるなと思った。

これは三部作らしいので他も是非観たいと思う。


で、二本目『自虐の詩』は友達にススメられやっと借りた。

全体的な内容は薄いが、

中谷美紀、阿部寛、その他アクの強い役者陣が魅了し、

ぐいぐい引っ張るような映画だった。

そして、気づけばちょっとうるうるして涙していた。

ここ近年歳のせいか、涙腺がゆるゆるのだるだるではあるが、

まさかこのコメディー映画の流れで泣くとは思わなかった。

が、笑いあり、涙ありのとても楽しめる映画だった。


そんでもって三本目に『キサラギ』を観たが、

一つの部屋で繰り広げられる面白おかしい推理劇が、

非常にクスリとした笑いを誘い、

飽きる事無く見入ってしまった。

こう言った一つの部屋で繰り広げられる映画は非常に好きで、

ジャンルは違うが『SAW』や『ミザリー』を個人的には思い起こさせた。

たった一つの場所で魅せるこの監督、

そして役者陣の手腕に感嘆した。

これは綿密に計算された極上の映画だと私は思った。


などと言った様に邦画三本を観たのだが、

今回借りた物はどれもアタリで非常に楽しめた。

やっぱ映画って素晴らしい。

そう感じる時間を私は過ごす事が出来た。

穏やかだから

ぎゃんたまを神の右手でころころと転がし


ブランデー気分


ブランデー日和


ふにゃふにゃなぎゃんたま


にふにふしてやろう


にふにふにふにふ


縁側で茶をすすりながらのにふにふは


贅沢の極み


だがしかし!


秋花粉に苦しみ悶絶


ずびずびずびずば


ポー!


にふにふ


にふにふ


あ~小春日和


なむなむ!

部屋をのドアを開けると、

私の椅子に頭から皮袋を被った男が座っていた。

グレーのスーツ姿だがネクタイはしておらず、

第一ボタンは開け放たれていた。

天井から吊るされた裸電球がこうこうと部屋を照らし、

その皮袋の男をいっそう妖しく佇ませた。

私はテーブルから静かにタバコを手に取り、

火を点け紫煙をくゆらせた。

肺に沁み込ませるようにゆっくりじっくりそれを吸い、

味わった後、長いため息の様にそれを吐き出した。

まだ二人の間に会話はない。

皮袋の男は身じろぎひとつせず、

開いた二つの穴から虚空を眺めるばかりだ。

私はその様をじっくり眺め、

もう一口タバコを吸い込だ。

ちりちりとタバコが燃える音が静かにその部屋に響く。


「お前はいったい誰だ?」


そう問いかけてはみたが案の定返事はない。

男はその先にある世界をただ凝視している。

私はくわえタバコのまま洗面所へと向かった。

じゃばじゃばと洗面所の蛇口から水が流れ、

排水溝へと飲み込まれていた。

あの暗闇の穴に水は消え行く。

その様子から目を離し、私は洗面所の鏡を眺めた。

そこには人が映っている。

目、鼻、口、眉、耳、髪、髭、顎、首、鎖骨、肩、喉仏、汚れた歯。

粘つき糸を引いた歯が、口が、笑っている。


「お前は誰だ?」


笑った口がもごもご動いた。

それはこう言っていた。


「お前は俺だ」


じゃばじゃばと流れる水音が遠のいて行くのを感じ、

私は目を閉じた。

眩暈。

暗闇がするすると回転しその中で呟く。

















「私は・・・誰だ」

くすぐられる本

森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』 を読んだ。

この筆者の作品は『太陽の塔』、『新釈走れメロス』、

と今まで二作品を読んだのだが、

独特の文体と妄想劇が私は非常に肌に合ったようで、

すこぶる楽しく読むことが出来た。

なので、今回も期待し読み進めてみた。

あらすじとしては、

京都の大学生の男(ストーカーチックな)が、

後輩の女(超天然娘)に恋をし、

偶然を装いながら幾度もその女に近づこうとする。

だが、そうは世の中上手く運ぶわけもなく、

すれ違いながらもあきらめず女の足取りを辿り、

徐々にではあるが向かう先々でその女と触れ合う。

「たまたま通りかかったものだから・・・」

などと発し偶然を装う。

果たしてこの男の行いは実を結ぶのか!?

そんな純愛ストーカー小説だった。

またこの話の登場人物達はとてもキャラクターが濃い。

天狗の様な男、樋口。

酔うと他人の顔をベロベロ舐める女、羽貫。

金貸しで、夜道を行く男を襲っては下着を奪う趣味の持ち主李白翁。

などなどがおり、まだまだ色々な癖のある人物が登場し、

この話を盛り上げて行く。

しかし、やはり二人の男女の主人公に読み手は惹かれる。

世に対するひねくれた思想を持ちながらも、恋に一途に走る男。

それには気づくそぶりもなく、マイペースに愉快に過ごす女。

その女のキュートな人物設定に世の大方の男はやられるだろう。

読めば分かるのだがあまりにも可愛いのだ。

時折発する。


「なむなむ」


などのマジナイの言葉が心をくすぐる。

決して現実にはないであろう男が求める女の子像がこの物語には登場し、

私ともども読んだ読者は彼女に恋をするのだろうと思う。

それ程に男の理想を描いたような人物なのだ。

そうして、読むうちに恋をした私は、

「なむなむ!」

などとマジナイを唱える。

とてもとてもそれはキュートでポップな小説だった。

読後は非常に心が温かくなった。

この文体が苦手でなければ、


「世の男子諸君!この小説を是非読みたまえっ!!」


「夜は短し歩けよ乙女」


そう呟いて秋の夜道を歩くのも一興である。

三振彼女

なにやら最近、私のド・ストライクの歌手を見つけてしまった。

名をMEGと言うらしいのだが、

歌と雰囲気にかなりやられてしまった。

これは石田ゆり子、竹内結子、以来のド・ストライクだ。

しかも私が昔好きだった、

フリッパーズ・ギターのグルーヴ・チューブをカバーして歌っており、

それが非常に私の心を捉えた。

MEGが歌うグルーヴ・チューブを聴くと、

ノスタルジックな気分になる。

それがとても心地良く、

あ~これはトータルでド・ストライクなのだなと思った。

しかし、MEGの気だるい感じが非常に良い。

今後も彼女に注目して行きたいと思う。


それでは私が惹かれたMEGが歌う二曲です。


『グルーヴ・チューブ』


『スキャンティ・ブルース』


ちなみにネットで調べて知ったのだが、

MEGの歌う何曲かとPerfumeのプロデューサーが同じだった。

だから何か似た匂いを感じたのだろうか。

しかし、見れば見るほど超絶キュートで、

私はストライクバッターアウトっ!!


で、ある。

突起物現る

朝起きると何だか額に違和感を覚えた。

なんだろな? などと寝ぼけまなこで思いつつ、

ぼさぼさの寝癖頭をポリポリとかいた後、

違和感のある場所をなでなでしてみた。

なでなでしてみたその部分は、

何やらぽっこりと隆起している様である。

額の中央、眉毛と生え際の間にそれは現れた。

なんで突起物? と思いながらも、

ベッドから起き上がり、カーテンを開け、

太陽光を体いっぱいに浴びた。

そして、僕は大きなあくびを一つし、目じりに涙を溜める。

また額に手のひらを当て、なでなでしながら、

紺と白のしましまのパジャマ姿でキッチンへと向かった。

まず冷凍庫を開け、カチカチに凍った食パンを取り出す。

それをトースターに突っ込み、カチャリとレバーを下げた。

じじじじじ~っとトースターが音をたてている。

それからまた冷蔵庫を開け、今度はパックのオレンジジュースを取り出し、

コップになみなみ注ぎ、まず一杯それをごきゅごきゅと飲み干す。

僕はいつものように、ぴゅひゃっと声が漏れた。

朝はいつもこうして始まる。


ガチャ! パンが飛んだ。

僕は香ばしい香りを漂わせるカリカリに焼きあがった食パンを、

親指と人差し指で摘み皿に乗せた。

バターか? はたまたチョコか?

僕は迷いつつもチョコの容器を手に取り、

それをナイフで熱々の四角形にまんべんなく塗りたくった。

香ばしい匂いから甘い匂いへと変わり、

僕は目をつぶってその香りを楽しんだ後、

さくさくと心地よい音をたてながら、もぐもぐと食べた。

そして、オレンジジュースを流し込んだ。

チョコの甘みとオレンジの酸味が、

口の中で混ざり合いがっかりな結末を迎え胃へと落っこちて行った。

失敗失敗。

この組み合わせはいつも失敗でがっかりだ。

だけれど僕は同じ事を繰り返し、

その度にペチッ! っと額を一つ叩きその失敗を表現した。

今日もそれは同じである。


ペチッ!


いつもとは違った感触が手のひらに伝わり、

額に現れた突起の事を思い出す。

僕はまた、なでなでしてそれを確かめる。

角の様に現れた突起を、なでなでしていると意外に落ち着く。

そうして僕はいつの間にか、なでなでする癖がつく。

そのせいか分からないが、突起が徐々に大きくなって、

やがては直径3cm、高さ5cm程の円すいみたいになった。

これはまさしく角以外の何ものでもないと思われる。

僕の額に角が生えた。

それを愛おしく愛おしくいじる。


なでなで

なでなで


なでなで

なでなで


キッチンの椅子に腰掛けながら、

僕は、ふとグラン・ギニョール の事を思った。

あの劇場で演じる事を夢想した。

一角になった僕は、カリカリの食パンをまた頬張った。

甘い香りが口いっぱいに広がる。

こうしていつもと変わりない一日が幕を開ける。


なでなで

もぐもぐ