9月終わりのころでした。夜、野暮用で渋谷へ。用事が早く済んだので、明治通りを1時間ほど歩いて新宿まで。4年ぶりにカラオケ屋へ行ってみることに。
 歌舞伎町に安い店があったはず。そう思って現場へ向かったものの、もうその店は消えていた。仕方なく別の、そんなに安くもない店へ入ってみる。安くないから1時間だけだ。
 かなり久しぶりにマイクを握ってみた。声のコントロールが利かない。歌い方を忘れてしまっている。やはりこういうのは日ごろからやっていないとダメになるもんだな。
 それよりも、ずっと「あの曲はカラオケになってるのか?」を確認する作業のほうが楽しかった。例えば当ブログで扱ったものでいうと、まがじんの『愛の伝説』、そこから坂田晃一つながりで小坂恭子の『風の挽歌』。あるだろうとは思っていたディック・ミネ の『或る雨の午后』は、やっぱりあった。『或る雨の~』は戦前の流行歌だが、古さはあまり感じなくてオシャレ。歌いやすいのが好きな人にはオススメだ。
 最大の収穫はガンジー の『スローダンサー』がカラオケ化していたこと! これには感激した。永遠にカラオケにはならないものだと思っていたから。だけどこの曲、あれからいろんな人に訊いてみたけど誰も知らないって言う(笑)。
 いっぽうでミノルフォン三人娘は天馬ルミ子 の『教えてください、神様』しかなかった。これはあるだろうと思っていた山川ユキの『新宿ダダ』もなかったのはショックだったわ。
 カラオケの機種はDAMだったと思う。よその機種も気になるところ。めっきり行かなくなったカラオケ屋さんですが、大失敗だったとしか思えないコロナ対策の大打撃にも負けずに存続していただきたいものです。

 

 

 さて本日のそんなに陽のあたらない名曲は8ヵ月ぶりのよいこのデンジャラスセレクションシリーズです。今回のテーマは【背徳感】。まぁ、背徳的な気持ちになるようなネタなら当ブログでは開設当初から頻繁に扱う要素なのは長くご覧の読者さんならよくご存知ですよね。テーマが「クイズ」の回なんか、たかがクイズなのに背徳的要素を欠かしたことなんてありませんでした。
 で、とくにこのたびはそれに絞った特集をしていきたいと思います。
 えっ。副題にある「後ろめたさを楽しみたい」の意味がわからないって人、いますか? ラーメンライスなるW炭水化物をぜい沢に摂る際や、ただでさえ甘いアンパンの中にホイップクリームが入ってるやつとかルマンドアイスを食すときに生じる背徳感ね。また、親子丼を食すときに生じる申しわけなさみたいなやつ。後ろめたいけど、ちょっと幸せになるかんじ。それがわかれば、言わんとしてることもご理解いただけるはずです。
 あと、2つ前の記事をご覧になった方は、誰が鼻濁音で歌っているかに注目しながらお楽しみいただくのもいいかもしれません。

 

 

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音譜森川美穂『教室<作詞:千家和也/作曲:小森田実>


 天馬ルミ子の『その時わたしはTAXIを停めた』にも通ずる“不穏歌謡”と呼ぶべきだろうか。聴く者をゾワゾワさせるパワーが非常に高いナンバーである(いい意味で)。
 いつだったかは憶えていない。テレビだったかラジオだったかで、おそらくこれを歌っている人のライブだか新作だかの告知CMが流れていたのがたまたま耳に入ったのだろう。
「えっ! いま『退学』って歌ってた? (;゚Д゚)」
 商業音楽としては不釣り合いと思われるネガティブなワードがサラリと通り過ぎていったのだ。そのときは我が耳を疑った。聞き間違いだったのかもしれないと思った。だけどCMは終わってしまったので誰の何という歌かもわからない。CMはそれっきり聞かないし。
 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。ここへきて忘れてしまっていたものをなぜか思い出し、調べてみることにした。
 歌っていたのは森川美穂という人。この方、歌手としても女優としてもかなり活躍しているようなのですが、まったく存じ上げませんでした。本曲は彼女のデビューシングルだったそうです。
 声はよくあるキンキン系。歌唱力にはそれなりに評価があるらしい。ですが正直、私的にはローインパクト。「よくある」止まりだから、ふつうだったらスルーするところだったと思います。しかし千家和也氏による歌詞はハイインパクト。「何があった!? Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)」とツッコミを入れずにはいられない。よくそんな発想ができるな。重いわ(いい意味で)。
 森川美穂は1985年7月、“涙ひとつ、おいてきます。”をキャッチコピーにアイドル歌手としてデビューしている。ただし本人はポスト菊池桃子的なレコード会社の売り方が嫌で、同世代の渡辺美里、小比類巻かほる、中村あゆみのような音楽性を希望していたとのことですけど・・・・・・。
 菊池桃子だって後にラ・ムーなるバンドをやることになるのですから、いまにして思えばそれは菊池先輩に失礼だったのではないかと思ったり思わなかったり。できればこの両者は不仲であってほしいです(いい意味で)。
 それにしてもアイドルとして売り出そうとしてるのに、そのデビューで退学がどうのという内容の曲を歌わせる事務所のセンス。私は嫌いじゃありませんよ。



 

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音譜にへい正也『新宿野郎<作詞:新井あきら/作曲:小谷充>



 1971年、俳優=二瓶正也が「にへい正也」名義として出した数少ないレコードより。コーラスをシンガーズ・スリーという女声コーラスグループが担当している。彼女たちは『魔法使いチャッピー』の主題歌や『水もれ甲介』の主題歌、『野生の王国』のオープニングテーマ、そして産自動車のCMソング『世界の恋人』が代表曲として知られているが、なぜか参加するレコードへクレジットされる際には「スリー・シンガーズ」と誤表記されまくっている。それは本曲でも例外ではなかった。
 東映の任侠映画のような世界観。歌舞伎町で野垂れ死にする男の悲哀が描かれている。どちらかというと二瓶さんよりは、川谷拓三さんが演ってそうなキャラクターといいますかね。鉄砲玉と呼ばれる、上の者から命を軽んじられて捨てられる役まわりの人の歌、といったところだろうか。
 これを歌う二瓶さんなのですが、上手いんですよね。役者だからなのか、非常に高い表現力が窺えます。二瓶さん特有の、どこかヘラヘラしたかんじも、唯一無二の味が出ていますね。
 だけど二瓶さんが“和製チャールズ・ブロンソン”と呼ばれていたなんて知りませんでした。私の知る和製チャールズ・ブロンソンといえば佐藤允さん、夏木陽介さん、阿修羅・原さんだったんですけどね。
 1971年リリースだそうですが、サウンド的にはもっと古い時代の音楽かと思いました。とりわけシンバルに存在感があります。
 特筆すべきは間奏部分。それまでふつうに四拍子だったのが、いきなり五拍子になるんですよ。五拍子なんて、かなり珍しいでしょ。それも・・・あれ? これって・・・。デイヴ・ブルーベック・カルテットが演奏していたジャズの名曲『TAKE FIVE』じゃん! 必然性もないのに、わざわざこんな構成にするのか(笑)。
 ――と、とっても遊び心に満ちた一曲であります。これは曲をつけた小谷充氏がジャズピアニストだったことで、そっちの方面のアレンジには長けていたからだと思う。
 で、最終的に木魚がポクポクポクポク・・・と鳴り響きつつフェードアウト。ヘラヘラしてはいるけれど、やっぱり人がひとり死んでるのね。死んでるけれど、深刻ではないように装うのね。そういう世界の歌なのでした。



 

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音譜アプリコット『公害ブルース<作詞:広瀬一郎、関口重夫/作曲:安藤まこと>



 カラダに悪いものが出てきます。
 本曲は1970年12月発売。当時、深刻な社会問題であった公害の悪について切実に訴えるという内容。直接の関係はないが、リリースの翌月からは公害をテーマにした特撮ドラマ『宇宙猿人ゴリ』がスタートする。そんな時期の曲。
 それでいて耳にやさしいサウンド、耳にやさしいハーモニー。牧歌的といいますか、平和的といいますか。詞の意味さえ知らなければ、ただ、ただ、心地よく聴いていられる歌なんであります。ゆえに危険。
 まさにコレ、美味しいんだけど健康にはよくないものを食べたり飲んだりするのとおんなじ図式ではないだろうか。公害とブルース(?)をコラボさせたらこうなるのか。

 

カラオケ仕方ないでは済むものか
誰の罪なの どうすりゃいいの

 

 現代でもカタチを変えた有害物質が社会問題化してるものが横行してますけどね。本質的にはなんにも変わってないんですよね、日本人は。
 ちなみに歌っておりますアプリコットなる女性デュオ、ジャケ写を目にしたかぎりでは女漫才師のようにしか見えません。情報が薄いので彼女らの素性はわかりかねますが、ジャケットの裏にはプロフィールが記載されております。それによると、レコード発売当時はどっちも21歳だったことがわかります。
 ついでに彼女らの住所も堂々と記載されてました。どうも、ご丁寧に。汗



 

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音譜城卓矢『なぐりとばして別れようか<作詞:川内和子/作曲:文れいじ>



 タイトルを見た時点で嫌な予感がいたしますが、期待を裏切らない内容の歌です。
“DV歌謡”とも呼ばれる本曲。要するに「この女とつき合ったら楽しいのかと思ったらそうでもなかった。別れたいのだが生憎とその女はストーカー体質だったので、なぐってやろうかなーなぐってやろうかなーなぐってやろうかなー」というやつです。沢田研二の『カサブランカ・ダンディ』とは逆パターンだ。パンチ!
 歌詞の主としては嫌われる手段として暴力に走るのだから後ろめたさはないのかもしれないが、この歌を誰も知らない人たちの前でカラオケなどで歌った場合は背徳的な気分&不穏な空気に浸れるのではないかと思いますのでオススメです。
 これを歌う城卓矢さんは、1960年代に『骨まで愛して』でミリオンヒットを飛ばした有名な方。もともとはカントリー&ウェスタンの歌手でした。七三分けの似合う、いわゆるハンサム顔で、ふとした横顔が衣笠祥雄さんを彷彿とさせる瞬間もあったりで。
 作曲したのは彼の兄。この歌では「文れいじ」名義になってますが、その正体は北原じゅんだといえばピンとくる人も多いでしょう。この兄弟の叔父が川内康範先生なのだそうです。
 問題の作詞のほうは、なんと女性。それも康範先生の奥様だそうで。康範一族が総出で出したのがこの曲なのか。あああ、オンタタギャトードハンパヤソワカ~、オンタタギャトードハンパヤソワカ~・・・。 (-ノ-)/Ωチーン




【補足】この歌のアンサーソングみたいなものに、椿まみの『なぐられてもいいわ』というのがありますので興味ある人は聴いてみてください。
「混ぜるな危険」な組み合わせ。これで殺人事件に発展する例が本当にあるからなぁ。

 

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音譜筋肉少女帯『ドリフター<作詞:大槻モヨコ、ユウ/作曲:カイシュー、ベラ、ユウ>

 

 仲本工事さんの急死が報じられた10月20日23時ごろから、約1年前に書いたばか兄弟の記事へアクセスが殺到した。志村けんさんが亡くなったときにもシリアス無言劇へのアクセスが殺到したものだが、それに匹敵する凄まじさ。余韻は未だに続いている。
 もちろん仲本さんの逝去は残念だ。しかしその後、連日にわたって仲本さんの功績を綴る記事が続々と世に出されており、私が勝手に“ドリフが誇る不滅の二番バッター”と呼んでいた仲本さんが再評価されることについては正直、嬉しいものがある。
 さて本曲でありますが。ハッキリ言って、今回最大の問題作です。いや、過去の記事を振り返ってみてもトップレベルの問題作であろうと思われます。
 この歌は、ただドリフターズのメンバーを紹介するだけの内容。しかしその“打順”は、いかりや⇒高木⇒仲本⇒加藤⇒志村・・・という通常のものではない。なんと、仲本さんをオチとして起用してるかのような構成となっている。そして問題の箇所は2番になって訪れる。叫び
 ここには書けない。背徳どころか「不謹慎」「不道徳」といったワードが大暴れ。これ、当時(1987年ごろ)でも怒られなかったのだろうか? しかも深夜番組『11PM』のスタジオライブで演奏したものが全国放送されたことがあるそうだ。大槻ケンヂ率いる筋肉少女帯がまだ無名バンドだった時期だし、彼らを潰そうとする動きがあったとしてもおかしくない。
 なお、この歌には高木ブー様が出てこない。そのかわり同時期に作られたと思われる『高木ブー伝説』のほうで、まるごとブー様特集みたいな扱いにしている。
『高木ブー伝説』は自主制作ながらレコード化(ブー様やドリフターズ所属事務所から許可を得ず発売)、さらに彼らがメジャーになった1989年には『元祖高木ブー伝説』として大ヒットを記録する。
 だが『ドリフター』のほうは筋肉少女帯のインディーズ時代に作られた12インチ盤アルバム『ノゾミ・カナエ・タマエ』へ収録されてはいるものの、その後はお蔵入りとなったもよう。

 ヤバい。ヒジョーにヤバい! 聴けばわかる。どうしよう、こんなの、いま聴いててもいいのだろうか?汗




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 以上、5曲。おまけも入れたら6曲。いいのはありましたか? やはり人の心というものは、単純な倫理観やルールでは収まらないものでありますね。
 当コーナーはファミリーでお楽しみいただくのを目的に展開していくのをモットーとしております。それでは次回まで、ごきげんよう。 (^_^)/~

 

かお

 

かお

 

かお

 

かお

 

かお


 ――と思ったけど、これで終わったら後ろめたすぎる気がいたします(とくに5つ目のやつのせいで)。
 6曲目、追加していいですか? おまけも入れたら7曲目ですけども。それでちょっとばかりの中和作用を図りたいと思いますので。

 

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音譜細川たかし『さよならイエスタデイ<作詞:前田亘輝/作曲:春畑道哉>

 

カラオケもうすぐ私も普通に嫁いでゆくわ
カラオケ憎んでも 恨んでも いいから忘れないで
カラオケあれから数えきれぬ男と 夜をともにしてきたけれど 愛と罪の駆け引き憶えて 戻れぬ純情
カラオケゴメンね 許さない 大嫌い でも大好きよ

 

 デビュー曲『ベストセラー・サマー』で一躍、注目を浴びることになったロックバンド=TUBE。『ベストセラー~』は少々ハレンチな曲(?)というイメージがあったもののインパクトはそれなりにあり、勢いづいた彼らは3曲目の『シーズン・イン・ザ・サン』で『ザ・ベストテン』の1位に昇りつめ、あっというまに絶大な人気を獲得していった。
 その後も夏や海に因んだ曲をリリースしていくが、最初の3年くらいまではプロの作家による作品をシングルで出すスタイルであった。それが、リーダーの前田亘輝いわく「TUBEにとって本当のデビューであった」と述懐する1989年あたりから作詞を前田、作曲を春畑道哉が担当するスタイル中心のオリジナル曲を出していくようになる。

 そんななか、1991年7月にリリースされたのが『さよならイエスタデイ』。これが素晴らしい。TUBEの実力を知らしめるかのようなナンバーであった。歌詞は女性言葉。どうしてもどうしても忘れられない人への思慕。それでありながら自分は別の人のもとへ嫁いでゆく後ろめたさ。過去に受けたさまざまな傷を胸に秘めつつ、あの人の知らぬ場所へと身を委ねようと腹をくくった女の心情。重い!
22才の別れ』にも似たストーリーではあるが、きれいな思い出だけにとどまらない愛憎の念が入り混じる本曲には、より深みのあるドラマ性が私には感じられる。だけどたぶん、そこまで恋焦がれた相手とは結ばれないほうがいいものなんだろうな。永遠に封印したほうがいいんだろうな。
 それをラテンリズムとせつないメロディが包み込む。これで春畑道哉という作家の名前が私のなかへ刻み込まれることに。
 そんな曲ではあるのだが、なんとこれを演歌界の大御所=細川たかし様がレコーディングしてるヴァージョンがあると知り腰を抜かす。もしかすると私の腰痛の原点はここにあるのかもしれない。
 TUBEの前田といえばパワフルなハイトーンヴォイスが特徴のヴォーカリスト。まさか細川様は、あの原曲キーのままで歌われるのか? 聴いたかぎりでは細川様、高音部分も難なく歌い切り、しかもまだ余力があるといわんばかりの歌いっぷり。ただし演歌を歌うにしては明るいキャラクターな細川様は、本曲に内包するせつなさや後ろめたさを見事に消してしまっている。そもそも、あのキャラクターには「初恋」を振り返る乙女の歌がまったく似合わないのであった。ただ、夏の曲のはずなのに冬の景色が見えてくる気はした。
 で、よく聴き比べたら細川様のキーは前田のそれよりもやや低いキーでした。
「どうでもいいけど細川様は、なんでこの曲を歌おうと思ったのだろう?」
 ・・・そんな謎と疑問に包まれながら、私は細川版『さよならイエスタデイ』を聴いている。



 

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 カラオケ屋にいたのはわずか1時間だけでしたが、そこから駅までの道がしんどかった。距離じたいは大したことないんですけど、なにしろ大荷物を背負った状態で渋谷から1時間も歩いたものですから、腰が痛くて何度もうずくまる始末。
 歌舞伎町なので、たどたどしい日本語で「マッサージ、イカガデスカ?」と声をかけてくる人ならそこらへんにいっぱい立っている。初めて、ちょっとだけ、本当にマッサージしてもらいたくなったアルよ。
 だけどあの人たち、坐骨神経痛のマッサージはちゃんとマスターしてるのかね?