'87年から'93年までフジテレビ系列で放送されていたお笑いバラエティ番組『志村けんのだいじょうぶだぁ』。長寿番組の部類に入るものであろうし、その後もファミリー劇場で放送されたり、現在でも特番として不定期放送されているので認知度は高い番組といえる。
 個人的にはあまり視聴しなかったのであるが、それでもたまにチャンネルが合ったときに見た映像が、それはもう強烈なシロモノであったのも事実である。

 シリアス無言劇。

 

 これは毎週放送されていた当時にあったコーナーのひとつで、お笑い番組のなかに突如として投下される「コントではないシリアスなサイレントドラマ」なのである。
 Wikipediaの記述によると“スタッフと飲んでいた際に志村が「人を笑わせられるなら、人を泣かすぐらい簡単な話」と豪語したことが発端となった企画で、志村にとってはスタッフ・視聴者との「勝負」であった。志村は「コントのなかに予告なく悲しいドラマを入れることで視聴者を驚かせたかった」と後に語っている”とある。

 少なくともこの番組を初めて見ようとする視聴者は、どう考えても「お笑い」を見たくてチャンネルを合わせてくるはずである。なのに期待していたものとはぜんぜん違うものを見せつけられてしまうわけで、しかもそれについて説明されることすらないのである。

 これはテロですよ(笑)! 見る側はまったく受け身がとれないまま、なすすべもなく画面のなかの悲しみの世界へ吸い込まれてしまうのですから。テロリスト

 

 

 過去には'70年代に『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』でのキャンディーズ主演によるスポ根ドラマが1コーナーとして設けられていたことがあった。しかし、それはいま見ればチープさのほうが目につくレベルのものであったように思う。
 ところがこっちのやつは、いま見ても相当な破壊力を秘めた"爆弾"であったのだ。バクダン

 今回記事に採り上げますのは、そのなかのひとつを紹介したい。
 

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 薄暗い部屋のなか線香が焚かれ、臨終したばかりと思われる遺体が横たわっている。その側には年老いた男(志村けん)が沈痛な面持ちで遺体を見守っている。
 老人が遺体の顔にかけられていた白い布を取ると、安らかに眠る老婆(いしのようこ)の姿があった。どうやら、この二人は夫婦であったようだ。
 おそらくカツラやメイクも普段コントで使ってるものと同じチープなものである。
 ただ、ひたすら悲しみに打ちひしがれる志村の顔は、コントでは見たこともない重々しい表情をしている。
 映像は回想シーンに入る。まずは二人が結婚した当時のこと。続いて幸せだった新婚時代。しかし、やがて彼女には苦労ばかりかけていた時期のほうが多くなってゆく。だが、いつだって彼女は妻として献身的に尽くしてくれていた・・・。

 



 一緒に暮らし始めてからは人生のすべてを自分のために費やしてくれた妻を偲び、そして自らの人生の終焉も近づきつつある男の苦しみ。愛するべき人へは迷惑をかけるばかりで、なにひとつしてやれなかったことに対する自責・後悔・・・そういった想いがこのドラマのテーマであった。
 さらに追い打ちをかけるように、男が最後にとった行動で絶望のどん底に突き落とされるという結末――。

 台詞による説明ナシの、わずか10分足らずでお腹いっぱいにしてくれる見事な人生ドラマ。1~2時間枠のドラマでも、ここまで胸に突き刺さるものを見せてくれるケースは滅多にない。これを見てトラウマになったという被害者(?)の声は後を絶たず。まさに演出の勝利、そして志村の勝利だと思います。

 オチがない。救いもない。というわけで、そんなに「だいじょうぶ」じゃない悲劇の映像の記事でした。どうだ、トラウマになったか。