パパ・パパゲーノ -57ページ目

赤塚不二夫

 長いこと病床にあると伝えられていた赤塚不二夫さんがとうとう亡くなりました。この人は漫画家として空前にして絶後と言うべき存在でした。手塚治虫や長谷川町子という巨星によく伍して、オモシロ漫画で一世を風靡しました。


 「おそ松くん」「もーれつア太郎」「天才バカボン」と、シリーズになった漫画は、どれも傑作でした。画面に登場するキャラクターの多彩さがつよく記憶に残ります。


 「シェーッ!」のポーズを流行させたイヤミの名セリフ「おフランスざんす!」は、底の浅い西欧崇拝を一蹴する迫力がありました。


 これらの連載漫画の登場人物ではなかったかも知れませんが、黒目の少年、服部竜之進の博学・多識も印象的でした。バカボンのパパも、素直な性格がよかった。


 いつも道をほうきで掃いている、レレレのおじさん、ケムンパス、うなぎイヌ、などのキャラクターもおもしろかった。


 すぐにピストルをぶっぱなすおまわりさんが出てきましたね。エキセントリックな目をした、特異な人物。この警官は、ずっとあとになって、「じつは、趣味で交番をやっているのだ」と告白しました。このときは、ぶったまげました。


 順天堂病院で亡くなったのですね。享年七十二。


パンダ                 パンダ                 パンダ

バイリングアル

 おととい会ったローマの「親戚」の、ふたりいるお嬢さんのうち、上のお嬢さんがもうすぐ5歳になるところです。この子が、いわゆる「バイリングアル」でした。ママが日本語で話すとすかさず日本語、パパがイタリア語で話しかけると、ごく自然にイタリア語が出てきます。コードスイッチングが目の前で行なわれるので目を見張りました。


 自分から、パパに話そうとするときも、構えは自然にイタリア語モードになっているようです。話し相手がだれかの見極めが先にあるようでした。ですから、私が、少ししか知らないイタリア語で話しかけると、「ヘンなおじさん」という表情になります。深川江戸資料館の長屋の屋根の上にいた猫の置物を見た時に、「猫はイタリア語でなんて言うの?」と聞いたら、それには「イル・ガット」と、定冠詞つきで教えてくれました。


 お母さんの話では、どちらの言語であれ、相当込み入った話でも、隅から隅まで分かっているのだということでした。


 こういうふうに、ごく自然に二つの言語を習得してしまうのは、うらやましいと言えばうらやましい。まれには「どっちが本当の自分だろうか」と、(思春期になると)悩む場合もあるそうですから、いちがいに喜んでばかりもいられないのだそうです。でも、この利発な少女は、賢明な両親(と祖父母)のあふれるような愛情につつまれて育っているようですから、そんな心配も無用というものです。


 2歳直前の下のお嬢さんも、すごい勢いでお話をし始めているそうですから、親子4人のあいだで、イタリア語・日本語が飛び交うのでしょうね。ほんとうに、ずーっとそばで見ていたくなりました。


クローバー        クローバー        クローバー        クローバー        クローバー

深川江戸資料館

 ローマの「親戚」 が急遽里帰りしたので、葛西臨海公園の水族館で遊んでから、深川江戸資料館 に案内しました。ずいぶん前に訪れたので、記憶がアイマイになっていましたが、再現された深川の江戸時代の長屋の光景を見たら、すぐに思い出しました。
 
 そんなに広くはない平面に、長屋、米屋や油屋や八百屋などの店屋、船宿などがところ狭しと並んでいます。船宿の畳の間に上がることができたので、イタリア人のご主人に上がってもらいました。神棚、飾ってある熊手、店先の酒樽、などなど、興味深そうに見てくれました。
    
 もともと江東区が作ったものだそうですが、今では、独立法人になっているんだとか。夕立やかみなりの擬音効果もあったり、夜から朝になる時間の変化を光で表現したり、演出も(素朴ではあるけれど)よく考えてありました。屋根にはひなたぼっこをしているらしい猫の置物があったりします。
 
 両国にも、江戸東京博物館という、ずっと仕掛けの大きな博物館があって、そこも見物したことがありますが、生活感という点では、深川のほうが上ですね。
 
 ローマという都市も、角を曲がれば教会があるというくらい、教会が多かったのですが、深川の町を歩くと、なんとお寺の数が多いのだろうと、あらためて思いました。七福神めぐりが、そこらじゅうで行なわれますから、東京の街中のお寺の数は、ローマの教会より多いかもしれません。


 かわいい娘さんたちも1日中動き回ったのにずっと元気でなによりでした。
 
【深川江戸資料館は、来年、改装のため長期休館するようです。おいでになる方は行く前に、ホームページなどで、開館日を調べてください。】


グー        チョキ       パー        チョキ        グー

龍泉洞

 この間、岩手県北部地震が起きた震源の近くに龍泉洞という鍾乳洞があります。さいわい地震の被害はわずかなものだったと、そこのホームページに出ていました。
 
 そこに3年ほど前に訪れました。洞の中は通路が湿っていて、いかにも水量の多い洞窟であることが知れます。じっさい、中に入ってすぐくらいに、おそろしいほどの水量の湧水が流れているらしい水音が聞こえました。ほら穴ですから反響が大きくて実際の水量より多いように聞こえたのかもしれません。
 
 この湧き水は、洞穴の外にある蛇口で汲んで飲むことができます。うまい水でした。
 

 あんなにおびただしく出てくる水なのですから、ペットボトルに詰めて売ってもよさそうなものですが、聞いたことがありません。
 
 谷川岳の水とか、富士山の湧き水とか、売っているのはよく見かけますね。2リットル入りで88円などというのもありました。手間賃や運賃が出るのかしらと心配になります。


 暑い日が続くので、どうしても冷たい水に手が出ます。そんなことで、あの水はどうしたか、と龍泉洞の湧き水を思い出した次第です。この洞の少し奥に進むと、さっきまでやかましいほどだった流水の音がピタリと止まるのも不思議でした。
 
 地震の当日から中の見学ができたそうですから、この夏、岩手においでの方は足を延ばしてみてはいかがでしょうか。


クローバー        クローバー        クローバー        クローバー        クローバー

ファム・ファタル

 ファム・ファタルというのは、元はフランス語(femme fatale)ですが、英語でもそのまま使われるようです。英語の辞書(研究社『新英和大辞典』)では、こんなふうに説明されます。
 
 魔性の女、妖婦型の女;妖しい魅力をもった女
 
 ウェブスターの大辞典の語釈を訳してみるとこうなります。
 
 抗し難く魅力的な女、とくに、男たちを、困難で、危険で、破滅的な状況に導く女;サイレン
 
 いずれの辞書でも、そういう女は一人ではないということを暗示しています。その女が現れると、男たちが(すべてではないとしても)なびくような、そんなイメージか。楊貴妃とかクレオパトラとかの名前が思い浮かびますが、本当かなあ。楊貴妃は玄宗皇帝にとってファム・ファタルであり、クレオパトラはシーザーにとってそうであるということではないでしょうか?
 
 ひとりの男が、その女のために身の破滅を招いてしまう、そういう女のことを指して「ファム・ファタル」と呼ぶのだと思います。つまり、ドン・ホセにとってはカルメンが、ラダメスにとってはアイーダが、そういう女であったということのようです。ものすごい女が、ひとりで何人もの男を破滅させるというのではないでしょう。
 
 『スタンダード仏和辞典』では、
 
 男を破滅させる宿命の女性、妖婦
 
となっています。ここにも出てくる「妖婦」というのはどんな女のことでしょうね? 辞書の執筆者たちの「コワイモノ見たさ」の訳語のような気がします。
 
 いま調べたら、中森明菜のアルバムのタイトルに「ファム・ファタル」というのがあるようです。まさか「運命に翻弄された女」という含意ではなかろうと思いますが。


カメ        カメ        カメ        カメ        カメ