毎年、年末に発表される(2020年は12月23日発表でした)、厚生労働省による放課後児童クラブ(学童保育)の実施状況調査。
令和2年(2020年) 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況 (令和2年(2020年)7月1日現在)
この2020年の実施状況調査は、2015年度に「従うべき基準」(=必ず適合しなければならない基準)として施行された学童保育の職員配置基準(※1)が、2020年度に「参酌基準」(=基準を十分参酌した結果であれば、地域の実情に応じて異なる内容を定めることも許容される基準)に「改正」されてから初めての実施状況調査でもありました。
(※1 ①開所時間を通じて、2人以上の職員を配置、②職員のうち1人は、「放課後児童支援員」の有資格者であることが必要、という内容の厚生労働省令。学童保育では、2015年度になってやっと、法的拘束力のある職員配置基準が施行されたのです。)
学童保育の職員配置基準は、いったん、参酌化はされてしまったけれど。
施行後3年を目途として、放課後児童健全育成事業の適切な実施や、放課後児童健全育成事業の内容・水準の向上を図る観点から検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずる、という内容の「3年後の見直し」についての附帯決議もなされています。
特に、参議院内閣委員会の附帯決議では、放課後児童健全育成事業の見直しに関する検討を行うにあたっての実態調査については「法令に規定された基準」※2に基づく調査を行うこととする内容の附帯決議もなされています。
(※2職員配置基準が、各自治体が「従うべき基準」から「参酌基準」になっても、厚生労働省令としての配置基準の内容が、①開所時間を通じて、2人以上の職員を配置、②職員のうち1人は、「放課後児童支援員」の有資格者であることが必要、であること自体は変わりありません。)
そのため、筆者も、2020年度からの配置基準の参酌化が決定されて以来、参酌化施行後初の、2020年度の「厚生労働省による放課後児童クラブ(学童保育)の実施状況調査」がどのようなものになるかは注目していました(コロナの影響のインパクトが強すぎて、なかなか発信できませんでしたが、、)
上記の背景事情を前提に、2020年度の厚生労働省による実施状況調査を分析してみます。
例えば、放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況【詳細】の調査項目22の、一つの支援の単位あたりの放課後児童支援員等の数の状況
5人以上の放課後児童支援員等がいる「支援の単位」(※3)の割合が増えていたり(2019年41.3%→2020年44.4%)、2人しかいない「支援の単位」の割合が減少している(2019年16.5%→2020年14.5%)一方。
2019年は0%だった(複数職員配置が従うべき基準だったので当然ですが)のワンオペ学童が2020年では、0.4%(「支援の単位」数では145)発生しています。
(※3 支援の単位とは、職員配置や学童保育の規模の基準となる、保育を提供するにあたり適切とされる規模(おおむね40人が適正規模とされています)を示す概念です。一つの学童保育に複数の支援の単位が設置されていることもあります。1クラスしかない学童保育もあれば、複数のクラスがある学童保育もある、とイメージしていただけると良いと思います。)
調査項目の23には、支援の単位ごとの実施規模別配置職員数の状況のデータもありますが。ワンオペ学童(※3の「支援の単位」での判断です。)は、登録児童数が10人以下といったごく小規模なクラブだけでなく、登録児童数が40人以上のクラブにおいても発生しています(登録児童数51人〜60人のやや大規模な支援の単位でも、2カ所で発生。41人〜50人では11カ所、31人〜40人では19カ所で発生しています。)。
40人前後の子どもたちに対して配置職員数が1人のクラブと。5名以上のクラブとでは、そこで遊び生活する子ども達にとっても、働く職員の方にとっても全く別物の場所であろうことは、子どもと関わったことがある方なら、ご理解いただけると思います。
また、参考データとしてですが、支援の単位ごとの実施規模別放課後児童支援員数の状況(有資格者が何人いるかについての、学童保育の規模別データの意味です。)のデータも公表されています。
こちらについても、配置基準が「従うべき基準」だった2019年度のデータでは、当然、「放課後児童支援員を配置していないクラブは、クラブの規模を問わず0」でした(※4)
しかし、2020年度のデータでは。職員配置基準が参酌化されて、有資格者0のところがどの規模でも少しずつ(1〜3%程度)出てきています。
最後に、2019年度は、「放課後児童支援員を配置していないクラブは、クラブの規模を問わず0」(※4)であったことの意味について、補足します。
配置基準が「従うべき基準」だった2015年度から2019年度の5年間は。資格者を1人は必ず配置、という基準が「従うべき基準」ではありましたが、同時に、「放課後児童支援員の資格取得に必要な、放課後児童支援員認定資格研修受講のための経過措置期間」でもありました。
これは、「基礎資格があれは、研修受講未了でも、資格者配置したことにするよ」という経過措置期間中であることを前提とした上での「従うべき基準」だった、ということです(データ上、「放課後児童支援員を配置している」とされていても、その職員が、放課後児童支援員認定資格研修を受講しているとは限らない、ということ。実際、2019年度の厚生労働省の実施状況調査において、経過措置を前提に配置基準上は「放課後児童支援員」と扱われる職員の人数は9万8905人であったのに対し、同年度における「認定資格研修を修了した放課後児童支援員の数」は7万0479人でした。)
放課後児童支援員の資格自体が、2015年度から初めてできた公的な資格ですから、そのような経過措置があること自体は当然なのですが。
「基礎資格があれは、研修受講未了でも、資格者配置したことにするよ」との経過措置期間の中での「従うべき基準」だったのが。経過措置が切れた2020年度から、参酌基準となってしまったので。
「どこの学童保育でも、開所時間を通して、必ず1人は研修受講済みの有資格者がいる」
この状況が保障されていた時期は、実はまだ、一度もありません。
「研修受講済の有資格者が必ず1人はいる」というレベルのことすら、ナショナルミニマムの基準として徹底できていたことが、いまだかつてない。
これが、日本の学童保育の現実であり、厚生労働省による実施状況調査のデータを分析してみても、質の地域格差は相当なものであることも間違いありません。
職員配置基準の参酌化についての「3年後の見直し」までに。
日本の学童保育の上記の現状が、広く知られて欲しいと願っています。