内閣府は、地方分権改革有識者会議・提案募集検討専門部会の提案を受け、放課後児童クラブの職員数や資格を「従うべき基準」から「参酌すべき基準」へと緩和する対応方針を示している旨のニュースが、11月19日に発表され、学童保育関係者に大きな衝撃を与えました。
学童保育(放課後児童クラブ)に配置しなければならない職員の資格や人数についての基準は、過去の記事、指導員ってどんな人? 放課後のおうちの親代わり-放課後児童支援員の資格を考える-でも書いたように、平成27年度に施行されたばかりです(それまでは、学童保育の運営に関しては、ガイドラインがあるのみで、職員の資格についても、配置する職員数についても、法的拘束力のある基準はありませんでした。保育や教育に関する資格を何も持っていない職員が、一人だけで子ども達に対応していても違法ではありませんでした。また、職員の資格や配置する職員数にすら法的拘束力のある基準がなかったくらいですから、面積基準等についても法的拘束力ある基準はありませんでした。)。
それがやっと、職員は、育成支援を行う単位ごとに、最低2人は職員が必要だよね、そのうちの少なくとも1人は、児童期の発達について専門的知識を有する、「放課後児童支援員」じゃないとダメだよね。放課後児童支援員という職員の資格と職員の配置数については、市町村は、「厚生労働省例で定める基準に従って」条例を定めてね(面積基準等の職員の資格と職員の配置数以外の事項については、「厚生労働省例で定める基準を参酌して」定めてね)、という制度(子ども子育て支援新制度)が平成27年度からスタートしたのです。
なお、従うべき基準とは、条例の内容を直接的に拘束する、必ず適合しなければならない基準。
参酌すべき基準とは、市町村が十分参酌した結果であれば、地域の実情に応じて、異なる内容を定めることが許容される基準です。
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2018年11月23日現在、現行の、児童福祉法の該当条文、児童福祉法の34条の8の2は、以下の通りです。
児童福祉法
第三十四条の八の二 市町村は、放課後児童健全育成事業の設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない。この場合において、その基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な水準を確保するものでなければならない。
○2 市町村が前項の条例を定めるに当たつては、放課後児童健全育成事業に従事する者及びその員数については厚生労働省令で定める基準に従い定めるものとし、その他の事項については厚生労働省令で定める基準を参酌するものとする。
放課後児童支援員がどんな資格か簡単に言うと。
保育士や教諭等の保育や教育に関する資格を持っている人や、それらの資格がなくても高卒以上で2年以上学童保育で働いた経験がある人等が、「放課後児童支援員認定資格研修」という都道府県が実施する研修を受講する(受講すれば良く合否の判定はありません。)ことで、「放課後児童支援員」になれますよ、という資格です。
現在、放課後児童クラブの職員数や資格については、「従うべき基準」なので、どの自治体でも、「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」の職員に関する基準はクリアした条例を制定しているはずです。 放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準 (職員) 第十条 放課後児童健全育成事業者は、放課後児童健全育成事業所ごとに、放課後児童支援員を置かなければならない。 2 放課後児童支援員の数は、支援の単位ごとに二人以上とする。ただし、その一人を除き、補助員(放課後児童支援員が行う支援について放課後児童支援員を補助する者をいう。第五項において同じ。)をもってこれに代えることができる。 3 放課後児童支援員は、次の各号のいずれかに該当する者であって、都道府県知事が行う研修を修了したものでなければならない。 (1号から10号は省略)
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放課後児童支援員は、平成27年度以前には存在しなかった資格なので、学童保育で現に働いている方達が研修受講をするための経過措置として、平成31年度末までは、保育士や教諭等の保育や教育に関する資格を持っている人や、それらの資格がなくても高卒以上で2年以上学童保育で働いた経験がある人がいれば、まだ研修を受講していなくても、放課後児童支援員を配置しているという基準を満たしていることにするよ、という趣旨の経過措置も設けられました。
それが。まだ経過措置期間も経過していないうちに。
現行の基準の内容を「参酌すべき基準」とする旨の方針が示されてしまいました。
冒頭に、「内閣府は、地方分権改革有識者会議・提案募集検討専門部会の提案を受け」と書いたように、放課後児童支援員に関する従うべき基準の参酌化の流れは、地方からでてきました。
平成29年8月に、地方三団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)から、放課後児童クラブの「従うべき基準」の参酌基準かを求める地方分権提案がなされていました。そして、同年12月には、「平成29年地方からの提案等に関する対応方針」(平成29年12月26日閣議決定)として、放課後児童支援員の資格やその員数に係る「従うべき基準」について、「子どもの安全性の確保等一定の質の担保をしつつ地域の実情等を踏まえた柔軟な対応ができるよう、参酌化することについて、地方分権の議論の場において検討し、平成30年度中に結論を得る。その結果に基づいて必要な措置を講ずる。」とされていました。
その結果、「放課後児童健全育成事業に従事する者及びその員数に係る「従うべき基準」については、現行の基準の内容を「参酌すべき基準」とする。 」「施行後3年を目途として、その施行の状況を勘案し、放課後児童 健全育成事業の質の確保の観点から検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる。」とする旨の閣議決定が来月、2018年12月になされる見込みとなりました(その後、児童福祉法や放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準の改正がなされる見込みです。お住まいの自治体で実際に規制緩和がされてしまうかは、児童福祉法等の改正後に、各地方自治体が条例を改正するかどうかによります。 )。
現在、最低2人の員数も参酌化するということは、「地域の実情」によっては、職員が一人で子ども達に対応する、いわばワンオペによる学童保育をも許容されうることになってしまいます。
ですが、職員1人のワンオペでは、子どもの安全性の確保等一定の質の担保をはかることは無理です。
ワンオペでは学童保育の安全は担保できない!という声は、現場の支援員さんや保護者等からも多く上がっています(Twitterでの声をまとめた、ワンオペ学童保育で心配なことをご覧ください。)
地方分権、地方の実情に応じてというと良いことに聞こえますが、特に、住む自治体を自分で選べない子ども達が受ける、保育や教育の分野における地方の実情に応じた地方の裁量は、最低基準はクリアした上のことであると思います。「複数の大人が必ずいる」「そのうちの一人は有資格者である」というのは、本当に、ぎりぎりの最低基準ではないでしょうか。
最後に、(学童保育分野の意見書ではありませんが、)日本弁護士連合会の、地域主権改革に関し、保育、教育の保障の観点から、慎重かつ徹底した審議を求める意見書を紹介して、今回の記事を終えたいと思います。