弁護士aiko
の破産の話2
で、同時廃止について、下記のように説明しました。
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『破産手続の費用』が(通常管財事件と比較すれば)少額で済む少額予納管財事件の場合でも、20万円+官報公告費用は予納金として納めなければなりません。
債務者に本当にお金が無くて、そんな予納金も出せない、と言う場合には、債務者の財産の換価や配当もできないわけで、破産手続を進めても、総債権者の利益にはなりません。破産手続を続行する実益がないのです。
その場合、破産管財人が選任されないことがあります。
破産管財人が選任されない場合は、破産手続開始決定が出たと同時に、破産手続について廃止決定をします(同時破産手続廃止)。同時破産手続廃止のことを、以下では、同時廃止、と言って説明します。』
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でも実は、この同時廃止の手続は、「世界に例をみない日本独自の手続」(少額管財手続の理論と実務・35頁)なのです。
破産の目的は、『債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ること』(破産法1条)です。
その破産の目的からすれば、本当に破産者に財産が無いかどうか、少しでも配当を受けることができないのかについて、管財人の調査を経ないで破産手続を終わってしまう同時廃止というのは、非常に特異な制度といえるのです。
旧破産法(対象11年法律第71号)にも、同時廃止の規定(旧破産法145条)は置かれていたのですが、大正12年1月1日に施行されてから、長い間、同時廃止は行われていませんでした。昭和27年に免責制度が導入されても、その傾向に変化はありませんでした。
しかし、昭和40年代以降、消費者金融が広く行われるようになり、事業者ではない、消費者が多重債務に陥るという病理現象が発生します。
多重債務に陥った消費者の救済のため、昭和50年代に入ってからは、同時廃止及び免責の積極的な運用を求める動きが弁護士の中からありました。
少額予納管財事件の手続がまだ無かった当時、『破産管財人の費用として最低でも50万円の予納が求められるうえ、一定の家財道具まで換価されるなど換価基準が厳しく、また、管財手続が終了するまで免責手続を開始しない運用であったため、免責決定まで1年以上の期間を要していたことから、事業者ではない消費者の倒産処理制度としては、債務者の負担が過重であり、消費者保護という課題の対処としては、およそ十分な役割を果たせない状況』(講座倒産の法システム第2巻174頁)だったのです。
そこで、弁護士の職業倫理に対する信頼を前提として、消費者破産の急増に対処するための、緊急避難的な措置として、同時廃止制度の運用が拡大していきました。
その後、同時廃止&免責の運用は全国的に定着し、破産事件の件数の中で同時廃止の占める割合から見れば、同時廃止はむしろ原則的な処理方法となっていきました。
しかし、一方で管財人による第三者的立場のチェックがないことによる弊害もでてきます。
管財人がつかず、転送郵便物の調査(管財事件になると、破産者宛の郵便物は管財人に転送されます。)も行われない同時廃止では、財産の記載漏れが多い杜撰な申立て、あるいは、否認対象行為があるのにそのことを説明しないままでの申立てがあっても、見落とされてしまう可能性が高くなってしまいます。
破産者が、実は報告してない財産あったけど、ばれずに免責ゲット!隠匿した財産確保!とか。
債権者の1人が、実は自分だけ全額返してもらってたんだけど、管財人が選任されなかったから、否認されなかった、ラッキー♪
という事態になれば、モラルハザードを招くおそれが生じます。
このような同時廃止が原則化したことによる弊害に対応するため、平成11年4月から東京地裁破産再生部において運用が開始されたのが少額管財手続です。管財業務の簡素化を図ることによって、20万円の予納金により破産管財事件の申立を受理する手続です。
ちなみに、名古屋では、平成16年4月から少額管財の運用が開始されています。
(裁判官、裁判所書記官や弁護士の人数の地域差もあって、同じ破産法を適用していても、破産事件の運用面では、結構地域ごとで差異があったりします。)
破産事件を同時廃止、少額管財、通常管財にどう振り分けていくかの基準の整備は、破産事件の状況に合わせて、これからも変化していくでしょう。
参考文献
講座 倒産の法システム第2巻
少額管財手続の理論と実務