弁護士aiko の破産の話3 では、『否認権』を行使しうる事情があるために、破産手続開始決定の時点では破産者が現に財産を有していなくても、同時廃止とはならず、管財事件(少額予納管財事件ないし通常管財事件)とされる場合についてお話ししました。



今回は、『免責不許可事由』がある(ありそうな)ために、破産手続開始決定時に破産者に財産が無くても、同時廃止ではなく、少額予納管財事件とされる場合についてお話しします。





借金の原因がほとんどギャンブルや浪費だったりすると、免責にならないこともありうる、という話は聴いたことがある方も多いと思います。




破産法252条1項は、『裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする』と定め、1号から11号までで、免責不許可事由を定めています。つまり、免責不許可事由に該当さえしなければ、必ず免責になるよ、と言う規定です。


免責の根拠は、「誠実な破産者に対する特典」とか「不誠実ではない破産者に対する経済的更生の手段」とか言われています。




免責不許可事由は、免責の根拠が妥当しない場合…債務者の不誠実性を示す定型的な行為がある場合を列挙したものなんですね。破産法252条1項1号から11号までの免責不許可事由は、その性質に応じて以下のように分類されています。



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① 破産者が意図的に破産債権者を害するべくなしたとみなされる以下の財産上の行為

 ア 詐害目的での破産財団の価値を不当に減少させる行為(252①(1))

 イ 手続遅延目的での不当な債務負担行為(同(2)) 

 ウ 不当な偏頗行為(同(3)) 

 エ 浪費、賭博その他の射倖行為(同(4)) 

 オ 詐術による信用取引(同(5)) 

② 破産者による、破産債権者を害する以下の手続き上の意図的な行為

 ア 帳簿等の隠滅、偽造、変造行為(同(6)) 

 イ 虚偽の債権者名簿の提出行為(同(7)) 

③ 破産手続上または免責手続上の義務を怠り、手続を妨害する以下の行為

 ア 裁判所に対する破産手続上の説明義務違反(同(8)) 

 イ 破産管財人等に対する不正な手段による職務妨害行為(同(9)) 

 ウ 破産手続き上または免責手続き上の義務違反行為(同(11)) 

④ 免責制度の政策的目的から定められた事由

  免責許可の申立が免責許可決定の確定、または民事再生法による免責の確定から7年以内であること(同(10)) 

(条解 破産法1541頁より引用)

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じゃあ、免責不許可事由に該当すると、もう免責不許可で決まりかと言えば、そんなことはありません。




破産法252条2項は、『前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認める時は、免責許可の決定をすることができる。』と定めています。免責不許可事由があるけれど、免責許可決定をする場合については、裁量免責、といわれています。




でも、管財人が選任されない同時廃止では、どの程度の免責不許可事由があるのか、免責不許可事由があっても、裁量免責にできるだけの事情があるかどうかの判断するための資料が、ほとんど破産者サイドの自己申告に基づく資料ってことになります。



同時廃止の場合でも、「免責意見申述期間」という、債権者が破産者の免責について意見を述べるための期間が設けられるのは管財事件と同様なので、債権者が免責についての意見申述をすることはできます(破産法252条1項、2項)。できますが…



債権者が、破産法の免責不許可事由について精通しているわけではないし、破産者に免責不許可事由があったとしても、債権者が適切な情報を持っているとは限らない。

例えば「破産者が借りたお金を何にいくら使ったのか」といった事実に関する具体的な情報を、債権者が持っているとは限らない訳です。



免責不許可事由がある(ありそうな)場合、破産者サイドの自己申告+債権者からの意見申述だけでは、裁量免責についての判断を適正に行うことが難しい。



そこで、そのようなケースでは、破産管財人に、第三者的観点から、免責に関する調査をさせる必要があります。


破産法250条1項では、裁判所は、破産管財人に、免責不許可事由の有無や裁量免責すべきかの判断にあたって考慮すべき事情についての調査をさせ、書面で提出させることができることを定めています。



そして、破産法250条2項では、破産者に、破産管財人が行う免責についての調査について協力する義務(調査協力義務)があることが定められています。この調査協力義務に違反することも、免責不許可事由にあたります(破産法252条1項11号)。


破産管財人が選任される管財事件であれば、「もし、破産管財人の調査に協力しないと、いま問題になっている免責不許可事由(例:浪費、賭博等)の他に、調査に協力しなかったことも免責不許可事由になっちゃいますよ。」という状態で、破産管財人が第三者的立場で免責についての調査ができることになります。



この破産管財人の調査を経ることで、免責に関する判断の適正さを担保するわけですね。


債務者に財産がないのも否認権を行使しうる事情もないのも分かったけれど、この債務者は免責不許可事由があるから、免責について調査させるために管財事件(少額予納管財事件)にしますね、という類型の管財事件が、免責観察型とよばれる管財事件です。


なお、252条1項各号の免責不許可事由のうち、1号の詐害目的での財産の不利益処分や、3号の不当な偏頗行為がある場合は、弁護士aikoの破産の話3 でお話しした、否認権を行使しうる事情があるために管財事件(少額予納管財事件ないし通常管財事件)となるケースと被ってきます。



また、破産手続上の義務違反が問題となる免責不許可事由(8号、9号、11号)は破産手続開始の申立てをしてからの話。



ですので、お金もなくて、否認権の行使が問題となる事情もないけれど、はっきりした免責不許可事由があるので、少額予納管財事件として申立てましょうというケースの典型例は、借金の原因が浪費やギャンブルの場合(4号)や、もう支払不能の状態にあることは重々分かっているのに、それを隠して多額の借入を行った(5号)、といったケースになってきます。



ちなみに、免責観察型の管財事件があることは、免責不許可事由のある債務者にとってプラスな面もあります。



裁量免責にプラスに働く事情として、『破産管財人の求める調査に誠実に回答した、破産手続に真摯に協力した』、というのが結構大きなウェイトを占めるのですが、同時廃止の場合だと、破産手続開始決定と同時に破産手続が終わってしまうので、破産手続開始決定後の、破産者にとって有利な事情を加味して裁量免責について判断することができません。



免責観察型の管財事件があることで、破産手続開始決定後も、「破産管財人の調査に誠実に協力する」という、裁量免責に有利に働く事情、誠実性を示す事情を作ることができるんですね。



今回は、免責観察型の管財事件について、教科書的なところを書きました。浪費やギャンブルを原因とする破産に関しては、個人的に思うところもありますので、私の個人的なつぶやきもそのうち書いてみたいな、と思います。