『源氏物語』第六帖「末摘花」~第4章~ | 【受験古文速読法】源氏物語イラスト訳

『源氏物語』第六帖「末摘花」~第4章~

 

末摘花③【光源氏18歳:末摘花の容貌】

 

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 二条の院におはしたれば、紫の君、いともうつくしき片生ひにて、「紅はかうなつかしきもありけり」と見ゆるに、無紋の桜の細長、なよらかに着なして、何心もなくてものしたまふさま、いみじうらうたし。古代の祖母君の御なごりにて、歯黒めもまだしかりけるを、ひきつくろはせたまへれば、眉のけざやかになりたるも、うつくしうきよらなり。「心から、などか、かう憂き世を見あつかふらむ。かく心苦しきものをも見てゐたらで」と、思しつつ、例の、もろともに雛遊びしたまふ。

 絵など描きて、色どりたまふ。よろづにをかしうすさび散らしたまひけり。我も描き添へたまふ。髪いと長き女を描きたまひて、鼻に紅をつけて見たまふに、画に描きても見ま憂きさましたり。わが御影の鏡台に映れるが、いときよらなるを見たまひて、手づからこの赤鼻を描きつけ、にほはして見たまふに、かくよき顔だに、さてまじれらむは見苦しかるべかりけり。姫君、見て、いみじく笑ひたまふ。

「まろが、かくかたはになりなむ時、いかならむ」とのたまへば、
「うたてこそあらめ」
とて、さもや染みつかむと、あやふく思ひたまへり。そら拭ごひをして、
「さらにこそ、白まね。用なきすさびわざなりや。内裏にいかにのたまはむとすらむ」
と、いとまめやかにのたまふを、いといとほしと思して、寄りて、拭ごひたまへば、
「平中がやうに色どり添へたまふな。赤からむはあへなむ」
と、戯れたまふさま、いとをかしき妹背と見えたまへり。

 日のいとうららかなるに、いつしかと霞みわたれる梢どもの、心もとなきなかにも、梅はけしきばみ、ほほ笑みわたれる、とりわきて見ゆ。階隠のもとの紅梅、いととく咲く花にて、色づきにけり。

「紅の花ぞあやなくうとまるる梅の立ち枝はなつかしけれど
 いでや」

と、あいなくうちうめかれたまふ。
 かかる人びとの末々、いかなりけむ。

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末摘花240】若紫の紅色

末摘花241】若紫の装束

末摘花242】お歯黒

末摘花243】心から

末摘花244】絵など描く

末摘花245】わが御影

末摘花246】姫君見て

末摘花247】そら拭い

末摘花248】平中墨塗譚

末摘花249】梅も色づき

末摘花250】末摘花〈完〉

 

 

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