「インディアンとカジノ」野口久美子著 読了 | 52歳で実践アーリーリタイア

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52歳で早期退職し、自分の興味あることについて、過去に考えたことを現代に振り返って検証し、今思ったことを未来で検証するため、ここに書き留めています。

 

 

 

<概要>

ラスベガスを超える収益を上げていると言われるインディアン(※)保留地における「インディアンカジノ」について、北米アメリカ大陸先住民インディアンとアメリカ合衆国独立から現代に至るまでの歴史を俯瞰しつつ、インディアンがカジノ経営に至ったその軌跡を紹介した新書。

 

※インディアン:インディアンはネイティブアメリカンとも言われますが、そもそも先住民たるインディアンが他の移民たちと同等に「なんとかアメリカン」と呼ばれること自体がインディアン自身違和感ありということで、自分達の呼称をあえて「インディアン」とすることで彼らが被ってきた植民地主義とそれに対する抵抗の象徴として一般化された呼称。したがって差別的呼称ではないそうです。ちなみにカナダでは「ファースト・ネイションズ」と呼ぶとのこと(第1章第1節「インディアンの呼称」より)

 

<コメント>

我々現代人社会の基盤となっている「近代国家」共同体は、「想像の共同体」として民族概念とセットで育まれてきた共同体ですが、さて先住民族や少数民族はそれぞれの近代国家においてどのような位置づけになっているのか。

 

更に、アメリカにおける生々しい政治家の生態をテーマにしたアメリカの人気ドラマ「ハウスオブカード」の

 

 

シーズン2で登場するインディアンカジノの巨大な資金力と政治力に興味を持ち、本書を手に取りました。

 

読んでみるとこれが実に面白い。

 

通常、共同体の「支配と被支配」の関係は暴力(戦争)によって力の強い共同体が力の弱い共同体を支配し「勝てば官軍、負ければ賊軍(または消滅)」という関係になるのが歴史の原則でありますが、北米における西洋人とインディアンの関係も全く同じ。

 

一応アメリカ連邦政府は当初「アメリカの良心」と著者が表現している如く、先住民の土地所有権を認め主権国家としての権利を一応承認していました。

 

アメリカ独立宣言(1776年)から50年後ぐらい、つまり1832年に最高裁判事ジョン・マーシャルは、インディアン部族の政治的地位に関して、部族との関係は連邦政府(州政府ではない)にあって、部族は「国内依存国家」という固有の政治的立場を持つと規定したのです(第2章第2節アメリカの建国)。

 

そして

 

”アメリカはインディアンからある種の「前金」として引き渡された広大な土地に対して条約で規定された内容を施行するという大きな義務を負うという。その義務とは、保留地の保護、部族自治の尊重、年金などの物質的支援特に保留地の土地について、アメリカをそれを「信託管理」し、第3者の土地の売買から保留地を守り、かつ部族の独占的な使用のために維持する義務を負う。マーシャルは、これこそがアメリカの信託責任であるとした(同上)”

 

ところが、マーシャルの示したインディアンとアメリカの国家同士の関係は、インディアンにとっての悪名高き第7代大統領アンドリュー・ジャクソンによる「インディアン強制移住法(1830年)によって反故にされてしまいました。

 

日本(38万平米キロ)と同規模の40万平方キロという膨大な土地を奪われ、その3分の1の保留地(13万平方キロ)に移住させられてしまったのです(反抗した場合は武力解決)。しかもその保留地は農地に適さない痩せた土地で、インディアンカジノが隆盛するまでインディアンはずっと貧困に喘いでいたのです。

 

このようにアメリカの先住民政策は、条件の悪い土地に先住民を押し込める隔離政策ですが、戦前の日本同様の同化政策(文化的破壊)も一部採用されていたらしい。

 

 

この同化政策は1882年位設立されたインディアン権利協会が「インディアンはアメリカ人化することこそインディアンを救う唯一の道」という信念のもと、1887年成立のドーズ法によってまずは保留地を再編成して56万平方キロの土地を割り当て後、25年間の猶予のうちにアメリカ人になってくださいねということで、25年後に保留地を消滅させるべく、その間にどうか教育などでインディアンを白人と同じアメリカ人に仕立てようとしました。ところが割当てられた土地は悪質で農地にむかず、同化政策もインディアンたちは馴染めずに失敗し、土地は20万平方キロまで減少。

 

この実態を明らかにしたのが政府系シンクタンクのブルッキングス研究所が1928年刊行した「メリアム報告書」。この報告書をきっかけに連邦政府はニューディール政策の一貫として1934年に「インディアン組織法」を可決し、マーシャルの理念に近い法律が復活して保留地における一定の自治が実現したのでした。

 

「保留地は、当該州の州法で制御されずに独自の自治法を持つ」というのがポイント。

 

この権利は戦後も継続され、1970年代の公民権運動と連動したレッドパワー運動(インディアンの差別をなくす運動)とも相まってインディアンの地位向上や教育の浸透によりインディアン自身による経済的自立を目指して、州法適用外という保留地の特権を逆手に取り、たばこ販売などのタックスフリービジネスや、州政府の許可が必要なカジノ運営に活路を見出したというわけです。

 

特にカリフォルニア州内の保留地は、市街地から車で1〜2時間離れていて、かつ近隣の自治体から適度に離れているという立地がカジノ運営にぴったりだったという幸運も重なり、インディアン達はカジノで大成功したのです。

 

そんなこんなで、インディアンカジノ全体の収益はなんと3.6兆円!!(2018年、前年比4.1%増)。

 

(道理で海外ドラマ「ハウスオブカード」の共和党への献金関連でカジノ運営の有力インディアンが登場するわけです)

 

インディアン部族セミノール、カバゾン、フォーロモハブ、キャッシュクリークなど24州108部属がすでにカジノを持っているそうです。

 

 

ハードロックカフェもインディアンカジノを運営するセミノール部族が買収し、フロリダ州ハリウッドに巨大なギター型ホテルを中心としたカジノリゾートを展開

 

 

カジノ収益は、インディアンアイデンティティを復活させるべく、インディアンをモチーフにしたロゴ権利の保護や博物館・図書館の設立や言語教育などにも活用されているそうです。

 

なお、インディアン視点でケヴィン・コスナー主演監督の1990年アカデミー賞作品賞受賞映画「ダンス・ウィズ・ウルブズ」

 

 

 

をみると結構トンチンカンらしい。映画ではインディアン社会の極端に美化した社会が描かれていてリアリティーに欠け「なんてちぐはぐな映画なんだ」という感想だそう。

 

また、最近ブラックライブズマター運動がきっかけで、アメリカンプロフットボールチームの「ワシントンレッドスキンズ」の名称変更が話題

 

 

になっています。

 

ただインディアン達の中では賛否両論で、あるインディアン活動グループは「差別的」として連邦裁判所に訴訟を起こした結果、1998年商標登録のみ無効と裁判所が判断。

 

一方でインディアンをモチーフとするロゴやマスコットが「民族的な誇り」であるとしてインディアン達の間で人気を博しているという実態もあるらしい。

 

以上、コロナ問題でカジノも苦戦しているとは思いますが、本書はインディアン達の実態が新書でよく理解できる良書です。