【あらすじ:映画.comよりの引用(→☆)】
柳田桐子(倍賞千恵子)は高名な弁護士 大塚欽三(滝沢修)の法律事務所を今日も訪れた。だが、多忙を理由(実際には高額の弁護料が払えまいと足元を見られ)、返事は冷たい拒絶の言葉であった。
熊本の老婆殺しの容疑者として誤認逮捕され起訴された兄 正夫(露口茂)のためにわざわざ上京して足を運んだ桐子は、貧乏人のみじめさを思い知らされた。
「兄は死刑になるかも知れない!」と激しく言い寄った桐子の言葉を、何故か忘れられない大塚は、愛人 河野径子(新珠三千代)との逢瀬にも、この事件が頭をかすめた。
熊本の担当弁護士から書類をとり寄せた大塚は、被害者の致命傷が後頭部及び前額部左側の裂傷とあるのは、犯人が左利きではなかったかという疑問にとらわれた。 (桐子の兄の正夫は右利き。) この疑問は大塚の頭の中で雲のように広がった。
。
桐子は、径子を現場から立ち去らせた後、健一の死体の側にあった径子の手袋を残し、健一の同郷の不良仲間の友人であった山上(河原崎次郎)のライターをバッグに締まった。
翌日、桐子は担当検事の島田に「大塚から偽証を迫られ、暴行された」と処女膜裂傷の診断書をそえて訴えた。いまや大塚は完敗した。
九州に向う連絡船上、桐子は山上のライターを海に向かって放り投げた。
山田洋次監督というと、フーテンの寅さん「男はつらいよ」シリーズと喜劇映画のイメージが強いが、松本清張原作/橋本忍脚本で、こんなにダークでハードな映画を昔撮っていたのかと素直に驚いてしまう。しかも、主演の(アンチ)ヒロイン役は、寅の健気な妹「さくら」の倍賞千恵子だ。
この倍賞千恵子演じる桐子が怖いのだ。桐子に復讐される大物弁護士 大塚は、別に悪徳弁護士な訳ではない。高名な弁護士という社会的名声・地位を得て、得意になっている面はあるのかもしれないが、人間誰しもそうなりがちだろう。むしろ弁護士としての手腕がとても優秀だからこそ、それだけの高額取りな弁護士になれたのだと思われる。
そんな大塚が多忙を理由に、弁護料を払えない(であろう)桐子の依頼を断ったのも、あながち大塚を責めることは出来ない。しかし、桐子は違った。大塚が弁護してくれなかったが故に、兄は死刑判決を受け獄中で病死するに至ったと決めつけた。
そこからの桐子の執念の復讐は凄まじい。そんなことをしても死んだ兄は帰って来ないのにと思うのだが、桐子が復讐の手を緩めることはない。げに恐ろしきは女の執念なり。虫をも殺さぬ「さくら」倍賞千恵子が演じているので、その怖さは2倍にも3倍にも感じられる。
松本清張原作、橋本忍脚本、山田洋次演出、倍賞千恵子主演の完璧なカルテットによるミステリー/サスペンス映画の傑作である。
【スタッフ、キャスト等】
監督:山田洋次
脚本:橋本忍
原作:松本清張の同名小説(1961)
音楽:佐藤勝
撮影:高羽哲夫
美術:梅田千代夫
キャスト:
柳田桐子(倍賞千恵子)
大塚欽三(滝沢修)
阿部幸一(近藤洋介)
河野径子(新珠三千代)
杉田健一(川津祐介)
柳田正夫(露口茂)
信子(市原悦子)
山上(河原崎次郎)
島田検事(内藤武敏)
上映時間:1時間51分
日本公開:1965年5月28日
鑑賞日:2018年9月6日
場所:新文芸坐(池袋)
【橋本忍脚本映画リスト】
・題名の後の氏名は、共同脚本執筆者 氏名記載無き場合は、橋本忍単独脚本
(01)黒澤明「羅生門」(1950)黒澤明
(03)黒澤明「生きる」(1952)黒澤明、小國英雄
(10)黒澤明「七人の侍」(1954)黒澤明、小國英雄
(19)黒澤明「蜘蛛巣城」(1957)黒澤明、小國英雄、菊島隆三
(29)黒澤明「隠し砦の三悪人」(1958)黒澤明、小國英雄、菊島隆三
(34)松林宗恵「ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐」(1960)国弘威雄
(35)中村登「いろはにほへと」(1960)国弘威雄
(47)岡本喜八「侍」(1965)
(49)山田洋次「霧の旗」(1965)
(53)小林正樹「上意討ち 拝領妻始末」(1967)
(55)森谷司郎「首」(1968)
(60)黒澤明「どですかでん」(1970)黒澤明、小國英雄
(65)森谷司郎「日本沈没」(1973)
(66)野村芳太郎「砂の器」(1974)山田洋次
(69)森谷司郎「八甲田山」(1977)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180910/01/451skibaka7440/5c/7b/j/o0768108014263287701.jpg?caw=800)
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