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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

複数の公務員が国又は公共団体に対して連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う場合・大分県公立学校の平成19年度採用に係る試験事件第2次上告審

 

 

              求償権行使懈怠違法確認等請求及び共同訴訟参加事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成31年(行ヒ)第40号

【判決日付】      令和2年7月14日

【判示事項】      複数の公務員が国又は公共団体に対して連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う場合

【判決要旨】      国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が,その職務を行うについて,共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき,国又は公共団体がこれを賠償した場合においては,当該公務員らは,国又は公共団体に対し,連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う。

             (補足意見がある。)

【参照条文】      国家賠償法1-2

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集74巻4号1305頁

 

 

 1 事案の概要

 大分県教育委員会(以下「県教委」という。)の職員らは,教員採用試験において受験者の得点を操作するなどの不正(以下「本件不正」という。)を行い,大分県(以下「県」という。)は,これにより不合格となった受験者らに対して損害賠償金を支払った。本件は,県の住民である原告らが,被告県知事を相手に,地方自治法242条の2第1項4号に基づく請求として,本件不正に関与したAらに対する求償権に基づく金員の支払を請求すること等を求める住民訴訟である。

 第1次第2審は,本件不正が発覚する前に退職していたAが本件不正発覚後に退職手当返納命令を受けて退職手当全額を返納していたところ,これに相当する額についてAらに対する求償権を行使しないことを違法とは評価できないと判断した。第1次上告審(最高裁判決平成29年9月15日集民256号77頁,判タ1445号76頁)は,上記の第1次第2審の判断には法令の違反があるとしてこれを破棄し,求償権の行使が制限されるべきか否かについて更に審理を尽くさせるため,原審に差し戻した。

第2次第2審は,この点について,求償権の行使は制限されないとしたが,不正に関与した公務員らの間でそれぞれの職責及び関与の態様等を考慮した分割債務になるとして,Aに対し,求償義務全体の4割に相当する金額の支払を請求すべきものとした。本判決は,第2次上告審として,求償権に係る債務が分割されるか否かという点について判断した。

 2 事実関係等の骨子

 (1) 大分県公立学校の平成19年度採用に係る試験(以下「平成19年度試験」という。)が実施された当時,小・中学校教諭等の教員採用試験の事務は県教委の義務教育課人事班が担当し,その合否の決定は教育長が行っていた。県教委には,教育長を補佐し義務教育部門を統括する教育審議監が置かれていた。

 平成19年度試験の当時,Aは教育審議監,Fは義務教育課長,Eは人事班主幹であった。

 (2) Aは,特定の受験者を平成19年度試験に合格させてほしいなどの相当数の依頼を受け,Eに対し,Aが選定した者を合格させるよう指示した。この指示の中には,Aが,賄賂を収受して依頼を受けたことによる指示もあった。

 Fは,上記依頼のほかにも相当数の同様の依頼を受け,Eに対し,Fが選定した者を合格させるよう指示した。

 Eは,上記の各指示を受け,受験者の得点を操作した上で教育長に合否の判定を行わせ,上記各指示に係る受験者を合格させた。

 Aは,義務教育課長等に対する不正な依頼があることを知りながら,F及びEによる不正を是正しなかった。

 (3) 県は,平成22年12月,和解に基づき,平成19年度試験において本件不正により不合格とされた者のうち31名に対し,総額7095万円の損害賠償金を支払った。

 3 原審の判断等

 (1) 第2次第2審は,Aが県に対して負う求償債務が分割されるか否かについて,以下のとおり説示して,Aは県が平成19年度試験に係る損害賠償として支払った金額の4割を負担すべきものとした。

 AはF及びEと共同して,その職務を行うについて,平成19年度試験に係る本件不正を故意に行ったものであり,本来合格していたにもかかわらず不合格となった受験者に対しては上記両名と連帯して賠償責任を負うが,国家賠償法1条1項は代位責任の性質を有することからすると,同条2項に基づく求償権は実質的には不当利得的な性格を有し,求償の相手方が複数である場合には分割債務となると考えられるから,上記3名は県に対し分割債務を負うと解するのが相当である。そして,平成19年度試験に係る本件不正が行われた当時の上記3名の職責及び関与の態様等を考慮すると,県は,平成19年度試験に係る損害賠償として支払った金額について,Aにつき4,Fにつき3.5,Eにつき2.5の割合による求償権を取得するとするのが相当である。

 なお,第2次第2審の認定によると,Fについては破産手続が開始されて終結し,免責許可決定がされており,Eは死亡し,相続財産が存在しなかったというのであり,F及びEに対して支払請求をしても,弁済を受けることが期待できない状況にあったことがうかがわれる。

 (2) 論旨は,第2次第2審は,国家賠償責任を代位責任であると解したのであるから,国又は公共団体は,公務員が本来被害者に対して負うべき法的責任に基づいて求償することができ,公務員が被害者に対して本来共同不法行為責任を負う場合には,求償権に係る債務は分割されず,不真正連帯責任になると解すべきであるのに,第2次第2審には,そのように解さなかった法令違反があるという。

 4 本判決の概要

 第三小法廷は,判決要旨のとおり判断し,その理由として,国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が,その職務を行うについて,共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき,国又は公共団体がこれを賠償した場合には,当該公務員らは,国又は公共団体に対する関係においても一体を成すものというべきであり,当該他人に対して支払われた損害賠償金に係る求償債務につき,当該公務員らのうち一部の者が無資力等により弁済することができないとしても,国又は公共団体と当該公務員らとの間では,当該公務員らにおいてその危険を負担すべきものとすることが公平の見地から相当であることを挙げた。

 本判決は,公務員が共同して故意によって違法に他人に損害を加えた場合について判示したものであり,重過失にとどまる場合などについては,今後の議論に委ねられたものと考えられる。

 

 

国家賠償法

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 

 

電話傍受事件・平成11年法律第138号による刑訴法222条の2の追加前において検証許可状により電話傍受を行うことの適否

 

 

              覚せい剤取締法違反、詐欺、同未遂被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/平成9年(あ)第636号

【判決日付】      平成11年12月16日

【判示事項】      平成11年法律第138号による刑訴法222条の2の追加前において検証許可状により電話傍受を行うことの適否

【判決要旨】      平成11年法律第138号による刑訴法222条の2の追加前において、捜査機関が電話の通話内容を通話当事の同意を得ずに傍受することは、重大な犯罪に係る被疑事件について、罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、他の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存し、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認めらる場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状によって実施することが許されていた。

             (反対意見がある)

【参照条文】      憲法13

             憲法21-2

             憲法31

             憲法35

             刑事訴訟法128

             刑事訴訟法129

             刑事訴訟法179-1

             刑事訴訟法218-1

             刑事訴訟法218-3

             刑事訴訟法218-5

             刑事訴訟法219-1

             刑事訴訟法222-1

             刑事訴訟法222の2

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集53巻9号1327頁

 

 

憲法

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 

第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

 

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

② 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

 

 

刑事訴訟法

第十章 検証

第百二十八条 裁判所は、事実発見のため必要があるときは、検証することができる。

第百二十九条 検証については、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる。

 

第十四章 証拠保全

第百七十九条 被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第一回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。

② 前項の請求を受けた裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

 

第二百十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

② 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。

③ 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。

④ 第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。

⑤ 検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。

⑥ 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。

 

第二百二十二条 第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。

② 第二百二十条の規定により被疑者を捜索する場合において急速を要するときは、第百十四条第二項の規定によることを要しない。

③ 第百十六条及び第百十七条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条の規定によつてする差押え、記録命令付差押え又は捜索について、これを準用する。

④ 日出前、日没後には、令状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がなければ、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第二百十八条の規定によつてする検証のため、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることができない。但し、第百十七条に規定する場所については、この限りでない。

⑤ 日没前検証に着手したときは、日没後でもその処分を継続することができる。

⑥ 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第二百十八条の規定により差押、捜索又は検証をするについて必要があるときは、被疑者をこれに立ち会わせることができる。

⑦ 第一項の規定により、身体の検査を拒んだ者を過料に処し、又はこれに賠償を命ずべきときは、裁判所にその処分を請求しなければならない。

 

第二百二十二条の二 通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。

 

 

平成十一年法律第百三十七号

犯罪捜査のための通信傍受に関する法律

第二章 通信傍受の要件及び実施の手続

(傍受令状)

第三条 検察官又は司法警察員は、次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に規定する犯罪(第二号及び第三号にあっては、その一連の犯罪をいう。)の実行、準備又は証拠隠滅等の事後措置に関する謀議、指示その他の相互連絡その他当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信(以下この項において「犯罪関連通信」という。)が行われると疑うに足りる状況があり、かつ、他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときは、裁判官の発する傍受令状により、電話番号その他発信元又は発信先を識別するための番号又は符号(以下「電話番号等」という。)によって特定された通信の手段(以下「通信手段」という。)であって、被疑者が通信事業者等との間の契約に基づいて使用しているもの(犯人による犯罪関連通信に用いられる疑いがないと認められるものを除く。)又は犯人による犯罪関連通信に用いられると疑うに足りるものについて、これを用いて行われた犯罪関連通信の傍受をすることができる。

一 別表第一又は別表第二に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるもの(別表第二に掲げる罪にあっては、当該罪に当たる行為が、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものに限る。次号及び第三号において同じ。)であると疑うに足りる状況があるとき。

二 別表第一又は別表第二に掲げる罪が犯され、かつ、引き続き次に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合において、これらの犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。

イ 当該犯罪と同様の態様で犯されるこれと同一又は同種の別表第一又は別表第二に掲げる罪

ロ 当該犯罪の実行を含む一連の犯行の計画に基づいて犯される別表第一又は別表第二に掲げる罪

三 死刑又は無期若しくは長期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪が別表第一又は別表第二に掲げる罪と一体のものとしてその実行に必要な準備のために犯され、かつ、引き続き当該別表第一又は別表第二に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。

2 別表第一に掲げる罪であって、譲渡し、譲受け、貸付け、借受け又は交付の行為を罰するものについては、前項の規定にかかわらず、数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があることを要しない。

3 前二項の規定による傍受は、通信事業者等の看守する場所で行う場合を除き、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内においては、これをすることができない。ただし、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者の承諾がある場合は、この限りでない。

 

 

事案の概要

 一 平成十一年八月に犯罪捜査のための通信傍受に関する法律、いわゆる通信傍受法が成立したが、それまで、捜査機関は、裁判所から検証許可状の発付を得て電話傍受(電話の通話内容を通話当事者双方の同意を得ずに傍受すること)を実施することがあった。本決定は、検証許可状による電話傍受について、最高裁が初めてその適法性を肯定する判断を示したものである。

 本件は、営利目的による覚せい剤の譲渡しの事案である。被告人らの検挙に至る経緯は、次のようなものであった。北海道旭川市の警察は、地元暴力団による組織的、継続的な覚せい剤密売事犯の内偵を進めた結果、組事務所の電話で客から注文を受け、外にいる組員に電話連絡して客との待ち合わせ場所に赴かせ、客に覚せい剤を交付させるという密売方法がとられていることを探知した。そこで、警察は、裁判官に対し、氏名不詳の組関係者の営利目的による覚せい剤譲渡し事件について、組事務所に設置された二台の電話の傍受を検証として行うことを許可する旨の検証許可状を請求した。そして、裁判官は、NTT旭川支店において右二台の電話に発着信される通話内容について検証を行うことを許可する旨の検証許可状を発付した。その検証許可状には、通話内容は覚せい剤取引に関するものに限定すること、また、検証の期間も特定の二日間の一定の時間帯に限ること、さらに、検証の方法として「地方公務員二名を立ち会わせ、対象外と思料される通話内容については、スピーカーの音声遮断及び録音中止のため、立会人をして直ちに分配器の電源スイッチを切断させる」旨がそれぞれ記載されていた。警察は、検証許可状に基づき電話傍受を実施したところ、本件の客と被告人との間の覚せい剤売買に関する通話等を傍受し、その結果、客と被告人及び共犯者を検挙するに至った。

 二 弁護人は、一審及び控訴審で、電話傍受は違憲・違法な強制処分であって許されず、本件検証許可状による電話傍受も違憲・違法なものであるから、右電話傍受の関連証拠は違法収集証拠として排除されるべきであると主張した。

これに対し、一審判決(旭川地判平7・6・12判時一五六四号一四七頁)及び控訴審判決(札幌高判平9・5・15本誌九六二号二七五頁)は、いずれも、弁護人の違憲・違法の主張を排斥して、被告人を有罪と認めた。

 弁護人は、上告趣意書においても違憲・違法の主張をしたが、その中で、本件当時電話傍受を捜査の手段として許容する法律上の根拠はなかったとして、刑訴法一九七条一項ただし書の強制処分法定主義違反を強調し、その関連で憲法三一条(適正手続の保障)、三五条(令状主義)違反、さらには、憲法一三条(プライバシーの保護)、二一条二項(通信の秘密)違反が存する旨を訴えた。

 本決定が、違憲主張の前提となる強制処分法定主義違反の有無を中心にした判断を示しているのは、弁護人の右のような主張に対応しているものと思われる。本決定は、元原裁判官の反対意見があるものの、三名の裁判官の多数意見により、本件当時電話傍受を法律に定められた強制処分の令状(検証許可状)により行うことが許されていた旨の判断を示して、弁護人の強制処分法定主義違反の主張を退けている。

 一 もっとも、電話傍受と強制処分法定主義の問題は、その出発点において憲法上の議論を避けられない。電話傍受が通信の秘密を害し、個人のプライバシーを侵害する強制処分であることは疑いがなく、それが憲法上許容されるためには、一定の厳格な要件を満たすことが必要と考えられるからである。その要件として、本決定の多数意見は、重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があること、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があること、他の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得るのが著しく困難であることなどの事情が存する場合で、電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められなければならない旨を判示した。

 

外国人と憲法第14条第1項の平等原則

 

 

関税法違反等被告事件

【事件番号】      最高裁判所大法廷判決/昭和37年(あ)第927号

【判決日付】      昭和39年11月18日

【判示事項】      1、外国人と憲法第14条第1項の平等原則

             2、旧日米安保条約第3条に基づく行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例法6条、11条、12条の合憲性

【判決要旨】      1、法の下における平等の原則を定めた憲法14条1項の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するを相当とする。

             2、旧日米安保条約3条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例法6条、11条、12条は、憲法14条1項に違反しない。

【参照条文】      関税法等の臨時特例法6

             関税法等の臨時特例法11

             関税法等の臨時特例法12

             憲法14

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集18巻9号579頁

             最高裁判所裁判集刑事153号91頁

             裁判所時報414号4頁

             判例タイムズ170号180頁

             判例時報393号50頁

【評釈論文】      法曹時報17巻1号159頁

 

 

事案の概要

 本件は、被告人が米軍PXから関税免除の外国製映写機等を税関の許可を受けないで買い受けたかどで前記特例法12条に基き、関税法111条の密輸入罪として処断された事案であつて、上告論旨は、駐留米軍人等に対し免税の特権を認めた右特例法が憲法14条の平等原則に違反すると主張した。

 

 

昭和二十七年法律第百十二号

日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律

(関税の免除)

第六条 左に掲げる物品については、関税を免除する。

一 合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関が合衆国軍隊の公用に供するために輸入する物品で、当該軍隊又は機関が合衆国軍隊の公用に供するために輸入する物品であることにつき合衆国軍隊の権限ある官憲による証明のされたもの

二 軍人用販売機関等が合衆国軍隊の構成員、軍属若しくはこれらの者の家族又は契約者等の用に供するために輸入する物品で、当該機関がこれらの者の用に供するために輸入する物品であることにつき合衆国軍隊の権限ある官憲による証明のされたもの

三 合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関及び軍人用販売機関等以外の者が、合衆国軍隊の専用に供するため又は合衆国軍隊が使用する施設若しくは物品に附合、混和若しくは加工するために輸入する物品で、当該物品がこれらの目的のために輸入する物品であることにつき合衆国軍隊の権限ある官憲による証明のされたもの

四 合衆国軍隊の構成員、軍属若しくはこれらの者の家族又は契約者等の引越荷物及び携帯品

五 合衆国軍隊の構成員若しくは軍属が自己若しくはその家族の私用に供するため又は契約者等が自己の私用に供するために輸入する自動車(自動自転車を含む。)及びその部品

六 合衆国軍隊の構成員、軍属若しくはこれらの者の家族又は契約者等の私用に供するために合衆国軍事郵便局を通じて日本国に郵送される通常且つ相当量の衣類及び家庭用品

 

(関税免除物品の譲渡の制限)

第十一条 合衆国軍隊の構成員、軍属、これらの者の家族若しくは契約者等又はこれらの者であつた者が、日本国内において、合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関、軍人用販売機関等、合衆国軍隊の構成員、軍属、これらの者の家族及び契約者等以外の者(以下次条において「合衆国軍隊等以外の者」という。)に対し、第六条の規定の適用を受けた物品の譲渡(譲渡のためその委託を受けた者、又は媒介をする者に所持させることを含む。以下本条及び次条第三項において同じ。)をしようとするときは、政令で定めるところにより、税関長に申告し、当該物品につき必要な検査を経て、譲渡の許可を受けなければならない。

2 前項の規定による許可を受けないで物品の譲渡をし、又はしようとした者については、関税法第百十一条の規定を準用する。この場合において、同条中「輸入」とあるのは、「譲渡」と読み替えるものとする。

3 関税法第百十九条から第百四十九条までの規定は、前項の違反嫌疑事件の調査及び処分について準用する。

 

(免税物品の譲受の際の関税の徴収等)

第十二条 合衆国軍隊等以外の者が、合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関、軍人用販売機関等、合衆国軍隊の構成員、軍属、これらの者の家族若しくは契約者等又はこれらの者であつた者から、第六条の規定の適用を受けた物品(当該物品を使用して製造された物品及びその副産物を含む。)の譲受(譲渡又は譲受の委託を受けて、又はこれらの媒介のため所持することを含む。以下本条において同じ。)を日本国内においてしようとするときは、当該譲受を輸入とみなし、関税法、関税定率法及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律並びに酒税法第四十五条及び第九章中同条に係る部分の規定を適用する。

2 前項の場合において、同項の規定の適用を受ける物品に対する関税額の確定は、関税法第六条の二第一項第二号に規定する賦課課税方式によるものとする。

3 第一項の規定により適用することとされる関税法第六十七条に規定する輸入の許可を受けないで同項に規定する物品の譲受け(同法第七十条第三項又は第七十一条第一項の規定により輸入を許可しない物品の譲受けを除く。)をした者(以下この条において「無許可譲受人」という。)があつた場合において、当該許可を受けないで譲受けをした物品(以下この条において「無許可譲受物品」という。)のうち自動車その他政令で定めるものにつきその関税及び内国消費税の完納前に更に譲受をした者があるときは、その者は、その関税及び内国消費税につき当該無許可譲受人と連帯して納付する義務を負う。その他の無許可譲受物品でその性質、形状等により明らかに外国産品であると認められるものにつきその関税及び内国消費税の完納前に更に譲受をした者がその譲受又は譲渡を営業とする者であるときも、また同様とする。

4 前項に規定する輸入を許可しない物品を所有し、若しくは所持している者がある場合又は無許可譲受人若しくは前項の規定の適用を受ける者が無許可譲受物品若しくは前項の規定の適用を受ける物品を所有し、若しくは所持している場合においては、税関長は、これらの者に対し、政令で定めるところにより、期限を指定してこれらの物品を保税地域(関税法第三十条第一項第二号の規定により税関長が指定した場所を含む。次項において同じ。)に入れることを命ずることができる。この場合において、無許可譲受物品又は前項の規定の適用を受ける物品の関税及び内国消費税につき納税の告知がされていないときは、税関長は、速やかに納税の告知をしなければならない。

5 前項の場合において、同項の物品がその指定された期限までに保税地域に入れられなかつたときは、税関長は、当該物品を保税地域に入れ、その運搬及び保管の費用を、当該物品につき同項前段の命令を受けた者から徴収することができる。

6 第一項の規定の適用を受ける物品は、関税法の適用については、同法の外国貨物とみなす。この場合において、無許可譲受物品につき関税及び内国消費税を徴収したときは、当該物品は、同項の規定により適用することとされる関税法第六十七条の規定による輸入の許可があつた貨物とみなす。

7 前条第一項の規定及び第一項の規定により適用することとされる関税法第六十七条の規定による申告及び検査並びに許可は、政令で定めるところにより、一括して行うことができる。

8 第三項の規定により納付すべき関税については、関税法第百十条の規定は、適用しない。

 

 

憲法

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

 

 

       主   文

 

 本件各上告を棄却する。

 当審における訴訟費用は 被告人Aの負担とする。

 

       理   由

 

 被告人B、同Cの弁護人長崎祐三の上告趣意第一点について。

 所論は、原審において主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であつて、上告適法の理由に当らない。

 なお、職権をもつて調査しても、その理由のないことは以下述べるとおりである。

 すなわち、憲法一四条は「すべて国民は、法の下に平等であつて、……」と規定し、直接には日本国民を対象とするものではあるが、法の下における平等の原則は、近代民主主義諸国の憲法における基礎的な政治原理の一としてひろく承認されており、また既にわが国も加入した国際連合が一九四八年の第三回総会において採択した世界人権宣言の七条においても、「すべて人は法の前において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。……」と定めているところに鑑みれば、わが憲法一四条の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するのが相当である。

 他面、憲法一四条は法の下の平等の原則を認めいてるが、各人には経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異が存するものであるから、法規の制定またはその適用の面において、右のような事実関係上の差異から生ずる不均等が各人の間にあることは免れ難いところであり、その不均等が一般社会観念上合理的な根拠に基づき必要と認められるものである場合には、これをもつて憲法一四条の法の下の平等の原則に反するものといえないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二四年(れ)第一八九〇号、同二五年六月七日大法廷判決、刑集四巻六号九五六頁、昭和三一年(あ)第六三五号、同三三年三月一二日大法廷判決、刑集一二巻三号五〇一頁等)。

 ところで、所論日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和三三年法律第六八号による改正前の昭和二七年法律第一一二号、以下特例法という。)は、同法六条、一一条、一二条等の規定により、合衆国軍隊の公用物品等のわが国への輸入については、それが合衆国軍隊、その構成員、軍属、これらの者の家族等の用に供するためのものである限りにおいては、関税を課さないが、これをその他の者が日本国内において譲り受けようとする場合には、当該譲受を輸入とみなして関税法を適用する旨を定めたものであるところ、右諸規定は、前記安全保障条約に基づく行政協定一一条が合衆国軍隊、その構成員等の用に供する物品等のわが国への輸入につき関税を課さない旨を規定しているところに照応し、同条の規定を実施するため制定されたものにほかならない。

 そして、前記安全保障条約および行政協定が違憲無効と認められないことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和三四年(あ)第七一〇号、同年一二月一六日大法廷判決、刑集一三巻一三号三二二五頁)、また、憲法九八条二項は、わが国が締結した条約と確立された国際法規はこれを誠実に遵守すべきことを定めており、さらに、外国軍隊が条約によりまたは同意を得て他国に駐在する場合、その外国軍隊の機能を全うさせる必要上、これに対しこの種の特権を認めることは、一般に承認された国際慣行と認められる。しからば、このような諸点を総合して観察すれば、特例法が、合衆国軍隊、その構成員等に対し所論の特権を認めたことは、十分合理的な根拠があると認められるのであつて、右特例法の諸規定は憲法一四条に違反するものということはできない。それ故、所論憲法一四条違反の主張は理由がない。

 同第二点について。

 所論は事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

 被告人Aの弁護人四宮久吉の上告趣意について。

 所論は事実誤認、単なる訴訟法違反、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

 被告人D、同Eの弁護人中川宗雄の上告趣意について。

 所論は原審において主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であつて、上告適法の理由に当らない。 よつて、刑訴四〇八条、被告人Aにつき同一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

  昭和三九年一一月一八日

     最高裁判所大法廷

 

 

被告が投稿したインターネットの匿名掲示板の記事により,原告の名誉が毀損され,プライバシーが侵害されたとして,原告が被告に対し,損害賠償等を求めた事案。

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成28年(ワ)第7502号

【判決日付】      平成28年9月2日

【判示事項】      被告が投稿したインターネットの匿名掲示板の記事により,原告の名誉が毀損され,プライバシーが侵害されたとして,原告が被告に対し,損害賠償等を求めた事案。

裁判所は,本件記事の中には,顔写真や名前等が表示され,記事を見た者はこれが原告であると認識し,個人情報を入手でき,これによりプライバシーを侵害し,また,原告に対する性的表現を含む誹謗中傷を内容とする記事は,原告の社会的評価を低下させるものであるとした上で,本件掲示板は限られた範囲の者が閲覧することが想定される等の事情を考慮して,慰謝料30万円及び弁護士費用等9万円を認めた事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

(財産以外の損害の賠償)

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 

 

 

       主   文

 

 1 被告は,原告に対し,39万円及びこれに対する平成26年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用はこれを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者は,民訴法197条1項2号の類推適用により,職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができる。

 

 

              検証物提示命令に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷決定/令和2年(許)第10号

【判決日付】      令和3年3月18日

【判示事項】      1 電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者と民訴法197条1項2号の類推適用

             2 電気通信事業者は,その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者の特定に資する氏名,住所等の情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され,又は記録された文書又は準文書を検証の目的として提示する義務を負うか

【判決要旨】      1 電気通信事業に従事する者及びその職を退いた者は,民訴法197条1項2号の類推適用により,職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒むことができる。

             2 電気通信事業者は,その管理する電気通信設備を用いて送信された通信の送信者の特定に資する氏名,住所等の情報で黙秘の義務が免除されていないものが記載され,又は記録された文書又は準文書について,当該通信の内容にかかわらず,検証の目的として提示する義務を負わない。

【参照条文】      民事訴訟法197-1

             電気通信事業法

             民事訴訟法223-1

             民事訴訟法232-1

             民事訴訟法234

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集75巻3号822頁

 

 

事案の概要

 相手方は,動画配信サービス等の提供に係るウェブサイトを開設しているところ,そこに設けられている問合せ用フォームを通じて,脅迫的表現を含む匿名の電子メール(以下「本件メール」という。)を受信した。本件メールは,抗告人の管理する電気通信設備を用いて送信されたものであった。相手方は,本件メールの送信者に対する損害賠償請求訴訟を提起する予定であるとして,その送信者の氏名,住所等(以下,電気通信の送信者の特定に資する氏名,住所等の情報を「送信者情報」という。)が記録された電磁的記録媒体等(以下「本件記録媒体等」という。)につき,訴えの提起前における証拠保全として,検証の申出をするとともに抗告人に対する検証物提示命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした。

 

 

 

民事訴訟法

第百九十七条 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。

一 第百九十一条第一項の場合

二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷とう若しくは祭祀しの職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合

三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

2 前項の規定は、証人が黙秘の義務を免除された場合には、適用しない。

 

(文書提出命令等)

第二百二十三条 裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて、提出を命ずることができる。

2 裁判所は、第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には、その第三者を審尋しなければならない。

3 裁判所は、公務員の職務上の秘密に関する文書について第二百二十条第四号に掲げる場合であることを文書の提出義務の原因とする文書提出命令の申立てがあった場合には、その申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該文書が同号ロに掲げる文書に該当するかどうかについて、当該監督官庁(衆議院又は参議院の議員の職務上の秘密に関する文書についてはその院、内閣総理大臣その他の国務大臣の職務上の秘密に関する文書については内閣。以下この条において同じ。)の意見を聴かなければならない。この場合において、当該監督官庁は、当該文書が同号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べるときは、その理由を示さなければならない。

4 前項の場合において、当該監督官庁が当該文書の提出により次に掲げるおそれがあることを理由として当該文書が第二百二十条第四号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べたときは、裁判所は、その意見について相当の理由があると認めるに足りない場合に限り、文書の所持者に対し、その提出を命ずることができる。

一 国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ

二 犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ

5 第三項前段の場合において、当該監督官庁は、当該文書の所持者以外の第三者の技術又は職業の秘密に関する事項に係る記載がされている文書について意見を述べようとするときは、第二百二十条第四号ロに掲げる文書に該当する旨の意見を述べようとするときを除き、あらかじめ、当該第三者の意見を聴くものとする。

6 裁判所は、文書提出命令の申立てに係る文書が第二百二十条第四号イからニまでに掲げる文書のいずれかに該当するかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、文書の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された文書の開示を求めることができない。

7 文書提出命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。

 

(検証の目的の提示等)

第二百三十二条 第二百十九条、第二百二十三条、第二百二十四条、第二百二十六条及び第二百二十七条の規定は、検証の目的の提示又は送付について準用する。

2 第三者が正当な理由なく前項において準用する第二百二十三条第一項の規定による提示の命令に従わないときは、裁判所は、決定で、二十万円以下の過料に処する。

3 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

 

(証拠保全)

第二百三十四条 裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができる。

 

 

電気通信事業法

(秘密の保護)

第四条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。

2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

 

 

船舶賃借人の地位

 

 

             修理代金等請求訴訟事件

【事件番号】      徳島地方裁判所判決/昭和27年(ワ)第105号

【判決日付】      昭和28年5月18日

【判示事項】      船籍港外において船長が第三者と船舶修繕契約を締結した場合と当該船舶の賃借人の右契約についての責任(肯定)

【掲載誌】        下級裁判所民事裁判例集4巻5号745頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト15号36頁

             別冊ジュリスト34号10頁

             別冊ジュリスト42号36頁

 

       主   文

 

 被告は原告会社に対し金十四万九千八百十六円及び内金七万三千三百五十九円については昭和二十七年六月七日から内金七万六千四百五十九円については昭和二十八年二月一日から孰れも完済まで年六分の割合による金員を附加して支払え。

 被告は原告八田に対し金四万八千三百十五円及び之れに対し昭和二十七年一月六日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を附加して支払え。

 其の余の原告の請求を棄却する。

 訴訟費用は全部被告の負担とする。

 この判決は原告会社において被告会社に対し金五万円、原告八田タキ子において被告会社に対し金一万六千円の担保を供するときは仮りに執行することが出来る。

 

       事   実

 

  原告訴訟代理人は被告は原告徳島造船産業株式会社(以下単に原告会社と称する)に対し金十四万九千八百十六円及び内金七万三千三百五十九円に対する昭和二十七年六月七日より支払済まで内金七万六千四百五十九円に対する昭和二十八年二月一日より支払済まで各年六分の割合による金員を附加して支払え、被告は原告が第八紀洋丸に対し前記債権につき船舶債権者の先取特権あることを確認せよ。なお被告は原告八田タキ子に対し金四万八千三百十五円及び之れに対する昭和二十七年一月六日から支払済まで年六分の割合による金員を附加して支払え、訴訟費用は全部被告の負担とするとの判決並びに担保を条件とする仮執行宣言を求め、その請求原因として、

 第一、原告会社は被告会社に対し

  昭和二十六年九月頃被告が訴外紀洋水産株式会社所有にかかる第八紀洋丸を賃借していたところ、同船の船長川西政威から昭和二十六年九月末日迄原告の造船場に同船舶を上架し滞船させて呉れとの依頼を受けた、そして依頼の趣旨は右九月末日までの間に右船舶の修理を依頼するか又は何分の措置を採る、との約束のもとに原告は右船長の依頼にもとずき右第八紀洋丸を原告の造船場に上架して滞船させた。しかるに被告は前叙約束を無視して何等の措置を採らず放任して遂に今日に至つた。そこで原告は造船場を塞がれ他船を上架出来ず勿論造船にも障害を来たし、夫れがため損害を蒙むるに至つた。そしてその損害は第八紀洋丸は総屯数三一屯三五であり上架料金三千円とそのほか、滞船料一屯につき一日金十円であるから(是れは原告会社の料金規程によつて決まつている)一日の滞船料金三百十三円五十銭である。その滞船期間昭和二十六年九月十日から昭和二十七年十二月末日迄四百七十八日間金十四万九千八百十六円以上(実は金十四万九千八百五十三円である)となるのである。しかし右上架料金三千円と滞船料については当事者間特に契約を結んだ訳合では無かつたが、原告は商人として商法第五百十二条に照し原告の営業行為であるから所定料金即ち報酬を請求する権利があると述べた。又右第八紀洋丸は船籍港和歌山市であるが原告会社主張の徳島港は船籍港外であるから船長川西の行為は被告の代理人として被告は責任を負うべきである。仮りに代理権が無いとしても商法によれば代理権なきことを知らない善意の原告に対し代理権なきことをもつて原告に対抗出来ぬものであると述べ、原告は被告の抗弁に対し、被告と船長川西との内部関係は原告は不知である又原告は発電機及びスクリユーを取り外したことなく、多分盗難に罹つたものである。又スクリユーの時価は金五万円が相当であると述べた。

 第二、原告八田タキ子は被告会社に対し、

  原告は飲食営業者であるが昭和二十六年八、九月頃被告が賃借している第一紀洋丸の船長、船員、及び被告会社社員(紀伊水産株式会社所有船舶)等が飲食したる代金残金四万八千三百十五円について支払をしないところ、被告会社はその支払については被告の社員や船長がしかも船舶修理中に修理に関連して滞船した間に、飲食したものであつて、且つ被告の名において注文を受けたものであるから商法第七百十三条第七百十四条に基き被告は責任があると述べた。(立証省略)

  被告訴訟代理人は被告会社は原告会社に対し金六万五千九百六十四円を支払え、(原告請求の第一紀洋丸修繕費に当る金額である)、其の余の原告等の請求は孰れも之れを棄却する、との判決を求め、その答弁として、第一、原告会社に対する答弁。被告会社は昭和二十六年八月頃訴外川西政威から同人が海底曳網漁業を営むにつき、被告会社に対し所要船舶を提供されたいとの申込にもとずき被告は訴外紀洋水産株式会社から第八紀洋丸其の他の船舶を賃借して、之れを右川西政威に提供し同人は之れを航海して、専ら漁業に当つた。そして利益は被告と折半する約束であつた。しかるに昭和二十六年八月二十一日右川西は第八紀洋丸を徳島に曳航し一旦原告に修繕を依頼したが損傷甚だしかつたため修繕することを中止した、又被告は川西との共同漁業も赤字続きの為め損失を招き昭和二十六年十一月二日本事業を中止した。右の如き事情であつて第八紀洋丸は修繕せず第七紀洋丸を修繕したが、その船舶の修繕は川西と原告との間の契約であつたが、被告は徳義上事業の利益折半の趣旨から第七紀洋丸修繕費をも半額被告が負担することとしたが結局は右川西は支払能力が無かつたので、遂に被告は止むを得ず修繕費全部金六万五千九百六十四円を弁済することとしその支払方法として約束手形をもつて支払をした。又第一紀洋丸は難破して行衛不明である而して同船舶の修繕につき関知せぬ。次に滞船料については、被告は何等約束したことなく又この第八紀洋丸は修繕したことはないから速かに引取るべきであつたが第七紀洋丸に関する修繕費用不払の為め、是れが修繕代金支払いを終るに至るまで同船舶を引き取ること自体を見合わせているに過ぎない、したがつて滞船を依頼したものでない、よつて滞船料を支払う義務はない。

  したがつて第八紀洋丸に対しては原告の債権につき優先権を認むべき理由はない、尚仮りに被告において滞船料支払の責任ありとするも、右第八紀洋丸備え付けの百十馬力スクリユー時価金十万円及び発電機時価金七万円をそれぞれ原告が勝手に取り外し処分した、よつてその損害賠償責任を負う可くその損害金十七万円をもつて被告の責任額滞船料を本訴において相殺する。次に第二、原告八田の請求に対する答弁。右八田の請求は全部否認する被告会社は昭和二十六年八月二十一日より同年九月十六日までの修理期間中徳島滞在船員の員数は延百七十六名であり当時之れに対し金四万八千四十八円の食料費等を支給し来た即ち一日当り金二百七十三円を食費として支給し来たものであつて本件は恐らく川西政威はじめ船員等が勝手に飲食したものと思う只昭和二十六年十月二十二日被告会社社員飯田永輔が徳島に出張せる際川西政威の立場を考え同人の為め金八千円を立換え支払うたことがあつたのみであると述べた。

 

       理   由

 

  原告を代表する法定代理人中林幸吉の供述により真正に成立したと認める甲第一号証の一、二、三、並びに右中林幸吉の供述を綜合して考察するに被告は訴外紀洋水産株式会社所有の第八紀洋丸を賃借し、船長川西政威其の他の船員を乗組ましめ海底曳網漁業に従事中右船長の依頼に基き原告は昭和二十六年八月二十一日右第八紀洋丸を修理の為め原告会社の造船場に上架し滞船させたこと及び昭和二十七年十二月末日に至る間四百七十八日間そのまま滞船させていたことを認めるに足る、然るところ原告会社においては業務規程により上架料は金三千円滞船料は一屯一日金十円を要求することの定めある業務規程に基き常時商取引をしていることを確認し得られる。しかるところ、本船舶は屯数三一屯三五であり、前叙一日の料金率により計算すれば滞船料は金十四万九千八百五十三円であるところ(此の点被告は明らかに争わず)原告は本訴において総合計中から金十四万九千八百十六円を請求するものなることの事情を知るに十分である、然るに被告は原告と直接斯る契約を為したることなきにより原告は是れを契約当事者(船長川西政威に対し)に請求すべきであると抗弁するにより、これを案ずるに被告が船舶賃借権者であることは自ら之れを認めるところであつて、船舶の賃借人は商行為を為す目的をもつて賃借船舶を航海の用に供したるときは船長が船舶利用に関して為したる事項につきその責に任ずべきであるから被告は自ら契約せざることを理由として、その責を免がれ得ざるところである、而して本件第八紀洋丸が船籍港和歌山から出発して海底曳網漁業に従事していたところ破損の為め堪航能力の欠損を生じ之れを補充する為め修繕を施すにつき原告造船場に上架し、滞船したものであるから、斯ることは船舶の利用に関して為したる事項であり且つ航海に必要なる行為であるから、船籍港外徳島港において為したる船長の右行為につき仮令被告が直接契約に干与せずと雖も、被告はその責を免がれ得ざるものである然らば被告は原告に対し金七万三千三百五十九円については遅滞に附せられた昭和二十七年六月七日から及び金七万六千四百五十九円については遅滞以後の昭和二十八年二月一日から孰れも商事法定利率による年六分の遅延利息を附加して支払う義務あるものとする。そして被告の相殺の抗弁は、之れを認めるに足る何等の資料が無いから、採用するに由も無い、よつて被告の相殺抗弁は之れを排斥する。次に原告請求の船舶債権者の先取特権の有無につき案ずるに凡そ先取特権は法律の規定により一定の債権につき認められたる特定財産より優先弁済を受ける権利にして一定の債権発生の事実が先取特権取得の原因となつて発生するにより、当事者の意思は之れを問う必要はないから、この趣旨に基き本件債権発生の事実を検討するに、本件債権は船舶修繕費用とは異り又最後の港における船舶の保存費とも異なる、其の他商法第八百四十二条に該当する船舶債権者の先取特権と認められる債権でないからこの点原告の先取特権確認の請求は之れを排斥する。

  次に原告八田の請求であるが、原告本人八田タキ子の供述により真正に成立したものと認める甲第二、第三、第四号証並びに右本人の供述を綜合すると、被告が賃借し訴外川西政威が船長として乗り組み底曳漁業の目的で航海中船籍港外徳島港において修繕した際船長、其の他の乗組員が飲食した食料代金残金四万八千三百十五円あることを認めることが出来る。而して右飲食代が船舶修繕中に修繕に関連して滞船した間の第一紀洋丸の船長並びに船員等の必要なる船舶の食料に関する債権であるか否かにつき案ずるに、共同訴訟の原告徳島造船産業株式会社の請求原因として主張した「被告が第一紀洋丸を賃借して之れを川西に提供し昭和二十六年九月十七日より事業を開始した」との事実を被告は認めて争わず又右共同訴訟においては「当時第一紀洋丸の舷内、氷室、肋骨、其の他の修繕費金六万五千九百六十四円の支払義務を是認している」から第一紀洋丸の修繕は是れ等の点から見て之れを認めておるものと謂える、即ち前叙原告八田の請求は、第一紀洋丸の修繕に関連して要した船長其の他の船員の為めの船舶の食料に関する債権であることを認められるにより、船舶の賃借人たる被告は商行為を為す目的をもって、その船舶を航海の用に供したのであつて、その利用に関する必要な修繕に関し徳島港に入港し滞在中に要した費用即ち食料であるから原告の請求は理由がある。然るところ被告は第七紀洋丸を修繕したけれども第一紀洋九は修繕しなかつたと抗弁するのみで何等反証が無いから、被告の抗弁は採用せぬ。よつて之れを認容し、被告は附遅滞以後の商事法定利息年六分の遅延利息を附加して支払う義務あるものとする。

  よつて各原告の請求はその範囲において理由あるをもつて之れを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用し、主文の通り判決する。

  (裁判官 武市忠治)

複数議決権株式発行会社が外国子会社に当たらないとされた事例

 

 

法人税及び復興特別法人税の更正処分並びに加算税賦課決定処分取消請求事件

【事件番号】      大阪地方裁判所判決/令和元年(行ウ)第68号

【判決日付】      令和3年9月28日

【判示事項】      内国法人であるX社がその株式を保有している外国法人であるA社から配当を受けた場合において,A社が,法人税法施行令22条の4第1項(2号)に規定する「外国子会社」の要件を満たさないとされた事例

【判決要旨】      内国法人であるX社がその株式を保有している外国法人であるA社から配当を受けた場合において,次の(1)~(3)など判示の事実関係の下においては,A社は,法人税法施行令22条の4第1項(2号)に規定する「外国子会社」の要件を満たさない。

             (1) X社がA社から配当を受けた日において,A社の議決権のある株式の総数に占めるX社が保有するA社の議決権のある株式の数の割合は,201分の1であって,100分の25に満たない。

             (2) X社がA社から配当を受けた日において,A社の議決権のある株式の総額に占めるX社が保有するA社の議決権のある株式の金額の割合は,100分の25に満たない。

             (3) A社は株式を発行する法人であるため,A社が「外国子会社」に該当するか否かは,「議決権のある株式の数」又は「議決権のある株式の金額」の各保有割合に係る要件により判定し,「議決権のある出資の数」又は「議決権のある出資の金額」の各保有割合に係る要件によって判定することはできない。

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

法人税法

(外国子会社から受ける配当等の益金不算入)

第二十三条の二第1項 内国法人が外国子会社(当該内国法人が保有しているその株式又は出資の数又は金額がその発行済株式又は出資(その有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の二十五以上に相当する数又は金額となつていることその他の政令で定める要件を備えている外国法人をいう。以下この条において同じ。)から受ける前条第一項第一号に掲げる金額(以下この条において「剰余金の配当等の額」という。)がある場合には、当該剰余金の配当等の額から当該剰余金の配当等の額に係る費用の額に相当するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。

 

 

法人税法施行令

(外国子会社の要件等)

第二十二条の四第1項 法第二十三条の二第一項(外国子会社から受ける配当等の益金不算入)に規定する政令で定める要件は、次に掲げる割合のいずれかが百分の二十五以上であり、かつ、その状態が同項の内国法人が外国法人から受ける同項に規定する剰余金の配当等の額(以下この項、次項及び第四項において「剰余金の配当等の額」という。)の支払義務が確定する日(当該剰余金の配当等の額が法第二十四条第一項(配当等の額とみなす金額)(同項第二号に掲げる分割型分割、同項第三号に掲げる株式分配又は同項第四号に規定する資本の払戻しに係る部分を除く。)の規定により法第二十三条第一項第一号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなされる金額である場合には、同日の前日。以下この項において同じ。)以前六月以上(当該外国法人が当該確定する日以前六月以内に設立された法人である場合には、その設立の日から当該確定する日まで)継続していることとする。

一 当該外国法人の発行済株式又は出資(その有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額(次号及び第六項において「発行済株式等」という。)のうちに当該内国法人(通算法人である当該内国法人が当該事業年度において当該外国法人から受ける剰余金の配当等の額がある場合には、他の通算法人を含む。次号及び同項において同じ。)が保有しているその株式又は出資の数又は金額の占める割合

二 当該外国法人の発行済株式等のうちの議決権のある株式又は出資の数又は金額のうちに当該内国法人が保有している当該株式又は出資の数又は金額の占める割合

2 法第二十三条の二第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、剰余金の配当等の額の百分の五に相当する金額とする。

3 法第二十三条の二第二項第二号に規定する政令で定めるものは、同号の内国法人の受ける同号に規定する取得をした株式又は出資(第一号において「取得株式等」という。)に係る剰余金の配当等の額(法第二十四条第一項(第五号に係る部分に限る。)の規定により、当該内国法人が受ける法第二十三条の二第一項に規定する剰余金の配当等の額とみなされる金額をいう。以下この項において同じ。)で、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定めるものとする。

一 当該取得株式等が適格合併、適格分割又は適格現物出資により被合併法人、分割法人又は現物出資法人(以下この号において「被合併法人等」という。)から移転を受けたものである場合 法第二十三条の二第二項第二号に規定する予定されていた事由が当該被合併法人等の当該取得株式等の取得の時においても生ずることが予定されていた場合における当該事由に基因する剰余金の配当等の額

二 前号に掲げる場合以外の場合 法第二十三条の二第二項第二号に規定する予定されていた事由に基因する剰余金の配当等の額

4 法第二十三条の二第三項に規定する政令で定める金額は、同項の内国法人が同項の外国子会社から受けた剰余金の配当等の額に第一号に掲げる金額の第二号に掲げる金額に対する割合を乗じて計算した金額その他合理的な方法により計算した金額とする。

一 次号に掲げる剰余金の配当等の額のうち当該外国子会社の所得の金額の計算上損金の額に算入された金額

二 当該内国法人が当該外国子会社から受けた剰余金の配当等の額の元本である株式又は出資の総数又は総額につき当該外国子会社により支払われた剰余金の配当等の額

5 法第二十三条の二第四項に規定する政令で定める金額は、前項第一号に掲げる金額が増加した場合におけるその増加した後の金額を同号に掲げる金額として同項の規定を適用するものとした場合に計算される金額その他合理的な方法により計算した金額とする。

6 内国法人が適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により被合併法人、分割法人、現物出資法人又は現物分配法人(当該内国法人との間に通算完全支配関係があるものを除く。以下この項において「被合併法人等」という。)からその外国法人の発行済株式等の百分の二十五以上に相当する数若しくは金額の株式若しくは出資又は当該外国法人の発行済株式等のうちの議決権のある株式若しくは出資の数若しくは金額の百分の二十五以上に相当する数若しくは金額の当該株式若しくは出資の移転を受けた場合における第一項の規定の適用については、当該被合併法人等がこれらの株式又は出資を保有していた期間は、当該内国法人がこれらの株式又は出資を保有していた期間とみなす。

7 租税条約(法第二条第十二号の十九ただし書(定義)に規定する条約をいい、我が国以外の締約国又は締約者の居住者である法人が納付する租税を我が国の租税から控除する定め(以下この項において「二重課税排除条項」という。)があるものに限る。)の二重課税排除条項において第一項各号に掲げる割合として百分の二十五未満の割合が定められている場合には、同項及び前項の規定の適用については、第一項中「百分の二十五以上」とあるのは「第七項に規定する租税条約の同項に規定する二重課税排除条項に定める割合(第六項において「租税条約に定める割合」という。)以上」と、「同項の」とあるのは「同条第一項の」と、「が外国法人」とあるのは「が外国法人(当該租税条約の我が国以外の締約国又は締約者の居住者である法人に限る。以下この条において同じ。)」と、前項中「百分の二十五以上」とあるのは「租税条約に定める割合以上」とする。

 

 

 

 

       主   文

 

 1 本件訴えのうち次の部分を却下する。

  (1) 岸和田税務署長が平成29年6月27日付けでした原告の平成25年6月1日から平成26年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス3138万9411円及び納付すべき税額マイナス354円を超えない部分の取消しを求める部分

  (2) 岸和田税務署長が平成29年6月27日付けでした原告の平成25年6月1日から平成26年5月31日までの課税事業年度の復興特別法人税の更正処分のうち,課税標準法人税額0円及び納付すべき税額マイナス6円を超えない部分の取消しを求める部分

 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

 3 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 1 岸和田税務署長が平成29年6月27日付けでした原告の平成25年6月1日から平成26年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

 2 岸和田税務署長が平成29年6月27日付けでした原告の平成25年6月1日から平成26年5月31日までの課税事業年度の復興特別法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第2 事案の概要

  内国法人である原告は,平成25年7月30日(以下「本件配当日」という。),カナダに本店を置く法人であるA(以下「A社」という。)から,剰余金の配当(以下「本件配当」という。)を受けたところ,法人税法23条の2第1項(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)の規定により,本件配当の額からその5%相当額を控除した金額の円換算額は,益金の額に算入されないとして,上記円換算額を益金の額に算入せずに原告の平成25年6月1日から平成26年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税及び平成25年6月1日から平成26年5月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)に係る復興特別法人税の確定申告をした。

  これに対し,処分行政庁は,A社は法人税法23条の2第1項にいう「外国子会社」に該当しないから同項の規定の適用はないとして,本件事業年度に係る法人税の更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)及び本件課税事業年度に係る復興特別法人税の更正処分(以下「本件復興特別法人税更正処分」といい,本件法人税更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)並びに本件各更正処分に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(以下,「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)をした。

  本件は,原告が,A社は法人税法23条の2第1項にいう「外国子会社」に該当するから本件各処分は違法であるなどと主張して,被告を相手に,本件各処分の取消しを求める事案である(本判決では,欠損金額を所得金額のマイナス,還付金額を納付すべき税額のマイナスとして表記する。)。

医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間に因果関係の存在は証明されないが右過失がなければ患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合における医師の不法行為の成否

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/平成9年(オ)第42号

【判決日付】      平成12年9月22日

【判示事項】      医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間に因果関係の存在は証明されないが右過失がなければ患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合における医師の不法行為の成否

【判決要旨】      医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が右可能性を侵害されたことによって破った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。

【参照条文】      民法709

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集54巻7号2574頁

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

養子縁組の無効と民法第93条但書

 

 

養子縁組無効確認請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和23年(オ)第85号

【判決日付】      昭和23年12月23日

【判示事項】      1、舊民法第851条第1号(新民法第802条第1号)の意義

             2、養子縁組の無効と民法第93条但書

【判決要旨】      1、舊民法第851条第1号(新民法第802条第1号)にいわゆる「当事者間に縁組をする意思がないとき」とは、当事者間において眞に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは、養子縁組は効力を生じない。

             3、養親子関係の設定を欲する効果意思のないことによる養子縁組の無効は、絶対的のものであつて、民法第93条但書の適用をまつてはじめて無効となるのではない。

【参照条文】      旧民法851

             民法93

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集2巻14号493頁

             最高裁判所裁判集民事1号595頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト12号104頁

             別冊ジュリスト40号138頁

 

 

民法

(心裡り留保)

第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

 

(縁組の無効)

第八百二条 縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。

一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。

二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人弁護士重田休助上告理由第一点について。

 所論は、旧民法第八五一条第一号(新民法第八〇二条第一号)に「当事者間に縁組をする意思がないとき」とは「届出自体が当事者の意思に反する場合即ち届出其のものに瑕疵ある場合」を指すものであると主張する。しかし、それは当事者間に真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すものであると解すべきは、言をまたないところである。されぱ、たとい養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があつたとしても、それは単に他の目的を達するための便法として仮託されたに過ぎずして、真に養親子関係の設定を欲する効果意思がなかつた場合においては養子縁組は効力を生じないのである。これと同趣旨に出でた原判決には、所論のような違法はなく、論旨は、それ故に理由がない。

 同第二点について。

 真に養親子関係の設定を欲する効果意思がない場合においては、養子縁組は旧民法第八五一条第一号(新民法第八〇二条第一号)によつて無効である。そして、この無効は絶対的なものであるから、所論のように原審が同第九三条但書を適用する必要もなく、又適用したものでもない。従つて、論旨は理由がない。

 同第三点について。

 所論指摘の各事実のみが、本件養子縁組を無効とする原判決の理由ではない。これらの事実と他の証拠を綜合して、原審は真に養親子関係の設定を欲する効果意思がないことを認定して養子縁組を無効としたものである。そして、原判決の挙げている証拠によればかかる事実の認定は、当裁判所においても肯認し得るところである。論旨は、結局原審の自由裁量権に属する証拠の取捨判断ないし事実認定に対する非難を加えるものであるから、上告適法の理由とはならない。

 よつて民訴第四〇一条、第八九条、第九五条に従い主文のとおり判決する。

 この判決は、裁判官全員の一致した意見である。

     最高裁判所第一小法廷

不作為による幇助犯の成立を認める前提となる犯罪を防止すべき義務を認めることができないとして、強盗致傷罪の犯行を阻止しなかった不作為による幇助犯の成立を認めた原判決を破棄した事例

 

 

各強盗致傷被告事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成10年(う)第681号

【判決日付】      平成11年1月29日

【判示事項】      不作為による幇助犯の成立を認める前提となる犯罪を防止すべき義務を認めることができないとして、強盗致傷罪の犯行を阻止しなかった不作為による幇助犯の成立を認めた原判決を破棄した事例

【参照条文】      刑法60

             刑法62

             刑法240

             刑事訴訟法336

【掲載誌】        判例時報1683号153頁

【評釈論文】      警察時報56巻4号61頁

             研修618号25頁

             現代刑事法2巻11号80頁

             ジュリスト臨時増刊1179号152頁

             法学セミナー45巻4号108頁

 

 

刑法

(共同正犯)

第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

 

(幇ほう助)

第六十二条 正犯を幇ほう助した者は、従犯とする。

2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。

 

(強盗致死傷)

第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

 

 

刑事訴訟法

第三百三十六条 被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。

 

 

 

 

 

 

       主   文

 

 原判決中、被告人両名に関する部分を破棄する。

 被告人Aを懲役六年に処する。

  原審における未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入する。

 被告人Bは無罪。

 

       理   由

 

 第一 各控訴の趣意

 本件各控訴の趣意は、被告人Aの弁護人鈴木重治の控訴趣意書、並びに被告人Bの弁護人鈴木孝裕、同長野哲久連名の控訴趣意書及び弁護人鈴木孝裕の控訴趣意補充書各記載のとおりであるから、これらを引用するが、その各論旨は、以下のとおりである。

一 被告人Aの弁護人鈴木重治の控訴趣意

1事実誤認の主張

 論旨は、原判決の(罪となるべき事実)第二の被告人Aに対する強盗致傷の事実に関して、同被告人は、Cが強盗を企てているということを認識していなかったのみならず、その強盗の企てに加わることを決意したり、Cらとの共謀もしていないから、同被告人には強盗致傷罪の共謀共同正犯は成立せず、原判決は被告人Aの警察官調書及び検察官調書の信憑性の評価を誤っており、また、原判示第二の事実の認定には、事実の評価や推論の誤り及び経験則違反がある、というのである。

2法令適用の誤りの主張

 論旨は、仮に原判決による事実認定に誤りがないとしても、被告人Aには強盗の共同実行の意思はなく、幇助の意思があったに過ぎないから、同被告人には強盗致傷の共同正犯ではなく、その幇助犯が成立するにとどまる、というのである。

3量刑不当の主張

 論旨は、実行行為者と刑の均衡を欠くこと、被告人Aに反省・後悔が見られること、父親、妻、子どもらが同被告人の帰りを待っていること、さらに原判決の量刑の事情は誤った事実認定を基にしていることから、原判決の懲役八年の刑は重すぎる、というのである。

二 被告人Bの弁護人鈴木孝裕、同長野哲久の控訴趣意

1法令適用の誤りの主張

 論旨は、原判決は、(罪となるべき事実)第三において、被告人Bは、「同被告人(被告人A)が、自らに対し、Cらと一緒に前記のような強盗を企てていることを打ち明け、(中略)暗に、その犯行を見逃す(黙認する)よう求めると、(中略)同被告人の右意図を察知すると、(中略)同被告人の右の求めに応ずることを決意し、同被告人に対し、「関係ないならいいです。」などと答えて、それ以上に止めようとはせず、これに関知することを避けて過ごす態度を示し、そのことが同被告人を安堵させ、右犯行を容易にさせるものと認識しながら、その後も、右犯行を防止したり、その被害を避けるための措置を何ら講ぜずに過ごし、もって、同被告人らの前記第二の犯行を容易にさせてこれを幇助した。」旨判示するが、犯行を防止したり、その被害を避けるための措置を講じないという不作為が、幇助犯たりうるためには、正犯者の犯行を防止すべき作為義務があることが必要であり、その作為義務は、民事上の義務とは別に、特別に犯行を防止したりその被害を避けるための措置を講じなければならない刑事法上の義務というべきものであり、乙山の従業員であるということから、同義務を直ちに負うものではなく、また仮に、被告人Bが、主任として甲野の売上金等を乙山の本社から現金輸送車で来訪する集金人に託して本社に納める業務に従事していたとしても、集金人でもその補助者でも警備員でもなく、その上、本件被害金は甲野の売上金等ではなく乙山の他店舗の売上金であって、同被告人の右納入業務とは関係ないので、同被告人に本件犯行を防止すべき法律上の義務は認められず、結局、被告人Bには不作為による幇助犯は成立しない、というのである。

2事実誤認の主張

 論旨は、(一)原判決は、犯行の動機に関連して、(罪となるべき事実)第二及び第三の中で、被告人A、同Bの両名は、甲野の保管金を多額に使い込み、その穴埋めができずにいたと認定し、さらに、(検察官及び弁護人らの各主張に対する当裁判所の判断)の中で、被告人両名は、本件犯行が行われた当時、合計五〇〇万円余りの乙山の売上金等を無断で費消するに至っていたと認定しているが、被告人両名で五〇〇万円余りを横領していることはなく、ましてや被告人Bが使い込んだ金額は精々約三〇万円である。(二)(罪となるべき事実)第三の中で、「被告人Aが犯行を見逃す(黙認する)よう求め」とあるが、被告人Aが被告人Bに犯行の企てを打ち明けるようなことは考えられず、被告人Bが冗談と受けとめたという方が自然であり、同被告人は被告人Aの意図を理解できずにいたのであるから、被告人Bに被告人Aを安堵させ、その犯行を容易にさせるとの認識はなく、従って被告人Bには幇助の意思がない、(三)(被告人らの身上経歴等)及び(罪となるべき事実)第二及び第三において、被告人Bが、被告人Aと同じく、甲野のゲーム機の売上金を丙川の金庫に納めて保管し、同金庫に保管される丙川と丁原の売上金等と一緒に、本社から来訪する集金人に託して本社に納める業務に従事していた、と認定されているが、被告人Aの職務権限・内容と被告人Bのそれとは異なり、被告人Aが甲野の売上金を本社に納入する職務を負っていたとしても、被告人Bは、同売上金を本社から来る集金人に託して本社に納める業務には従事しておらず、原判決がいうように、同売上金が右集金人によって確実に本社に搬送されるよう努めるべき義務を負っていたとは認められないので、作為義務の存在を前提に不作為による幇助を認めたのは誤りである、というのである。

3量刑不当の主張

 論旨は、仮に被告人Bにつき幇助の責任を問われることがあったとしても、それは被告人Aから一方的に話を聞かされたことによるもので、正犯者らの実行行為の内容も未必的な認識しかないなど、その関わり方は消極的なものに過ぎず、その他の情状を考慮すれば、被告人Bについては、酌量減軽の上、執行猶予にするのが相当であるから、原判決の懲役四年の刑は重すぎて不当である、というのである。

第二 当裁判所の判断

 各控訴の趣意について、当裁判所は、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて、以下のとおり判断する。

一 原判決の事実認定及び法令の適用について

1被告人A関係

 被告人Aの弁護人は、前記のとおり、共犯者とされているブラジル人らが実行した強盗致傷の犯行について、被告人Aには共同正犯としての責任はなく、あるいは責任があるとしても精々幇助犯であるに過ぎない旨主張する。

 ところで、原判決が被告人Aに共同正犯の責任を認めた、ブラジル人らによって実行された犯行は、ブラジル人のCら四名が、平成八年一一月五日午前九時一五分ころ、浜松市内のビル近くにおいて、同ビル内にあるパチンコ店から売上金を集金した集金人から、顔面を殴打して昏倒させるなどの暴行を加えて、現金約一九六五万円を奪い取り、その際同人に加療約一〇日間の傷害を負わせた、という強盗致傷の犯行であるところ、原審で取り調べた被告人Aの検察官調書及び原審公判供述、被告人Bの検察官調書及び原審公判供述等によれば、客観的事実として、(1)被告人Aは、平成八年一〇月中旬において、甲野の両替用現金から自らの計算でも既に約三五〇万円を使い込み、それを発覚しないよう埋め合わせする方法も見つからないまま経過し、苦慮している状態にあったこと、(2)Cが盛んに現金を欲しがり、甲野と同じビルにあるパチンコ店の売上金の額や集金の状況を聞くなど、あるいは何かを企んでいるのではと窺わせるような言動をしていることを認識していたこと、(3)同年一〇月一八日ころの夜、甲野の事務所において、Cから右パチンコ店に売上金を集めに来る集金車から、オートバイを使って現金を奪う決意をしていることを打ち明けられ、その際、奪った金の半分をくれるとの約束で、集金車がパチンコ店に来たことを連絡してくれるよう協力を依頼されたこと、(4)その後Cから直接の会話であるいは電話で、ブラジルに帰るのに金がなくて困っている、明日やるので電話下さい、という集金車の到着を連絡してくれることを懇願あるいは要求する働きかけがあったこと、(5)前記犯行当日の朝、Cから電話があり、もう今日やらないとだめです、今日しかないです、集金の車が来たら電話下さいと強く言われて、被告人Aは、電話をする旨返事をし、その後集金車が来るのを確認して、Cに電話で集金車が来たことを知らせたこと、(6)集金車が襲われたことを知ると、被告人Aは犯人探しを装って、自らも走り回っていること、7犯行当日の午後及び夜に、被告人Aは、Cと電話で連絡を取り、落ち合って、Cから約束どおりということで、奪った現金からその約四分の一の五〇〇万円を受け取っていること、(8)同日夜、被告人Aは、甲野の事務所に赴いて、使い込んだ金を穴埋めする意図で、右五〇〇万円のうちから三〇〇万円を金庫に納め、さらに翌朝一六〇万円を納めていること、が認められる。これらの事実によれば、被告人Aは、予想される奪取金の半分を分け前として受け取る意思で、Cらが集金車を狙って強盗を実行することに協力することを決意し、当日集金車が来たことをCらに連絡したものと認められ、自ら強盗によって直接利益を得ることを欲して、強盗の実行行為者らへの集金車到着の連絡ということが、当該強盗の実行にとって重要な比重を占めることを認識しながら、その連絡を行って、強盗の実行に加担したと認められるので、被告人Aが本件強盗致傷の共同正犯者というべきことは明らかであり、幇助犯にとどまるものではない。

 したがって、前記弁護人の、被告人Aの検察官調書及び警察官調書における供述の信用性の欠如や原判決の事実評価の誤り及び経験則違反を理由に、事実誤認をいう論旨、及び幇助犯に過ぎないとして法令適用の誤りをいう論旨は、いずれも理由がない。なお、被告人Aは、原審及び当審において、Cらの犯行計画は冗談だと思った旨弁解するが、同人らの犯行計画が冗談でないことは、Cが繰り返し強盗実行の意思を告げ、同被告人に協力を要求していることから、十分認識できたはずであり、犯行当日朝もCに迫られて集金車の到着を知らせ、その日のうちに同人と連絡を取り合って五〇〇万円の分け前を受け取っている被告人A自身の行動からも、それが裏付けられるのであって、右弁解は到底信用できない。

2被告人B関係

(一)被告人Bの弁護人は、前記のとおり、被告人Bについては、被告人Aらの犯行を阻止する措置を講じなかった不作為による幇助が認められる前提となる犯行を防止すべき義務が、乙山の従業員としての立場からも、あるいは甲野の売上金を乙山本社に納める業務に従事していたとしても、いずれにしても認められないので、不作為による幇助犯は成立しないと主張する。

(二)そこで、右主張について検討する前に、原判決をみると、被告人Bのいかなる行為が幇助行為に当たると認定しているのか、必ずしも明確とはいえないので、まずこの点につれて触れておく。

aすなわち、原判決は、(罪となるべき事実)においては、「被告人Bは、(中略)同被告人(被告人A)の右の求め(犯行を見逃す(黙認する)ようにとの求め)に応ずることを決意し、同被告人に対し、「関係ないならいいです。」などと答えて、それ以上に止めようとはせず、これに関知することを避けて過ごす態度を示し、そのことが同被告人を安堵させ、右犯行を容易にさせるものと認識しながら、その後も、右犯行を防止したり、その被害を避けるための措置を何ら講ぜずに過ごし、もって、同被告人らの前記第二の犯行を容易にさせてこれを幇助した。」と判示し、さらに、(検察官及び弁護人らの各主張に対する当裁判所の判断)においては、「被告人Aは、平成八年一〇月一八日ころと下旬ころ、甲野の事務所内において、被告人Bに対し、Cらと共に丙川の金庫から集金人を介して本社に納められる甲野の売上金も含む現金を強奪しようと企てていることを敢えて打ち明けたものと、そのように打ち明けた意図は、その犯行後に被告人Bが少なくとも犯人のCらを他に明らかにするおそれがあり、そのことを予め防止することにあったものと、被告人Aは、被告人Bに自らの犯行計画を明らかにしても、被告人Bも甲野の保管金を使い込んでいたことから、その話を他言しないことを期待し、かつ、そのことを、暗に求め、被告人Bは、わざわざ自らに右の犯行計画を打ち明けた被告人Aの右意図や求めを了解しえたものと、被告人Bは、自らが述べるように、困惑し、当初は、被告人Aに犯行を止めるよう促す発言をしたものの、同被告人から「Bちゃんには関係ないから。」などと言われると、もし、同被告人らがその目的を遂げれば、その奪った金で二人が使い込んでいた甲野の金の穴埋めができることも期待して、同被告人の右の求めに応ずることを決意し、「関係ないならいいです。」と答え、それ以上、やめさせようとする態度を示さずに過ごし、被告人Aらの犯行を防止したり、その被害を避けるための何らの措置も講ぜず、(中略)に過ごしたものと、被告人Bは、自らも述べるように、当然、自らのそのような態度が被告人Aを安堵させ、その犯行を容易にさせることを認識していたものと、被告人Aは、被告人Bの右のような態度から、同被告人が右の自らの求めに応ずる決意をし、自らの企てを他に漏らしたりして妨げるようなことはしないものと認め、それ故、本件犯行を遂げえたものと認めるのが相当である。このように、本件犯行については、被告人Bは、これに先立ち、これに加担した被告人Aからその企てを知らされながら、同被告人の求めに応じてこれを黙認、放置して過ごし、そのことがその犯行を容易にさせた事実が認められる。」(一二九~一三三頁)と判示する。

b原判決の右の判示からは、被告人Bの幇助行為としては、(1)「関係ないならいいです。」という発言などによって、被告人Aらの犯行に関知せず、犯行や犯人について事前にも事後にも他言しないとの意思を明示ないし黙示に示し、そうした意思表小行為が作為による心理的幇助行為に当たる、(2)犯行を阻止しあるいは被害を避ける措置を取らずに過ごしたという不作為が、作為義務違反としての幇助行為に当たる、ということが考えられる。

cそこで考察すると、右(1)については、被告人Bの「関係ないならいいです。」という発言も、犯行の意図を明らかにした被告人Aとの間で、犯行を止めさせようとしてやりとりがあった際、被告人Aの「Bちゃんには関係ないから」との発言を受けてなされたものであり、それは、止めるよう説得する行為はもはやしないとの意思の表れと解することはできるとしても、それ以上に、被告人Aらの犯行について一切他言しないとの意思までも表したものと解するのは、いささか飛躍があるといえるのであり、その他に、被告人Aらの犯行計画やその意図を知った際の被告人Bと被告人Aとのやりとりの中で、被告人Bが被告人Aとの間で、同被告人らの犯行を一切他言しないとの明示ないし黙示の承諾を交わしたと認めるに足りる事実は存せず、むしろ、被告人Bの検察官調書の記載や原審公判での供述によると、被告人Aらによる犯行の実行を望まず、右犯行計画を上司等に報告しようかと何度か迷った心境も述べられていて、右の承諾をしていなかったことを窺わせるのである。そうすると、前記(1)の作為による幇助行為は、いまだ認定することができないといわねばならない。

dなおここで、原判決の(罪となるべき事実)に記載されている、被告人Bが甲野の保管金を被告人Aと共に使い込み、その穴埋めができずにいたことが、被告人Aらの犯行を他言しないことを承諾する動機になるのではないかとも考えられるので、この点を検討しておくと、原判決は、「被告人両名は、本件犯行が行われた当時、合計五〇〇万円余りの乙山の売上金等を無断で費消するに至っていた。」(三八頁)と判示するが、右認定の根拠は明確でなく、しかも右五〇〇万円のうち被告人Bが使った金額はいくらなのか認定されていないのであり、被告人Aの検察官調書によると、使い込んだ金額は三五〇万ないし四〇〇万円と思っていたとあり、被告人Bの検察官調書によると、二人で三〇〇万円を使い込んでいたとあるが、結局、記録によっても、被告人AがCから本件犯行への加担を求められ、被告人Bに犯行計画を打ち明けた一〇月中旬ころの二人による使い込みの金額は、三五○万円程度という以上に確定できないといわねばならない。その上、右二人で使い込んだとされている金額のうち被告人Bが使った金額については、右のとおり原判決もなんら認定しておらず、記録及び当審での事実調べの結果によると、被告人Aの使った金額に比べ、はるかに低いものと認められ、多くても四〇万円程度と推測されるにとどまり、被告人B自身としては、その程度にも至っていないとの認識でいたものといえるのである。そうすると、自分が使い込んだ金額が四〇万円にも満たない程度と思っていた被告人Bが、その使い込みによる責任よりも重大な刑事責任を負うことになりかねない、多額の現金を狙った集金車強盗という犯罪に加担する考えを抱くとはたやすく認められず、結局、右使い込みの事実が、被告人Bの幇助の意思形成の動機になったと見るのには、いまだ疑問があるといわねばならない。

eそうすると、原判決も、前記のとおり、「同被告人(被告人A)の右の求め(犯行を見逃す(黙認する)ようにとの求め)に応ずることを決意し、同被告人に対し、「関係ないならいいです。」などと答えて、それ以上に止めようとはせず、これに関知することを避けて過ごす態度を示し、」、あるいは「「関係ないならいいです。」と答え、それ以上、やめさせようとする態度を示さずに過ごし、」と判示するのみで、被告人Bが被告人Aに対し他言しないことの了解をしたことまでを、積極的に認定しておらず、むしろ、その(検察官及び弁護人らの各主張に対する当裁判所の判断)の第三被告人Bの罪責の三事実認定と被告人Bの罪責と題する項において、「被告人Bは、乙山に対して、被告人Aら、R92ビルの売上金を本社に納入する業務に携わる者らと共に、右売上金が右集金人によって確実に本社に搬送されるよう努めるべき義務を負っていたものと解するのが相当である。したがって、右1の、被告人Bが被告人Aらの本件犯行の企てを事前に知りながら、同被告人の求めに応じて、これを黙認して過ごすことによって、その犯行を容易にした行為は、右の自らの乙山に対する任務に著しく背いたものといわなければならない。そして、これによると、被告人Bは、自らの右行為について、刑事的にも、本件犯行を幇助したとの責任を負うべきものと解するのが相当である。」(一三四~一三五頁)と判示しており、さらに被告人Bに対する予備的訴因が、「被告人は、株式会社乙山の経営する静岡県浜松市《番地略》所在のR92ビル二階ゲームセンター「甲野」の店長として、同社の就業規程に従い誠実に職務に従事する義務を負っていたものであるが、A、D、C、Eほか三名が共謀の上、(中略)強取し、その際、(中略)傷害を負わせるに先立ち、同年一〇月一八日ころ、前記「甲野」事務所において、右Aから右強盗の計画を明かされたのであるから、同社の上司あるいは警察に通報するなどの措置をとって、これを未然に防止すべき法律上の義務があり、かつ、右措置をとって容易に右計画を防止することができたにも拘わらず、右Aから暗に黙認して欲しいと依頼された上、右強取金の一部を同人と共に被告人が使い込んだ前記「甲野」の両替金等の穴埋めにすると明かされていたことから、これに応じ、前記犯行に至るまでの間、右Aらの行為を容認して前記措置をとらず、もって、前記犯行を容易にさせてこれを幇助したものである。」というものであることからすると、原判決は、被告人Bの幇助行為に当たるのは、前記(1)の作為ではなく、(2)の被告人A及びCらの本件犯行を阻止しあるいはそれによる被害を避ける措置を取らずに過ごしたという不作為である、としているものと解される。

(三)続いて、原判決の、本件強盗致傷の犯行を阻止しあるいはそれによる被害を避ける措置を取らなかった不作為が幇助犯に当たる、との認定、判断の当否について検討する。

思うに 正犯者が一定の犯罪を行おうとしているのを知りながら、それを阻止しなかったという不作為が、幇助行為に当たり幇助犯を構成するというためには、正犯者の犯罪を防止すべき義務が存在することが必要であるといえるのである。そして、こうした犯罪を防止すべき義務は、正犯者の犯罪による被害法益を保護すべき義務(以下、「保護義務」という。)に基づく場合と、正犯者の犯罪実行を直接阻止すべき義務(以下、「阻止義務」という。)に基づく場合が考えられるが、この保護義務ないし阻止義務は、一般的には法令、契約あるいは当人のいわゆる先行行為にその根拠を求めるべきものと考えられるところ、本件に即してみると、被告人Bが各種遊技店を経営する株式会社乙山に雇用された従業員であることから、その雇用契約に基づく義務として右の保護義務ないし阻止義務があるか否かが検討されるべきであるといえる。

 そこでまず、被告人Bが乙山の従業員として従事していた具体的な職務との関連において、右の保護義務ないし阻止義務が認められるか検討することとする。ところで、原判決は、被告人Bについて、「乙山に雇用されて、勤め、同社が経営する甲野の主任として、被告人Aと共に、同社(F部長)から任されて同店の業務一般を管理し、その売上金や両替金等も管理し、その売上金を本社に納入すべく、同じビルの階下に在る丙川の金庫に、同店や、やはり、同じビルで同社が経営する丁原と有料駐車場の売上金と一緒に保管し、これを本社からの集金人に託する業務に従事していた」とした上、「これによれば、被告人Bは、乙山に対して、被告人Aから、R92ビルの売上金を本社に納入する業務に携わる者らと共に、右売上金が右集金人によって確実に本社に搬送されるよう努めるべき義務を負っていたものと解するのが相当である。」(一三三~一三四頁)とし、結論として、「被告人Bが被告人Aらの本件犯行の企てを事前に知りながら、同被告人の求めに応じて、これを黙認して過ごすことによって、その犯行を容易にした行為は、右の自らの乙山に対する任務に著しく背いたものといわなければならない。そして、これによると、被告人Bは、自らの右行為について、刑事的にも、本件犯行を幇助したとの責任を負うべきものと解するのが相当である。」と判示する。これによると、原判決は、前記正犯者の犯罪を防止すべき義務に結びつく保護義務として、被告人Bには売上金が集金人によって確実に本社に搬送されるよう努めるべき義務があり、その義務懈怠の不作為が幇助行為に当たるとし、さらに、右の集金人によって確実に本社に搬送されるよう努めるべき義務は、同被告人が甲野の売上金を本社に納入する業務に従事していたことに基づくものである、としているものと解される。

 原判決の右の認定、判断を検討するに、まず被告人Bが従事していた職務内容をみると、同被告人は、甲野の業務全般に関与する者として、同店舗内に置かれたゲーム機の売上金、メダル販売機の売上金、玩具機の売上金を、甲野の金庫内に保管し、それを一定期間ごとに本社に納入する職務を負っていたか、その職務として行う各売上金の本社への納入の具体的な方法は、袋に納められた右の各売上金を甲野の金庫内に保管し、一〇日に一回の割合で本社に納入するため、本社から集金に来る前日に、右売上金を甲野の金庫から同じビルの階下にあるパチンコ店丙川の金庫に運んで納めておき、その後は、毎日各遊技店を巡回して各店舗の売上金を集金する本社社員が、丙川の金庫に納められている丙川、丁原の各売上金と共に、収集して本社に運ぶというものであって(原判決自身も「これ(甲野の売上金)を本社からの集金人に託する業務に従事していた」と判示する。)、右丙川の金庫からの収集と本社までの搬送は、経営する各遊技店の売上金を巡回して収集する本社側の担当社員によって行われており、被告人Bが、丙川の金庫に移して納めた甲野の売上金について、その後の本社社員による収集及び本社への搬送に関与することはなかったのである。そうすると、被告人Bの売上金を本社へ納入するその職務も、丙川の金庫へ移して納めるまでであって、その後の同金庫からの収集と本社への搬送は、もっぱら本社社員によって行われていたのであるから、右金庫に既に納められ、その後本社社員によって収集され本社に搬送されようとした本件金銭については、被告人Bの職務の対象から離れているので、同被告人に、原判決のいう「(本社からの)集金人によって確実に本社に搬送されるよう努めるべき義務」、すなわち前記保護義務を認めることはできないといわればならない。

 さらに遡って考えると、原判決は、被告人Bが甲野の売上金を本社に納入する業務に従事し、あるいは同売上金を本社に確実に納入されるよう努めるべき義務を負っていたというのであるが、被告人Aらが対象としたのは丙川、丁原のパチンコ店の売上金であり、かつ現実に奪取された売上金は、丙川、丁原その他の店舗の売上金であって、甲野の売上金は含まれていないのであるが、そのような他店舗の売上金について、被告人Bが職務上どのように関係し、何故義務を負うのか説明がないのであり(原判決は、被告人Bの乙山に対する従業員としての義務の内容に鑑みると、甲野の売上金を本社に納入するのは、一〇日に一回の割合であり、本件犯行による被害金の中に甲野の売上金が含まれていないことは、同被告人の刑事責任を左右するものではない旨判示する。)、むしろ、被告人Aらの本件強盗は、当初からパチンコ店の売上金を対象とし、被告人Bに対してもそのように説明されており、被告人Bにおいても、パチンコ店の売上金を対象とした犯行という認識であったのであるから、パチンコ店の売上金を対象とした犯行を前提として、被告人Bにおける職務上の関連や義務を検討すべきであり、そうすると、被告人Bはその職務としてパチンコ店の売上金に何ら関与することはなかったのであるから、そもそも同被告人の職場である甲野での職務を前提に、本件犯行に関する前記保護義務の存否を検討すること自体、正鵠を得たものとはいえない、というべきである。

 さらに、甲野の主任(店長)としての立場から、被告人Bに被告人Aの犯行を阻止すべき義務が認められるかを検討すると、被告人Bは、同被告人及び被告人Aを含めた正従業員三名並びにその他アルバイト員らが働くゲームセンターである甲野の主任の立場にあったとはいえ、その職務内容は、ゲーム機の管理・点検、店内の巡視・監視、売上金及び両替用現金の管理・保管等、ゲームセンターとしての店舗の現場業務に関するものであって、そうした職務とは別途に、他の従業員らを管理・監督するような人事管理上の職務を行っていたわけではなく、原判決も、「被告人Aと同Bは、当時、いずれも、乙山経営の甲野に勤め、同店の業務全般に携わっており、同店では、被告人Bが、主任の立場にあったものの、被告人Aも、同社第一営業部長Fの指示を受けて、被告人Bと同様の仕事を任され、同等の立場でその業務に従事し、その売上金等を管理、保管していた。」と判示しており、被告人Bが被告人Aの行状を監督する職務を特に負っていたものではないから、被告人Bに職務上被告人Aの本件のごとき犯行を阻止すべき義務かあったということはできない。

 したがって、被告人Bについては、その職務との関係から、いずれにしても本行犯行に関する前記保護義務及び阻止義務を認めることができないといわねばならない。

 なお、職務内容とは関係なく 従業員としての一般的地位から、前記保護義務及び阻止義務が認められるか考えると、もしその従事する具体的な職務内容と関連なく、一般的に、例えば雇用会社の財産について保護義務あるいはそれに対する犯罪の阻止義務が認められるとなると、その保護義務及び阻止義務が無限定的に広がってその限界が不明となり、ひいてはそれら義務懈怠の責任を問われないため取るべき行動内容があいまいとなって、余りに広くその義務懈怠の刑事責任が問われたり、あるいは犯罪告発の危険を負うべきかその懈怠の責任を問われるか身体両難に陥らせるなど、酷な結果を導きかねないといえるのであって、職務とは関係なく従業員としての地位一般から、保護義務あるいは阻止義務を認めることはできないといわねばならない。ただ、もしそうした義務が是認されることがあるとすれば、犯罪が行われようとしていることか 実で明白な場合に限られるものと考えられる。そこで、本件における被告人Bの場合について検討すると、被告人Bが、一〇月一八日ころ被告人Aから、C及び同被告人らが集金車を狙った強盗をやる計画があることを打ち明けられ、それを止めさせようとしたが、同被告人に拒否された上、やるしかないとの言葉を聞かされ、同月下旬ころ、出勤した朝方、ソファーに疲れた様子で座っていた同被告人から、「やろうとしたが、やれなかった」旨聞かされたことかあったというのであるから、被告人Bとしては、C及び被告人Aらによる強盗が近い時期に行われる可能性が高いとの推測がついたともいえるのである。しかし一方、被告人B自身は、Cら実際に強盗を実行しようとしている者からはそれについて全く話を聞いていないため、具体的な犯罪実行の時期、方法、さらには実行の決意の程度をはっきりと認識できず、また、被告人A自身、Cに集金車の到着を知らせることは承諾したものの、その後Cの度々の催促かあっても、遅疑逡巡して決断が付かずに連絡を断る状態が続き、本件犯行当日の朝になってようやく決断をして、連絡をしたという状況であるから、被告人Bにおいて、その原審公判供述にあるように、被告人Aらが犯行を実行するのかどうか半信半疑のまま経過した、というのも一概に否定できず、被告人Bが本件犯行が実効される以前に、それが明白確実に実行されるとの認識を持ったものと、にわかに断定することはできないといわねばならない。そうすると 前記のように、従業員たる地位一般から保護義務ないし阻止義務が是認される場合があるとしても、被告人Bの場合それに該当するものと認めることはできない。

 したがって、被告人Bについて、雇用契約による従業員たる地位一般から前記保護義務及び阻止義務を導くことはできないというべきである。

 以上のとおりであって、被告人Bについて、いずれにしても不作為による幇助犯の成立を認める前提となる犯罪を防止すべき義務を認めることができないので 原判決の認定した被告人Aらの犯行を阻止しなかった不 為による幇助犯の成立を、認めることかできず、結局 同被告人に対する前記予備的訴因の公訴事実については、その犯罪の証明がないことに帰着する。

二 被告人Aに対する量刑について

 所論は、被告人Aを懲役八年に処した原判決の量刑は重すぎるという。

 本件は、すでに記述のところからも明らかなとおりの事案であるが、多額の現金を狙った犯罪で、計画的であり、約二〇〇〇万円という被害額も大きく、被告人Aは、実行犯への集金車の到着の連絡という犯罪の成否にとって重要な役割を果たしており、しかも同被告人が加担した動機も、自ら使い込んだ会社の金の穴埋めの資金を作るためというもので、酌むべきものはなく、さらに被告人Bをも引き込んで、自らの関与する犯罪の発覚の隠蔽を図り、自己の責任の軽減ないし回避を狙った卑劣とも思える行動を取っていること、原審公判では、責任逃れと思える弁解をして、自ら犯した犯罪の重大性について必ずしも十分な自覚をしているとは窺えないことなどからすると、被告人Aの責任は決して軽いものではない。しかしながら他方、犯行の発案者及び積極的な推進者はCらであること、被害者に負わせた致傷の点も、幸い軽い傷害にとどまっていること、被告人Aが分け前として受け取った五〇〇万円のうち四六〇万円は、使い込みの穴埋めという形であるものの、同被告人の手によって甲野の金庫に戻されており、同額の被害回復がなされているといえることなどの事情を考慮すると、同被告人に対する原判決の懲役八年の刑はやや重すぎるといわざるを得ない。したがって、量刑不当をいう論旨は理由がある。

第三 結論及び自判

 以上のとおりで、被告人Aの弁護人の量刑不当をいう論旨、及び被告人Bの弁護人の法令適用の誤り及び事実誤認をいう論旨(事実誤認をいう論旨についてはその一部)は、それぞれ理由があるので、被告人Bの弁護人のその余の論旨については判断を省略して、被告人Aについては刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により、被告人Bについては同法三九七条一項、三八〇条、三八二条により、原判決中被告人両名に関する部分を破棄することとする。そして、同法四〇〇条ただし書により更に次のとおり判決することとする。

一 被告人A関係

 原判決認定の(罪となるべき事実)の第二の事実に、刑法六〇条、二四〇条前段を適用して、所定刑中有期懲役刑を選択し、前記量刑不当の主張に対する判断において示した各情状、及び当審において父親から乙山に対し五〇万円の被害弁償がなされている事実を考慮して、同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽し、その刑期の範囲内で被告人Aを懲役六年に処し、原審における未決勾留日数の算入につき同法二一条を、原審における訴訟費用を負担させないことにつき刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用する。

二 被告人B関係

 被告人Bについては、原判決が有罪を認めた予備的訴因である、「被告人は、株式会社乙山の経営する静岡県浜松市《番地略》所在のR92ビル二階ゲームセンター「甲野」の店長として、同社の就業規程に従い誠実に職務に従事する義務を負っていたものであるが、A、D、C、Eほか三名が共謀の上、同社の経営するパチンコ店の売上金等の集金人G(当時三六年)から売上金を強取しようと企て、平成八年一一月五日午前九時一二分ころ、同ビル東側出入口付近において、右Dが、同ビル一階の同社の経営するパチンコ店「丙川」、同「丁原」等の売上金を集金し終えて同ビルから出てきた右Gに対し、すれ違いざまに、その顔面を肘で強打してその場に昏倒させるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧した上、同人が所持していた右売上金合計約一、九六五万三、六二〇円等が在中するジュラルミンケース一個(時価合計約一万円相当)を強取し、その際、右暴行により、同人に対し、加療約一〇日間を要する顔面挫創、頭部打撲傷等の傷害を負わせるに先立ち、同年一〇月一八日ころ、前記「甲野」事務所内において、右Aから右強盗の計画を明かされたのであるから、同社の上司あるいは警察に通報するなどの措置をとって、これを未然に防止すべき法律上の義務があり、かつ、右措置をとって容易に右計画を防止することができたにも拘わらず、右Aから暗に黙認して欲しいと依頼された上、右強取金の一部を同人と共に被告人が使い込んだ前記「甲野」の両替金等の穴埋めにすると明かされていたことから、これに応じ、前記犯行に至るまでの間、右Aらの行為を容認して前記措置をとらず、もって、前記犯行を容易にさせてこれを幇助したものである。」との公訴事実については、すでに控訴趣意に対する判断のところで記述したとおり、その犯罪の証明がないことになるので、刑事訴訟法三三六条により無罪を言い渡すこととする。

 よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本光雄 裁判官 松浦繁 樋口裕晃)