複数の公務員が国又は公共団体に対して連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う場合・大分県公立学校の平成19年度採用に係る試験事件第2次上告審
求償権行使懈怠違法確認等請求及び共同訴訟参加事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成31年(行ヒ)第40号
【判決日付】 令和2年7月14日
【判示事項】 複数の公務員が国又は公共団体に対して連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う場合
【判決要旨】 国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が,その職務を行うについて,共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき,国又は公共団体がこれを賠償した場合においては,当該公務員らは,国又は公共団体に対し,連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う。
(補足意見がある。)
【参照条文】 国家賠償法1-2
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集74巻4号1305頁
1 事案の概要
大分県教育委員会(以下「県教委」という。)の職員らは,教員採用試験において受験者の得点を操作するなどの不正(以下「本件不正」という。)を行い,大分県(以下「県」という。)は,これにより不合格となった受験者らに対して損害賠償金を支払った。本件は,県の住民である原告らが,被告県知事を相手に,地方自治法242条の2第1項4号に基づく請求として,本件不正に関与したAらに対する求償権に基づく金員の支払を請求すること等を求める住民訴訟である。
第1次第2審は,本件不正が発覚する前に退職していたAが本件不正発覚後に退職手当返納命令を受けて退職手当全額を返納していたところ,これに相当する額についてAらに対する求償権を行使しないことを違法とは評価できないと判断した。第1次上告審(最高裁判決平成29年9月15日集民256号77頁,判タ1445号76頁)は,上記の第1次第2審の判断には法令の違反があるとしてこれを破棄し,求償権の行使が制限されるべきか否かについて更に審理を尽くさせるため,原審に差し戻した。
第2次第2審は,この点について,求償権の行使は制限されないとしたが,不正に関与した公務員らの間でそれぞれの職責及び関与の態様等を考慮した分割債務になるとして,Aに対し,求償義務全体の4割に相当する金額の支払を請求すべきものとした。本判決は,第2次上告審として,求償権に係る債務が分割されるか否かという点について判断した。
2 事実関係等の骨子
(1) 大分県公立学校の平成19年度採用に係る試験(以下「平成19年度試験」という。)が実施された当時,小・中学校教諭等の教員採用試験の事務は県教委の義務教育課人事班が担当し,その合否の決定は教育長が行っていた。県教委には,教育長を補佐し義務教育部門を統括する教育審議監が置かれていた。
平成19年度試験の当時,Aは教育審議監,Fは義務教育課長,Eは人事班主幹であった。
(2) Aは,特定の受験者を平成19年度試験に合格させてほしいなどの相当数の依頼を受け,Eに対し,Aが選定した者を合格させるよう指示した。この指示の中には,Aが,賄賂を収受して依頼を受けたことによる指示もあった。
Fは,上記依頼のほかにも相当数の同様の依頼を受け,Eに対し,Fが選定した者を合格させるよう指示した。
Eは,上記の各指示を受け,受験者の得点を操作した上で教育長に合否の判定を行わせ,上記各指示に係る受験者を合格させた。
Aは,義務教育課長等に対する不正な依頼があることを知りながら,F及びEによる不正を是正しなかった。
(3) 県は,平成22年12月,和解に基づき,平成19年度試験において本件不正により不合格とされた者のうち31名に対し,総額7095万円の損害賠償金を支払った。
3 原審の判断等
(1) 第2次第2審は,Aが県に対して負う求償債務が分割されるか否かについて,以下のとおり説示して,Aは県が平成19年度試験に係る損害賠償として支払った金額の4割を負担すべきものとした。
AはF及びEと共同して,その職務を行うについて,平成19年度試験に係る本件不正を故意に行ったものであり,本来合格していたにもかかわらず不合格となった受験者に対しては上記両名と連帯して賠償責任を負うが,国家賠償法1条1項は代位責任の性質を有することからすると,同条2項に基づく求償権は実質的には不当利得的な性格を有し,求償の相手方が複数である場合には分割債務となると考えられるから,上記3名は県に対し分割債務を負うと解するのが相当である。そして,平成19年度試験に係る本件不正が行われた当時の上記3名の職責及び関与の態様等を考慮すると,県は,平成19年度試験に係る損害賠償として支払った金額について,Aにつき4,Fにつき3.5,Eにつき2.5の割合による求償権を取得するとするのが相当である。
なお,第2次第2審の認定によると,Fについては破産手続が開始されて終結し,免責許可決定がされており,Eは死亡し,相続財産が存在しなかったというのであり,F及びEに対して支払請求をしても,弁済を受けることが期待できない状況にあったことがうかがわれる。
(2) 論旨は,第2次第2審は,国家賠償責任を代位責任であると解したのであるから,国又は公共団体は,公務員が本来被害者に対して負うべき法的責任に基づいて求償することができ,公務員が被害者に対して本来共同不法行為責任を負う場合には,求償権に係る債務は分割されず,不真正連帯責任になると解すべきであるのに,第2次第2審には,そのように解さなかった法令違反があるという。
4 本判決の概要
第三小法廷は,判決要旨のとおり判断し,その理由として,国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が,その職務を行うについて,共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき,国又は公共団体がこれを賠償した場合には,当該公務員らは,国又は公共団体に対する関係においても一体を成すものというべきであり,当該他人に対して支払われた損害賠償金に係る求償債務につき,当該公務員らのうち一部の者が無資力等により弁済することができないとしても,国又は公共団体と当該公務員らとの間では,当該公務員らにおいてその危険を負担すべきものとすることが公平の見地から相当であることを挙げた。
本判決は,公務員が共同して故意によって違法に他人に損害を加えた場合について判示したものであり,重過失にとどまる場合などについては,今後の議論に委ねられたものと考えられる。
国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。