外国人と憲法第14条第1項の平等原則 関税法違反等被告事件 最高裁判所大法廷判決 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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外国人と憲法第14条第1項の平等原則

 

 

関税法違反等被告事件

【事件番号】      最高裁判所大法廷判決/昭和37年(あ)第927号

【判決日付】      昭和39年11月18日

【判示事項】      1、外国人と憲法第14条第1項の平等原則

             2、旧日米安保条約第3条に基づく行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例法6条、11条、12条の合憲性

【判決要旨】      1、法の下における平等の原則を定めた憲法14条1項の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するを相当とする。

             2、旧日米安保条約3条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例法6条、11条、12条は、憲法14条1項に違反しない。

【参照条文】      関税法等の臨時特例法6

             関税法等の臨時特例法11

             関税法等の臨時特例法12

             憲法14

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集18巻9号579頁

             最高裁判所裁判集刑事153号91頁

             裁判所時報414号4頁

             判例タイムズ170号180頁

             判例時報393号50頁

【評釈論文】      法曹時報17巻1号159頁

 

 

事案の概要

 本件は、被告人が米軍PXから関税免除の外国製映写機等を税関の許可を受けないで買い受けたかどで前記特例法12条に基き、関税法111条の密輸入罪として処断された事案であつて、上告論旨は、駐留米軍人等に対し免税の特権を認めた右特例法が憲法14条の平等原則に違反すると主張した。

 

 

昭和二十七年法律第百十二号

日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律

(関税の免除)

第六条 左に掲げる物品については、関税を免除する。

一 合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関が合衆国軍隊の公用に供するために輸入する物品で、当該軍隊又は機関が合衆国軍隊の公用に供するために輸入する物品であることにつき合衆国軍隊の権限ある官憲による証明のされたもの

二 軍人用販売機関等が合衆国軍隊の構成員、軍属若しくはこれらの者の家族又は契約者等の用に供するために輸入する物品で、当該機関がこれらの者の用に供するために輸入する物品であることにつき合衆国軍隊の権限ある官憲による証明のされたもの

三 合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関及び軍人用販売機関等以外の者が、合衆国軍隊の専用に供するため又は合衆国軍隊が使用する施設若しくは物品に附合、混和若しくは加工するために輸入する物品で、当該物品がこれらの目的のために輸入する物品であることにつき合衆国軍隊の権限ある官憲による証明のされたもの

四 合衆国軍隊の構成員、軍属若しくはこれらの者の家族又は契約者等の引越荷物及び携帯品

五 合衆国軍隊の構成員若しくは軍属が自己若しくはその家族の私用に供するため又は契約者等が自己の私用に供するために輸入する自動車(自動自転車を含む。)及びその部品

六 合衆国軍隊の構成員、軍属若しくはこれらの者の家族又は契約者等の私用に供するために合衆国軍事郵便局を通じて日本国に郵送される通常且つ相当量の衣類及び家庭用品

 

(関税免除物品の譲渡の制限)

第十一条 合衆国軍隊の構成員、軍属、これらの者の家族若しくは契約者等又はこれらの者であつた者が、日本国内において、合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関、軍人用販売機関等、合衆国軍隊の構成員、軍属、これらの者の家族及び契約者等以外の者(以下次条において「合衆国軍隊等以外の者」という。)に対し、第六条の規定の適用を受けた物品の譲渡(譲渡のためその委託を受けた者、又は媒介をする者に所持させることを含む。以下本条及び次条第三項において同じ。)をしようとするときは、政令で定めるところにより、税関長に申告し、当該物品につき必要な検査を経て、譲渡の許可を受けなければならない。

2 前項の規定による許可を受けないで物品の譲渡をし、又はしようとした者については、関税法第百十一条の規定を準用する。この場合において、同条中「輸入」とあるのは、「譲渡」と読み替えるものとする。

3 関税法第百十九条から第百四十九条までの規定は、前項の違反嫌疑事件の調査及び処分について準用する。

 

(免税物品の譲受の際の関税の徴収等)

第十二条 合衆国軍隊等以外の者が、合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関、軍人用販売機関等、合衆国軍隊の構成員、軍属、これらの者の家族若しくは契約者等又はこれらの者であつた者から、第六条の規定の適用を受けた物品(当該物品を使用して製造された物品及びその副産物を含む。)の譲受(譲渡又は譲受の委託を受けて、又はこれらの媒介のため所持することを含む。以下本条において同じ。)を日本国内においてしようとするときは、当該譲受を輸入とみなし、関税法、関税定率法及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律並びに酒税法第四十五条及び第九章中同条に係る部分の規定を適用する。

2 前項の場合において、同項の規定の適用を受ける物品に対する関税額の確定は、関税法第六条の二第一項第二号に規定する賦課課税方式によるものとする。

3 第一項の規定により適用することとされる関税法第六十七条に規定する輸入の許可を受けないで同項に規定する物品の譲受け(同法第七十条第三項又は第七十一条第一項の規定により輸入を許可しない物品の譲受けを除く。)をした者(以下この条において「無許可譲受人」という。)があつた場合において、当該許可を受けないで譲受けをした物品(以下この条において「無許可譲受物品」という。)のうち自動車その他政令で定めるものにつきその関税及び内国消費税の完納前に更に譲受をした者があるときは、その者は、その関税及び内国消費税につき当該無許可譲受人と連帯して納付する義務を負う。その他の無許可譲受物品でその性質、形状等により明らかに外国産品であると認められるものにつきその関税及び内国消費税の完納前に更に譲受をした者がその譲受又は譲渡を営業とする者であるときも、また同様とする。

4 前項に規定する輸入を許可しない物品を所有し、若しくは所持している者がある場合又は無許可譲受人若しくは前項の規定の適用を受ける者が無許可譲受物品若しくは前項の規定の適用を受ける物品を所有し、若しくは所持している場合においては、税関長は、これらの者に対し、政令で定めるところにより、期限を指定してこれらの物品を保税地域(関税法第三十条第一項第二号の規定により税関長が指定した場所を含む。次項において同じ。)に入れることを命ずることができる。この場合において、無許可譲受物品又は前項の規定の適用を受ける物品の関税及び内国消費税につき納税の告知がされていないときは、税関長は、速やかに納税の告知をしなければならない。

5 前項の場合において、同項の物品がその指定された期限までに保税地域に入れられなかつたときは、税関長は、当該物品を保税地域に入れ、その運搬及び保管の費用を、当該物品につき同項前段の命令を受けた者から徴収することができる。

6 第一項の規定の適用を受ける物品は、関税法の適用については、同法の外国貨物とみなす。この場合において、無許可譲受物品につき関税及び内国消費税を徴収したときは、当該物品は、同項の規定により適用することとされる関税法第六十七条の規定による輸入の許可があつた貨物とみなす。

7 前条第一項の規定及び第一項の規定により適用することとされる関税法第六十七条の規定による申告及び検査並びに許可は、政令で定めるところにより、一括して行うことができる。

8 第三項の規定により納付すべき関税については、関税法第百十条の規定は、適用しない。

 

 

憲法

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

 

 

       主   文

 

 本件各上告を棄却する。

 当審における訴訟費用は 被告人Aの負担とする。

 

       理   由

 

 被告人B、同Cの弁護人長崎祐三の上告趣意第一点について。

 所論は、原審において主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であつて、上告適法の理由に当らない。

 なお、職権をもつて調査しても、その理由のないことは以下述べるとおりである。

 すなわち、憲法一四条は「すべて国民は、法の下に平等であつて、……」と規定し、直接には日本国民を対象とするものではあるが、法の下における平等の原則は、近代民主主義諸国の憲法における基礎的な政治原理の一としてひろく承認されており、また既にわが国も加入した国際連合が一九四八年の第三回総会において採択した世界人権宣言の七条においても、「すべて人は法の前において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。……」と定めているところに鑑みれば、わが憲法一四条の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するのが相当である。

 他面、憲法一四条は法の下の平等の原則を認めいてるが、各人には経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異が存するものであるから、法規の制定またはその適用の面において、右のような事実関係上の差異から生ずる不均等が各人の間にあることは免れ難いところであり、その不均等が一般社会観念上合理的な根拠に基づき必要と認められるものである場合には、これをもつて憲法一四条の法の下の平等の原則に反するものといえないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二四年(れ)第一八九〇号、同二五年六月七日大法廷判決、刑集四巻六号九五六頁、昭和三一年(あ)第六三五号、同三三年三月一二日大法廷判決、刑集一二巻三号五〇一頁等)。

 ところで、所論日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和三三年法律第六八号による改正前の昭和二七年法律第一一二号、以下特例法という。)は、同法六条、一一条、一二条等の規定により、合衆国軍隊の公用物品等のわが国への輸入については、それが合衆国軍隊、その構成員、軍属、これらの者の家族等の用に供するためのものである限りにおいては、関税を課さないが、これをその他の者が日本国内において譲り受けようとする場合には、当該譲受を輸入とみなして関税法を適用する旨を定めたものであるところ、右諸規定は、前記安全保障条約に基づく行政協定一一条が合衆国軍隊、その構成員等の用に供する物品等のわが国への輸入につき関税を課さない旨を規定しているところに照応し、同条の規定を実施するため制定されたものにほかならない。

 そして、前記安全保障条約および行政協定が違憲無効と認められないことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和三四年(あ)第七一〇号、同年一二月一六日大法廷判決、刑集一三巻一三号三二二五頁)、また、憲法九八条二項は、わが国が締結した条約と確立された国際法規はこれを誠実に遵守すべきことを定めており、さらに、外国軍隊が条約によりまたは同意を得て他国に駐在する場合、その外国軍隊の機能を全うさせる必要上、これに対しこの種の特権を認めることは、一般に承認された国際慣行と認められる。しからば、このような諸点を総合して観察すれば、特例法が、合衆国軍隊、その構成員等に対し所論の特権を認めたことは、十分合理的な根拠があると認められるのであつて、右特例法の諸規定は憲法一四条に違反するものということはできない。それ故、所論憲法一四条違反の主張は理由がない。

 同第二点について。

 所論は事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

 被告人Aの弁護人四宮久吉の上告趣意について。

 所論は事実誤認、単なる訴訟法違反、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

 被告人D、同Eの弁護人中川宗雄の上告趣意について。

 所論は原審において主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であつて、上告適法の理由に当らない。 よつて、刑訴四〇八条、被告人Aにつき同一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

  昭和三九年一一月一八日

     最高裁判所大法廷