渋谷区立松濤美術館で「藤田嗣治と愛読都市パリ」を観た! | とんとん・にっき

渋谷区立松濤美術館で「藤田嗣治と愛読都市パリ」を観た!


渋谷区立松濤美術館で「藤田嗣治と愛読都市パリ」を観てきました。藤田嗣治の作品をまとまって観たのは、2004年11月、箱根・仙石原にあるポーラ美術館で「コレクションにみる子どもの世界 フジタ、ピカソを中心に」という展覧会で観たのが最初だったように思います。また2008年11月には、上野の森美術館で「没後40年レオナール・フジタ展」を観ました。目黒美術館でも、たしか「藤田嗣治展 人物と動物」(所蔵作品より)として、フジタの作品を観た記憶があります。


実は、「挿絵」についてはあまり興味がなかったのですが、アートブロガー大御所の「Art & Bell by Tora 」のブログを見て、やはり観ておかなくちゃと思い直したというわけです。解説に「ヨーロッパにおける挿絵本の歴史は古く、書物としての価値だけではなく、芸術作品として一つのジャンルを形成しています」とある通り、ウイリアム・モリスの本づくりに始まり、かなりのエネルギーが注がれているのはよく知られているところです。19世紀末から20世紀にかけて、新しい美術の潮流が挿絵本の世界に大きな変化をもたらし、藤田嗣治がパリの渡った1913年は、こうした挿絵本興隆の時代のさなかにありました。


藤田がサロン・ドートンヌの会員に推挙され、1921年には裸婦像を出品、後に「すばらしき乳白色の地」と絶賛される画風により、パリ画壇で揺るぎない地位を確立したことはよく知っていましたが、挿絵本制作に精力的に取り組んでいたことは、僕はこの展覧会で初めて知りました。藤田は戦時中、軍部の推進する美術制作の中枢にいて、さかんに戦争記録画を描いたため、戦後になって非難を浴びることになりました。GHQの追求を恐れた美術界は、藤田を「美術界の面汚し」と非難し、自主的に戦争責任を迫りました。グローバルなパリの画壇で鍛えられた藤田にとってみれば、レベルの低い村社会で足の引っ張り合いをしている日本画壇に堪えられなかったろう、日本を離れてフランスに帰化し、二度と日本に帰ることはありませんでした。


2007年4月に川口市立アートギャラリー・アトリアで「二人のクローデル展」を観ました。二人というのは、ロダンの弟子て恋人でもあったカミーユ・クローデル、そしてその弟で駐日大使も務めた詩人のポール・クローデルです。そのポール・クローデルの著作の挿絵を藤田が描いていたことを、今回の展覧会で僕は初めて知りました。その時の図録をみてみると、藤田嗣治が描いた3点のクローデル像の一つで、自筆で描いた唯一の素描作品、「ポール・クローデル像」がありましたので、下に載せておきます。



藤田嗣治の挿絵本





「しがない職業と少ない稼ぎ」は、アルベール・フルニエとギイ・ドルナンの著作に藤田が描いたもの。子供が昔ながらの風船売り、煙突掃除、小鳥屋、バガボンド(放浪者)、包丁研ぎなどの人物に扮した絵を載せています。ポーラ美術館で観ましたが、どれをとっても子供の表情が素晴らしい。「四十雀」は、ジャン・コクトーの著作に藤田が挿絵を描いたもの。藤田夫妻がローマ法王に謁見した日を記念してつくられた版画。藤田蔵書コレクションにある本書に含まれている貴重な別刷りのうちの一枚。椅子に座った法王は大きめ、藤田夫妻は画面隅に小さめにかしこまっている面白い絵です。



エコール・ド・パリの挿絵本とその時代




油彩画など



「藤田嗣治と愛読都市パリ―華ひらく挿絵本の世紀―」

ヨーロッパにおける挿絵本の歴史は古く、書物としての価値だけでなく、芸術作品として一つのジャンルを形成しています。各時代、画家が本の内容に自らの解釈とイメージによる挿絵を描き、文字と一体化した美しい挿絵本を生み出しました。それらは愛書家たちの収集の対象となり、稀少価値の高い美術品として伝えられてきました。とりわけ19世紀末から20世紀にかけては、印象派をはじめ新しい美術の潮流が挿絵本の世界に大きな変化をもたらします。画商ヴォラールは、ボナールやピカソ、シャガールら当時の著名な画家たちに依頼して、詩集や小説に版画による挿絵を付した限定版の挿絵本を世に送り出し、その人気は高まって出版ブームが訪れました。藤田嗣治(1886-1968)がパリに渡った1913年は、こうした挿絵本興隆の時代のさなかにありました。やがてパリ画壇で頭角を現し始めた藤田は、サロン・ドートンヌの会員に推挙された1919年、最初の挿絵本《詩数篇》を手がけます。1921年には同展に裸婦像を出品、後に「すばらしき乳白色の地」と絶賛される画風により一躍パリ画壇で揺るぎない地位を確立すると同時に、挿絵本制作にも精力的に取り組み始めます。1920年代、藤田は30点以上の挿絵本を手がけ、あの天才ピカソでさえその半数に及ばなかったことを考えると、いかに挿絵本の世界に魅せられていたかがうかがえるでしょう。本展は、1910年代以降に制作が始まり、戦後にまで至る藤田の挿絵本を一堂に集め、画家としての多面的な才能を紹介します。また、藤田が活躍した両大戦間のパリを中心に、同時代のエコール・ド・パリの画家たちが手がけた挿絵本も多数紹介し、近代ヨーロッパにおける挿絵本の魅力や背景を探ります。


「渋谷区立松濤美術館」ホームページ


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