渋谷区立松濤美術館で「大正イマジュリィの世界」展を観た! | とんとん・にっき

渋谷区立松濤美術館で「大正イマジュリィの世界」展を観た!



渋谷区立松濤美術館で「大正イマジュリィの世界」展を観てきました。副題には「デザインとイラストレーションのモダーンズ」とあります。まずは「イマジュリィ」とはなにか? イマジュリィとは、イメージ図像を意味するフランス語で、装幀、挿絵、ポスター、絵はがき、広告、漫画など大衆的な複製としての印刷・版画の総称をいうようです。


展覧会の構成は、以下の通りです。

第一部 大正イマジュリィの13人

      藤島武二

      杉浦非水

      橋口五葉

      坂本繁二郎

      竹久夢二

      富本憲吉

      高畠華宵

      広川松五郎

      岸田劉生

      橘小夢

      古賀春江

      小林かいち

      蕗谷虹児

第二部 さまざまな意匠

      エラン・ヴィタルのイマジュリィ

      浮世絵のイマジュリィ

      震災のイマジュリィ

      子ども・乙女のイマジュリィ

      怪奇美のイマジュリィ

      京都アール・デコのイマジュリィ

      尖端都市のイマジュリィ

      新興デザインのイマジュリィ

      大衆文化のイマジュリィ


「独創的な発想で人気を博した、あるいは奇想幻想の知られざる、画家、版画家、挿絵画家、工芸家たちによる、装幀、挿絵、デザイン画、広告、ポスター、絵はがき、版画などの作品約300点を展示します」とあり、あまりにも作品数が多いのには驚きました。しかも、なかにはよく知られた画家たちもいて、これにも驚きました。例えば、竹久夢には別にして、見知った画家たちを拾い出してみると、藤島武二、坂本繁二郎、岸田劉生、古賀春江、小村雪岱、鏑木清方、北野恒冨、山村耕花、高村光太郎、村山槐多、恩地孝四郎、小出楢重、等々、そうそうたる名前が、また、バーナード・リーチや富本憲吉が出ていたりもしました。村山知義や、吉田謙吉の名前があったりもします。


藤島武二は女性が胸をはだけた「マンドリンを弾く女」など、やはり情念的です。杉浦非水は、図案的な引用を受けました。樋口五葉は、新版画、アール・ヌーヴォーの画家ですが、浮世絵研究の成果から江戸版画的な作家です。坂本繁二郎は、青木繁と同級生、哲人画家のおもかげがあります。竹久夢二は、マルチ・クリエーター、多芸多才で、風景も素晴らしい。「歌劇ホフマンの物語船うた」はヴェネツィアのゴンドラを描いています。富本憲吉は東京美術学校図案かを卒業。図案から陶芸へ進んだ人で、バーナード・リーチらと共に民藝運動に邁進します。


高畠華宵は、京都市立美術工芸学校日本画科を卒業。モダンな少女や大正のモダンガールを描いています。古代からの女性像にも精通しています。高畠はいいですね。広川松五郎は、ちょっとおかたい図案のようです。橘小夢は、不思議な感性を持ったイラストレーターです。浮世絵に近い感性です。「水魔」は、水のなかに女性が裸体で、その身体に河童がしがみついています。古賀春江は、メルヘンチックなシュルレアリズムです。小林かいちの絵はタロットカードのような印象。蕗谷虹児、便箋の表紙だという「モンマルトルの夜」「花更紗」「巴里の熅火」「仏蘭西人形」はいいですね。「花嫁人形」は、蕗谷の自作の詞だという。


さすがに鏑木清方の「佐々醒雪」は素晴らしい口絵です。山六郎の「女性」は、まさにミュシャ風です。「尖端都市」とは「モダン」を指すらしい。「尖端都市のイマジュリィ」では、作者不詳ですが「フランク・ロイド・ライト作品集」や、蔵田周忠の「国際建築特集・第1ル・コルビジェ」があったりで、驚きました。。「文字」が時代を感じます。古い印象を受けるのはやはり「文字」、独特の印象を受けます。「エラン・ヴィタル」とは「生命の飛躍」ということのようです。


大正はわずかに15年、この短い期間にさまざまな出来事がありました。耽美、抒情、前衛といった要素が時代をより魅力的なものにしたとはいうものの、たしかに「凝縮されたもの」が詰まっていると考えたいですが、果たして現代にどれだけ通じるものがあるのかも検討の価値があるというあたりが、この「大正イマジュリィの世界」のタイムリーなところなのでしょうか。モダニズムの世代、モダンデザインの教育の中で育ってきた僕としては、なかなかすんなりと受け入れがたい世界、感性であることは言うまでもありません。正直言って、苦手な分野の苦手な感性で、出来れば避けて通りたい。









「大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションのモダーンズ」
イマジュリィ“imagerie”とはイメージ図像を意味するフランス語ですが、装幀、挿絵、ポスター、絵はがき、広告、漫画など大衆的な複製としての印刷・版画の総称です。本展ではポピュラー・カルチャーの旗手として大衆に浸透してゆく大正の新しいイマジュリィに注目します。多彩で豊穣なデザインとイラストレーションの花を咲かせたこれらのイマジュリィは、1人1人の眼に訴えかける親密性を持ちえており、いまなお清新な輝きをはなっています。一世を風靡したアール・ヌーヴォー様式の橋口五葉とアール・デコに取り組んだ杉浦非水や小林かいち、あるいは大正を象徴する竹久夢二や高畠華宵にみられる少女趣味の抒情性や岡本帰一や加藤まさをの子ども世界の愉しさ。また小村雪岱の洗練された江戸趣味や橘小夢や竹中英太郎らの怪奇幻想美を秘めた時代の雰囲気。そして都市文化におけるモダニズムは恩地孝四郎や古賀春江らを膿だし、プロレタリア美術は柳瀬正夢や村山知義らの前衛を目覚めさせます。やがては大衆の絶大な人気を集める演劇/映画、音楽、ファッションなどとつながり商業美術に裾野を広げてゆきます。この時代をおおうエラン・ヴィタル(生命の飛躍)の感覚は大きなうねりとなり、同時に耽美、抒情、前衛といった要素が時代をより魅力的なものにしてゆきます。一方では、関東大震災やプロレタリア運動、都市風俗や商業広告の拡大といった社会状況をものみこんでゆき、イマジュリィは爆発的な力をみせ、それゆえ先鋭化した表現がうまれました。網膜の奥深くに記憶される象徴的な図像として、それらはなによりも、人々の憧憬のすがたであり欲望のかたちであったといえるでしょう。独創的な発想で人気を博した、あるいは奇想幻想の知られざる、画家、版画家、挿絵画家、工芸家たちによる、装幀、挿絵、デザイン画、広告、ポスター、絵はがき、版画などの作品約300点を展示します。


「松濤美術館」ホームページ


過去の関連記事:

渋谷区松濤美術館で「中國美術館所蔵 中国の扇面画」展を観た!

松濤美術館で「ガランスの悦楽 没後90年 村山槐多」展(後期)を観た!
松濤美術館で「ガランスの悦楽 没後90年 村山槐多」展を観た!
松濤美術館で「江戸の幟旗―庶民の願い・絵師の技―」展を観た!

渋谷区立松濤美術館で「素朴美の系譜」展を観た!
松濤美術館で「上海・近代の美術」展を観る!
松濤美術館で「大正の鬼才 河野通勢」展を観る!
松濤美術館で「ミネアポリス美術館浮世絵コレクション展」を観る!
「大辻清司の写真 出会いとコラボレーション」展を観る!
白井晟一の「渋谷区立松涛美術館」を体感する!