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2012年の鑑賞作品を、独断と偏見により総括してみる。
昨年末に全タイトルを一言コメント付きで振り返っているので
ここではその中から特にお勧めの作品だけをピックアップ。
大半の作品は過去ログにて個別で紹介済み。
もう少し詳しく知りたい方は、サイドバーの過去ログ検索窓に
映画のタイトルを放り込んでいただけると紹介記事が引き当たるはず。
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▼これだけは観ておきたい、2012年度公開映画総まとめ(邦画編)
・ヒミズ
東日本大震災後に撮った園子温監督からの「負けるな」を形にした映画。
マイナスを知る者でなければ、ゼロであることがどれほど幸福なことかは分からない。
主人公の住田祐一は、震災によって家屋を流され、放射能汚染によって
「日常」を失ってしまった人々の象徴でもある。
相変わらず暴力的な表現は多いが、その背後には大人としての責任が見える。
・はさみ hasami
「大阪ハムレット」の光石富士朗監督が理容学校を舞台に書き上げたドラマ。
一足先に社会に出ている綾野剛が
「好きなことを商売にするんじゃなかった」と嘆くシーンがある。
手に職を付ける、好きなことで喰っていくことの厳しさを前に
挫けたり足踏みしたり逃げ出したりする生徒達の悩みがリアル。
徳永えり、窪田正孝ら若手の芝居も素晴らしい。
東京を舞台にしているはずが、関西的な人情劇が強過ぎるのは残念。
・キツツキと雨
森で暮らすひとりの木こりと、デビュー作の撮影にやって来た
若き映画監督が織り成すコミカルなドラマ。
役所広司と小栗旬という、それぞれの世代を代表する実力派が
「男の可愛気」を演じていて、なんともほっこりした気分になる。
さすがは「南極料理人」の沖田修一監督。
・わが母の記
作家・井上靖の実体験を原田真人監督が映画化したドラマ。
幼い頃に母に捨てられたという想いを捨て切れない主人公が
痴呆症で壊れてゆく母親の介護を通して長年のわだかまりを解いてゆく物語。
「映画的なドラマ」を徹底的に排除したリアリティ重視の演出と
言葉を吟味したであろう何気ない日常会話に日本映画の旨味が凝縮された1本。
・おおかみこどもの雨と雪
富山県・劔岳の美しい風景の中で子育てに奮闘する若き母親と
母の愛情を全身に受けながらすくすくと成長してゆく二人の子どもの姿を描いた
細田守監督の最新作。いくつものテーマを織り込みながら
三人三様の人生が北アルプスの四季の移り変わりの中で描かれる。
大野百花の芝居(声)が実に良い。彼女の屈託のない笑い声があればこそ
花は何事にもめげずに頑張ってこれたのだと思える。
・かぞくのくに
1959年から1984年まで行われていた「帰国事業」によって
引き裂かれてしまった、ある家族の物語。
フィクションと謳っているが、エピソードは監督であるヤン・ヨンヒの実体験がベース。
16歳で離れてから25年振りの日本・家族は、彼の目にどう映ったのか。
喜びも悲しみも押し殺した無表情の下を想う時、無性にやるせなくなった。
井浦新も素晴らしいが、何と言っても安藤サクラが絶品。
・桐島、部活やめるってよ
漠然とした不安を抱きながら、消化試合のように青春を浪費してゆく
高校生達の日常を切り取った吉田大八監督作品。
校舎の屋上で大乱闘になった後、馬鹿にしていたはずの前田(神木)が
将来について述べる、ほんの短い台詞が未だに忘れられない。
正しい自己認識で将来を見据えている前田と
ルックスが良い、背が高いといった「好条件」に寄りかかって
実は何の覚悟も定まっていなかった菊池との力関係が、たったひと言で逆転してしまう衝撃。
前を走っているつもりが、周回遅れであったことを思い知らされる菊池の敗北感。
どんな映画もラストシーンは重要だが、本作はこのシーンによって傑作となった。
・アシュラ
ジョージ秋山の傑作コミックを「TIGER & BUNNY」のさとうけいいちが映画化。
わずか75分の本編に、命を喰らい命を繋ぐ人間の性が濃縮されている。
アニメの枠に止めてはもったいない作品。
・鍵泥棒のメソッド
三谷幸喜とはまた違った日本産コメディの成功例。
舞台色の強かった「アフタースクール」からもう一歩踏み込んで
映画らしさを意識した脚本+演出がようやく花開いた。
堺雅人・香川照之・広末涼子によるアンサンブルも良い。
・アウトレイジ ビヨンド
とても真面目に「ヤクザ映画」のセオリーを守った北野作品初の続編。
裏切られた者同士が復習のために結託し、栄華を貪るインテリヤクザを
地べたへと引きずり卸してゆく過程を描いている。
若いヤクザの無鉄砲さと老いたヤクザの狡猾さを交互に描きながら
巨大組織に蠢く人間模様を細部までピチッと描き込む、職人芸のような仕上がり。
呆気ないほどの鮮やかな幕の引き方もお見事。
・ツナグ
誰しもが経験する「もし今、あの人が生きていたらどうしただろうか」を
叶えることの出来る「ツナグ」によって、母と息子、クラスメート、恋人達が
伝え損なった想いを届けてゆくオムニバス形式のドラマ。
使える能力の違いはあるが、演出法やストーリー構成は
安藤政信主演の映画版「サトラレ」に近い。
橋本愛のエピソードがシナリオ、芝居共に素晴らしかった。
・悪の教典
貴志祐介の同名ベストセラーを三池崇史監督が実写化。
泣き叫びながら命乞いをする生徒に向け、何の躊躇いもなく引き金を引き
血の海の中で楽しそうにステップを踏み、口笛を吹く伊藤英明は
仙崎大輔(「海猿」)のイメージを完全に粉々に叩き潰してしまった。
感情を全く読めない、魚のように無機質な目が心底恐ろしい。
・ふがいない僕は空を見た
女性ならでは視点で描かれた、性と生の物語。
コスプレ好きな主婦と男子高校生が軸になっているが、
決して週刊誌ネタに走らず、苦境に喘ぐ者へのエールが込められている。
ラストで見せる卓巳の笑顔と穏やかな語り口は
「永遠の僕たち」のヘンリー・ホッパーを彷彿させる素晴らしさだった。
2012年度邦画・忍的作品賞:「桐島、部活やめるってよ」
ベスト5は「はさみ」「わが母の記」「かぞくのくに」「ふがいない僕は空を見た」
2012年度邦画・忍的主演男優賞:役所広司
出演作品「キツツキと雨」「わが母の記」
2012年度邦画・忍的主演女優賞:樹木希林
出演作品「わが母の記」「ツナグ」
2012年度邦画・忍的助演男優賞:三浦貴大
出演作品「あなたへ」「ふがいない僕は空を見た」「大奥 永遠」
2012年度邦画・忍的助演女優賞:安藤サクラ
出演作品「愛と誠」「かぞくのくに」「その夜の侍」
2012年度邦画・忍的新人賞(男):窪田正孝
出演作品「はさみ」「ふがいない僕は空を見た」
2012年度邦画・忍的新人賞(女):橋本愛
出演作品「桐島、部活やめるってよ」「ツナグ」
2012年度邦画・忍的監督賞:吉田大八
監督作品「桐島、部活やめるってよ」
2012年度邦画・忍的脚本賞:原田眞人
担当作品「わが母の記」
2012年の映画興行は邦画が活況だったおかげで2011年を上回ったと
レポートが上がっていたが、作品のクオリティで言えばむしろ不作だった。
ただ、作品賞に挙げたのが若手実力派が顔を揃えた「桐島」だったり
助演では三浦貴大や安藤サクラが光っていたりと
世代交代が確実に進んでいるのは良い兆し。
最新作で衰えを隠し切れなかった高倉健や吉永小百合とは対照的だった。
橋下愛は「告白」後の大ブレイクで2012年は出演作が相次いで公開されたが
作品選びに節操が無さ過ぎるせいで、上手い下手の落差が激しいのが残念。
▼これだけは観ておきたい、2012年度公開映画総まとめ(洋画編)
・サラの鍵
新居に選んだ年代物の建物に昔は誰が住んでいて、どんな人生を送ったのか。
偶然掘り起こした60年前の秘密に触れたひとりの女性ジャーナリストが
かつてフランスで行われていたユダヤ人虐殺を追うドラマ。
終盤まではかなり重いがラストはとても感動的で、私もホロリと泣いてしまった。
・灼熱の魂
母の遺書を手がかりに、死んだと聞かされていた父と
初めてその存在が明かされた兄を探して旅に出る、息子と娘のロードムービー。
足跡を辿るほどに判明する壮絶な母の人生があまりにも重く痛い。
2010年度のオスカー外国映画賞ノミネート作品。
・J・エドガー
FBIの初代長官ジョン・エドガー・フーヴァーを描いた伝記ドラマ。
強大過ぎる権力を乱用して多くの非難を浴びた人物の裏の顔を
イーストウッド監督がレオナルド・ディカプリオ主演で描き出す。
何もかも手に入れたようで、実は何も手に入れられなかった
エドガーの最期の姿を見る時、人は「独りで死ぬ」ことが怖くて
誰かと共に生きてゆくのかも知れない、と思った。
・人生はビギナーズ
ある日突然、末期癌の父親からカミングアウトされた男が
人生を見つめ直すヒューマンドラマ。
突飛な設定と思ったら、何と監督の実体験なのだとか。
唯一の理解者である父を失った今、話相手は犬のアーサーだけとなってしまった
内向的な主人公をユアン・マクレガーが好演している。
・ヤング≒アダルト
仕事も恋も上手くいかない30代女性を主人公にしたコメディ・ドラマ。
三十路を過ぎても未だに精神が未熟で、大人になりきれない主人公を
シャーリーズ・セロンが上手く演じ過ぎて、見ていて辛くなるほど。
だが、落ちぶれた現状をひた隠しにして、安いプライドを保とうとする姿は
生意気や身勝手というのとはまた違った、生きるのが不器用な女ならではの
可愛気もチラリと見えてくる。ただコミカルなだけで終わらない良作。
・メランコリア
巨大な惑星メランコリアが地球に激突する前日を描いた
奇才ラース・フォン・トリアー初のSF作品。
破滅的な思想とダッチロールを繰り返すストーリーに観客は振り回されっぱなしだが
鬱病を経験した監督ならではの映像や性格描写が非常にリアルで
「終わってゆく世界」への畏怖と諦観が織り込まれた展開は
繰り返し観て隅々まで吟味したくなる。インパクトの強さは今年随一。
・ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
「リトルダンサー」のスティーヴン・ダルドリーが
911の爪痕を描いたヒューマンドラマ。
事件直後にビル内にいた父からかかってきた最後の留守電を、
母親に聞かせることも消去することも出来ずにいる11歳の少年オスカーが
父の遺した最後の謎を解くために旅に出る物語。
旅を通して、自分を理解してくれるのは父親だけだと思っていたオスカーが
実は無数の善意に囲まれて日々を生きていることに気付き
少しずつ固い殻を破ってゆく。ラストで温かい感動に包まれる。
・SHAME シェイム
孤独を埋めることが出来ずにセックス依存症に悩む男を描いた
マイケル・ファスベンダー主演の問題作。
本来ならば最も濃密なコミュニケーション手段であるはずのセックスを
ゆきずりや金銭を介してしか出来なくなってしまった男が抱える大き過ぎる闇の正体は。
妹役のキャリー・マリガンも好演。性描写はアダルト映画並みなので成人のみ。
・ヘルプ 心がつなぐストーリー
黒人差別がまだ色濃く残っていた1960年代のアメリカで起きた物語。
とかくウェットになりがちな黒人差別問題から湿度を取っ払い
虐げられる女性達の逞しさを描いている点が面白い。
黒人女性の将来の選択肢が「メイド」しか無かった時代。
家主と同じトイレの使用すら許されず、逆らえば即警察の世話になる状況でも
どっこい生き抜く彼女達に勇気をもらえる。
悪役が板についてきたブライス・ダラス・ハワードも良し。
・ドライヴ
「スタントマン」と「逃がし屋」二つの顔を使い分ける男のクライム・サスペンス。
ストーリー性は薄く、個々のキャラクター設定も大雑把だが
観客をスクリーンに釘付けにする強力な色香が漂う作品。
雰囲気映画の頂点と言ってもいいかも知れない。
・アーティスト
今年のオスカーで主要5部門を制覇したモノクロ作品。
サイレントの全盛から終演、トーキーの萌芽を描きつつ
落としどころがやはり恋愛という点も上手い。
最後の最後でこれは80年前のお話なのだと思い出させる「ひと言」がまた素晴らしい。
オスカーに犬部門を設立しろと言いたくなるほどの名演を見せる愛犬アビーも花マル。
・別離
本年度のアカデミー賞で外国映画賞を受賞したイランの作品。
離婚協議で揉める一組みの夫婦を通して、イランが直面している
様々な問題を浮き彫りにしてゆくヒューマン・ドラマ。
政局に気を配りながら公開時期まで考えなければならないという
イランの厳しい管理体制の下で、これほどの作品が送り出されたことは奇跡だ。
・ファミリー・ツリー
仕事ばかりに精を出し、子育てを任せきりにしていた夫が
妻が事故をきっかけにして人生を見つめ直すドラマ。
ジョージ・クルーニーが貫禄の上手さでキャスト全員を引っ張る姿は
家族再生を描いた作品の父親像そのもの。
ハワイを舞台にしたことにもちゃんと意味がある。
派手さはないが、脚本と芝居はピカイチ。
・ミッドナイト・イン・パリ
ずっと相性の悪かったウディ・アレンで、初めてドンピシャにハマった作品。
作家への転身を目指しているひとりの男性が、婚約者と訪れたパリで
1920年代にタイムスリップし、多くの著名人と親交を深めてゆくファンタジー。
今年で76歳の名匠ウディ・アレンは、本作で昔を懐かしく仰ぎ見つつ、
「でも、僕達が生きている今この時代だって捨てたもんじゃないだろ?」と語りかける。
映画好きならば押さえておくべき作品。
・私が、生きる肌
天才的な腕を持つ医師が、ひとりの青年の人生を奪おうとする狂気のラブストーリー。
加害者を妻と瓜二つし、愛情を受け入れさせることで復習心と渇きの
両方を満たそうと試みる男の心理が、アルモドバル独特の美学で描かれる。
エレナ・アナヤの透き通る肌と、バンデラスの色気。
贅を尽くした衣装と音楽。映画を観る醍醐味が詰まった1本。
・ハロー!?ゴースト
自殺願望のある若者が4人の幽霊に取り憑かれるコメディ。
「サニー」と同じで、喜怒哀楽の振り幅が大きい韓国流の演出はハナにつく。
いつまで経っても面白くなりそうにない展開に、序盤から中盤までは
「とんでもない地雷を踏んでしまった」と思った。
しかし、最後の最後にまさかの展開が待ち受けていて、その上手さに思わず膝を打つ。
終わり良ければすべて良しの典型のような作品。中盤まではじっと我慢。
・ワン・デイ 23年のラブストーリー
毎年7月15日に会う約束をした二人の23年間を100分間にまとめた恋愛映画。
いつでも連絡できる距離を保ちながら、友達以上恋人未満の関係を続けた二人を
アン・ハサウェイとジム・スタージェスが上手く演じている。
泣いた翌年には笑い、笑った翌年にはまた泣いている。
早回しで見つめれば、人生はそんなものなのかも知れない。
・少年は残酷な弓を射る
手の付けられない子どもを「悪魔憑き」としてしまえばただのオカルト、
「狂気」で片付ければただの三面記事だが
この映画は「どこで道を誤ったのか」「親としてどう接するべきなのか」を
問い続ける母親の苦悩にスポットをあてたサスペンス。
世間を震撼させる事件を起こした子の親の心理はこんなものだろうかと考えさせられる。
輝かしい経歴を捨ててまで生んだ息子が全くなつかないことを苛立ちつつ
美味しいところだけさらってゆく父親に嫉妬を覚える。
母親を演じたティルダ・スウィントンが、かつてないほどの名演を見せてくれる。
息子役のエズラ・ミラーも強烈。もっと話題になっても良かった作品。
・The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛
今年の5月にミャンマーの国会議員となったアウンサンスーチー女史の半生を描いたドラマ。
平穏に暮らしていたひとりの女性が、夫からも子どもからも隔離され、
亡き父の遺志を受け継いで14年9ヶ月にも及ぶ軟禁生活を耐え切ったこと、
虐げられた生活の中でも信念を曲げなかったことに感心感服。
主演のミシェル・ヨーが圧巻。
・ダークナイト ライジング
「ダークナイト」よりも「ビギンズ」に寄せた新生「バットマン」シリーズの完結編。
「スパイダーマン」や「アベンジャーズ」がポジティブな魅力を振りまく一方で
ダークヒーローである「バットマン」はひたすら暗く重い。
命をかけてジョーカーを演じた故ヒース・レジャーに匹敵する敵役が
そう簡単に出てくるはずもなく、「ダークナイト」のインパクトには及ばなかったか。
・トガニ 幼き瞳の告発
韓国の聴覚障害者学校で実際に起きていた
暴力行為や性的虐待を映画化した社会派ドラマ。
怒りの矛先をどこに向け、最終的にどこに着地したいのか。
明確な意図を持って製作された本作だが、プロパガンダの道具としてではなく
1本の映画として素晴らしく良く出来ている。
登場人物達の「無念」を前面に押し出すことで
スクリーンから観客へ「希望」という名のバトンが手渡される。
小さな告発が本になり、映画になり、ついには国をも動かした現実に
映画という媒体の在り方や、映画の持つ力を考えさせられた傑作。
私的には「殺人の追憶」「マラソン」と並ぶ韓国映画の歴代トップ3。
もしかするとNo.1かも知れない。
・遊星からの物体X ファーストコンタクト
SFホラーを語る上で外せない傑作「遊星からの物体X」が
タイトルはそのままで、プリクエル(前日憚)として30年振りに復活。
ジョン・カーペンター版(82年)の冒頭で走ってくる犬が
どのような過程を経てアメリカ基地までやってきたのか、
先に全滅したと言われるノルウェー基地での出来事を映画化している。
特に吸収と擬態を繰り返す「アイツ」の造形が非常に良く出来ており
成り済ましている隊員が本性を現すシーンはなかなかの迫力。
スタッフやキャストの知名度(の無さ)を考えれば、ここまで出来れば大健闘。
・アベンジャーズ
作品の枠を超えてアメコミヒーローが豪華競演を果たしたお祭り作品。
大所帯をまとめる上手さで「X-MEN ファーストジェネレーション」を抜き
肉弾戦の迫力で「インモータルズ 神々の戦い」を抜き
特撮&3D技術で「トランスフォーマー/ダークサイドムーン」を抜いた本作は
まさにアメコミ映画の決定打。続編が楽しみ。
・最強のふたり
経済的にも文化的にもかけ離れた世界に住む二人が
ふとしたきっかけで出会い、友情を育んでゆくヒューマン・ドラマ。
洋画離れが進む中、単館系での公開ながら口コミでロングランヒットとなり
累計興収は15億円まで到達した。今年最大のサプライズヒット作。
・アルゴ
1979年にイランで発生したアメリカ大使館人質事件を
ベン・アフレックが主演・監督で映画化。
人質に取られた大使館員を救出するため
架空のSF映画「アルゴ」をでっち上げるサスペンスドラマ。
結末は分かっているのに、進行中のプロジェクトと、迫り来る過激派の魔の手を
ザッピングしながら見せてゆく演出法が抜群の緊張感を生み
手のひらにじんわりと汗が滲むほどのテンションを維持したまま
一気にラストまで突っ走ってゆく。
・ボディ・ハント
「X-MEN ファーストジェネレーション」「ハンガー・ゲーム」の
ジェニファー・ローレンス主演のサスペンス・ドラマ。
引っ越してきた一軒家のお向かいが、かつて惨殺事件の起きた家だったという設定。
「フォーンブース」や「ディスタービア」のような
2時間弱で上手くまとまったサスペンス。
中盤あたりでオチは読めてしまうのだが、
惨殺事件の生き残りである青年ライアンのキャラクターが秀逸。
「ハンガー・ゲーム」の100倍面白い。
・人生の特等席
クリント・イーストウッドの4年ぶりのスクリーン復帰作。
引退間際の老スカウトマンが、長年で身につけた勘を頼りに新しい才能を発掘し
愛娘との関係も修復してゆく王道の感動作。
データ至上主義を掲げた「マネーボール」に対し
「そんなもんで野球がわかってたまるか」と毒づくイーストウッドが格好良い。
老いるにつれてままならなくなってゆく我が身に苛々を募らせながら、
亡き妻の墓前では「YOU ARE MY SUNSHINE」を口ずさむ。
82歳でこんな芝居ができるのはイーストウッドぐらいのものだろう。
・ 007 スカイフォール
クレイグボンドの最高傑作。
舞台を去る者、久々に復帰する者、某氏の後任まで登場し
今後のシリーズ展開を占う上で重要な1本。
シリーズ存続を心の底から喜べる作品。名作。
・フランケンウィニー
ティム・バートン監督にとって、おそらく最も思い入れが深いであろう
デビュー作を30年振りにリメイク。
モノクロの世界はそのままに、短編では描ききれなかったエピソードや
オマージュをてんこ盛りにした87分。近年のバートン作品では断トツのNo.1。
・レ・ミゼラブル
舞台の演出法と映画の演出法を融合させた新しいミュージカル映画。
「ドリームガールズ」や「ヘアスプレー」のように歌と話を切り離していないため
ミュージカルが苦手な方には勧め辛いが、舞台版「レミゼ」のファンなら見逃しては損。
アン・ハサウェイの「夢やぶれて」の歌唱シーンが圧巻。
2012年度洋画・忍的作品賞:ミッドナイト・イン・パリ
次点は「サラの鍵」「SHAME シェイム」「ヘルプ 心がつなぐストーリー」
「ドライヴ」「ファミリー・ツリー」「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」
「トガニ 幼き瞳の告発」「アベンジャーズ」「最強のふたり」「アルゴ」
「007 スカイフォール」「レ・ミゼラブル」の12本
2012年度洋画・忍的主演男優賞:レオナルド・ディカプリオ
出演作品「J・エドガー」
2012年度洋画・忍的主演女優賞:ミシェル・ヨー
出演作品「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」
2012年度洋画・忍的助演男優賞:クリストファー・プラマー
出演作品「人生はビギナーズ」「ドラゴン・タトゥーの女」
2012年度洋画・忍的助演女優賞:アン・ハサウェイ
出演作品「ダークナイト・ライジング」「レ・ミゼラブル」
2012年度洋画・忍的監督賞:ベン・アフレック
監督作品「アルゴ」
2012年度洋画・忍的脚本賞:ファン・ドンヒョク
担当作品「トガニ 幼き瞳の告発」
邦画とは打って変わって洋画は大豊作。
上で挙げた各賞も全て僅差で、全ての部門で5つずつ選出したいほど。
社会問題に切り込んだ作品も多く、「映画」というメディアを使って
何が出来るのかを製作陣が真剣に考えているのが分かる。
これほどの名作が公開されながら洋画興行はジリ貧というのだから
送り手ではなく私達受け手が、もっとアンテナを伸ばす必要があるのではないか。
ドラマの拡大版やコミック原作だけに足を運ぶのではなく
「1本2時間でどれだけ人生が豊かになるか」も判断基準に混ぜて欲しい。
▼これだけは観てはいけない、2012年度公開映画10本
・POV 呪われたフィルム
今年観た中でもトップクラスの安っぽさ。
ネタにはできたので突き抜けたトホホを評価。
・レンタネコ
「かもめ食堂」「めがね」の荻上直子監督の最新作。
「寂しさを埋める為に猫を貸す」というレンタルシステムそのものに嫌悪感。
人間の為に犬猫が都合良く使われるのは勘弁ならん。
・愛と誠
歌も踊りも演出も恥ずかしくなるほどクオリティが低い。
お遊びとしても許されないレベル。
三池監督は作品ごとのムラ(しかもかなり落差が激しい)を改善しない限り
いつまで経っても巨匠にはなれんな。
・アナザー Another
「貞子 3D」に続くジャパニーズ・トホホホラー。
ホラーよりもミステリー要素が強く、角川産アイドル映画といった雰囲気。
設定の段階で破綻している物語をさらに改悪し、どこもかしこも納得がいかない。
おまけに死に方はまんま「ファイナルデスティネーション」のパクり。
志が低いにも程がある。
・ あなたへ
世代や価値観の差などではなく、監督も役者も明らかに腕が落ちている。
本作の高倉健と「北のカナリア」の吉永小百合が
今年の映画賞で主演男優&女優賞を獲得していて頭が痛くなった。
功労賞なら異論はないが、この映画の高倉健は紛れもなく大根だ。
・放課後ミッドナイターズ
滑り芸かと思うほど全てが空回りのコメディ。
CMやPVで活躍していたクリエーターが映画を作った場合に陥るパターンの典型。
短編を引き延ばしたら長編になるわけではないと何度言ったらわかるのか。
・ハンガー・ゲーム
「バトル・ロワイヤル」路線かと思いきや「トワイライト」路線の甘々サバイバル。
逃げ道を用意しなければ作れないなら、こんな題材に手を出さない方がいい。
・009 RE:CYBORG
頭でっかちの見本のような、固有名詞を乱用するだけのダラダラ脚本にトホホ。
小難しい単語さえ使っておけばマニアを騙せるとでも思ったのか
サイボーグ戦士個々の活躍すら描き切れていないのはどういうことか。
「監督のオ●ニー」を見せたいならせめてオリジナルでやれ。名作を汚すな。
・北のカナリアたち
吉永小百合が若い才能をことごとく無駄遣いするドラマ。
「デビルマン」の那須真知子を脚本に迎えたおかげで、
主人公の行動は一般人には理解不能。「最初からそのつもりだった」なら、
何故わざわざ生徒達の元を訪ね回る必要があったのか。
物語が、開始5分でもう破綻しているのである。
サユリストへのサービスのつもりなのか、下手なメロドラマを追加し
しかも夫が柴田恭平で不倫相手が仲村トオルって何だそれは。
「あぶない刑事」の先輩後輩どんぶりか。
湊かなえが「原作」ではなく「原案」にしてくれと言った理由も良くわかる。
・ミロクローゼ
山田孝之が1本の作品の中で3人の男を演じ分けるエンターテイメントムービー。
監督は「OH!マイキー」の石橋義正。
とうの昔にバブルが弾けていることに気付かない時代錯誤の脚本が痛々しい。
三役を演じ切った山田孝之のハートの強さは感心するがそれだけ。