真夏の海のA・B・C…D -18- | 妄想最終処分場

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ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

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真夏の海のA・B・C…D -18-




お互いに膠着状態に入った2人の間にも、時間は平等に流れていく。

その間も蓮は毎日だるまやに通いキョーコに甘い言葉を投げかけ、キョーコはキョーコであしらいつつも迫ってくる月末に定まらない自分の気持ちを蓮のその言葉に乱されていた。


そんな、クラゲも見え始めた8月半ば過ぎ。


『きゃー!!!』


暑さに誘われてクラゲなんてなんのその、まだまだ人の賑わうビーチに突如悲鳴が響いた。

(え…何?)


それは店内で接客中だったキョーコの耳にも届き、キョーコは思わず店の外…ビーチの方向を振り向いた。

店内で談笑していた客もただならぬその悲鳴にざわつき始め、ほとんどの客はキョーコと同様にビーチに注目し数人は何が起きたの確認しに席を立って店の外に移動してし始めていた。

ビーチでは同じように悲鳴を聞きつけた人がわさわさと動いているのが見えるが、一体何が起きたのか店内からでは伺い知ることができない。


表の騒ぎに来店客の動き。

どう対応すべきかキョーコが逡巡していると、店の奥から女将が声をかけてきた。


「キョーコちゃん、お客さんがこんなじゃこのまま接客もできないよ。何が起きたか見てきてくれるかい?」


調理中の大将は厨房を離れることができない。

厨房から顔をのぞかせた女将が、店内は私が見てるからとキョーコに指示を出した。


「はいっ!」


キョーコは出入り口に向かう客の波に紛れ、ビーチへと駆けだした。







騒ぎの元を確認すべく、人の動く方向に砂に足を取られつつ走る。

ざわつく衆人の注目が集まる方向に視線を走らせたキョーコの目が、海岸に張り出した護岸の上を走る長身の男の姿を捉えた。


(敦賀さん…!)


遠目で顔は見えないが、ライフガードの服装を確認するまでもなくそれが蓮であることがキョーコには分かった。救護所から遅れて何か色々と道具を抱えた社と思わしき人影がそれに追随するのも見える。

鍛え抜かれた肉体で足場の悪い護岸をものすごいスピードで疾走する蓮の姿に、ただならぬことが起きたと確信したキョーコの背中が妙なざわめきでゾクリと粟立つ。


蓮の向かう先には防波用に護岸から張り出した不安定な足場のテトラポットの列があり、その上で数人の男女が海に向かって何かしらを叫んでいる。


『きゃー!由美子っ、由美子っ!!』

『誰かっ!!早く来て!!』

『助けてくれ!人が溺れてる!!』


(海に落ちて溺れてる人がいるんだ!)


走って海に近づけば、叫んでいる言葉の内容が耳で聞きとれてキョーコは状況を把握した。

必死に海に向かって友人の名前を呼ぶ女性の声や、周囲に助けを呼ぶ複数の声が聞こえる。

数人の男女がいるその場所。そこはちょうどキョーコが以前に海に転落して蓮に救助された場所だった。


足が滑り視界が反転したあの瞬間

アッと思う間に水中に放り出された体

息苦しさと思うように動かせない手足と遠くなる水面がフラッシュバックし、キョーコの心臓はドクドクと大きく脈打つ。


―――溺水者が出た


騒ぎの現況を認識したにもかかわらず、そして自ら体験した恐怖を思い出しながらも、キョーコの足は止まらなかった。


視界の先、遠くで蓮が上着を脱ぎ捨てて護岸から海に飛び込むのが見えた。キョーコはそれを目にして、またしてもぎゅうっと心臓がつかまれたように痛かった。


(敦賀さんっ…!)


全速力で波打ち際まで走ったキョーコは、己の膝に手を当てていた。すぐにでも状況を確認したいのに、爆発しそうな心臓と息苦しさでギュッと瞑った目は開かず、顔は足元に向けられたまま。キョーコはすぐには顔を上げられなかった。


「はぁ、はぁ、はぁっ…」


なんとか息を整えて顔を上げると、視界の先で蓮が女性を海から護岸に引き上げるところだった。


(良かった…)


ホッとしたのも束の間だった。

引き上げられている女性はぐったりとしており、自ら手足を動かす様子も見受けられない。その様子に、安堵に緩んだはずのキョーコの表情が強張る。


『由美子っ!由美子ぉっ!!』


友人と思わしき女性が半狂乱になって女性の名前を呼んでいるのが、距離のある浜辺まで響いてくる。

コンクリートでごつごつしてはいるが平らな護岸に、蓮は引き上げた女性をあおむけに寝かせていた。


『由美子さん、分かります?』


蓮が女性に話しかけているのが聞こえてくる。しかし反応はないらしく、女性は全く動かない。ぐったりと力なく横を向いた女性の頭を蓮の大きな手が真上を向かせるように支えている。

蓮は救命活動を展開しようとしているようだった。


その光景にキョーコは目を見開いて、自らが蓮に助けられた時のこと瞬間的に思い出していた。



重なった唇


開いた視界に最初に飛び込んできた蓮の表情



(人工呼吸……するの?)




―――… 君だけだよ?この唇で触れたいのは …―――




いつものうっとおしく感じていた蓮の言葉が蘇る。




(触れるの?私以外に・・・?)




しつこいくらい、求愛の言葉を自分い囁くあの唇が。




―――………君だけだよ





(…………嘘つき!!)






「…っ、いや!!敦賀さん、ダメっ!!!」










思わず叫んでいたキョーコは


………一瞬、キョーコの方に視線を向けた蓮と目が合った。