「景気と経済対策」書評レビュー
著者:小野善康

出版:岩波新書
おすすめ度:★★★★★


【おすすめします】
経済学をきちんと解説した本を探している方
経済・景気と政府の動きとの関係を考えたい方
景気の動向がどう作られるかの流れを知りたい方
大衆心理に流された政治判断の誤りについて知りたい方


【概要】
経済学という冠をつけた本はいっぱい出ていますが、
きちんと経済学の体系だった理論に基づいて、
実際の経済を解説していくという良著は少ないと思っています。

需要側、供給側という二つの経済学のオーソドックスな
視点から経済政策について、実際に政策提言の場に絡んでいる
著者により地に足のついた議論が展開されています。

とっつきやすい本ではないですが、経済学について、
学習したことはあるけど、実際の世の中の動きのイメージを
つかみたいというような方におすすめです。


【間違った大衆心理】
好況時は、政府の財布の紐が緩くなりがちで、不況になる
と財政支出を目指そうとする最近取られている多くの政策が、
大衆心理に流された間違った対応だということがわかります。


【高所得者優遇の是非】
また、最近は人材の国外流出や、労働インセンティブを高める
ために、高所得者を優遇しよう(高所得者の累進税率を低くする)
というような動きもありますが、経済学的には、低所得者の方が、
消費性向(所得に対して消費に回す割合)が高いため、
年収2000万円の人を優遇する財源を、年収500万円の人4名に回した
方が、実際の景気刺激効果は高いというようなことも言われています。


【医療保険は公共投資と同じ】
医療保険は、政府支出という面では、公共投資と同様の性質があり、
医者という高所得者へ所得が入るというものになります。よって、
これらの制度優遇を行うより、低所得者への所得政策の方が、
経済効果は高いと主張されています。
→医師団体のロビー活動の意味がわかりますね。


【消費性向と資源価格高騰の関係】
物価が下がることが見込まれれば、待っていればモノの値段が
さがるから、貯蓄性向があがり、消費性向が下がり、経済が縮小
していくのがデフレといわれている現象です。そのため、
消費性向をあげていくためには、「インフレの見込み」が必要です。

→そう考えると現在の石油やその他の資源価格の高騰における
「インフレ見込み」という現在の状態は、高くなってモノが売れ
なくなるのではなく、経済学的見地からは、消費性向を上げていく
インセンティブになるという解釈ができるわけです。


【金融自由化によるマネーゲーム促進】
実体経済から乖離することを危険性を筆者は予見しており、
マネーゲーム部分が大きくなると、金融庁や日銀等の公的機関による
調整機能が働きづらくなるということを筆者は指摘しています。
確かに、サブプライム問題に対して、米政府が政策出動を迅速に
行うという発表がされても、株価の回復は鈍かったと感じます。


【筆者の提言~新産業技術開発】
マネーゲーム促進による見せかけの経済数字の積上げではなく、
消費者に「欲しい」と思わせる新産業技術製品を開発すること
こそ、景気向上に必要だというのが筆者の見解です。
不況時には、将来への研究開発投資が過少評価されたり、抑制
されることが多いことに注意しなければならないとしています。
例えば、常に技術革新を行ってきた自動車業界は活況ですし、
日本の鉄鋼業界が、低迷期にあっても続けてきた技術革新が
今世界的な優位性と収益性を保つのに、大きく貢献しています。


【筆者の提言~意識改革】
最も最後の章で述べられているが、意識改革です。具体的には、
不況期に行われがちな「悪者探し」と、「利己的利益の追求」に
偏ってしまうと経済がうまく回らなくなるといっています。
だんだんとそういう負の意識って最近の世の中では、薄くなって
きていると個人的には思っていますがどうでしょうか。


【学んだこと】

景気とは:不況(需要が供給を下回ると失業が発生)
     バブル(需要が供給を上回るとバブルが発生)

供給側の視点:経済活動の決定は、供給能力次第。「作れば売れる」
需要側の視点:経済活動の決定は、需要側で行われる。「売れるのは需要次第」


 →需要が供給を上回っていれば、供給側の視点での政策がOK。
 →需要が供給を下回っていれば、供給側の視点での政策は無駄。


リストラについての捉え方
 ・供給側の視点:リストラされた人は再配分されるからOK。
 ・需要側の視点:リストラの受け皿なしにはより不況が深刻化。


失業について
 ・供給側の視点:自発的な失業。高賃金。情報のミスマッチ等。
 ・需要側の視点:消費不足で職がない。金持ち願望→消費減退等。


バブル
 ・供給側の視点:作れば売れるのだからバブルという発想はない。
 ・需要側の視点:完全雇用でなければ公共投資は資源の有効利用。


公共投資
 ・供給側の視点:完全雇用が前提なので、民間部門に任せ、
         効率の悪い公共部門は縮小。
 ・需要側の視点:失業があるなら、余剰資源の有効利用ができる。
    但し、消費抑制を超える程の大規模な投資は実施が難しい。


公共投資の評価
 ・供給側の視点:コストを超える便益があるかどうか
 ・需要側の視点:失業者や遊休設備を使うのであれば有効。


公共投資か減税か
 ・お金をもらう人に何かをやらせるかやらせないかの違いだけ。


国債
 ・国債は国の借金?
  →政府と民間で相殺されて関係ない。
 ・国債が海外に買われたら?
  →国債を買う分だけ外国通貨が流入してくるから関係ない。
 ・短期的視点・長期的視点どちらの運用が良いか?
  →好みの問題であって、優劣の問題ではない。


不況期の銀行救済について
 ・供給側:立ち行かない銀行は市場原理に基づき破綻させるべき
 ・需要側:資金の流動性が残り、破綻による失業が防げる効果。


【アクションプラン】
日経BPの経済指標についてもっと勉強する。
需要と供給というフレームを、日常生活に当てはめて考えてみる。
経済政策の判断フレームワークとして、完全雇用前提の供給側の
発想と、需要側の発想との両面から自分なりに分析してみる。



景気と経済政策 (岩波新書)
小野 善康
岩波書店
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おすすめ度の平均: 4.5
4 公共事業という諸悪の根源
5 とにかくわかりやすい!!