⑪ 葡萄樹の生育~水はけ | ろくでなしチャンのブログ

⑪ 葡萄樹の生育~水はけ

           ⑪葡萄樹の生育~水はけ

 

 

 葡萄樹生育に於ける3大要素は、微生物、水はけ、畑の土壌と言われています。

 

 ワイン用葡萄樹の説明としては、『葡萄の水分補給は若干少なめであるほうが良質の葡萄が実るため、排水のよい土壌のほうが良いことになります。水分が不足気味の土壌においては、葡萄は生き延びるために水分を探して、根は深く土中に伸びようとします。
 その結果、根は土中に水源を探し当て、適度な水分補給に成功するのです。したがって一般的には、葡萄はこうした土壌環境におかれたときに、より良質な葡萄を結実する、ということになります。』とされています。

 

 葡萄樹は耐干性は強い方ですが、耐水性は余りないと言われています。つまり、乾燥に対しての抵抗力は十分なのに、水気が多いと成長しづらく、根が腐りやすく、水分過多のブドウは水っぽい葡萄と呼ばれ、果皮も薄く果実味も薄れてしまうのです。

 ボルドーの石や砂利の層が厚い(場合より6mにも及ぶ)土地が葡萄栽培に向いていると言う所以ですが、下層まで砂利質、砂質土壌の場合は困ります。あくまで下層に粘土質や岩盤等の保水層があることが前提なのです。

 

 ボルドーの地質は大雑把に言うと石灰岩質と粘土質。このどちらも栄養成分は乏しいもの保水性は高いとされています。つまり、表土部分が砂利質で下層部分に石灰岩質や粘土質があれば理想的となるようです。

 石灰質土壌は、保水性が高い一方で、水分が飽和すると反対に水はけが良くなる、というワイン作りに最適な土壌と言われているようです。

 

 表土にもたらされた雨水は土中深く浸透し、葡萄樹は必要量の水分を吸収します。乾燥し水分が不足すると下層まで伸びた根が水分を吸収する。

 葡萄樹の根が水分を必要な時、必要量を吸収できる、やや乾燥した環境が良好な土質のようです。

 このようにみるとボルドーは確かに水はけの良い土地が多いようですが、全てのシャトーの全区画が理想的ではありません。実際問題としてほぼすべてのシャトーが排水設備を長年にわたって設置しており、総延長は数百㎞に及ぶだろうと言われています。シャトー買収に於ける改良に当たっては排水設備の設置・改良が第1義的に考慮されると言われているほどです。 

 

 1842年、シャトー・ラグランジュのオーナー、デュシャテル伯爵は、葡萄園の土中に素焼きの土管を埋めて水はけを良くし、排水設備を整えています。
 シャトー・シュヴァル・ブランは排水システムの構築が早かったと言われており、シャトー・ブラーヌ・カントナック、シャトー・ローザン・セグラ、シャトー・グリュオー・ラローズ、シャトー・パヴィ等々ほぼすべてのシャトーが排水設備を設けていると言っても過言ではないでしょう。

 

 シャトー・プロヴィダンスは地下6mに排水溝を設置し、汲み上げ用のポンプを設置していますし、ポムロールのシャトー・ラ・コマンドリー・ド・マゼールでは、地下1.5mに30cmほどの地下水脈層が発見されたため、水脈層を貫く井戸を掘り、葡萄の生育期問中は自然水を排水して水位を下げていると言います。

 

 葡萄(ワイン)に最も大きな影響を与えるのは、土壌によるものではなく土壌以外の気候等そのほかの要素が大きく関わっているとされています。

 この点は、いわゆるビッグ・ヴィンテージを考えると理解できるものと思われます。天候に恵まれ、必要な時期に必要な水分が供給された年に良いワインが出来ることとなるのですから。

 

 もっとも土壌がワインに影響を与えないと言う事ではありませんが、土壌の何が影響を与えるのでしょうか。

 この点に関しては、土壌の物理的な組成が葡萄に影響を与えますが、土壌のカルシウムやマグネシウムといった化学的な組成ではなく、土壌を構成する物理的な組成がどう葡萄に水分供給をするかによって葡萄の個性が変わると言われています。さらに言えば、土壌の水はけによって葡萄の出来が左右されます。

 

 「日照と水はけを理想的な環境にすれば、どんな地層でも、美味しいワインが出来る」と言われる方もいらっしゃいますし、他方葡萄栽培には葡萄にストレスを与えることが重要だと説かれる方もいらつしゃいます。栄養や水分が不足すると葡萄は子孫繁栄のために葡萄の果実(種)の成長に集中するからという理由の様です。

 

 土壌の化学的な組成で考えると、栄養が豊富な土壌から良質なワインが出来るとかと言うとどうもそうではないようです。

 ボルドーのグランクリュの表面土壌(top soil)は、動物の糞などの有機肥料を与える(買う)ことができますので、窒素・リン・カリウムといった有機物が豊富なのですが、土壌の表面に限ったことです。土壌全体を見ると、良質なワインを生産する畑は共通して、土中の栄養分が相対的に貧弱なのです。殆どの畑が酸性の小石交じりの土壌で、高いカリウムのせいでマグネシウムが欠乏し、低い窒素レベルであると言われます。

 PHレベルで見ると、良質ワインは、酸性土壌、アルカリ土壌、中性土壌からも生まれています。

 

 結果的にワインの品質の違いは、葡萄畑の土壌の化学的組成・栄養分の違いが大きく影響をしていることにはならないようです。

 高品質ワインは、化学組成的にはバランスがとれ、多少栄養状態が欠乏しているような土壌から生まれているのですから。
 しかし、良質ワインを産する畑に共通するのは葡萄の根が土中深く発達している点を見逃すことは出来ないようです。

 

 葡萄の根が地中に深く伸びることにより、様々な地下地層の岩盤などから、様々なミネラルを吸収することによって、複雑な香りが生まれることになる。

 

 シャブリは石灰質土壌から造られるため、特有な火打石臭やカチッとしたミネラルを思わせる香りが生じる。グラ―ヴの赤ワインやローヌの赤ワイン、ドイツのラインファルツのワインに「土」の臭いがあり、サンテミリオンのワインの中に「鉄」の臭いがあり、ナパのワインには、「火山灰」による渋みを感じる。等々言われていますが、実際には、土壌に含まれる個別の成分(カルシウムやマグネシウム)が、出来上がるワインの香り(フレーバー)に影響を与えるということはない。というのがほぼ大勢の見方であり、現代のワイン専門家でこのことを信じている人はかなり少数派だとか。

 この点は、石灰岩や花崗岩など、地質的な組成、化学的に判明している個別の成分のみで匂いや味わいの違いを説明しきれない、科学的な実証はできていないということだと思われます。

 

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