⑨ 葡萄の収獲 | ろくでなしチャンのブログ

⑨ 葡萄の収獲

               ⑨ 葡萄の収獲

 

 7月から8月になると葡萄の房は大きくなり始め、果皮の色に変化が現れ始めます。着色期の到来です。黒葡萄は今までの緑色が突如黒紫色へと変わります。

 この後、8月中旬以降5週間程の成熟期へと向かいます。

INAO(国立全国原産地名称協会)の各支部が、歴史あるバン・ド・ヴァンダンジュ(収穫開始宣言)を行います。通常収獲開始日の1週間程前に役場に掲示されます。

 AC、地区、コミューン、格付け級に対する各ヘクタール当たりの最高収穫高、最低最高アルコール度数、収穫開始日等が示されます。

 成熟期に入った各シャトーでは、頻繁にサンプル果汁の分析を行い、収穫のタイミングを図ることとなります。

 

 最も重要視するのは葡萄の糖度と酸度のバランスです。

前話のとおり、糖分の蓄積(分析的成熟)とフェノール類の成熟(生理的成熟~香味成分の成熟)において、ボルドーはフェノール類の成熟が先行しますので、糖度の蓄積が十分であれば両者の成熟は一致します。 収穫時期の選択は、成熟の調和を求めつつも、天候の変化(雨や雹)にも気を配らなければならず、1年で最も神経を使う時のようです。ともあれ、収獲が決まったら早期に収獲する必要があります。

 そこで、糖分と酸度が重要となるのですが、糖度が増すと酸度が減少しますが、このプロセスは天候に大いに左右されます。天候不良により酸度が下がらないこともあるようですが、2日程の好天気で一気に目標数値に達すると言いますから相当微妙な様です。

 糖度21度(潜在アルコール度数11度)、酸度5g/ℓ(酒石酸換算)が赤の収穫の目途とされている様です。

 収獲はメルロー、カベルネ・フラン、そして酸度が高く糖度の上がりにくいカベルネ・ソーヴィニオンが最後に収獲されます。

 

 事前に収穫人(ピッカー)の確保が必要となります。人材派遣会社、季節労働者、学生等が対象のようですが、ピッカーは完熟した葡萄を選別する能力を必要とされる為、例年同じメンバー(スペイン等からの出稼ぎ労働者)を確保していることが多いようです。

 一般的には、収獲された葡萄の品質により各人に対する日当を決めているようです。カリフォルニアでは1日150ドル、ポルトガルでは1日30ユーロとか。

 ピッカーは背中にしょった篭へ葡萄を入れ、集積場所へ運び入れて篭から出すといった作業をしていたようですが、近年は葡萄の粒が潰れて果汁がこぼれ、酸化するのを嫌い小型のカジェット(Cagette)を使用しているとされています。


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※2005年の収穫、選果の様子が見られます。シャトー・ディッサン

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 カジェットとは運搬用箱(採集コンテナ収獲篭)のことと思われます。

小さな篭で収獲して小型のカジェットに入れるのか、直接カジェットに入れるのかは定かで有りません。

 小型カジェットの導入は、シャトー・ムートン・ロートシルトが最も早く導入したようです。

 カジェットに関するデータは少ないのですが、判明しているのはシャトー・ラフイットは容量8㎏、シャトー・パルメ、シャトー・ラスコンブは容量10㎏、シャトー・ムートン・ロートシルトは容量12㎏、シャトー・ラ・ラギューヌは容量20㎏の小型カジェットを使用しています。

 シャトー・プシェでは50㎝四方の超小型カジェットを使用し、葡萄が潰れることを嫌うシャトーでは葡萄が重ならないように超平型(1段のみ)のカジェット使用例もある様です。他には、シャトー・コス・デストゥルネル、シャトー・パブ・クレマン、シャトー・マレスコ・サン・テグジュベリは小型カジェットを使用と明言していますが容量は不明です。

 

 写真で見る限り結構な大きさがありますので、葡萄が潰れないことはないと思いますが、昔より配慮しているということでしょうか。

 もっとも、葡萄が完熟すると果皮は厚くなる様ですので大丈夫かも。

ともあれ、運搬箱上部から葡萄がはみ出ない程度に詰め込み、上部にどんどん運搬箱を重ねてトラックで運搬することとなります。

 以上は、人力による収穫ですが機械収穫をみてみましょう。  


 

機械収穫

 1960年代以降葡萄の機械収穫が取り入れられるようになりました。ACボルドーでは殆どが機械収獲だとされています。具体的には畝を上から跨ぎ、車輪の内側に設置されたグラスファイバー製の棒で葡萄樹の幹に強い振動を与え、葡萄の実のみ落とし、下に設置されたベルトコンベアーで集果する方法の様です。機械はハーベスター(1台1,600万円とか。)と呼ばれ、摘果、摘葉、薬剤散布にも対応できるオールラウンド型もある様です。

 収穫のコストは人力の凡そ3分の1位であり、稼動させようと思えば運転手の確保が条件ですが24時間稼働も可能であり、収穫人(ピッカーと運搬人ポーター)20人分の働きをするそうです。収穫は従前大人数を確保しなければならない問題点がありましたが、早朝の涼しい中、稼働させることも出来ます。

  実はボルドーのトップシャトーは急激な天候悪化に対する配慮とし、予備的にハーベスターを有している様です。

 

 ハーベスターの短所としては、葡萄樹に激しい振動を与えるため、30年から50年で葡萄樹が枯渇するとされる方もいらっしゃいます。

 また、収穫された葡萄は果梗から振り落とされる為、軽く潰れたような状態の為、タンニン等のフェーノール成分が果汁に溶けだしたり、酸化が進む等の欠点が指摘されています。

 また、未成熟な葡萄が混入するため青臭い植物的な香りをもつワインが出来る事があります。

 さらに、機械を導入するためには葡萄が生る位置を地表から40㎝以上にしなければならないことと、垣根仕立てであり、機械化が可能なスペイシングが必要となります。

 さらに、異物混入の恐れも有ります。カタツムリ、バッタ、蜘蛛等の昆虫や鳥の死がいまで入っていることがあるようです。

 

 この様な短所を少しでも減らすため、ハーベスター作業の前に未熟な果房や腐敗した実や、邪魔な葉を事前に取り除いているシャトーもあるようです。

 格付けシャトーではいずれも手摘であると表明していますが、シャトー・ボイド・カントナックは一部機械摘みである様です。メジャー級では、シャトー・ラ・カバンヌが機械摘みの様です。      

 

 ピノノアール種は果梗をワインに浸漬させるため、ハーベスターを使用する事が無いようです。

 また、AOCシャンパーニュとAOCボージョレでは機械積みは認められていません。ボージョレ地区で機械積みにより粒で収穫したら、マセラシオン・カルボナーラ、違った、マセラシオン・カルボニックが出来ないよね。果梗だけ別に入れれば別だけど。

 

  収穫された葡萄の果皮が厚く、果粒が小粒なものは糖度も高く、種子がアーモンドのようなナッツの味わいがあるものが優れていると言われ、葡萄の果皮が薄く、果粒が大粒で水膨れしたものは雨による影響で有り、好まれないようです。

 

出典 ワインの個性 出版ソフトバンク・クリエーティブ 堀賢一著

   大人のワイン熟 時事通信社 太田悦信著 等


 

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