⑦ 葡萄畑の雑草と灌水 | ろくでなしチャンのブログ

⑦ 葡萄畑の雑草と灌水

              ⑦ 葡萄畑の雑草と灌水

 

 

雑草の管理

 葡萄畑に雑草が生える事に関しては、両極端な考え方が有る様です。

 

1.雑草が生える事によって、栄養分を草に取られてしまい、葡萄樹の

 生長を阻害する。同様に貴重な水分が草に取られてしまい葡萄樹に

 好ましくない。と言う考え方です。

2.葡萄樹に好ましい。

雑草・葡萄樹間の水分・養分獲得競争による、根の発達、

多種養分吸収論。

  葡萄樹への保温効果、、傾斜地における表土流出の防止論。

  雑草に由来する、根の菌の多様化論

 

いろいろありますが、各シャトーの発言を集めてみますと以下のとおりです。

 

『自然に近い形の栽培を大切にしています。』

『雑草を生やしておくことで、葡萄畑に良い食物連鎖が生まれます。』

『オーガニック・ファーミングの一環としてロバを放牧して、葡萄畑の雑草駆除をしています。』

『ボージョレ地区は、ヒルガオが盛んに生えます。ヒルガオは葡萄の房の成長を妨げるからこれだけは引き抜きます。』

 

『草は土壌表面の水分を吸収することで、葡萄は小さく、粒間が広くなり通気性が良いため、腐敗果が生じにくいのである。さらに、草と競争することで、葡萄は土壌表面ではなく、地下へと根を伸ばし始める。地下深くの無機物(ミネラル)を吸収することで、葡萄の味に複雑味を持たせることができる。結果的にワインの味も複雑味を増し、深い味わいになる。』

 

『葡萄樹の畝の間には、わざと雑草を生やしています。若い樹は活発に活動し、必要以上に養分を蓄え過ぎるので、雑草と養分の吸収を争わせてコントロールします。表面は乾いているように見えていても土壌の下の方では水分を含んだ層があり、葡萄は土壌の下部の水分や養分を求めて根を下に下にと伸ばすのです。』

『葡萄と草が水分競合する場面で、刈り取りを行っている。』

『私は草のことでもう一つ注目したいのは「病気の予防」である。

微生物、下等植物、高等植物、草食動物、肉食動物の間で成り立っている生態系は競争しながらも、共生し合い、バランスを維持している。

 葡萄という単一な植物を寵愛する人間の栽培は自然の生態系から離れがちである。そこに多種多様な生命が存在しないために、葡萄に対し、ある種の病気(微生物)だけが繁殖し、猛威を振るう結果になる。

 私は葡萄畑に草を残すことで、そこに葡萄を高等植物とする小さな生態系が形成されることを期待している。それは完全なる生態系ではないと思う。そのため、私たちが少し手助けをすることが必要である。』

 

『陽が昇る側は太陽の光が弱いため、葉を落とします。反対側は光が強いため、葡萄が焼けないように葉を残します。樹と樹の間には、豆科の植物を植えています。この植物が虫除けになっています。』


レオヴィル・ポワフェレでは
『葡萄樹が若い為、畝間1列おきに雑草を生やしている。葡萄樹と雑草を競争させて葡萄樹の根が深く伸びるよう生長を促す。ミネラルが多く含まれる地中の奥深くまで根がいきわたり多くのミネラルが吸収できる。

 葡萄畑全部を中耕(深耕に対して使われる語)すると雑草に水分を全部取られ渇水状態になってしまう。』

灌 水

 次に灌水についてのご意見を伺ってみましょう。

 

 「ドリップイリゲーション」という言葉があります。ドリップとはしたたるという意で、イリゲーションとは灌漑のことです。

 細ーいチューブを通して、水はぶどう木の根元にポタポタと落ちていきます。このチューブを通して1時間に与える量というのは畑の環境次第で、土質、気候(乾燥度)、時期、品種と台木の種類によって異なります。コンピュータというと大げさに聞こえますが、水圧を調節する機器につなぐことで、水は自動的に決まった量だけ決まった時間に放出されます。出水口にはさらに水量を微調整できるディスクがつけられるなど、かなり綿密な計算のもとに行われています。

 ドリップイリゲーションは限られた水を必要な量だけ有効に使うことができ、葡萄栽培以外でも、一般の家庭菜園でもアメリカでは広く使われています。   

 撒く水のなかに肥料を溶かして入れたりできるのも便利ですね。

今や、どこでも見られるようになったドリップイリゲーションですが、一つの大きな問題は、水に溶けている成分が固まって目詰まりを起こすことだそうです。

 単に水といっても、使う前にちゃんとフィルターにかけているんです。

 もともとイスラエルで開発されたアイディアだと聞いていますが、ニューワールドではこのドリップイリゲーションの普及によって、今まで栽培が不可能と思われていた地域でもぶどう栽培が広まり、新しい産地の誕生にもつながりました。

 葡萄の生育期が乾期にあたるアメリカ西海岸では、水は宝です。カリフォルニアならモントレー、パソロブレスの東部、ワシントンならコロンビア・ヴァレーを中心とした州東部は、砂漠のように砂の多いところでも、運河や貯水池を作り立派にぶどうが栽培されているんです。

自然の法則には反するかもしれませんが、灌漑水の利用によって、必要な時に必要な量だけ施水を行う方法が、葡萄の健康状態をぐっと改善してきました。

 ただし一方では、自然の雨水に頼って、灌漑は行わないと主張する旧道派もいます。オレゴンでピノ・ノワールを生産するボー・フレールというワイナリーでは、ドライファーム(灌漑を行わずに自然の雨水にたよる方法)で栽培しています。畑の作業にも全面的に関与するボー・フレールのワインメーカー、マイケル・エッツェルさんから「それもヴィンテージの表現の一つなんだ」と聞いたことがあります。

「葡萄樹はちょっと大変な思いをするかもしれないけど、雨の降らなかった年だからこそ、こんな味わいのワインが生まれたんだよ」と。

これも、夏場の雨に縁のないカリフォル二アでは、特に若い樹には酷です。根が伸びきれずに枯れてしまうことさえあります。

 カリフォルニアで見かけるのは、樹が若いときにだけ水をあげて、一旦、根のシステムが確立すると灌漑を辞めるケースです。しかし、マイケルの発想にも一理ありそうな気がしますね。

 要になるが,これに関してはブドウ樹への水分供給量を完全にコントロールするために,ドリップ・イリゲーション/Drip Irrigation(*)を活用している。

*ドリップ・イリゲーション~葡萄の畝に沿って水が流れるプラスティック・チューブを張り,ブドウ樹の根元を狙って水を与える方法。ドリップ・イリゲーションは設備費や維持費が高くつく方法だが,ブドウへの水分供給量を厳密にコントロールできるため,品質を高める効果が最大限に得られる。

 

 必ずカバー・クロップ(草)が植えられているのも特徴のひとつ。表土の流出を防ぐのはもちろん多量の養分を必要とする野草を植えることで、葡萄樹に適度なストレスを与えるのだ。これにより必要以上の樹勢を押さえ、土の栄養がブドウの実に十分に行き渡るようにしている。さらに全くといっていいほど雨が降らない夏の時期のために、ブドウの木に括りつけたチューブから水を滴らせるドリップ・イリゲーション(灌漑)を採用し、灌漑の水量を大幅に削減させている。
これらのブドウ栽培法は、無駄な農薬の使用を劇的に減少させた。

 

 その他の植物(カバー・クロップ)を植えることで土質安定、有機物の補給や窒素固定を促し、根を張って土を抱きしめることにより、この地域では特にひどい風による侵食の被害を食い止める役割もしています

 

スコランダー・カメラという特殊装置を使い、ドリップ・イリゲーションをいつ、どの程度行うかを決めている。
 この装置は、茎の部分から出る樹液の量を窒素ガスの圧力を使って計測し、葡萄樹に水分が足りているかどうかを判定するもの。もともと一般の果樹園用に1970年代に開発されたものだが、葡萄栽培に援用されるようになったのはごく最近のこととか。これまでは、気象観測所のデータに基づいて判断されていたが、これによって葡萄樹の水分量を直接測ることができ、より的確な葡萄栽培を行うとともに水使用量を削減するという2つのメリットを享受できる。

 もうひとつ実践しているのは、飛行機による畑の赤外線写真の撮影。もともとは人工衛星による撮影用として開発されたこの技術を使うと、畑のブロックごとの樹勢の違いをマッピングすることができる。
 それ以前は、実際に葡萄のサンプルをとり収穫時期を決めていたが、一定の区画を一気に2日で収穫してしまうので、葡萄がまだ完全に成熟していないところと過熟なところが混じり合い、それらの葡萄をすべて一緒のタンクに入れて醸造していた。しかしこのシステムを使うと区画ごとに異なる収穫時期が鮮明に浮かび上がり、2008年の場合は樹勢の低い区画は3月、高い区画は5月とスタートから終了まで53日間かけて収穫を行った。葡萄の成育度に合わせたこまめな収穫を行い、それぞれ個別に醸造することでワインの品質は格段に向上した

 

ご意見を踏まえ灌水(水やり)の理論版を。

 葡萄畑の畝間の雑草を1列おきに生やす手法を採用しているシャトーがありました。ニュージーランド、マルボロ地区のセレシン・エステート社が既に導入しています。


 基本理論はイギリスにおいて発表されていました。その後、1980年代後半のランカスター大学に於ける研究が着目され、実用化へと進んでいます。

 植物には個々の細胞に対する伝達ホルモンがあり、その一つにアブシジン酸(ABA)が関与しているらしい。

 葡萄樹の生長点を剪定すると、副梢が活性化して伸びる。ストレス(危険)が生じると葡萄樹はホルモンで対応している様だ。重要なホルモンはABA。ABAは植物にストレス(危険)が生じたときに合成されるのではないか。実験の結果、水不足が生じると根ではABAが合成され、新梢や葉に送られ、新梢や葉は直ぐに反応し、生長を止め気孔は閉じてしまう。
 

 葡萄は、環境が良ければ栄養分を新梢や葉の発達に振り向けます。結果、実の質は良くならない。しかし、ストレス(危険)が生じると自身の生長より、分身(実)による繁殖を図る為、実(種)に栄養分を廻します。この点は既に判明していたものの、ストレスが強すぎると、実にもダメージが残り最悪枯渇を招きます。


 最高のテロワールは、水はけが良く、地下水面の高さが十分で、葡萄の根に常に供給され、実の色付き期(ヴェレーゾン)に地下水面が下がり、梢や実の生長を止め との研究成果がボルドー地方の土壌調査により判明します。重要な点は土の水はけの良さだと、フランスのジェラール・セガンが突き止めたのです。 


制限灌水(RDI~Regulated Deficit Irrigation )

 前記セガン氏が示した、必要な時点で水を供給し、実の成熟期に水の供給を断つ方式が実行に移されます。場所はオーストラリア。実はオーストラリアは乾燥の問題がある中、灌漑葡萄栽培を続けてきた地域であり、灌漑設備は既に整っていたのです。その中で制限灌水、つまり栓を開けるか、閉めるかだけです。なおかつ、節水が出来るのです。オーストラリアに於ける水の確保は非常に困難で節水制限がなされることも珍しくないのです。

 灌水が多すぎた場合は、梢や葉の生長や実の成熟に影響を与え、実が肥大し糖分やアントシアニンが減少してしまいます。

 灌水による根の発育はどうなのでしょうか。灌水の間隔により根量に差が生じるようで、頻繁に行うと根張りが少なく、ある程度乾燥してから灌水すると根量は多くなるそうです。

 残る問題は、葡萄樹がいつ水を必要とし、いつ水の供給を断つべきかを何で判断するかという点だけです。

 

部分灌水(PRD~Partial Rootzone Drying)


 葡萄棚の両サイドに水供給設備を配する。左右どちらか一方に水を与える。片方には水は送られない。根は右も左にも張っており、水の供給がされない根はABAが合成され、梢や葉の生長が抑えられ、実の成熟へ養分が廻されます。

 水の供給は片方ずつ3日から14日の間隔で行われている為、片方が乾燥しすぎるのを防止します。  

 実験の結果値として、カベルネ・ソーヴィニヨンにおいて最小灌水では、ワインが赤系ベリー、黒系ベリーの香りを持ち、ジャミーでフルーツ香を得た。対して通常灌水では野菜香が強まり、ピーマン、黒胡椒の香りが増した。適度な水不足はアントシアニンとプロアントシアニジンも増えた。
 問題点は、葡萄樹の両脇に給水設備のパイプ(ホース)を必要とする点であり、従前の設備だけでは対応できない事です。

 また、灌水制限はゲビュルツトラミネール、ミュスカ、リースリングの種においては香りの元であるモノテルペンが減少するので不向きです。
 他方、オーストラリアのマイケル・マッカーシーは、前記二列点滴灌水システムに対しPRDの手法として地中点滴灌水を提唱しており、この場合畝の真ん中に埋設する方式の様です。

 

 灌水制限により葡萄の生育管理が可能となり、実の小さい凝縮した葡萄とし、実の色を濃くし、香り成分を増し、色素とタンニンの合成物の比率を高めることができるようになりました。結果的に皮から出るポタシウムが増え、ブドウ水のペーハーは上が(酸度の減少)ります。

 現実にオーストラリア、カリフォルニア、スペイン、南米で相当数の葡萄園で利用されている様です。

 

解決策

 ニュージーランド、マルボロ地区のセレシン・エステート社が既に導入していると記しましたが、同社は1994年にはPRD(部分灌漑システム)を導入し、畝間地下75cmに灌漑システムを埋め込んでいるようです。

 課題であった水分の必要度を何で把握するかという点に科学者が答えを出しました。 

 樹の水分枯渇度を調べる樹幹メーターが発明され、ミクロン単位でのぶどう樹の幹の収縮と膨張を測定することができるそうです。航空機メーカー、ボーイング社の特許で、飛行機の翼部分の金属板の緊張度を計測するためのものだった様です。
 
また、地中の水分量を計測する機械を畑に埋設し、遠隔地の事務所で数値を把握できる装置も開発されています。

 

今後の課題

 

 アスワンハイダムの建設による塩害をみて判るように、乾燥地帯や半乾燥地帯では水分が浸透・蒸発しやすく、そのため、安易な水分散布を行うと、地下深くに存在していた塩分が水に溶けて塩水になります。

 この塩水が地表近くへ上り、水分が蒸発することで塩分が析出し、地表付近の塩分濃度が上昇して塩害が発生します。葡萄は特に塩化物に弱くいため、葡萄畑への灌水はやがて、塩害を招き生産性を落とし、養分は土壌から浸出し、土壌の酸性化を招くこととなるでしょう。
 

捕 捉
 ヨーロッパの多くの葡萄栽培地では、植栽直後の若木に対する灌水以外の灌漑、灌水はAOCで禁止されています。

 

出典 Wine Science 2008  著者Ronald S. Jackson  Academic Press出版
    ワインの科学 著者Jamie Goode 河出書房新社 他 


 

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